先日、うちの姪が結婚し、その式と披露宴が執り行われました。
時世を配慮して細心の注意が払われ、余興的な派手派手しいものこそありませんでしたが、その分ささやかながらも温かな想いのこもった素敵な宴に成り得ていて、叔父さん、柄にもなく最後はちょっと涙ぐんじゃいました……。
さて、それからおよそ1週間後に拝見した映画が、大九明子監督の『ウェディング・ハイ』です。
その中身は結婚式に関わる人々のさまざまな想いが交錯しながら、やがてとんでもない方向へと転がりまくっていく一大コメディ集団劇!
何よりも今回、脚本を手掛けたのが、あのバカリズムなのです!
天才的ともいえる人間観察に長けた彼ならではの「結婚式あるある」ワールド、式に参加したことのある方も、これから参加するであろう方も等しく、はじめクスクス、次第に大爆笑へ達してしまうこと間違いなし!
>>>【関連記事】『地獄の花園』レビュー:さすがはバカリズム!の逸品
結婚式に集う人々それぞれの思惑が絡み合うと?
映画『ウェディング・ハイ』の新郎新婦は、石川彰人(中村倫也)と新田遥(関水渚)。
正直、彰人は結婚式なんて面倒臭いと思っていますが(まあ、これって大半の男の本音ではありますかね……!?)、それこそ結婚式を大切なイベントとして取り組もうとしている遙に嫌われたくない一心で、理解あるふりをしつつ、ウェディング・プランナーの中越真帆(篠原涼子)と打ち合わせを重ねていきます。
(ウェディング・ドレスの種類はもとより、披露宴のテーブルクロスの色はどうするかとか、事前に自分たちで決めなければいけないことって結構多いんですね……)
披露宴に誰を招待するかはもとより、乾杯の音頭やスピーチ、余興などを誰に頼むか、また新郎新婦の生い立ちなどを見せるVTRは誰に発注するか?などなど、課題は山積。
一方で、スピーチや余興を頼まれた人たちそれぞれの心中たるや、いかほどに?また、披露宴に呼ばれなかった人の忸怩たる想いとは?
さらに、ここでは遥の元カレ(岩田剛典)が彼女の結婚を知って、花嫁奪還とばかりに式場に乱入しようとするのですが……。(そんな、映画『卒業』じゃあるまいし!?)
あと、式場近辺をウロチョロしている謎のイケメン(向井理)の正体とは?
まあ、そんなこんなで披露宴が始まっていくわけですが、参列者それぞれの思惑が複雑に絡み合い(それらが何であるのかは、もう見ての楽しみ!ただ、本当に「嗚呼、あるある……」とニヤニヤしながら唸らされっぱなしです)、いつのまにか式は大変な事態へ突入していた!?
しかし絶対に「NO」と言わないことを誇りとしている真帆たちウェディング・プランナーは、果たしていかなる手でこれらの危機を乗り切ろうとするのか?(これがまたスペクタクルなまでに大爆笑!)
このように本作は特定の主人公を立てず、結婚式に集うそれぞれの人々の想いを抽出していきながら、人生怒涛の渦が巻きあがっていく一大コメディとして見事に構築されていきます。
そこにはやはり、バカリズムならではの秀逸な人間観察がもたらす笑いのセンスを凝縮させた脚本の妙と、そこから温かな感動を醸し出すことに長けた大九明子監督のキャメラ・アイを讃えるべきでしょう。
大九監督は『勝手にふるえてろ』(17)や『私をくいとめて』(20)など、世知辛い現代を生きる女性たちの心の機微を巧みに捉えた秀作群で知られていますが、いつもなら自作の脚本は自分で書くところを、今回は「バカリズムさんという天才が書いた脚本だから、やってみたいと思いました」とのこと。
その結果、脚本と演出のユニークな化学反応が生じ、これまでに類を見ないヒューマン・コメディ映画の快作が生まれたことは間違いありません。
–{お笑い芸人としてのセンスを巧みに活かした脚本術}–
お笑い芸人としてのセンスを巧みに活かした脚本術
(C)2012 バカリズムTHE MOVIE製作委員会
さて、そんなバカリズムのキャリアを遡っていきますと、1995年から2005年までお笑いコンビ“バカリズム”として活動し、その後ピン芸人となり、コンビ名をそのまま自身の芸名とします。
2006年の「R-1ぐらんぷり」をはじめ、フリップネタ“トツギーノ”の新鮮かつ衝撃的な笑いは今も忘れられないものがありますが、その後も都道府県の地形そのものをギャグにした“地理バカ先生”のシュールなセンスにも脱帽したものでした。
一方では2006年よりアイドルユニット“アイドリング!!!”の看板番組「アイドリング!!!」でMCを務めましたが、およそアイドル番組とは思えない体育会系ノリで、アイドリング!!!の女の子たちに徹底した試練を与えていく温かくも厳しい鬼教官ぶり(?)は、番組をおよそ9年の長きにわたって継続させる人気のポイント足り得ていたと思います。
(昨年、久々にメンバーやMCたちが集まっての特番も催されましたが、コロナ禍にもめげず、そのパワーは俄然健在でしたね)
(C)2012 バカリズムTHE MOVIE製作委員会
そんなバカリズムですが、実は日本映画学校の出身で(もっとも本人は「あまり映画に興味はない」とコメントしているようですが)、2012年には『バカリズムTHE MOVIE』で(ほぼ)監督・脚本・出演を務めています。これは彼のお笑いを5本のオムニバス形式で映画化したもので、このときはまだ自身のお笑いを映像のドラマとして変換させようとする意欲に技術が追いついてなかった憾みもありましたが、それでも今後の可能性みたいなものは強く感じさせられたものです。
この後、彼は脚本にも映像の仕事の軸足を傾けるようになり、そちらの方面で才気を開花させていきます。
個人的には時間を逆戻りさせるタクシー運転手(竹野内豊)を主人公にした「素敵な選TAXI」(14)や、市川崑監督の名作映画を原作にしつつ、かなりの改変を施して連続ドラマ化した「黒い十人の女」(16)に目を見張りました。
(C)2020「架空OL日記」製作委員会
そして自身がOLになりきって架空の日常を綴ったブログ(後に書籍化)をドラマ化した「架空OL日記」(17)では、何と自らがOLの「私」に扮して、普通に他の女優たちと一緒に日常を過ごすというぶっとび技を披露。
これによって本作は2017年6月度のギャラクシー賞月刊賞を、バカリズムも第55回ギャラクシー賞テレビ部門特別賞を、さらには脚本家として第36回向田邦子賞まで受賞!
ここに至り、お笑い芸人としての矜持を保ったまま、脚本家バカリズムとしての存在が広く世に知れ渡るようになっていきます。
2020年には彼の原作・脚本・主演劇場版『架空OL日記』が公開。
同年秋に脚本を手掛けたWOWWOWドラマ「殺意の道程」では、父を自殺に追いやった者を殺害すべく主人公(井浦新)とそのいとこ(バカリズム)が犯行計画を練っていくというシリアスなストーリーながら、その打ち合わせ場所をどこにするかとか、凶器は何にするかとか、普段の犯罪ドラマでは描かれない日常の細部にこだわりまくることで不可思議な笑いをもたらすという、今回の『ウェディング・ハイ』ともどこか共通する「あるある」作品としてユニークな仕上がりでした。
(2021年には再編集した『劇場版殺意の道程』も公開)
(C)2021「地獄の花園」製作委員会
2021年には、ヤンキーOLたちの派閥闘争を壮絶なアクションと笑いで描く『地獄の花園』脚本を担当。こちらは『架空OL日記』とはまた別路線の、いわゆるヤンキー・バトル映画の世界をOL界隈に移行させた秀逸なアイデアのもので、永野芽衣をはじめとする女優陣がきちっと激しいアクションに取り組んでいるのも嬉しければ、コワモテの遠藤憲一らがOLに扮しているという設定も大笑いの作品でした。
そして今回の『ウェディング・ハイ』ですが、改めて彼の非凡な才能を面白おかしく楽しめる作品に仕上がっています。
と、ここまでくると彼が監督した映画作品をまた見てみたくもなってきますが、本人にその意欲はあるや否や?
ただ、多くのファンがその実現を心待ちにしていることも紛れもない事実でしょう!
(文:増當竜也)
>>>【関連記事】『地獄の花園』レビュー:さすがはバカリズム!の逸品
>>>【関連記事】「菅田将暉、ヤバい」と思った映画3選
–{『ウェディング・ハイ』作品情報}–
『ウェディング・ハイ』作品情報
ストーリー
新郎新婦にとって人生最大のイベント“結婚式”をサポートするウェディングプランナーの中越真帆(篠原涼子)。そんな彼女に支えられ、新郎・石川彰人(中村倫也)と新婦・新田遥(関水渚)は、ようやく式当日を迎えることに。ところが、スピーチに命を懸ける新郎の上司・財津(高橋克実)をはじめ、クセ者参列者たちの熱すぎる想いが暴走し、式はとんでもない方向へと向かってゆく。中越は披露宴スタッフと共に数々の問題を解決しようと奔走するが、さらに新婦の元カレ・裕也(岩田剛典)や、謎の男・澤田(向井理)が現れ……。果たして“絶対にNOと言わない”ウェディングプランナー中越は全ての難題をクリアし、2人に最高の結婚式を贈ることが出来るのか……。
予告編
基本情報
出演:篠原涼子/中村倫也/関水渚/岩田剛典/中尾明慶/浅利陽介/前野朋哉/泉澤祐希/佐藤晴美/宮尾俊太郎/六角精児/尾美としのり/池田鉄洋/臼田あさ美/片桐はいり/皆川猿時/向井理/高橋克実
監督:大九明子
公開日:2022年3月12日(土)
製作国:日本