ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
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秋元康が企画・原作を務める増田貴久主演ドラマ「吉祥寺ルーザーズ」が2022年4月11日にスタートした。
共演に田中みな実、片桐仁らを迎え、“人生の負け組=ルーザー”6人がシェアハウスで一緒に暮らす日々を描いたシチュエーションコメディドラマ。
cinemas PLUSでは毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
もくじ
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
吉祥寺のとあるシェアハウスに引っ越して来たワケありの6人。高校教師の安彦聡(増田貴久)や元女性誌編集長の大庭桜(田中みな実)など、性別も年齢も職業もバラバラだ。オーナー代理(皆川猿時)曰く、倍率17倍から選ばれた“負け組=ルーザー”の集まりとのこと。また鍵が掛かった部屋に絶対入らないことがここに住むルールだと……。6人はなぜ負け組に? 開かずの部屋に一体何が? ルーザーだらけの奇妙な共同生活が今始まる!
第1話のレビュー
困惑する増田貴久、もとい安彦聡のドアップで物語はスタート。目を見開いたこの表情、なんだかすごくいい。
困惑の原因は、シェアハウスに性別も年代もバラバラな6人が集められたからだった。
自己紹介をするにもひと悶着。なんだか先が思いやられるが……
まずは登場人物を抑えておこう。
安彦聡(増田貴久)
何かと人に突っ込まれやすい高校の非常勤講師
大庭桜(田中みな実)
夫とすれ違い離婚調停中の元女性ファッション誌の敏腕編集長
秦幡多(片桐仁)
まったく面白くないツッコミを連発する自称・芸人。本職は実演販売員
望月舞(田島芽瑠)
名前が本名かどうかすらわからない警戒心丸出しの生意気キャバ嬢
胡桃沢翠(濱田マリ)
ワケあってお金はないが、仕事は真面目な公務員
池上隆二(國村隼)
大手広告代理店をリストラされたサラリーマン
これだけでも十分クセが強いのだが、初対面ということもあって、全員相手の出方を伺っている感じ。
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自己紹介が終わったタイミングでオーナー代理の犬居(皆川猿時)が登場。この人も6人のシェアハウスの住人たちを凌駕する勢いでキャラが濃い……。
犬居は各個室の鍵を渡し、アボカドの部屋にだけは入ってはならないというルールを伝えて去ろうとする。
そして、ここに集められたのは“負け組=ルーザー”たちだと明かされる。
部屋決めをしようとして、お前が仕切るなだのなんだのと、またしても言い合いになる6人。そんなに初対面の人を相手に、攻撃的になるものだろうか? そもそも、そんな風に思うならば、シェアハウスになんか住もうとしなければいいのに。
だが、先ほどの自己紹介前のひと悶着やこの言い合いを経て、なんとなくみんなの“クセ”が浮き彫りになっていく。
そんな矢先、事件は起きる。
たまたま入った町中華で一緒になった聡と桜。帰り道に雨が降ってきたので、聡は桜に傘を貸してあげることに。
ところが、これが小さな火種となってしまった。傘を借りたのだから、桜も素直にありがとうと言えばいいものの、聡のやや恩着せがましい態度が気に食わず「一緒に入ろうといったのに断ったのはそっち」「傘を借りたくらいじゃ女はなびかない」とまくしたてる。
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そんな意図はなかった聡は「めんどくせぇなぁ、もう」とつぶやく。いや、うん。それはまったくその通りだ。
聡は洗面台で「受け流す……」と自分に言い聞かせる。何かを必死にこらえている様子だった。聡の抱えているものが見え隠れする。
なんとか落ち着きを取り戻し、濡れたズボンを脱ごうとした聡は、バランスを崩し脱衣所のドアを壊してしまう。まさかこんな唐突に増田貴久のあられもない姿(?)に遭遇するとは思わなかった。悪気のないまま、なかなか最悪な状況を招いてしまう感じ。なるほど、聡のキャラクターがよく分かる。
ドアの修理が明日以降になってしまうと分かり、5人から詰められる聡。いや、事故じゃん! と聡をかばいたくなってしまったのだけど、この場にいたらそんな風には思えないものなのだろうか?
話はどんどんおかしな方向へ。
聡が女性陣の入浴を覗く前提で話が進み、最終的には彼が傲慢だとやり玉にあげられてしまう。パニックになった聡は「男は弱音を吐かない」とつぶやいて失神してしまう。
なるほど、きっとこれが彼が“ルーザー”である所以だろう。
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聡が目覚めると、池上がそうめんを作ってくれ、昭和の間違った価値観を謝る。優しいなぁ、と思う。落ち着いた大人がいてくれてよかった。何よりも、そうめん食べて「美味しい!」な聡がかわいい。
その夜、聡は誰かにメールを打つ。「ハロー、ママ」で始まる冒頭……予想だにしなかった聡のナレーションに、こちらの防御が追いつかない。かわいいことするときは、できれば事前に知らせておいてほしかった。
しかし続く文面から察するに、おそらく聡は自分が非常勤講師であること、シェアハウスに住んでいることなどを言えていないようだ。これはあんまりよくない流れ。
そんな感じで始まった6人の共同生活。本当に先が思いやられるが……
それぞれのキャラクターを的確に表現している個性豊かな俳優陣の会話劇が軽快で楽しい。特に“THE 普通の人”を演じるのが抜群にうまい増田貴久は秀逸だった。クセ強めな住人達とのやりとりで困惑する様が可哀想でもあるのに、なぜだかもっと困らせたくなってしまう。そして、その様子が全部ずっとかわいいのだ。「吉祥寺ルーザーズ」は、もしや増田貴久のかわいさを堪能するドラマなのか?
視聴前はコメディ色の強い作品かと思っていたが、今後はハートウォーミングな話も、もしかすると恋愛模様もありそうだ。オーナーは誰なのか、開かずの扉の向こうには何が隠されているのか、聡を見ていた女性(岩本蓮加)は何者なのか……散りばめられた謎とともに、これから楽しく見守りたい。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
シェアハウスへの引っ越しから6日が経ったが、負け組の6人はそれぞれが勝手に生活しているため、トラブルが絶えない。忙しい朝の洗面所争いに、放置されたキッチンの洗い物やゴミ袋など……家の中は何だかカオス状態に。そんな様子を見兼ねた大庭桜(田中みな実)は、集団生活のルールを決めるべく、安彦聡(増田貴久)に全員を集めての緊急会議を指示。だがワケありルーザーたちのルール決めが一筋縄でいくわけもなく――。
第2話のレビュー
共同生活がスタートしてから6日が経過。
クセの強い人ばかりが集まっているうえに、それぞれが勝手に生活するせいで、早くも歪みが生じていた。朝から洗面所の争奪戦、洗濯機の奪い合い、冷蔵庫の中身が勝手になくなる、トイレの使い方、夜中の騒音……など。
当たり前だが、生活習慣はそれまでの生活の蓄積だから、100人いれば100通りになるだろう。
聡(増田貴久)が桜(田中みな実)からジャムを拝借しようとして起きた些細な意見の相違も、筆者としてはあながちわからなくもなかった。パンくずがついたスプーンを瓶の中に突っ込まれるのは、たしかに嫌だ。さすがに雑菌の温床になる、と思ったことはなかったが。
でも、桜は自分が神経質だという自覚があるだけましなんじゃないか。「そういう人がいるんだって知っていてほしい」。これは集団生活でなくても大事な想像力なんじゃないかと思う。
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桜の発案により、リビングに全員集合してルールを決めることに。ところが、相手の気になるところを言い合う格好になってしまい、まずは池上(國村隼)がキレる。「温和な池上さんが、まるで『アウトレイジ』だ」という表現、妙にツボだった。
そんな聡は、本音を言い合うのはよくない、とみんなをたしなめる。しかし、「わたしは強いから、本音を言ってごらん」と桜。このときソファに座りながら、足元はしっかりつま先立ちになっている桜の美意識にはあっぱれだった。だからこそ、聡に言われた「意外とモテないんじゃ……」という言葉が聞き捨てならなかったのだろう。
自分がいかに女として非の打ち所がないか言い連ねる桜。女性ファッション誌の編集長として、どんなにアンテナを張り巡らせ、自身の身なりを整え、昼夜を問わず仕事に没頭していたかをまくしたてる。さすが元アナウンサー、こんなに興奮してしゃべっている演技なのに、何を言っているかちゃんとわかる。
桜が努力の人であることはよくわかった、それゆえプライドが高くなってしまっていることも。もうちょっと楽になろうぜ、と思わず声をかけてあげたくなった。
話し合いはまとまらぬ中、オーナーから荷物が届く。ルーザーたちがルールを守るためには、秘密を担保にし、ルールを破ったらそれが暴かれるという仕組みを導入すべしといった内容の手紙が同封されていた。どこかで監視でもしているような内容だ。
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聡はこれに乗り、みんなにも秘密を紙に書くように促す。もしもこの場にいたら、自分だったらどんな秘密を書くだろうかと考えてしまった。誰にも知られたくない秘密……それぞれのキャラクターたちは、一体どんなことを書いたんだろう。
守るべきルールを、まずはひとつだけ導入することに。そこへ、池上が「日曜の夜だけはみんなでご飯を食べる」というルールを挙げた。もしやこの人は寂しいのだろうか……?
時間に縛られたくない、と半数が反対する中、運命の日曜日がやってきた。
それぞれが用意するメニューに、個性が出る。聡は唐揚げ、池上は親子丼、桜はサバの味噌煮……。約束の時間には3人しかそろわない。
30分が経過。しびれを切らした桜が、秘密を書いた紙を入れたアボカドの置物を割ろうとしたとき、ようやく残りの3人がやってくる。
翠(濱田マリ)はお惣菜、幡太(片桐仁)はファストフード、舞(田島芽瑠)はウーバーイーツだった。
そして桜、聡に専用のジャムをプレゼントする。なんだかちょっとずつ思いやりが芽生えてきたのでは? と思える、いい食卓だった(そのあとがちゃがちゃもめてたけど)。
思いやり――。共同生活をするうえで必要なのは、細かいルールではなく、“相手への思いやり”ではないだろうか。思いやりがあれば、相手がしてほしいこと、されたら嫌なことを考える想像力が伴うはず。
そのためにはまず、相手の人柄を知ることが必要だし、週に1回食事を共にするというのはいいきっかけになりそうだ。ルーザーたちが共同生活の中でどんな変化を遂げていくのかが楽しみになってきた。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
安彦聡(増田貴久)と大庭桜(田中みな実)は、望月舞(田島芽瑠)を3日ほど見ていないことに気づく。LINEも既読にならず、「部屋で死んでいるのでは?」と心配になった2人は、業者(宮崎吐夢)に鍵を開けてもらうが姿はなく……。そんな中、シェアハウスの近所で連続誘拐殺人事件が発生。しかも被害者は舞と年が近い女性ばかりだという。警察が発表した犯人像はなんと池上(國村隼)そっくり。桜が名探偵ばりの推理を始めるが……。
第3話のレビュー
当番制のゴミ出しが行われていないことから、舞(田島芽瑠)の姿を3日ほど見かけていないことに気付く聡(増田貴久)と桜(田中みな実)。
「殺人者はここにいる」なんてタイトルの小説を読んでいるからだろうか、不吉な予想をする桜。正直、これまでの舞のキャラクターを見るに、LINEの既読スルーも帰宅している形跡がないのも、そこまで心配することじゃないような気がする……。
心配性の桜は鍵業者を呼んで、鍵を開けてもらうことに。この業者役を演じたのは俳優の宮崎吐夢。直近では「シジュウカラ」での怪演が記憶に新しく、ややサスペンス調の今回に登場となると、突然歌い出したりしたらどうしよう、などと勝手に不穏な気配を感じてしまう。
しかし、部屋に舞の姿はなかった。彼氏?との写真を廊下に持ち出してまで眺め、桜に注意されると業者さんと目を合わせて「だって、ねぇ」と言っちゃう聡の緊張感のなさがいい。でも写真を見たことがバレたら、きっと舞にブチ切れられるから、気を付けてね聡……。
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そんな時、ニュースで若い女性ばかりを狙った誘拐事件が吉祥寺で発生していると報道される。犯人と思しき画像が公開されると、その風貌は池上(國村隼)にそっくりだ。
そういえば包丁を持ったとき、殺虫剤をまくとき、池上の顔が怖かったという話題に。1話では『アウトレイジ』もいじられていたし、國村隼のコワモテへのいじりがすごい。いや、たしかに(魚の)血のついた包丁を眺める姿は迫力満点だったけど。
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そこへ池上が帰宅し、桜がまるで探偵のように推理を披露するも、結局犯人が逮捕されて池上の疑いは晴れる格好に。そんな簡単に人のことを疑っちゃダメでしょ、とツッコまずにはいられなかった。
聡、桜、池上、幡多(片桐仁)、翠(濱田マリ)の4人は、昼間はそれぞれ何をしているか? という話になり、非常勤講師は副業がOKなのだから、塾講師や家庭教師でもやったら、と言われる聡。自分のことはあまり話さないくせに、ここの住人たちはみんなお節介だ。
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すると、学生たちと思しき声がフラッシュバックし、またしても聡は気絶してしまう。学校で何かをやらかしてしまったことはもう明白だ。生徒たちからいじめられていたのか、それとも何かの問題にうまく対処できず責任を感じているのか……。
リビングのソファで目を覚ました聡。今回もそばには池上がいてくれた。美味しくない、と言いながらうどんをすする池上は、ぽつぽつと奥さんを亡くした過去を話しはじめる。
「月命日には彼女の好物だったきつねうどんを食べている」と池上。「愛妻家だったんですね」という聡の言葉に頷きながら、もしかして今日、お墓参りや奥さんとの思い出の場所にでも行っていたのだろうか? なんて想像する。誘拐事件、聡の気絶という怒涛の展開の中で流れる温かい時間だ。だからこそ、自分で作ったうどんがどんどん不味くなる、という池上の、「人のために何かをするのは、自分のためにも大切」という言葉がじんわり染みる。人と生きるということは、自分の存在を認識することにも繋がる。
池上に倣って、カップのきつねうどんを食べはじめる聡。この2人の関係性、すごく素敵だなぁと思っていた矢先、月命日を1日間違えていたことが発覚する。せっかくほっこりしていたのに……! でもまぁ、そんなところも憎めない。なんだかすっかり聡&池上コンビの虜になってしまった。
翌朝、ベランダで話す聡と幡多。どうやら聡は、制服を着た女の子を前にするとパニックになってしまうらしい。「じゃあこれやるよ」と、幡多からコント衣装のセーラー服を渡される。体に当てる聡、なぜだろう、不思議と違和感がないように感じてしまった。増田貴久のピュアさゆえだろうか……?
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セーラー服を持って、幡多と着る着ないの押し問答しているところを、翠に目撃される2人。前回もキッチンで何やらこそこそしているのを見られてしまったし、これはもう完全に誤解されていそうだ。
そういえば、池上への誘拐犯疑惑が晴れたことで忘れていたが、肝心の舞はまだ帰ってきていない。一応、桜の連絡への返信はあったものの、調査会社と名乗る怪しげな男も舞を訪ねてくるし、まだまだひと悶着ありそう。
しかも、池上は深夜にこっそり誰かに電話をし、「マハルキタ(タガログ語で愛してる)」と囁いていた。
群像劇ならではの、それぞれの人間関係、それぞれの日々の出来事が、輪郭を濃くしてきた。来週は誰にどんなことが起こるのか、楽しみだ。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
望月舞(田島芽瑠)がシェアハウスに帰らなくなってから約6日が経った。大庭桜(田中みな実)はかなり心配しているようで、一心不乱に尋ね人のチラシを作成している。安彦聡(増田貴久)も舞を訪ねてきた謎の男・黒鉄真二(坪倉由幸)のことが気に掛かっていたが、やがて桜のスマホに、舞から「同窓会で福岡に戻っている」との連絡が。無事がわかりひとまず安心する中、なぜかシェアハウスメンバー全員に同窓会の知らせが届く。秦幡多(片桐仁)曰く、韓流ドラマの影響で今空前の同窓会ブームらしい。だが胡桃沢翠(濱田マリ)は「同窓会なんて行く人の気が知れない」とその場でハガキを捨ててしまう。幡多も池上隆二(國村隼)も同窓会には苦い思い出が。桜も「学生時代は地獄だった」と振り返る。行く気満々なのは、学生時代は充実していたという聡だけ。「現状をありのまま話せばいい」と言い放つが…。
同窓会のハガキの中には、一ヶ月先に開催予定の舞宛ての案内状も紛れていた――。同窓会は嘘なのか?やはり黒鉄の言葉通り、大きな事件に巻き込まれているのでは…!?聡らルーザーズは、なんとか舞失踪の手掛かりを見つけようと、吉祥寺の街を奔走する。
第4話のレビュー
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前回に引き続き、舞(田島芽瑠)の行方は分からないまま。桜(田中みな実)を中心に、シェアハウスの住人たちはやきもきしている様子だった。するとそこへ、舞から同窓会に行っている、との連絡が入る。安心する一同だったが、その後なぜか住人全員のもとへ同窓会のお知らせがきて、舞からの連絡は嘘らしいことがバレてしまう。
聡(増田貴久)たちは、数日前に舞を訪ねてきた男(黒鉄=坪倉由幸)に聞いてみようと考え、もらった名刺を探す。しかし、名刺を入れたままの服を洗濯してしまっていた聡。頭を抱えて何とか名刺に書かれていた名前を思い出そうとしたり、「頭がすっかり黒ひげになっちゃった!」と叫んだり、増田貴久の“がんばるポンコツ感”が今日もかわいい。
結局、幡多(片桐仁)の夜遊びコネクションを駆使し、舞が働いているらしいコンセプトカフェ=コンカフェを突き止めることに成功。客を装ってお店に潜入するも、若い子全般に苦手意識を持つ聡は終始オドオドしている。……なぜ来た? とつっこまざるを得ない。
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池上(國村隼)も合流し、スタッフから舞が数日間休みを取っていることを聞き出したころ、ちょうどシェアハウスに舞が帰ってくる。福岡土産をテーブルに並べ、桜を相手に一方的にまくし立てると、すぐに部屋に引っ込んでしまった舞。明らかに何かを隠している、というか、何かに触れられないようにしていた。
そんな今日は、約束の日曜日。全員でそろってせり鍋を食べることに。舞は同窓会の思い出話を一方的に語るも、次第に泣き始めてしまう。
帰宅直後のシーンといい、この食事のシーンといい、自分の感情を押し殺しながら、見せたい自分を見せようと早口で話す田島芽瑠の演技は真に迫るものがあった。強がったかつての自分、あのときの友人……そんな姿を改めて見せられたような気分。非常にリアルだった。
涙を拭き、それでもなお取り繕おうとする舞に、「自分を守る嘘ならついてもいい。僕たちはその嘘を信じる。でも舞ちゃんのその嘘は信じたふりできない」と聡。
毎週のように言っているが、ここの住人たちは本当にお節介だ。2話で決めた「日曜の夜だけはみんなでご飯を食べる」というルールも、3話で池上が言った「人のために何かをするのは、自分のためにも大切」という言葉も、今回の聡の「その嘘は信じたふりできない」という言葉も、全部お節介で、愛がある。ルーザーたちの共同生活が、回を増すごとに尊いものになっているように感じる。
それにしても、いつものように失神してしまいそうになるのをぐっと堪えて放った聡の渾身の叫びには泣かされてしまった。あんなふうに(増田貴久に)必死の形相で言われたら、即座に強がりや嘘をつくのなんかやめて、あっさり本音を話してしまいそうだ。
だが、もちろん舞はそんな簡単になびくわけもなく、負け組になんかならない、と啖呵を切ってダイニングを後にしてしまう。
正直、今回の舞の失踪について、かろうじて連絡は取れているのだから、そこまで心配をしなくてもいいんじゃないかと思っていた。だけど、きっと桜は舞の行動に違和感を持っていたのだろう。取り乱す舞を前に、いつもは饒舌なのにただ黙って見つめるだけだった桜。その視線には、舞をいたわりながらも自分と向き合わねばならないと諭すような思いが込められていたように感じた。
結局、舞が自ら真実を話すまでは待つことにした住人たち。彼らもまた、時に自分を守り、時に自分を傷付けながら、嘘をついてきたことがあり、その痛みをよく知っているからこそ、この選択ができるのだろう。
舞が話す気になったとき、この人たちがどんな風に受け入れるのか楽しみだ。今後の人生の参考になりそうな気がする。
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そして、徐々に登場シーンの増えてきた謎の女子高生・間宮リコ(岩本蓮加)。ついにシェアハウスの前にまでやってきた……! 次回、彼女と聡の関係が明らかになるのだろうか。楽しみに待ちたい。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
過去のある出来事が原因で、制服姿の女子高生がトラウマになった安彦聡(増田貴久)は、それを克服しようとするものの、あと一歩が踏み出せずにいた。唯一原因を知る秦幡多(片桐仁)は、そんな聡を半ば強引な方法で、なんとかオンライン家庭教師に登録させる。
その時、シェアハウスに大量の荷物が届く。すべて幡多がこれから売る実演販売の商品だ。置き場の問題で押し問答していると、大庭桜(田中みな実)は門柱の角に隠れている女子高生に遭遇。聡の元教え子だと名乗る間宮リコ(岩本蓮加)は、聡に会いに来たという。居合わせた幡多は、トラウマ克服中の聡に気遣って「今はいない」と嘘をつき、何とか追い返した。聡とリコの間に一体何が…?
その直後、聡のもとに家庭教師の依頼が舞い込み、リモート面接をすることに。少しずつ前に進み始めた聡に感化され、幡多もまた黙々とネタ作りを始める。
そして1週間後。聡は家庭教師初日、幡多は大事なネタ見せの日を迎える。ところが出掛けようとした幡多の前に再びリコが現れて――。少しずつ動き出した負け組たちだったが、すんなり話が進むわけもなく、この後全員を巻き込んだ大騒動へと発展する。
第5話のレビュー
謎の女子高生・間宮リコ(岩本蓮加)がシェアハウスの前までやって来たことで、今回は聡(増田貴久)とリコの過去が明らかになる……かと思いきや、もはや恒例となったドタバタ劇が今回のメインに。
自分のトラウマから1歩踏み出すべく、オンライン家庭教師に挑戦しようとする聡。すべての入力を済ませ、あとは登録するだけなのに、どうしても最後の1クリックができずにいた。「あ~ん、怖くて押せない!!」と困り顔をする聡、かわいすぎて全力で守りたい。
結局、見兼ねた幡多(片桐仁)が横からボタンを押してしまい、無事に登録は完了。しかし、シェアハウスの外ではトラブルが発生していた。こそこそと家を盗み見ていたリコが桜(田中みな実)に見つかってしまったのだ。
聡に会わせろというリコに、聡はいないと返す桜&幡多。それにしても、聡と桜の関係を探ろうとするリコに、もしや聡のことを好きなのか……? なんて勘ぐってしまった。でも、聡に人生を狂わされたとも言っているし、わからない。本当にこの2人、何があったのだろう。
一旦は聡不在ということでリコを追い返すことに成功。そんなこと知る由もない聡は、びしっとスーツを着て、オンライン面接に臨んでいた。スーツ、もちろんよく似合っているんだけど、どうしても就活生に見えてしまったのは筆者だけではないはずだ。
ゆっくりだが進みはじめた聡に触発された幡多は、ネタ作りに精を出す。こういう風にお互いの存在が励みになるの、なんかいいな。最初の頃からは考えられない、嬉しい変化だ。
そして今回いつもより早めに登場する「ハロー、ママ」に無事被弾……! ママ宛のメールは物語の後半に、をぜひテンプレートにしておいてほしかった。でも、ほとんど嘘しか書いていないこのメールにも、新しいことをはじめたと書いてしまうくらい、聡も自分の1歩が嬉しかったんだろう。
聡の初オンライン授業&幡多のネタ見せ当日。そんな日に限って、またしてもリコがやってきてしまう。1週間も待ったのだから、と頑として帰ろうとしないリコに手を焼く幡多。他の住人たちにバレないように一旦リコを自分の部屋に隠そうとするも、朝の出入りが激しい時間帯、シェアハウスの住人たちはランダムに動き回る。これまでこの作品で感じたことのないスリルにワクワクする。
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ネタ見せに行かなければならない幡多に代わって、桜がリコを請け負うことに。女同士、膝を突き合わせて語らう様がぐっとくる。でも、桜が言った「無理やり押しかけて自分の思いをぶつけるなんてやり方はよくない」「相手のことだってさ、考えてあげないと」という言葉は、明らかに自分に言い聞かせているようだった。
桜の説得に納得して帰ったかに見えたリコだが、結局戻ってきてしまう。思わず、頼むから空気を読んでくれ……と頭を抱えてしまった。案の定、リコに問い詰められて何も言えぬまま、聡は失神。
自室のベッドで目を覚ました聡は、倒れる前の記憶がおぼろだった。初授業まではあと1時間。リビングに集まっていた住人たちに女子高生が訪ねてこなかったか?と確認するも、全員が知らない、と答え、授業の準備を、と促す。
聡のために、あえて嘘をついたシェアハウスの住人たち。これはついてもいい嘘だし、信じるべき嘘だ。何かに負けてしまって1人では立ち上がるのが難しくても、仲間がいればまた挑戦する力も湧いてくる。たまたま集められたルーザーたちが、仲間としてそっと互いの背中を押している様子が微笑ましい。
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
結局、聡とリコに何があったのかはわからずじまい。筆者としてはリコの意志の強さが宿った目力と、岩本蓮加の圧倒的な透明感が印象に残った。もっと色んなお芝居を観たいので、秘密が明らかになるまでもうちょっと紆余曲折あってもいいかも、なんて思っている。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
シェアハウス生活がスタートして早1カ月。初めての更新日を迎えるが、望月舞(田島芽瑠)はお金がなく家賃が払えないと土下座する。とその時、安彦聡(増田貴久)が聴いていたラジオ番組で、「ライフハックの投稿が採用されたら3万円プレゼント」との告知が。「それで舞の家賃が払える」とさっそく役に立つ生活情報ネタを探し始めるルーザーたち。ところが、それがキッカケで胡桃沢翠(濱田マリ)の過去と心の闇が明るみに――。
第6話のレビュー
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
シェアハウスに初めてやってきた家賃の徴収。見事に全員が更新することに。しかし、舞(田島芽瑠)は家賃が払えず、池上(國村隼)が立て替えることに。
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すると、聡(増田貴久)が聞いていたラジオが流れる。ライフハックを投稿し採用されると3万円がもらえると聞き、カタツムリの歯やミミズの心臓の数など、各々の知識を披露するシェアハウスの面々。池上にいたっては、“笑顔のバトン”という、もはや道徳のような話をする。いい話だったけど、誰の話もライフをハックできそうにない。
数日後、聡が再びラジオを聞いていると、池上がみんなの前で話した内容が紹介されていた。なんと翠(濱田マリ)が、3万円欲しさに投稿したという。
そこで明らかになった翠のギャンブル好き。真面目が取り柄で花丸を求めた学生時代、そのまま大人になり公務員になったが仕事をする上で花丸をもらえる機会はない。そんなときに吸い込まれるようにパチンコの虜になり、あれよあれよと様々なギャンブルにハマってしまったらしい。濱田マリによる1人語り、まるで講談のようで実に見事だった。
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そんな翠を救うべく、マッチングアプリを勧める桜(田中みな実)。翠は驚くほどあっさりマッチングアプリにのめり込み、洋服やメイク、表情までも明るくなっていく。人って変われば変わるものだ。ちょっと前までえぐい偏見ばかり口にしていた人とは思えないほど、前向きになった翠はキラキラしててかわいい。
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結局、翠はマッチングアプリを介して出会った男性とはうまくいかなかったものの、その男性の仕事関係者とお近づきに。彼は既婚者だったが、離婚調停中。舞に「ワンチャンあるかも」と言われた翠は満更でもなさそうだった。
彼と距離を縮めるべく、シェアハウスを取材したいという彼を家へ招待。現れた町田(坂本昌行)は落ち着いていて、ベージュのジャケットがよく似合う好人物。しかし、彼と桜の様子がどうにもおかしい。
聡がいち早く異変を察知して制止しようとするも、浮かれている翠は空気の変化に一切気づいていない。痺れを切らした桜が立ち上がり、町田こそが離婚調停中の夫であることを暴露する。
「2人にして」との桜の言葉で対峙する桜と町田。このときの桜の感情を想像するといたたまれない。完璧であるべき自分のメッキがはがれ、惨めで情けなくて恥ずかしくて、できることならこの場から逃げ出したかったはず。それなのに、町田の前では怖いくらいに冷静だ。ずいぶんと抑えたトーンの田中みな実の声が、観る者の心の中にずしりと沈んでいく。
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町田が帰った後の桜は、それでもなお自分を取り繕おうとしていた。「慰めはいらない、説教はもっといらない」。桜は、どこまでも強がる。
これまでの努力を話す桜に、「下見たら楽になれるよ」と翠。その言葉に住人たちも次々同意していく。「自分より大切な人間なんていません」「自分が幸せで笑ってれば、近くの人も笑うんです」。池上の優しさに、桜の瞳が濡れていく。あぁ、“笑顔のバトン”だ。
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さらに、「水面に浮かぶ桜もキレイ」「桜は全部キレイです」という聡の言葉で、桜の心が解けていく。そんなこと、無自覚で言ったらダメだって聡……! これはきっと、桜が聡を恋愛の対象として意識するきっかけになるだろう。
そして、翠は桜を連れてパチンコへ。ビギナーズラックだろうか、両手いっぱいの景品を抱えて帰ってくる桜。「翠さん、ありがと~!!」とハグをしたときの桜の笑顔は、自然でおだやかで、これまでで1番美しく見えた。
自分が笑っていれば、近くの人も笑う。池上の言う通り、みんなの笑顔が連鎖していく。これでいい。きっと幸せって、こういうことなんだろうな、と、また心が温かくなる回だった。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
望月舞(田島芽瑠)がホスト風の男を連れて、泥酔状態で帰宅する。自称博多の売れっ子カリスマホスト海斗こと伊東正(岡宏明)と名乗り、舞の彼氏だという。だが大庭桜(田中みな実)は、海斗のチャラい態度や言動から、本当に彼氏なのか怪しんでいる様子。
そんな時、舞が働くコンカフェの店員トーコ(喜多乃愛)から、殺し屋っぽい怪しい男が舞を訪ねて来店していると、安彦聡(増田貴久)に電話で相談が来る。「舞の行方は知らない」と突っぱねたが、夜まで粘るらしい。話を聞いた聡は、その男が探していた調査会社の黒鉄真二(坪倉由幸)だと確信。真相に迫るべく、池上隆二(國村隼)と共にコンカフェへ向かう。ようやく再会を果たした黒鉄は、舞が彼氏に騙されて「詐欺行為」に巻き込まれていると明かす。
一方、家に残る桜たちは、海斗に注意するよう舞を説得しようと試みるが、盲目的な愛に溺れる舞は全く聞く耳を持たない。
そんなとき、聡から電話が入り、海斗の正体を暴くための大作戦が繰り広げられることになる。飲めや踊れやで海斗の引き留めを計るマンタたち。
舞をめぐる犯罪の謎とは?
突然現れた2人の怪しげな男たちの正体とは?
果たして住人たちは無事、舞を救えるのか?
第7話のレビュー
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
今回は、またもシェアハウスの住人たちが一致団結して、舞(田島芽瑠)を救う回となった。
シェアハウスでの共同生活がはじまって、早2ヶ月。これまで1度も姿を見せなかった舞の彼氏が、ついに東京へやって来た……! 彼は本名を伊東正、源氏名を海斗(岡宏明)と名乗る自称カリスマホスト。黒髪長髪で赤いスーツを着た海斗、人を見かけで判断しちゃダメってわかっているけど、1mmも信用の余地がなさそう。
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それは桜(田中みな実)も同じだったようで、聞かなければ本名を名乗らない、相手の都合も聞かず急にやって来る、そもそも2ヶ月も舞を放置していた海斗を、本当の彼氏なのかと怪しむ。桜、やや決めつけは過ぎるものの、旦那の町田(坂本昌行)はいい人だったし、こういう臭覚はするどい。
同じ頃、舞が働くコンセプトカフェ=コンカフェの店員・トーコ(喜多乃愛)から呼び出される聡(増田貴久)。どうやら、以前舞を尋ねてきた殺し屋みたいな男が、コンカフェに来ているという。舞を巡る2人の男性……胡散臭いホストに殺し屋風の男とは、なかなかに治安が悪い。
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池上(國村隼)とともにコンカフェを訪れた聡は、殺し屋もとい調査会社の黒鉄(坪倉由幸)から、舞が海斗に騙されてポンジ・スキーム詐欺の片棒を担がされていることを聞かされる。しかも、海斗は別の女性と同棲していて、舞は海斗にとって彼女ですらない可能性が高いという。まったく信用はならないものの、正直そこまでキレ者といった感じではなかったから油断していたが、海斗が想像の3倍以上ずる賢く最低のことをしていて驚く。
結局のところ黒鉄は、舞を救おうとしていたのだった。そのために福岡から詐欺の被害者であり、舞の親衛隊のような人たちを連れてきていた。やはり、人を見かけで判断しちゃダメ。
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聡は桜に、シェアハウスに海斗を引き留めておくよう連絡をする。桜&幡多(片桐仁)&翠(濱田マリ)は賭けで時間を稼ぐ。蓋を開けてみれば勝負は桜の1人勝ちで、千円札の束が出来上がっていた。結構な量。あれっていくらあったんだろう。ちょっと気になる。
この状況で桜は、最後に“指スマ”をしようと海斗に持ち掛ける。海斗が勝ったら桜が儲けた全額を手にするが、負けたら1分間何があっても動かないことを条件に。これに乗った海斗は翠と勝負し、接戦の末、負けた。お金がかかってないとなると途端に勝負強くなる翠、もはや愛おしい。
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そして桜は、さっきから鳴りっぱなしの海斗のスマホを見る。そこには同棲している彼女からのLINEが大量に届いていた。ここでもまだ「そいつが勝手に彼女面してきて……」などと言い逃れをしようとする海斗。きっとこの人はこの言い訳で色んな女の子を騙してきたのだろうな。そう考えると腹が立つし、ことここに及んでしまっては元も子もないが、笑った顔はかわいいし、さっきまでの海斗にはどことなく憎めなさが漂っていた。この絶妙な塩梅がクズ男たるゆえんで、それを上手く体現している岡宏明、すごい。
さらに聡たちもやってきて、海斗の悪事が暴かれる。最初こそ舞は海斗を信じようとしていたが、黒鉄が連れてきた舞親衛隊の説得や海斗のLINE相手から「婚約してる」と連絡が届いたことで、目が覚めたようだ。海斗に詰め寄り、「こげないい女ば騙すなんて、そげな男はモテんばい!」と博多弁を炸裂させて啖呵を切る様子はかっこよかった。
そして、舞を取り囲み、「私たちの大事な舞を傷つけるなんて」「もう舞には絶対に近づかせないから」「僕たちが必ず舞ちゃんを守ります!」と口々に言った聡たちももちろんかっこいい(聡に関しては、ちょっと震えながらも番犬の務めを果たそうとする中型犬といった感じでかわいさもあった。恐るべし、増田貴久……)。
海斗や黒鉄たちが出て行ったあと、はらはらと涙を流す舞。すぐに桜が抱き締めていたけど、筆者もそこに交じって一緒に抱き締めてあげたかった。信じていた人に裏切られるって当たり前にしんどいし、それを自認し、さらに突き放すってもっとしんどい。こちらに何も残らないのに、労力ばかりかかる。
でも、舞にはこのシェアハウスがあるから、きっと大丈夫だろう。ああやってみんなの前で泣けるようになっただけでも大きな進歩だ。ルーザーとして集められた彼らは、強がったり嘘をついたりしながらも、ルーザーだからこそわかる痛みを共有し、すっかり仲間になった。仲間って、口で言うのは簡単だけど、あんなふうに守ったり守られたりする関係って一朝一夕ではいかないと思う。だからこそ、尊さすら感じてしまった。そして、それをバネにするみたいに、みんなが少しずつ前に進もうとしている。
聡もだんだんとママへのメールの数が減ってきた。嘘をつけなくなっている。新しい1歩を踏み出す日も近そうだ。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
秦幡多(片桐仁)がまたもお笑いオーディションに落ちた。安彦聡(増田貴久)は励まそうとするが、ネタを見た大庭桜(田中みな実)は「芸人やめれば?」と厳しい評価。さらに聡が“まだデビューすらしていない”という秘密をバラしてしまい、幡多は針のむしろ状態に…。
そんな幡多に妹の弥生(藤井美菜)から「近く結婚する」と連絡が入り、確認したいことがあるので、今からシェアハウスに行くという。聡ら住人たちは興味津々。幡多は不審に思うが、弥生は来て早々、「今、何の仕事をしているのか」と尋ねてきた。家柄がいい婚約者の両親が、幡多の職業を気にしていて、場合によっては結婚を許さないと言っているという。職業は実演販売員と芸人、収入は少なく生活はギリギリ…そんな現状を知った弥生は「私のためにまともな仕事に就いて欲しい」と懇願する。自営業が失敗して苦労する両親を見てきたことで、幸せな結婚という夢を抱き、必死に相手を探してきたと訴えるが、話を聞いた幡多は「芸人のスタートとして今が大事なとき」と反発する。しかも住人たちを見下す発言をする弥生に腹を立て、「次のオーディションには合格してテレビに出てやる!」と、ほぼ不可能な約束を口にし、さらに「出られなければ家族の縁を切る!」とまで言ってしまう…。
芸人になりたい幡多、結婚して幸せになりたい弥生――夢を叶えたいがため対立することになった兄妹。崖っぷちの幡多をなんとか合格させようと、聡たちルーザーズが頭を悩ましていると、桜があるアイデアを思いつく。
第8話のレビュー
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幡多(片桐仁)がお笑いのオーディションに落ち、意気消沈して帰ってくる。慰めようとする聡(増田貴久)と、披露したネタを見て「もうさ、芸人辞めれば?」と辛らつな言葉をかける桜(田中みな実)。
幡多は「きっとどこかにいると思うんだよ、俺のネタの面白さを分かってくれるやつが」「たまたま今回は審査員が悪くて客が悪かっただけ」と人のせいにしはじめる。ああ、それ1番言っちゃいけないやつ……。案の定、桜に「あなたと世間なら、世間が正義」と言い負かされる。そりゃそうだ。
聡はそんな幡多を庇おうとして、幡多がデビューしてないことをぽろっとバラしてしまう。嘘をついていたのかと桜、舞(田島芽瑠)に詰められる幡多。こっそり逃げようとするも舞に首根っこを掴まれ身動きが取れなくなっている聡。前回は番犬みたいだったけど、今回は大きめの猫みたいだ。
すると、結婚を控えているという幡多の妹・弥生(藤井美菜)が突然シェアハウスを尋ねてくる。婚約者の両親が結婚相手の親族の職業を気にしているから、幡多がどんな仕事をしているか事前に確認するためだった。芸人を目指しながら、実演販売員として最低限の収入を得ていることを話すと、弥生は「私のためにもまともな仕事をして」と言う。
“まとも”って何だろう? 幡多の懐事情ははっきりとはわからないが、ギリギリだろうと誰に迷惑をかけることもなく生きている幡多はまともじゃないのだろうか。
弥生は借金で苦労した両親のようにならないために、必死に結婚相手を探したのだと熱弁する。そして、矛先は聡たちへ。職業を聞かれ、それぞれが答えると「レベルが分かりました」と悪態をつく。弥生本人は銀行員だというが、銀行員がそんなに偉いのか! と、聡たちを援護したくなってしまった。
さすがに住人たちへのこの態度は幡多も看過できなかったようで「次のオーディションで合格してテレビに出る!」「出られなければ家族の縁を切る!」と豪語してしまう。その姿勢は大変に素晴らしいが、できないことは言わないほうがいいよ、幡多……。
ちょっとでも幡多がオーディションに合格する確率が上がるよう、方法を考える住人たち。すると、桜がYouTubeにネタ動画を上げてみては、と提案する。チャンネル登録者は弥生のみという惨状だったが、こつこつと動画を撮ってはあげていく。
そんな中、聡は幡多と弥生が言い争っているときに口にした「どれだけ家族に足を引っ張られたか」という発言が引っ掛かっていた。理由を問うと、借金の返済に追われていた両親にかわり、幡多は高校を中退し家族の生活費と弥生の学費を稼いでいたというのだ。ひと段落したときには30を超えていて、そこで芸人になりたいことに気づいたらしい。当時小学生だった弥生は、そのことを知らない。
その歳で何をしてるんだ、ではない。幡多はここ数年でやっと自分の人生を生きている。芸人としては開花する見込みがまだなさそうだけど、これは幡多を応援したくなる。
ついにやってきた起死回生のオーディション。しかし、幡多はネタを見てもらうことすらできなかった。現実は想像以上に厳しい。もはや、面白さを分からない世間が悪い! と騒ぐ元気すらなくなってしまった幡多。その背中はいつもよりも一回り小さく見えた。
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なんとか幡多のことを弥生にわかってほしいと、シェアハウスの住人たちはいつものようにお節介を働く。それは、幡多のYouTubeチャンネルを使って生配信し、幡多が家族のためにしてきたことを話すというものだった。チャンネル登録している弥生は、それを必ず観るはずだ、と。
このやり方は賛否両論あるだろう。本人の許可も取らず勝手に生配信し、しかも不特定多数の人に向けて勝手に人の家庭の事情を話してしまうのだから。決して褒められたやり方ではないかもしれないけど、住人たちの幡多への思いは十分に伝わってきた。
そして、予想通り配信を観た弥生は再びシェアハウスへやってくる。「なんでそんな大事なこと隠してたの」と幡多を平手打ちする弥生に対し、幡多は「お前を学校に入れるのだって、やりたくてやってたことだから」と言う。その声は普段の幡多からは想像できないくらい、深くて優しい。見返りを求めないこの姿勢は、愛情以外のなにものでもない。
これをうけて、「体裁ばっかり気にする人なんて私から別れてやる!」と怒り出す弥生を、考え直せ、彼とちゃんと話し合えと説得できる幡多は、“まとも”な大人ではないだろうか。何の仕事をしているかで、一体その人の何がわかるというのか。幡多はそれを、身をもって証明している。
翌日、彼とちゃんと話せたらしい弥生はまたシェアハウスにやって来る。バージンロードを父と兄に挟まれて歩くのだと話すその笑顔は明るくて、なによりとってもかわいかった。
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※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
大庭桜(田中みな実)は、出版社の担当者からドキュメンタリー番組の出演依頼を受ける。テレビディレクターをしている友人が、密着取材できるシェアハウスが見つからず困っているというのだ。それはつまりルーザーズ全員がテレビに映るということ。秦幡多(片桐仁)だけは業界にアピールするチャンスだと喜ぶが、安彦聡(増田貴久)ら他の住人は乗り気じゃない。なんとか全員の承諾を得たい桜は言葉巧みにみんなを交渉。様子のおかしい池上隆二(國村隼)を除く4人を説得する。
しかも、桜はあくまでも「人生のウィナーとして、あえてシェアハウスに住む選ばれた人間として取材を受ける」という。桜は取材の受け答えから身のこなしまですべてを監修すると豪語。自称「ウィナーズ大作戦」と題した、厳しい猛特訓を開始する。そんな中、池上だけは「協力できない」の一点張りのままだったが…。
何とか厳しい特訓を乗り越え、取材当日を迎えた聡たち。ところが、現れたディレクターと会話した桜が態度を一変させ、いきなり自分の部屋に閉じこもってしまう。いったい桜の身に何が起こったのか?
思いもよらぬ展開に、鬼軍曹抜きで取材に挑む聡たち4人だったが――。
第9話のレビュー
ライターをしている桜(田中みな実)の担当編集者を経由して、シェアハウスを取材させてほしいという依頼が舞い込む。
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幡多(片桐仁)を除いて、ルーザーたちはテレビに映ることに消極的だ。しかし、桜は驚くほど交渉上手。聡(増田貴久)には、困ってる人を助けたくないの? と、舞(田島芽瑠)はSNSから人気に火がついた“あのアイドル”にも負けないポテンシャルがあると、翠(濱田マリ)には秘密の耳打ちで。あんなに渋っていた人たちを、あっさり落としてしまう。
そしてここから、「オペレーション・ウィナーズ」が始動する。これはテレビ取材をルーザーズとしてではなく、ウィナーズとして乗り切るため。桜がありのままの姿で住人たちのテレビ出演を許すはずがなかった。桜らしい。
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かくして、桜の指導が始まった。インタビューの受け答えは事実を話すのでなく、かといって嘘をつくのでもない。言い換えるのだ、など、熱のこもった指導をする様はまるで軍曹。
それにしても、物件をどう見つけたかと問われ、ついつい「エッチなサイトで」とニヤニヤ顔で話してしまう聡をはじめ、住人たちの個性といいところがどうしてもダダ漏れてしまっているのが個人的にはとってもよかった。純粋に、こういうところならシェアハウスって楽しそうじゃん! と思う。
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3日後、軍曹のもとで厳しい訓練を受けた住人たちは、晴れて取材当日を迎える。インターホンが鳴り、「総員、位置につけ!」と言われて小走りする様子はまさに軍隊さながら。
しかし、取材にやって来たディレクターの山田(小久保寿人)に、「もしかして“ニセモノ”?」と問われた桜は顔色を一変させ、一目散に自室へ。なんと、取材には応じられないと言い出した。
そういえば桜は以前、小学校時代の苦い思い出を語っていたことがあった。山田は「小学校で一緒だった……」と言っていたから、きっと顔を合わせたくない相手なのだろうということは容易に察しが付く。そもそも、人に対して“ニセモノ”と呼ぶ感性がどうかしてる。
桜がいなくなったことで、統率の取れなくなった住人たちは取材で大暴走。テレビの前でテンションが上がってしまったり、翠が謝礼に釣られて出演を了承したことがバレたりする。挙句の果てには、結局聡が物件を見つけたきっかけを「秘密の激エロサイトです!」とにこやかに言ってしまい、「オペレーション・ウィナーズ」はあっさり終了。もう取り繕うことができなくなってしまった。
そこで1度話を聞いてくれたらしい山田。登場シーンでは嫌なイメージがあったが、にこやかにコミュニケーションを取り住人たちの心をほぐせるあたり、仕事はできる人なのかもしれない。なんだか悪い人に見えなくなってきた。
そして、仕切り直しで取材を再開。住人たちはシェアハウスでの数々の修羅場を語っていく。そのどれもが、このシェアハウスでお互いがいたからこそ乗り越えられたエピソードばかりだ。そうだよね、そんなこともあったよね、と、ここまでの軌跡を思い返すようで心がじわっと温かくなる。
取材は笑顔で和やかに進んだものの、聡が山田に「桜さんとお知り合いなんですか?」と聞いたことをきっかけに状況が変化していく。
山田は、桜の小学生時代の話をし始めるが、その内容が彼女を笑いものにでもしているようなものだったのだ。ラルフローレンの偽物を着てきて以降、桜が“ニセモノ”と呼ばれるようになったこと、見栄を張る性格は変わっていないんだな、と小馬鹿にしたように語る。
こいつ、何も知らないくせに何を勝手なことを……とふつふつと怒りが湧いてきたところで、「違うよ、それ」と舞が口を開く。「今の桜さんは見栄っ張りなんかじゃない。全部本気で心の底からそうしたほうがいいんだって思ってることが伝わってくる」。それを皮切りに、住人たちが口々に“本物”の桜について話し始める。「すぐにモテるとかモテないとか言うのには困ってるけど、あいつの中に芯があるからこそ判断できてる」、「結構強引なところがあるけど、だいたい納得できる」、「桜さんは僕たちにも道を示してくれました。そのおかげでいい方向に進み始めました」。みんなの声は冷静だったが、そこにはたしかに熱がこもっていた。桜への愛情ともいうべき熱。
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桜はこれを部屋で聞いていた。きっと今の自分の生活や環境がバレてしまったことを情けなく思う気持ちと、それに勝るとも劣らない素晴らしい仲間がいる誇らしさとがぐちゃぐちゃになっているんじゃないかと思う。
鼻を真っ赤にして部屋から出てきて、「山田くん、ちょっといい?」と言える桜は、もう小学生のときとは違う。
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その証拠に、桜は山田に開口一番「ありがとう」と言った。“ニセモノ”と呼ばれたからこそ、本物になりたいと頑張れた、と桜。
そして、山田は桜が初恋の人だったと打ち明ける。よくある、好きな子ほどイジメちゃうっていうアレだ。だからって人を傷つけたことには変わりないし、なんの免罪符にもならないけど、最後は2人が笑い合えていてホッとした。
その夜、聡は「桜さんは桜さんのしたいこと、思うようにやってください」と声を掛ける。素敵な肯定の言葉だと思った。これに背中を押されて、離婚も前向きに考えようとしているようだった。頑張れ、桜……!
さらにこの一連の出来事が、桜の仕事にもいい影響を与える。担当編集者から指摘されていた「桜の熱を感じる文章」を、新しい記事では叶えることができたようだ。文章に自分の気持ちをのせるのって、自分に自信がないとできなかったりする。桜は山田との再会や聡の言葉を受けて、改めて、自分のこれまでの努力を認めてあげることができたんだろう。苦手なことも努力と、仲間からもらった熱で駆逐していく軍曹・桜はどこまでもかっこいいし頼もしい。
しかし、シェアハウスは一難去ってまた一難。ここ数日池上(國村隼)の不在が続いていることに加え、なんと次回は本丸の聡ママが登場するらしい。これはますます目が離せない展開になりそうだ……!
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第10話ストーリー&レビュー}–
第10話ストーリー&レビュー
第10話のストーリー
安彦聡(増田貴久)は携帯に届いたメールを見るなり絶句。教師をクビになったことを隠している母・梢(筒井真理子)が、今から家に来るというのだ。落ちこぼれを嫌う梢を“モンスター”と言い切る聡は、嘘をつき通してやり過ごそうと画策。だが時を同じくして、もう一人のモンスター間宮リコ(岩本蓮加)からも「今から行く」との連絡が…!猛獣たちが集結する事態に陥ったシェアハウス。聡は危機を乗り越えることができるのか!?
第10話のレビュー
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
ついに、シェアハウスに聡(増田貴久)のママ(筒井真理子)がやってくる。
聡は住人たちに、本当は非常勤講師ですらなく、半年前に生徒とトラブルを起こし懲戒解雇になったことを告白する。これが、聡が2話で書いた自身の秘密だろう。
そして、聡はこのことを当然ながらママにも隠していた。小学校の校長先生をしていて落ちこぼれを嫌うママに、本当のことを話せなかったのだ。必要以上に慌て怯える聡の様子から、彼女がどれほど厄介な“モンスター”なのかが伝わる。
そんなママに過保護に育てられた聡は、波風を立てぬよう、逆らわず、生きてきた。「気持ち悪いですよね」と自嘲したが、驚きこそすれ、気持ち悪いわけではないと思う。少なくとも、彼はママの愛情が異質であることを理解し、自ら距離を置こうとしていたのだから。
見兼ねた住人たちは、嘘をついたまま今回のママ来訪を切り抜けようと画策する。しかし、同じタイミングで、今度は間宮リコ(岩本蓮加)もシェアハウスへやってこようとしていた。
2人の“モンスター”が迫り来るシェアハウス。リコのほうは、幡多が対応して時間稼ぎをすることに。
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家に入ってくるなり、「アイラービュー」「アイニージュー」と聡をハグし、首元にキスまでぶっかますママ。初っ端から強烈だ。苦戦を強いられる予感……。
だが、こちらには桜がいる。忘れていたが、彼女もまたある意味“モンスター”。おほほ、うふふ、と笑い合う様子に恐怖を感じつつ、これは面白くなるぞ、と期待が高まる。
自己紹介の場面では、桜は女性ファッション誌の編集長、舞(田島芽瑠)は精神科のドクター、翠(濱田マリ)は武蔵野市の市議会議員だと、事実を織り交ぜながら嘘をつく。
編集長なのにお肌が陶器のようで、「本当は暇なんじゃない?」と言われた桜よりも、意外にも精神科医を名乗る舞のほうが互角に渡り合っているように見えた。舞、お仕事は適当にこなすタイプかと思いきや、熱心にコンセプトカフェのマニュアルを読み込んでいたとは。見えないところでの努力が垣間見えて、個人的に舞の株が上がった。
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ママは今回の来訪の目的を切り出す。聡からのメールの内容が毎日ハッピーすぎることに違和感を覚え(シェアハウスの住人たちのこと全員を留学生として報告していた)、本当は悩みがあったのではないかという。こうと思ったら止まらないママは、今の勤務先を辞めて実家に戻り、ママの知り合いの学校で働くことを勧める。勧める、というか、強引に進めようとしていた。
早口でまくし立てるママに、遠慮がちに手を上げる聡。発言の許可を得ようとしていたのだ。これではそのまま教師と生徒のような関係ではないか。
そして、「ママはずっと喋り続けてきた」という言葉を皮切りに、タガが外れたようにこれまで抑え込んでいたものを吐き出す。「喋ると否定されるから、何もしゃべらないほうが楽なんだって、ある日そう決めたの」「いつも笑顔でいて、なるべく素直でいようってそう決めた」。その頃のままの自分を解放してあげたい、という。
ぽろぽろと涙を流し、時々声を荒げ、増田貴久による迫真の演技だった。これまで殺してきたたくさんの感情を思い出すような苦い表情、理解しようとすらしてもらえなかった苛立ち、そうはいっても大事であることにはかわらないママを傷つけてしまう少しの迷いが感じられた。でも、これを言わなければ、事態は変わらない。自分と闘う人間の葛藤が、画面から伝わってきて痛いくらいだった。
しかし、それでもママは本質を理解していない。そこで、教師を懲戒解雇になったことも自ら暴露する。
そんなタイミングで幡多を振り切ったリコがシェアハウスへ。ママはこの問題にも首を突っ込もうとするが、「僕の正念場なんだ」とママをキッチンに押し込む。
手を震わせながら、玄関の扉を開けようとする聡。その手は、可哀想なくらいに震えていた。
だけど、聡は1人じゃない。キャッチ&フォロー&リリースしてくれる、「失敗しても生きてる」と力強い言葉をかけてくれる桜&舞&翠がいた。3人が、聡を守る三銃士みたいに見えた。
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リコと対面した聡。聞けば、聡は好意を抱いていたリコを否定も肯定もできず、勘違いさせてしまっていたようだ。そして、上手くいなせないまま、最終的に階段で突き飛ばし、怪我をさせることになってしまった。
教師が自らの手で生徒を怪我させるなんて言語道断だ。しかし、聡にも同情の余地があった。これで職を失い、精神的にも大きな傷を負ってしまったのかと思うとやるせない。それでも、「君を好きだと思ったことは1度もない」ときっぱり言う聡は、過去を断ち切ろうとする勇ましさが感じられ、かっこよかった。
この様子を壁越しに聞いていたママは、「聡はいい仲間に恵まれました」と笑顔で帰って行った。せめて、このことだけでも伝わってよかったと思う。
だって普通に考えたら、厄介なママと、トラブルの原因となった元教え子も訪ねて来るなんて修羅場、ただの住人なら知らん顔をすることだってできたはずなのだ。なのに全員、聡のために協力を惜しまなかった。それはこれまで聡がみんなのためにしてきたことがあったからだし、聡が言うように、「ルーザーだからこそ、人の痛みがわかる」人たちだからこそ。なんだか誇らしい気持ちになった。
このルーザーたちの奮闘を、まだまだこれからもずっと見ていたいのだが……次週はルーザーが解散に……? 観たいような、観たくないような。そんな思いで1週間を過ごそうと思う。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第11話ストーリー&レビュー}–
第11話ストーリー&レビュー
第11話のストーリー
テレビ取材があった日を境に、池上隆二(國村隼)が姿を消した…。バッグがないことに気づいた大庭桜(田中みな実)は、旅行ではないかと推理。安彦聡(増田貴久)は何か池上の秘密を知っている様子だが、頑なに口を割ろうとしない。だが秘密を書いた紙が入ったアボカド人形は、日曜日の夕食に全員が集まらなければ割る約束で、このままだと秘密はおのずと明らかに…。池上の身に一体何が?果たして日曜までに戻ってくるのか!?
第11話のレビュー
聡(増田貴久)の母と元教え子が一気に訪ねて来る、おそらくは過去最大の危機を無事に乗り越えたルーザーズ。しかし、みんな大事なことを忘れている。何かを忘れてしまっていることは覚えているのに、その肝心の何かを忘れてしまっていた(ややこしい)。
思い出すきっかけは、桜(田中みな実)がメロンを切り分けようとしたとき。5等分……いや、本当にそうだっただろうか? 違う、本来であれば6等分にすべきなのだ。このシェアハウスには聡、桜のほかに、幡多(片桐仁)、舞(田島芽瑠)、翠(濱田マリ)、そして池上(國村隼)がいるのだから。そう、池上の姿がずっと見えない。
ところで、このドラマにはフルーツの名前がよく登場する。各人の部屋の名前もフルーツだし、今回食べようとしていたのもメロンだ。23時過ぎの、このじめじめした季節。ちょうどさっぱりしたフルーツが欲しくなってしまう……テレ東さん、また別角度からの飯テロだろうか。だとしたら、まんまと術中にはまっている。
そして、今回は作中に登場するキーパーソンならぬ、キーフルーツ・アボカドの身に危険が迫る。共同生活がはじまった当初、毎週日曜日は夕食を共にしようとルールを決め、守られなかったら全員の秘密を暴露するという約束が交わされていた。それがついに、池上によって破られたのだ。
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ずっとリビングの片隅で、私たちと同じようにルーザーズの生活を見守ってきたアボボ(命名:幡多)。みんなの秘密を腹の中に隠し持っているアボボ。あぁ、ついにこのときが……と思ったのは幡多くらいのもので、案外あっさり割られてしまった。もうちょっと悲しもうよ、みんな。
それぞれが書き記していた秘密は案外大したことはなかった。というか、すでにここまでの共同生活で、もっと重要な秘密が明らかになっていた。これが生活を共にするということか、と感慨深い気持ちになる。秘密も嘘も痛みも共有してきたからこそ、今こうしてみんなでわいわいやっていられるのだ。
重要だったのは、みんなの秘密ではなく、鍵が出てきたこと。それは開かずの間であるアボカドの部屋の鍵だった。
部屋を開けてみると、中にあったのはこのシェアハウスのオーナー・万平一平の荷物。さらに、万平清美という女性と池上がやりとりしていた手紙も残されていた。この時点で、池上と万平一平に何らかの関係があることがわかる。
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
そして驚くべきは、万平一平と池上が同一人物だったらしいこと。若かりし日の池上は、うどん屋で働く清美に恋をし、手紙でデートに誘う。その後2人は交際をスタートさせるのだが、清美の父がそれを認めない。
そこで、池上は清美の父に弟子入りし、その腕を認められ「万平一平」という屋号をもらい、のれん分けをしてもらうことに。
結婚した2人は子宝にも恵まれ、順風満帆な生活を送る……かに思われたが、病によって清美に先立たれた池上は、自暴自棄になり娘も手放さざるを得ない状況に陥ってしまう。
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
ルーザーズが朗読劇でなぞる清美と池上のラブストーリーは、なかなかに見ごたえがあった。個人的には、奥ゆかしく上品な女性として清美をとらえて演じていた桜に主演女優賞を贈りたい。ミュージカル風に歌う舞の歌声もとてもよかった。
ところが、ここで思わぬ事実が発覚する。残されていた段ボールそれぞれに、違う女性との思い出の品がしまわれていたのだ。その数、なんと6つ。池上、バツ5かバツ6ということになる。これは驚愕だ。
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なんだか色んな出来事が一気に明らかになったが、とにもかくにもこのシェアハウスのオーナーは池上だった。騙されていたと分かり、ショックを受ける5人。せっかく苦楽を分かち合える仲間ができたと思ったのに、という感情はもっともだろう。でも、少なくともここにいる5人の絆は本物のはず。そんな自棄にならないで……。
そして、彼らの関心事は、池上がなんの目的でシェアハウスに人を集めたのか、というところへ。話次第では、解散も厭わないなんて言葉まで出てきてしまう。こんな形でバラバラになるのは嫌だ。
そこへフィリピン帰りらしい池上が笑顔で帰宅する。しかし、リビングにはアボカドの部屋から出してきた荷物が。「見たんですね」。池上の声が、顔が、変わった。
次回、ついに最終回。なぜ5人のルーザーがここに集められたのか、その目的が明らかになるだろう。できれば、これもまた6人が自分の人生を1歩進むためのきっかけになる、そんなラストを期待したい。
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{第12話ストーリー&レビュー}–
第12話ストーリー&レビュー
第12話のストーリー
ひょんなことから、謎に満ちていた「アボカド」の部屋が開けられ、オーナー万平一平の正体と、負け組が集められた真の理由が明らかに!
ルーザーズに衝撃が走る中、さらなるショッキングな出来事が…。なんとオーナー側の事情で、全員がシェアハウスを出て行かなくてはいけなくなったのだ。
猶予は次回の更新日である約2週間後…突然の退去命令に動揺が広がるが、最後の2週間、これまでの生活を振り返りながら、安彦聡(増田貴久)は元教え子の間宮リコ(岩本蓮加)と、大庭桜(田中みな実)は離婚調停中の夫・町田弘(坂本昌行)と…それぞれが、今まで先送りにしてきた問題に向き合おうと動き出す――。
刻一刻と迫る旅立ちの時……。強制的に4カ月で解散することになった“吉祥寺ルーザーズ”は、本当にこのままバラバラになってしまうのか?
負け組6人の奇妙なシェアハウス生活、ついに最終回!
第12話のレビュー
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
池上(國村隼)こそが、シェアハウスのオーナーとされている万平一平であることが発覚した前回。フィリピンから帰ってきた池上は、桜(田中みな実)をはじめとする面々に詰められる。
彼は、自身の6度の結婚生活を回想していく。どの女性も、きちんと愛していたらしい。心の底から。どうやら、結婚すると相手に愛想を尽かされ、その傷を癒やしてくれるまた別の誰かと恋に落ち、また愛想を尽かされ……ということを繰り返してきたようだ。
池上、思っていた以上にダメダメである。翠(濱田マリ)の言う「ダメな男ほどモテる」は的を射ている。放っておけないと思ったとき、この人は好きになっちゃいけないと思ったとき、それはもうすでに手遅れの場合が多い。
そして、かねてから気になっていた部屋の名前がフルーツ縛りだった理由も明らかになった。池上が、かつて愛した女性たちから言われた言葉や思い出を表したものだったらしい。あるときは「用なし」と言われ、またあるときはりんごを投げつけられ……。
ますますダメダメな池上。もはや愛おしくなってきた(これだ、これがダメ男がモテる所以……!)。
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
ちなみに、この家は池上の持ち物ではなかった。オーナーは池上の1人目の妻との間にできた娘・琴音のもの。幼いころに池上から育児放棄されたことを、琴音はまだ許せていない。だが、琴音の旦那(皆川猿時)が間を取り持ち、かろうじて池上との関係は続いていた。その流れの中で、使わなくなった吉祥寺の家に住んでもいい、と言われたという。
しかし、提示された家賃は15万円。とても池上1人では支払えないということで、ルーザーズが集められた。困っている人を集めたのは、池上が自分に自信を持つためだった。
聡(増田貴久)だけがここに住み続けたいと主張するが、すでにこの家に琴音たちが戻って来ることが決まっているという。まさか、自分たちで選ぶ余地もないままに、こんな風に解散が決まるとは思っていなかった。
それぞれが、シェアハウスから旅立つために必要な用意を進める。
聡は久しぶりに「ハロー、ママ」と連絡し(久しぶりでかわいい爆弾を避けられなかった)、しばらくの間実家に帰ることを伝えた。
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
そして、リコ(岩本蓮加)を呼び出し、怪我をさせてしまったときの話をする。あのとき、聡がリコを階段から突き飛ばしたと誤解されたまま、聡は否定しなかった。「先生が沈黙しているのは私のためですか」と問われ、それが「君を傷つけない方法だと思っていた」と聡。
リコの言うように、聡は優しすぎた。同時に、自分ともリコとも、向き合うことから逃げていた。人を傷つけたくないし、自分も傷つきたくなかったのだろう。優しさが、聡を臆病にしていた。でも、今の聡は違う。優しさの上に強さを纏いリコと握手を交わすその姿は、ぐっとたくましく見えた。
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桜は夫の町田(坂本昌行)と会い、離婚届を渡す。「ずっと怒っている君を見ているのが辛かった」「あなたのそういうところが嫌だった」と、この期に及んで、いや、これが最後とわかっているからこそ、本音をぶつけ合えているのが切ない。なんだかまだ、根底に互いを好きな気持ちが残っているように感じたから。シェアハウスでの生活を経た桜なら、あるいはもう少し上手にやれるんじゃないか……でも、それはきっと違うのだろう。完璧主義の中に、ダメな自分と他人を認める思いやりを手に入れた桜の、新しい人生を応援したい。
ⓒ「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会
いよいよ退去を明日に控えた日。桜は池上に、「まだ自分を許せていないのはあなただけなのでは?」と声を掛ける。たしかに、池上だけ事態の進展がみられない。だが、その後の彼のセリフは胸に刺さるものだった。
「ダメな人って人のダメなところも許せる優しい人」「皆さん本当に優しい」
「皆さんが負け続けてきたルーザーだから、人間は強くないって知ってる」
「ダメでも全然いい」「これだけは信じてください。私は皆さんと出会えて幸せでした」
最初は自分に自信をつけることを目的に、ルーザーズを集めたかもしれない。だけど、最終的にはその優しさに池上もまた癒やされたのだった。
かくしてルーザーズのリーダーになった池上を筆頭に、最後の晩餐として鍋パーティーが開かれる。舞はキャバ嬢に復帰し、池上は琴音たちと暮らすことに。驚いたことに、いつの間にやら翠と幡多(片桐仁)は付き合い始めており同棲をするらしい。桜はライターとしての活動を続け、聡は教師に復帰することが決まった。それぞれの門出。たったの4か月で、とんでもない進歩だ。
鍋に追加したフィリピンの謎の缶詰で全員がいい気分に。朝起きて、リビングで酔いつぶれている面々を目にした聡が、どうしてこんなことになったんだ……と呟き、「立ち上がれ~♪」と、オープニング曲「LOSER」を歌いながら物語は幕を閉じた。なんときれいな回収だろう。楽曲とドラマの世界観が合っているからこその演出。歌詞の内容がすんなり染みわたって、勇気が湧いてきた。
その「LOSER」の背景では、聡が撮影したらしい昨夜の楽しそうなルーザーたちの動画が流れる。思い出を覗かせてもらっているような気分だった。1話のときを思い返すと、あんなに楽しそうな様子が見られるとは思っていなかった。
負け続けているダメな人ほど人に優しくなれるというのが、今作から一貫して伝わってくるメッセージだった。だが、その陰にはダメな自分を認める強さや、ダメなことを開き直らずに向き合い乗り越えていく誠実さがたしかにあった。負けても、ダメでも、ネガティブになる必要はない。大事なのはその先でどんな行動をするか。へこむときや折れるときがあってもいい、また今度がんばればそれでいい、そんなことを肩を組みながら教えてくれるような、優しいドラマだった。
(文:シネマズ編集部)
※この記事は「吉祥寺ルーザーズ」の各話を1つにまとめたものです。
–{「吉祥寺ルーザーズ」作品情報}–
「吉祥寺ルーザーズ」作品情報
「決して、勝ってはいないけど、負けてないところだってあるんだ」
東京・吉祥寺に佇む謎めいた一軒家で不可思議なシェアハウス生活開始!?
6人の負け組=ルーザーたちが織りなすシチュエーションコメディ!
出演
増田貴久、田中みな実、片桐仁、田島芽瑠、濱田マリ / 國村隼
企画・原作
秋元康
監督
佐藤祐市(共同テレビ)、松木創(共同テレビ)、小林義則(共同テレビ)
脚本
池田テツヒロ音楽
信澤宣明
主題歌
Awesome City Club 「ランブル」(cutting edge)
オープニングテーマ
NEWS 「LOSER」(Johnny’s Entertainment Record)
チーフプロデューサー
阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー
稲田秀樹(テレビ東京)、橋本芙美(共同テレビ)、村木美砂(共同テレビ)
制作
テレビ東京、共同テレビ
製作著作
「吉祥寺ルーザーズ」製作委員会