月刊シネマズ、今回のお題が「繰り返し観ている『2000年以前に公開された映画』のオススメ」ということで。1980年代生まれかつ80~90年代の映画を観て育った筆者にとって、なんと魅力的なお題であることか。しかも近年は『マトリックス』や『トップガン』、『ゴーストバスターズ』のように、“今このタイミング”で続編が生まれている作品も多い。2000年以前の作品に映画製作者・映画ファン双方が注目しているのは、紛れもない事実だろう。
青春時代を共にした映画は、やはり何度観ても色褪せない。たとえ世間的な評価はイマイチでも、琴線に触れる作品や価値観は人それぞれ。というわけで今回は、(随分と偏りがちなセレクトだが)今なお筆者を魅了してやまない作品たちを僭越ながらご紹介したい。
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■『ツイスター』
(C)Album/アフロ
日本では1996年7月に夏休み映画として公開された本作。その後の『ボルケーノ』や『ダンテズ・ピーク』や『ディープ・インパクト』、『アルマゲドン』などディザスタームービー隆盛の先駆けとなった作品でもある。90年代ハリウッドの災害映画につきものと書いてしまうと失礼だが、ストーリーは実にシンプルでわかりやすい。離婚寸前の竜巻研究者ジョー(ヘレン・ハント)と気象予報士のビル(ビル・パクストン)が観測機器を携え、チームと共に危険極まりない竜巻を追う…… という内容だ。
本作はアメリカ国内興収だけでも約2億4000万ドルを稼ぎ、日本はもちろん世界中でヒットを記録している。それもそのはず、本作はクリエイター陣からしてヒットが確約されているようなもの。まず監督は『スピード』をスマッシュヒットに導いたヤン・デ・ボン。製作総指揮にスティーヴン・スピルバーグ、脚本に『ジュラシック・パーク』の原作者として知られるマイケル・クライトン(妻のアン・マリー・マーティンとの共同執筆)のコンビ。また近年『スター・ウォーズ』新シリーズに名を連ねるキャスリーン・ケネディがプロデューサーとして参加した。ヒットメーカーがこれだけずらりと並んでいる時点で、いかに本作がエンターテインメントとして盤石な布陣なのか窺えるのではないだろうか。
本作の見どころは、なんといっても「主役」と呼んで過言ではない竜巻による破壊描写だ。圧巻の映像表現を可能にしたのは、ハリウッドのトップ視覚効果工房・ILM(インダストリアル・ライト&マジック)。風が渦を巻き、破片を巻き上げながら主人公チームに迫る映像は思わずのけぞってしまうほど。画面の奥で破壊された飛散物が観客の目の前に落下してくるシーンが多く(VFXだけでなくタンクローリーなどを実際に吊り上げて落下させている)、現代ならIMAXや4DXフォーマットが間違いなくマストになっていただろう。公開から26年も経過した本作だが、竜巻による破壊描写は全く古臭さを感じさせない。
驚異の映像だけでなく、ヘレン・ハントにビル・パクストン、観測チームの一員として出演しているフィリップ・シーモア・ホフマンらが演じるキャラクターも魅力的。アドベンチャー要素が強く、予告映像に興味を惹かれて本作を劇場鑑賞した筆者は見事“映画好き”として開眼することになった。
これは余談だが、本作は既にリブートが決定している。2020年の報道時には『トップガン マーヴェリック』の公開を控えたジョセフ・コシンスキーが監督として交渉中とのことだったが、筆者のオールタイム・ベスト作品でもある『ツイスター』がどのように生まれ変わるのかを注目したい。
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■『ザ・ロック』
(C)ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン
『ツイスター』が映画好きとして開眼した作品なら、96年9月に日本で公開された『ザ・ロック』は筆者がアクション映画の魅力に取り憑かれた記念すべき作品だ。監督は『バッド・ボーイズ』に続いて、劇場映画2作目となるマイケル・ベイ。またジェリー・ブラッカイマーと共にプロデュースをおこなったドン・シンプソンの遺作でもあり、エンドクレジットにて本作はシンプソンに捧げられている。
FBIの化学兵器スペシャリスト・グッドスピード役にオスカー受賞後で波に乗るニコラス・ケイジ、そして名優ショーン・コネリーがアルカトラズ刑務所から唯一脱獄に成功した元英国諜報部員(!)のメイソンを演じた本作。物語はVXガス搭載ロケットを強奪したハメル准将(エド・ハリス)率いる傭兵部隊が、観光地となったアルカトラズ島を占拠。ロケットとアルカトラズ島を奪還すべく、メイソンを案内人にグッドスピードやネイビー・シールズが傭兵部隊と対峙する様子がサスペンスフルに描かれた。
破壊王ことマイケル・ベイの作品だけあって、本作は観客の期待を裏切らない(むしろ期待以上の)ド派手なアクションがてんこ盛り。公開当時は「水増し的なシーンが多い」との批判も目にしたが、むしろ1本のアクション映画として手堅くまとめ上げたベイの手腕を評価したい。また、観客の度肝を抜くベイ特有のアクション描写やカメラアングルは既に健在。サンフランシスコ名物のケーブルカーがグッドスピードvsメイソンのカーチェイスに巻き込まれ、爆発によって宙高く舞い上がるシーンはまさに好例といえる。
もちろん見どころはアクションだけではない。たとえばエド・ハリス演じるハメル准将は一言で悪役と言い捨ててしまうような人物ではなく、ハリスが見せる悲哀に満ちた“目の演技”が印象的。またVXガスロケット発射とアルカトラズ島空爆のタイムリミットが迫る展開もドラマチックであり、そんな極限状況の中で感じさせるグッドスピードとメイソンの疑似親子的な関係性にも注目してほしい。
本作は「午前十時の映画祭」ショーン・コネリー追悼プログラムの1作として、昨年久しぶりに劇場で上映された。もちろん筆者も2度鑑賞してうれしさと懐かしさで冒頭から落涙し、コネリーのラストシークエンスが現実と重なって涙腺決壊。思い返せば作曲家ハンス・ジマーを知った特別な作品で、ジマーとニック・グレニー=スミスによる勇壮な音楽も素晴らしい。
25年ぶりに劇場で鑑賞して、絶叫・応援上映向きの作品だと確信した本作。クライマックスでは、きっと劇場内が“緑のペンライト”で埋め尽くされていたに違いない。
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■『トレマーズ』
(C)ユニヴァーサル=UIP
これほどまでに映画ファンから愛され続けるモンスター映画があるだろうか。1990年6月日本公開のロン・アンダーウッド監督作『トレマーズ』は主演にケビン・ベーコンを迎え、ネバダ州の片田舎を襲った謎の地底生物・グラボイズの恐怖を描いた作品。B級映画と勘違いされてしまうかもしれないが、やはり何度観返してみてもジャンル映画として一級作品であることは確かだ。
本作の魅力はとにかく計り知れない。舞台をパーフェクションというごく小さな土地に限定しながら物語は程よい広がりを見せ、その中で数少ないキャラクターたちが活き活きと動き回る。グラボイズ退治の陣頭指揮を執るバレンタイン(ベーコン)とアール(フレッド・ウォード)コンビは“良き兄ちゃん”感が際立っていて、間違いなく本作を牽引する魅力の1つ。また、のちのシリーズで主役を張るバート・ガンマー(マイケル・グロス)の度を越したミリタリーオタクっぷりもいい(1作目で共に活躍した奥さんにはその後逃げられてしまうが)。
そしてなんといっても、パーフェクションの住人たちを追いつめるグラボイズの存在。巨大な嘴状の顎を持ち、口内からは無数の触手がニョロニョロしている。地底生物なので目はなく、代わりに地中を突き進む際に役立つ突起が体中に生えている。絶妙に気色悪い造形でありながら実は生物学的に理に適っていて、地球上のどの既存生物にも似つかないデザインが筆者は好きで好きでたまらない。大好きすぎるあまり、グラボイズのガレージキットを入手したくらいだ。
さらに本作の魅力を底上げしているのが、単純なモンスターパニックに終始しない脚本の妙にある。よくあるモンスターパニックでは、モンスターの襲撃→逃げまどう人類→反撃に転じる人類→モンスターを撃破という流れが定石。確かに本作もその流れに沿ってはいるが、人間とグラボイズが“知恵比べ”を繰り広げる点に従来の作品と一線を画すところがある。グラボイズが音を頼りに襲撃してくると人類が気づけば、建物の屋上に避難した住人をグラボイズが土台ごと揺さぶり地面に落とす。そして人間がトレーラーで逃げれば、グラボイズが地面に落とし穴を掘る。そんな知恵比べがクライマックスまで続く展開にワ胸が躍り、つい前のめりになってしまう。
本作もアニマルパニックの傑作『ジョーズ』以降に制作された作品だが、決して『ジョーズ』の“二番煎じ”ではないと声を大にして言いたい。確かに『トレマーズ2』以降は評価が分かれ、グラボイズが進化を遂げるなど趣向を凝らしても新鮮な魅力を感じないのは事実。それだけ1作目が“高く越えられない壁”として屹立しているということなのだろう。もしも「モンスター映画はマイナー」というイメージを持っているなら、まずは『トレマーズ』の第1作目をぜひ観てほしい。
–{『カル』}–
■『カル』
(C)クロックワークス
2000年11月日本公開の韓国映画『カル』は、ソウルを舞台に猟奇的な連続バラバラ殺人事件をゴア描写たっぷりに描いたサスペンス作品。当時は同年に公開された『シュリ』の爆発的なヒットによって韓国映画が大きな注目を集め、『シュリ』と同じハン・ソッキュ主演作という意味でも『カル』は話題を呼んだ。
雨が降りしきる中での展開や凄惨な事件現場、オフィーリアなど意味深に提示される“モチーフ”が存在していることからも、本作がデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』に影響を受けていることは疑いようがない。また本作の魅力であると同時にとても厄介なのが、1度鑑賞しただけでは全ての真実にたどり着けない“複雑な物語”にある。
本作ではチェ刑事(ハン・ソッキュ)と相棒のオ刑事(チャン・ハンソン)が解決への糸口を掴む間もなく、次々とバラバラ死体が発見されていく。しかも切断された体の一部が入れ替えられるなど不可解な点が多く、チェ刑事と視点を共有するかたちで観客も頭を悩ませるはずだ。ようやく被害者共通の接点としてチェ・スヨン(シム・ウナ)が浮上するも、やはり有力な手掛かりを得られないままバラバラ殺人は進行してしまう。
もちろん真犯人の正体が明らかになる真相編が用意されているものの、その衝撃度とちぐはぐなままのパズルのピースを前に呆然とするばかり。チャン・ユニョン監督もなかなかいやらしく「6回鑑賞すれば真実にたどり着く」という冗談とも本気とも取れる言葉を残している。公開時には『カルの謎』と題したガイドブックが発売されたほどだが、本作の明確な“答え”は今もって明かされていないまま。かくいう筆者も10回以上鑑賞してようやく、「これ以上の答えは思いつかない」というところまではたどり着けたような気がしている。
思いのほか血糊の量が多い作品のため、おいそれと勧めることはできないが、近年の謎解き系サスペンスドラマが好きな方はぜひチェックを。
■『ナビィの恋』
(C)オフィス・シロウズ=東京テアトル
連続テレビ小説『ちゅらさん』の放送よりも早い1999年12月に公開され、“沖縄ブーム”の礎となった本作。中江裕司監督が手掛けたミュージカル要素たっぷりのコメディ作品であり、沖縄県粟国島に里帰りした東金城奈々子(西田尚美)を主人公に物語は進む。それまでハリウッド作品やメジャー配給の邦画ばかり観ていた筆者にとって、ミニシアター系作品の良さに気づかせてもらえた最初の1本だ。
本作の魅力の1つは、全編を彩る数々の音楽シーンにある。沖縄民謡を中心としつつ、それだけに捉われない選曲と構成は実に多彩。フィドルで奏でられるケルト民謡「ケルティック・リール」をはじめ、「ロンドンデリーの歌」や「ハバネラ」といった楽曲群が粟国島ならではの空気の中で奏でられていく。
そもそも恵達(おじぃ)役の登川誠仁は沖縄を代表する三線奏者。“沖縄のジミヘン”こと登川のユーモアと哀愁感漂う演奏シーンは必見だ。さらに『ピアノ・レッスン』で知られるマイケル・ナイマンが情感豊かなテーマ曲を提供するなど、美しい風景とともに画面を彩る音楽群が実に心地いい。
また本作の主軸でもある、平良とみ演じるナビィ(おばあ)と島を追放されていたサンラー(平良進)のドラマチックな物語の魅力も負けていない。かつてナビィとサンラーは恋仲の関係にありながら引き裂かれてしまった経緯があり、サンラーが島に戻ってきたことでナビィと恵達夫婦のあいだに変化が生じ始める。いわば過去の大恋愛をきっかけに物語が動いていくのだが、ナビィ・恵達・サンラーの関係がドロドロと描かれることは決してない。むしろ人生を達観した者同士にしかわかり合えない、妙に清々しい空気すら漂わせている場面も見受けられた。
美しい旋律と共に語られる、ナビィの恋。三者が下す決断は繰り返し観てもこみ上げる涙を抑えきれず、それでいて鑑賞後には不思議と気持ちのいい余韻を残す。筆者の邦画実写ベストであり、音楽映画が好きな人にぜひ観ていただきたいオススメの作品だ。
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■『女優霊』
(C)WOWOW/バンダイビジュアル
中田秀夫監督×高橋洋脚本コンビによるJホラーの金字塔『リング』と迷ったのだが、筆者の「最も怖いホラー映画」としてここは1996年3月公開の『女優霊』を紹介したい。本作はそれこそJホラーブームの火付け役であり、貞子の原型ともいえる怪異が登場する中田監督の出世作だ。とある映画制作の現場で未現像フィルムが混入し、映り込んでいた“何か”を見つけたことで監督の村井(柳ユーレイ)や主演女優・ひとみ(白島靖代)ら関係者が異様な状況に巻き込まれていく。
上映時間80分未満の作品ながら、じわじわと観る者を追いつめる恐怖演出は「さすが中田監督」としか言いようがない。映画撮影スタジオというどこか陰鬱な空気をまとう舞台が効果的に機能しており、得体の知れない何かが潜んでいるような空間に息が詰まるばかり。そして最も功を奏しているのが、フィルムに映り込んだ“何か”の正体が徐々に姿を現していく“チラリズム的”な恐怖演出。はじめはフィルム内の女優の背後にうっすらと“長い髪”と“肩”が重なっており、やがて“それ”の姿は場所を変えたロケバスの窓にごくうっすらと(しかしそれが“女性”だとわかる程度に)映り……。
モンスターパニックでは『ジョーズ』の人食いサメのように、モンスターを部分的に映して観る者の想像力を煽る“モンチラ”演出がある種の定番。それが本作の場合は中田監督の手によって幽霊へとかたちを変え、観客自らがその姿を想像して膨らませることで恐怖を倍増させる。本作のモンチラならぬ霊チラ(?)演出は『リング』でさらに磨きがかかり、呪いのビデオを見るたびに貞子の露出度が増していくという説得力のある描写へと昇華された。
もちろん『リング』も大好きな作品であり、その後の『らせん』や『リング2』『リング0 バースデイ』も含めて繰り返し鑑賞しているJホラーだ。しかし映画撮影スタジオで発生する怪異に的を絞った『女優霊』は、シンプルな物語だからこそより一層身近に恐怖を感じてしまう。本音を言えばクライマックスは粗削りな演出に首を傾げたくなるのだが、それでも全体を通して筆者の「最も怖いホラー映画」であることには変わりがない。そんな作品を敢えて“夜中に1人で観る”のが密かな楽しみだということも、最後につけ加えておこう。
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■まとめ
他にも繰り返し観ている2000年以前の公開作品をざっと挙げると、『ミッション:インポッシブル』(今もシリーズで一番好き)、『ヒート』(圧巻の市街地銃撃戦と後世に影響を与えた世界観)、『遊星からの物体X』(クリーチャー映画の傑作)、『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』(特撮映画の最高到達点)、『ゴジラ』(今から約70年も前の作品とは思えない特撮の完成度)などがお気に入り。そのすべての魅力を語り尽くしたいところだが、過剰な自分語りになりかねないためこの辺りでブレーキをかけよう。
ここで紹介した作品が、映画史に燦然と名を残すような作品でないことは重々承知。それでも筆者に今なお強い影響を及ぼしているように、どんな作品でも誰かにとっての“名作”に成り得るのだ。そんな映画が1つでもあるならば、周囲を巻き込んででも、ぜひ「オススメするから観てみて!」と声を上げみてほしい。そうして作品は人から人へと広がり、たとえ何十年過ぎようとも忘れ去られることなく語り継がれていくに違いない。
(文:葦見川和哉)
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