その沼は、突然姿を現した。
これまで人並みに音楽や映画などのカルチャーに触れてきたつもりだが、なぜか「お笑い」にだけは一度もハマらずに人生を過ごし、早30数年。筆者は気づいたら、とある芸人の沼にハマり込んでいた。
それは「ぼる塾」の田辺さんである(以降、本記事内では田辺さんと呼ばせていただきます)。
「まあね〜」髪の毛ファサッ。そんなお決まりのギャグでお馴染み、女性4人組(育休中のメンバー1人を含む)のお笑いカルテット・ぼる塾。ボケ担当である田辺さんの魅力に、遅ればせながら気づいた。
お笑いというカテゴリーにまるで詳しくなく、正直に言えば興味もなかった30代女性の筆者が、なぜぼる塾の田辺さんに激ハマりしたのか? その理由を考察しながら、彼女の魅力を伝えたい。
お笑いカルテット「ぼる塾」の壮絶なバランスの良さ
筆者のようなとくにお笑いに興味のない方でも、ぼる塾の存在を知らないのは少数派かもしれない。朝や昼の情報番組だけでなく、ゴールデンタイムや深夜のバラエティ番組に至るまで多くの番組に出演している。大げさかもしれないが、ぼる塾を見ない日はないと言っても過言ではないかもしれない。
ツッコミ担当・あんり、ボケ担当のはるかと田辺さんが並ぶと、まずそのインパクトに目が惹かれる。
主なネタの構成としては、こうだ。
・向かって左側のはるかが自己紹介をし、最近の出来事を報告する
・真ん中のあんりがツッコむ
・向かって右側の田辺さんが、はるかと同じことをする
・あんりが褒め称え、それを聞いたはるかが「なんでよ〜!」と怒る
・あんりがフォロー(なようでフォローになっていない)をする
・田辺さんが「ちょっと!」と怒る
・あんりが優しくフォローする(「ほんとうに田辺さんって良い女ですね」)
・田辺さんの「まあね〜」が炸裂し、名言で落ちる
ぼる塾の魅力のひとつは、壮絶なバランスの良さにあると感じている。
棒読みなボケがどんどん癖になる、はるか(通称・はるちゃん)。ぽっちゃりな他の2人と並ぶと、いろいろな意味で目立つ。漫才中はもちろんのこと、バラエティ番組出演やロケ中に(空気を読まず)飛び出すスパイシーなコメントには、中毒性がある。
はるちゃんと20年来の幼馴染である、ツッコミ担当のあんり。あんりのツッコミやトーク回しの安定感はハンパではない。ぼる塾の漫才を見ていると、彼女が真ん中に立っていてくれてよかった……と安堵さえ覚える。一時期、彼女だけピンの仕事が増加していたが、納得である。
「まあね〜」で広く世に知られることとなった、ボケ担当の田辺さん。彼女の青い肩出し衣装姿は、一度見たら目に焼きついて離れない。訥々とした話し口と、ネタの最後に繰り出される「あんた達、良い女になりたかったら〜」から始まる名言は、時として本物の至言となり私たちの心に響く。
忘れてはならない、ぼる塾のブレーン担当・酒寄。元々は「猫塾」というコンビで田辺さんと芸人活動をしていた。「酒寄さんと出会えたことは大きかった、途中で芸人を辞めていたかもしれない」と田辺さんに語らせるほどの人物である。現在は育休中でメディアへの登場は少ないが、いつか4人のぼる塾漫才を見られる日も来ることだろう。
余談だが、田辺さんと酒寄が二人で定期的に配信しているYouTubeラジオ「田辺の和室」が面白い。ゆったりとした雰囲気で、思い思いに好きなアニメや漫画の話をしている。
ぼる塾がテレビに出始めた当時、もちろん筆者もその姿を見ていた。立ち姿のインパクト、特徴的なネタに面白さを感じていたものの、お笑いに慣れていないがゆえにそれ以上好きになることはなかったのだ。
それがなぜ、どんなきっかけで彼女たちの魅力にハマり込んだのか。そして、主に田辺さんのことを、おはようからおやすみまで考えるようになった理由は、どこにあるのだろうか。
–{「好き」に一直線!軸のブレないオタク力}–
田辺さんの魅力1. 「好き」に一直線!軸のブレないオタク力
田辺さんの魅力として一番に語りたいのは、「ブレないオタク力」だ。
キャビンアテンダントを目指して短大の英語科に進んだものの「筆記はいけるけど会話がダメ」と気づき断念。その後、某テーマパークの土産店でアルバイトをしたり、27歳の頃にとつぜん益若つばさに憧れて渋谷のギャルになったり、29歳でNSCに入ったりと、田辺さんの経歴はなかなかぶっ飛んでいる。
そんな彼女がアニメオタクになったのは27歳の頃。友人から勧められた「薄桜鬼」に夢中になり、それ以来、オタクの聖地・アニメイト池袋本店(2022年現在は改装工事中)の常連となった。2022年現在も彼女は、人気アニメ「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」「名探偵コナン」のファンを公言している。
そして、ぼる塾ファンの方にとってはお馴染みだが、田辺さんはジャニーズグループKAT-TUNのメンバー・亀梨和也の大ファンであることでも有名。2022年3月16日に最終回を迎えたバラエティ番組「今夜くらべてみました」内のコーナー「タナバーイーツ」で対面を果たしている。
振り返ってみると、田辺さんの人生は”好き”を軸に構成されている。
英語が好きだからキャビンアテンダントを目指したし、某テーマパークが好きだから土産店でアルバイトをした。渋谷のギャルになったのも益若つばさへの”好き”が溢れたからだし、アニメ好きやスイーツ好きもしっかり仕事に繋がっている。
これほどまでに、自分の”好き”に一直線な人はいない。大人になるにつれ、どうしても個人の「好き・嫌い」では測れない物差しで、何かを選択しなければならないときもある。
しかし、田辺さんはブレない。そんな猪突猛進っぷりに、痺れてしまう。
田辺さんの魅力2. 確実に夢を叶えにいく行動力
夢は「持つ」ものではなく「叶える」もの。田辺さんのこれまでの経歴や現在の活躍っぷりを見ていると、自然とそんなふうに思える。
キャビンアテンダントになる夢は叶わなかったものの、英語を極めるために短大英語科へ進む行動力を見せている。それに「某テーマパークが好きだから」といった理由だけで、実際に土産店でアルバイトをする人がどれくらいいるだろうか。
そして、田辺さんが「益若つばさに憧れて」渋谷のギャルになったのは27歳の頃だ。年齢のことを考えて諦めてしまう場合が多数派だろう。ましてや、ほんとうに109の店員になろうとして仕事を辞めてしまったというのだから驚きだ(結局、年齢制限があって店員にはなれなかったオチも田辺さんらしい)。
韓国ドラマにハマり、約1年の独学で韓国語検定を取得したのもすごい。しかし、なんといっても驚愕なのは、田辺さんが芸人を志してNSCに入ったきっかけである。
それはなんと、たまたま遭遇した手相占い芸人・島田秀平に手相を見てもらい「人を幸せにする、人気者になる」と言われたから、なのだとか。
祖父や弟にお金を借りて渋谷に繰り出していた、当時の田辺さん。これから自分は何をして生きていくのか、どんな道が合っているのかーー自分でも決めあぐねているタイミングで、突如降ってきた「人気者」のキーワード。
これを聞いた瞬間に芸人になることを決意し、29歳でNSCに入ったというのだから、すごい。ぼる塾として世に知られるまでには約10年の時が流れているが、下積み時代を支えたのも、持ち前の「夢を叶える行動力」があったからに違いない。
田辺さんの魅力3. もはや「良い女ですね〜」はフリじゃない!
ぼる塾の漫才動画や出演番組を視聴し、田辺さんのインタビュー記事やスイーツ本・「あんた、食べてみな! ぼる塾 田辺のスイーツ天国」を読み漁るなかで、筆者はとある事実に気づいた。
漫才のフリとして使われている、あんりが言う「ほんとうに田辺さんって、良い女ですね〜」は、もはやフリでもなんでもない。まさに”ほんとうのこと”を言っているだけに過ぎない。そうとしか聞こえなくなってくるのである。
田辺さんの良い女っぷりを解説するため、彼女を一躍有名にしたワード「まあね〜」にまつわるエピソードをご紹介しよう。
実は「まあね〜」というギャグは、田辺さん考案ではない。現在は育休中であるぼる塾のメンバー・酒寄がきっかけで生み出された言葉だ。
まだ酒寄と田辺さんがお笑いコンビ「猫塾」として活動していた頃、代々木公園でネタ合わせをしている最中に「まあね〜」は生まれた。「人に褒められたときって何て返事をしたらいいんだろう?」と疑問を呈した田辺さんに対し、酒寄が「まあね〜でいいんじゃない?」と返したのだ。
田辺さんは最初こそ「まあね〜って、それでいいの?」とさらに疑問が増したという。しかし、ネタに組み込んだことで繰り返し「まあね〜」を口にするようになり、少しずつ考え方が変化していった。自分のことを褒められて「そんなこと……」と否定する必要はないのだ、と。
その価値観は、田辺さんのTwitterアカウントにある固定ツイートにも表れている。
私なんてーって言葉を撲滅したい。
褒められたら世の女性全てがまぁねーって返せるようになったらいいなー。— ぼる塾 田辺 (@chi0314ka) September 11, 2020
田辺さんの在り方をテレビ番組等で見ていると、自分を卑下したところがまったくない。たとえ笑い目的であったとしても、容姿をいじられたらしっかり「やだ〜!」「そんなことない!」と否定している。
男女に限らず、容姿など持って生まれたものをイジられたら、しっかり否定していい。そして、褒められたら手放しで「まあね〜!」と受け入れていい。
これまで褒められることに慣れてこなかった全人類。もしも照れくさかったら、田辺さんのように「まあね〜」と受け入れればいいのだ。自分も相手も嫌な気持ちにならない、最高の優しさワードである。
–{スイーツ女王誕生の裏にある努力}–
田辺さんの魅力4. スイーツ女王誕生の裏にある努力
「あんた、食べてみな! ぼる塾 田辺のスイーツ天国」の出版、そしてバラエティ番組「今夜くらべてみました」内のコーナーであるタナバーイーツ(ウーバーイーツにかけた、田辺さんがおすすめのスイーツを紹介するコーナー)など、新スイーツ女王として頭角を表した田辺さん。
幼少期から美味しいスイーツ&ご飯を食べて育ってきた田辺さんにとって、その情報量を活かして仕事に繋げることは、何ら難しいことではなかったと想像できる。しかし、裏には相当な努力があったはずだ。
ぼる塾が突如テレビに出始めた当時、確かに田辺さんのインパクトは強かった。しかし、どちらかというとはるちゃん&田辺さんという個性の強いキャラをまとめ上げていた、ツッコミ担当のあんりに注目が集まっていたのではないかと記憶している。
あんりがピンで呼ばれる仕事も増えてきた当初、田辺さんは考えたはずだ。「まあね〜」だけで終わらずに、さらに仕事を増やすためにはどうしたらいいか。
その結果、これまで培ってきたグルメやスイーツの情報をアピールし、食べ物の話になったら饒舌になることで、完璧に「田辺さん=食」のイメージを世間に植え付けることに成功した。
書籍の出版やコーナーの誕生にとどまらず、あられ・おかき専門店「赤坂柿山」とコラボレーションしたオリジナルおかきのプロデュースに携わるまでになった。亀梨くん好きを公言し続けて、ついに番組で対面を果たした田辺さんのことだから、スイーツに限らず、さまざまな”好き”を仕事に繋げていくことだろう。
完全に余談だが、田辺さんおすすめの「焼きたてフィナンシェ」(ノワ・ドゥ・ブール:noix de beurre)を食べてみたところ、あまりの美味しさに驚いた。やはり、田辺さんは本物だ。経験に裏打ちされた、厳選した情報を提供してくれている。その信頼が積み重なって、現在の人気に直結しているのだろう。
田辺さんの魅力が伝わるおすすめ番組「ぼる塾のいいじゃないキッチン」
最後に田辺さんの魅力が詰まった番組を紹介したい。惜しくも放送終了してしまった「ぼる塾のいいじゃないキッチン」という番組がある。ぼる塾が、食のすべてを全肯定するコンセプトでお茶の間に届けられていた深夜番組だ。
田辺さんの魅力が全面に押し出されているのが、かの有名な「ポテトプレゼン回」である。オズワルド・伊藤をゲストに招き、3週にわたって繰り広げられた、田辺さんのポテトプレゼン。とにかく、ポテトに対する熱量が尋常ではない。
【明日】深夜2時21分〜(いつもより5分遅い)田辺さんが愛するフライドポテトプレゼン回です?
ゲストは仲良しのオズワルド伊藤さん!ドクターXとかを撮ってるめちゃでか会議室で、巨大モニター使って田辺さんがプレゼンしてます?
田辺さんの面白さ全開、爆発力は過去一番の回だと思うのでぜひ!! pic.twitter.com/cKAKWDtbLo— ぼる塾のいいじゃないキッチン【テレビ朝日 公式】 (@iijanai_kitchen) November 1, 2021
【明日】深夜2時16分から田辺さんの熱血ポテトプレゼン後半戦です!ゲストはぼる塾と相性が良すぎるオズワルド伊藤さん!
先週に引き続きツッコミが冴え渡ってます?
予告にも入ってますが、田辺さんが色々呪文を唱えるところが最高に面白いのでぜひご覧ください? pic.twitter.com/q7K3fBZD6D— ぼる塾のいいじゃないキッチン【テレビ朝日 公式】 (@iijanai_kitchen) November 8, 2021
【明日】深夜2時16分から田辺さんのポテトプレゼン完結編?
今週もゲストはオズワルド伊藤さん!
田辺さん、喜怒哀楽がめちゃくちゃで最高に面白いのでぜひ!
各感情に伊藤さん、あんりさんがツッコんで、はるちゃんが逆撫でしています?伊藤さんと超仲良しな方のお店も登場するのでお楽しみに! pic.twitter.com/EUbxrdS68C
— ぼる塾のいいじゃないキッチン【テレビ朝日 公式】 (@iijanai_kitchen) November 15, 2021
中学生の頃に食べたローソンのポテト(今は存在しない)の思い出から、サブウェイのポテトは注文時に伝えればフレーバーを混ぜてくれるといった豆知識、そしてポテトに紅茶葉を振りかけていただくお洒落な専門店情報など、約20分の放送が飛んで過ぎ去るレベルのクオリティである。
筆者は、この世に田辺さんファンを増やしたい。ともに田辺さんの話ができそうな人を見つけたら、ここぞとばかりに布教したい。こちらの記事を読まれたうえで、ぼる塾の田辺さんに興味がわいたら、ぜひ「ポテトプレゼン回」を見てみてほしい。
通称・田辺沼は、突然姿を表すものなのだ。お笑いにまったく興味のなかった筆者が、一気に引き込まれた大きな沼=ぼる塾・田辺さん。あなたにもぜひ、自ら進んでこの魅力的な沼にハマりに来てほしい。
(文・北村有)