結論から申し上げれば、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』 は「正統派の田舎が舞台のジュブナイル映画」としてものすごく面白かった!
特に1作目のツボを押さえた魅力が満載なので『ゴーストバスターズ』のファンには感涙もの、しかもシリーズ初見でも問題ないというバランスも良いため、まさに親子で楽しめる、万人向けの娯楽映画のお手本と言ってもいいだろう。
出演者も豪華で、『gifted/ギフテッド』(17)や『マリグナント 狂暴な悪夢』(21)などに出演するマッケナ・グレイス、2017年と2019年に2部作が公開された映画『IT/イット』のフィン・ウルフハードがちょっぴり成長している様は映画ファンにとって嬉しいし、彼女たちを知らない人が観てもその可愛らしさに魅了されること間違いなし。『ゴーン・ガール』(14)のキャリー・クーンや『アントマン』(15)のポール・ラッドという大人キャストたちもまたキュートなのもたまらない。
なお、PG12指定(小学生以下の鑑賞には成人保護者の指導や助言が適当)のレーティングがされている。だが、それは「未成年者の(無免許)運転の描写がみられる」ことが理由であり、過激なシーンがあるわけではないので、小さなお子様でもおそらくは大丈夫。(ただし人気キャラの「マシュマロマン」がまるで『グレムリン』(84)のようにひどい目に遭うシーンも?)さらに日本語吹き替え版も上白石萌歌、梶裕貴、朴璐美、木内秀信、高山みなみ、日笠陽子と超豪華キャストが揃っているので、そちらで観てみるのも良いだろう。
ただ、『ゴーストバスターズ』には2016年のリブート作(以下、2016年版)があるのだが、そちらを「なかったことにする」ような動向には憤りも覚える。だが、2016年版のファンがそれを理由に観ないというのは、個人的にはもったいないとも思う。
なぜなら、今回の『ゴーストバスターズ/アフターライフ』 という作品そのものが2016年版にまつわる問題に向けたアンサーになっているとも思ったからだ。さらなる作品の魅力を解説していくと共に、その理由もたっぷりと記していこう。2016年版については以下の記事も参照してほしい。
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1:子どもたちのジュブナイルものの楽しさ&大人の人生の世知辛さのミックス?
本作の舞台は原因不明の地震が頻発する田舎町。物語は、母と兄と共に引っ越してきた科学が大好きな少女フィービー(マッケンナ・グレイス)が、祖父が遺した古びた屋敷で暮らし始めることから始まる。彼女たちはそこで、見たこともないハイテク装備の数々や、〈ECTO-1〉と書かれた改造車を発見する。さらにクラスメイトや先生と知り合ったことをきっかけに、地震の原因がゴーストの仕業だと突き止めるのだが……。
かいつまんで言えば、「ちょっと塞ぎ込みがちだった子どもたちが、仲間と共に冒険を繰り広げるアドベンチャー」だ。その時点で『E.T.』(82)や『グーニーズ』(85)のような昔懐かしのファミリー向けの実写映画を、2022年の今に映画館で観られるという喜びがある。
最近ではNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』や映画『IT/イット』2部作など、子どもが主人公でもホラー要素や残酷描写が強く、完全に大人向けの作品がブームになったこともあった。だが、この『ゴーストバスターズ/アフターライフ』 は小さなお子さんが観ても「ほんのちょっぴり怖い」程度の描写で、作品のノリもどちらかと言えば軽め。なおかつ後述する心に沁みるドラマもある。この塩梅の娯楽作が生まれたことも嬉しいのだ。
さらに、本作の監督がジェイソン・ライトマンであることも重要だ。『JUNO/ジュノ』(07)や『マイレージ、マイライフ』(09)や『タリーと私の秘密の時間』(18)など、人生の世知辛さをシニカルに(ちょっぴりコミカルに)描くドラマの名手であり、「決して褒められたような現状にはいない」主人公を置くことが多い作家のセンスが、今回もしっかり活かされている。
なぜなら子どもたちはどちらかと言えば「隠キャ」(仲間となるクラスメイトの1人は一見リア充っぽいが悩みもある)で、科学が大好きだけど社交的とは言い難い主人公のフィービーを筆頭に、「ここではないどこか」を望んでいるように見える。そんな彼女たちが、よりにもよって辺鄙な田舎町に来てしまう(仲間になるクラスメイトもずっとそこにいる)「やるせなさ」が物語の基盤になっている。さらに、母親のシングルマザーだからこその焦燥感や、担任の先生のやる気のなさ(?)など、大人たちもまた現状に不満を持っていることも重要になっていた。
そんなちょっぴり鬱々としている彼らが、タイトルさながらに「ゴーストバスターズ」というヒーローになり(大人たちも協力し)、街の平和を守ろうとする様には単純明快ながら感動的なまでのカタルシスがある。初めは「じわじわ」とゴーストの脅威を目には見えない形で描き、登場するガジェットにワクワクして、いざゴーストが「出た〜!」となるとアクションの大見せ場で楽しませてくれるという、エンタメとして堅実な作りになっていた。1作目の1984年当時のアナログな視覚効果のルックも可能な限り再現したという、映像の迫力にも注目だ。
「ダメダメで頼りない人たちがゴースト退治で大活躍!」という1作目からの面白さと楽しさは全く変わっていないし、都会から田舎へと舞台が移ったことから生まれるドラマも効果的。さらに子どもたちがヒーローになるジュブナイル要素が大いにプラスされた、掛け値なしに楽しい内容になっているというわけだ。
子どもが楽しめるだけでなく、人生の酸いも甘いも噛み分けた大人がグッとくるドラマも込められていることも、またニクい。
2:息子が監督を務めたからこその「継承と和解」の物語に
本作の監督であるジェイソン・ライトマンは、実は1作目および2作目のアイヴァン・ライトマン監督の息子だ。幼い頃に父親の撮影現場に訪れ、2作目にカメオ出演もしていたジェイソン監督は、自身が続編を手掛けることについて、「本作は僕らと『ゴーストバスターズ』との関係を描いた映画だ」「ゴーストバスターズの息子である僕が、ゴーストバスターズの娘や孫たちの映画を作ったのは偶然ではないと思う」「自分たちが何者かを知ろうとする家族の映画を作りたかった」と語っている。
ジェイソン監督のこの言葉通り、息子である彼が本作を手がけたことは、物語とも深く関わっている。何しろ、本作の主人公である女の子のフィービーは、1作目および2作目のキャラクターであるイゴン・スペングラー博士の孫という設定だ。彼女たちがそのイゴンという祖父の家で、ゴーストバスターズにまつわるハイテク機器を見つけることから始まる物語からは、はっきりと「継承」というテーマが浮かんでくる。なお、イゴンを演じたハロルド・レイミスは2014年に亡くなっており、本作は彼に「捧げる」映画にもなっているのだ。
アイヴァン・ライトマン監督が、息子のジェイソンに『ゴーストバスターズ』という作品のバトンを渡したように、物語中でイゴンもまた(すでに亡くなってはいるが)、孫のフィービーへと「継承」をする。父から子へ受け継がれる作り手の志、祖父から孫への継承していく劇中の物語は、次世代へと「繋いでいく」ような、半ばメタフィクション的な、虚実が入り混じったような感覚も得られるのだ。
その「継承」が具体的にどのように行われるか……については本編を観てほしいので内緒にしておくが、しっかりとしたドラマとサプライズも込められていることは告げていこう。例えば、科学が大好きなフィービーと、彼女の想いを理解しようとしなかった母親の関係を起因とする、普遍的な家族の問題も劇中では描かれている。それを踏まえて、さらに大きな意味での「和解」をしていく物語も紡がれていくのだから。
単純明快な子どもから大人まで冒険活劇であることに加えて、1作目からの精神を作品の内外で「継承」し、それを「和解」という普遍的に響く物語も絡めて描いたことが、本作の何よりの美点だろう。『ゴーストバスターズ』のファンには感涙もの、しかもシリーズ初見でも普遍的に響くドラマになっている理由が、そこにはある。
–{2016年版にまつわる問題にも向き合ってくれていたのかもしれない}–
3:2016年版にまつわる問題にも向き合ってくれていたのかもしれない
ここからは、2016年版のことについて触れていこう。長くなることをご容赦いただきたい。
『ゴーストバスターズ/アフターライフ』は(1作目および2作目の)「正統続編」と銘打たれており、今回の公式の文言では2016年版についての記述はほとんどなく(公式サイトでもほぼ無視!)、まるで黒歴史のように、なかったことにされてしまってしまっている印象を受けるのだ。
実はその2016年版は、「女性たちが主人公」という理由でYouTubeの予告編が公開された時点で本国で大ブーイングの嵐となり、批評サイトでの不当な点数下げまでもが行われるという、悪辣な女性差別を浴びた。この騒動および興行成績の伸び悩みが原因となり、2016年版は続編が作られることはなく、リブートが1作のみで終了してしまったのだ。
さらに2016年版の出演者であるレスリー・ジョーンズは、公開当時に女性差別と黒人差別の両面でTwitterで誹謗中傷をされた。その後にレスリーは、リブートを無視して1作目と2作目の続編を作るという発表に「侮辱的だ」「ドナルド・トランプがやりそうなこと」と痛烈な批判もしていた。
さらに、『ゴーストバスターズ』シリーズのBlu-rayをまとめた「アルティメットコレクション」に、2016年版が収録されないことが問題となった。2016年版のポール・フェイグ監督は「これは間違いであると分かっているよ」とツイートをした。
Um … @SonyPictures, I know this must be a mistake. We do have a lot of fans and Bill, Dan and Ernie were in it and it won the Kids Choice Award for Best Feature Film the year it came out. So, I guess this was just an oversight? #weareallghostbusters ?❤️ https://t.co/dI8TwJsG4I
— Paul Feig (@paulfeig) December 22, 2021
作品そのものの良し悪しとは関係なく手前勝手な女性差別により作品や出演者を貶める行為は言語道断であるし、「究極の(Ultimate)」を冠したソフトで支持者も多い2016年版を無視する公式の動向にも強い怒りを覚える。
スタッフとキャストが心血を注いだ、女性を主人公に迎えたことにこそ意義がある作品を、女性差別にまつわる問題によりお蔵入りまたは「触れない」ようにするのは、その差別感情を助長させてしまいかねないのではないか。前提として、これらの作品への不当なバッシング、2016年版をなかったことにするような動向には、いっさいの擁護ができないことを強く告げておく。
だが、2016年版が大好きな筆者であっても、そちらを全肯定できない、作品としても問題があったと思うこともある。それは、1作目の主人公であったビル・マーレイを、アンチオカルトの研究者として登場させていたことだ。ファンサービスでもあるはずの出演者を、敵対者どころかほぼ悪役にしてしまったのは、流石にいかがなものかとも思ったのだ。
また、2016年版のクリス・ヘムズワースが演じたケヴィンというキャラクターは度を超えたマイベースで無能な役回りとなっており、それはこれまでのハリウッド映画で女性がマスコット的な扱いになっていたことの裏返しと言える批評性を持たせていた。このケヴィンは世間的にも大好評であったし、個人的にもギャグとして大好きで、もちろん意義のあることだとは思うが、良し悪しは別にして作品そのものがやはり男性権威主義的な社会や映画の在り方への「カウンター」になっていたことは事実だろう。
そして、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の本編を観れば、(公式の文言で扱われていないことを除けば)実は2016年版をないがしろにはしていない、その精神が受け継がれながらも、「敵対」については大いに避けていると思ったこともあったのだ。
その理由の筆頭は、主人公たち4人が、男子2人と女子2人という組み合わせの子どもたちであることだ。1作目および2作目の男性だけでも、2016年版の女性だけでもない、男女混合のチームのゴーストバスターズになったことそのものに、これまでのシリーズの「折衷感」があり、しかも子どもも主人公になれたことで、「誰もがゴーストバスターズになれる」かのような、さらなる多様性を感じることができたのだ。
しかも、前述したように主人公のフィービーは科学が大好きだが、そのことを母親から理解されない少女で、意外と「やる時はやる」性格だったりもする。2016年版の理系の知識を持ち破天荒でもあった女性たちの特徴や悩みが、このフィービーに投影されたようにも見えるのだ。
さらに、IMDbのトリビアによると、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』のジェイソン・ライトマン監督は、ゴーストバスターズファン感謝イベントで、2016年版のポール・フェイグ監督にこう感謝の言葉を述べている。
「あなたはひどい弾丸(批判や誹謗中傷)を受けながらも、ドアをこじ開けた最初の人です。あなたは、私と他の多くの人々が望む、世界中のあらゆる人種や性別のゴーストバスターズの映画を可能にしてくれました」
この言葉通り、2016年版は女性たちの、それもレスリー・ジョーンズという黒人女性もチームに加えたゴーストバスターズのチームを実現させた。
推測にすぎないが、その2016年版への感謝と敬意が、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』における子どもたちの男女混合チームや、科学が大好きな少女を主人公にしたこと、さらにはケニア生まれの俳優セレステ・オコナーのキャスティングにつながっていたのではないだろうか。
さらに、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の物語の根底にあるのは、前述した通り「継承と和解」だ。2016年版を含む『ゴーストバスターズ』シリーズの面白さや魅力を引き継ぎ、かつ敵対することも避けていき、仲良く共に歩んでいくような尊さを、劇中で示しているとも言えるのだ。
この精神に則って、公式の文言でも2016年版をちゃんとシリーズのひとつとして取り扱ってほしいし、なんなら『スパイダーマン』シリーズよろしく「マルチバース」的な展開で2016年版のキャラクターが今後のシリーズに再登場したりしても良いと思う。ていうかケイト・マッキノン演じる天才科学者のホルツマンが(他のメンバーも)最高だからもっと観たいんだよ!
とにかく、1作目も2作目も2016年版も大好きなファンとしては、シリーズの作り手や出演者、もちろんそれぞれの作品が好きな受け手も、お互いにいがみあったり不満を募らせたり無視するのでなく、仲良くしてほしいと願うばかりなのだ。
2022/2/6追加:こちらの文、また記事全体の主張について「和解などできるわけがない」など多数のご批判をいただきました。厳粛に受け止めます。申し訳ございません。筆者も2016年版へ女性差別をしているような人間には、一切に歩み寄る気持ちはありません。
劇中の「和解と継承」の物語と同じように、『ゴーストバスターズ』というシリーズが、さらに良い方向へと向かっていくことを、心から期待している。
(文:ヒナタカ)
–{『ゴーストバスターズ/アフターライフ』作品情報}–
『ゴーストバスターズ/アフターライフ』作品情報
【あらすじ】
都会での生活が苦しくなったフィービー(マッケナ・グレイス)と母と兄(フィン・ウルフハード)の一家は、田舎町へと引っ越す。地殻プレートや断層、採掘場やライブハウスさえもないにも関わらず、この街では30年間にわたり原因不明の地震が頻発していた。荒れ果てた小麦畑に祖父が遺した古びた屋敷で暮らし始めたフィービーは、リビングの床に奇妙な仕掛けが施されているのに気づく。パズルのように床をスライドさせると、床下に謎の装置が隠されていた。さらにフィービーが屋敷を探っていくと、祖父の地下研究室で見たことのないハイテク装備の数々を目にする。そして、ゴーストを捕獲するための装置・プロトンパックを見つける。祖父が、かつてゴーストだらけだったニューヨークを救ったゴーストバスターズの一員だったことを知ったフィービーは、床下で見つけたゴーストトラップと呼ばれる装置を誤って開封してしまう。すると、不気味な緑色の光が解き放たれ、それをきっかけに、街ではさらなる異変が起こり始める……。
【予告編】
【基本情報】
出演:ポール・ラッド/マッケナ・グレイス/フィン・ウルフハード ほか
監督:ジェイソン・ライトマン
脚本:ジェイソン・ライトマン/ル・キーナン
映倫:PG12
製作国:アメリカ