<新作レビュー>『偽りのないhappy end』、失踪した妹を追う姉たちの心の彷徨

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

2021年12月25日には新作『エッシャー通りの赤いポスト』が公開される鬼才・園子温監督に長年監督補として師事し続けてきた、松尾大輔の長編初監督作品。

偶然ながら師弟の映画が同時期に劇場公開されることで、見る側に弟子が師匠のタッチをいかに踏襲し、その上でいかに自身のタッチを描出しているかを見出す興味までもたらしてくれているかのようです。

一見、淡々とした静謐な味わいの中からキャラクターの複雑怪奇な心理を繊細かつ濃密に醸し出しているあたり、師匠譲りの長所を感じるとともに、キャストそのものの個性と魅力を川野由加里・撮影の美しい画角と、古谷沙樹の流麗な音楽で捉え続けるキャメラ・アイは、この新人監督ならではの瑞々しい賜物といってもよいかもしれません。

田舎を離れたかった姉エイミ(鳴海唯)と離れたくなかった妹ユウ(河合優実)、同じように妹が失踪しながら静と動のように真逆な性格のエイミとヒヨリ(仲万美)。

こういった明確に映えているかのような対照的設定ではあれ、ストーリーは次第に思春期特有の鮮烈なまでの迷宮の深みへ入り込んでいくことで(ただし決して難解ではない)、実は現実そのものこそが曖昧模糊とした迷宮のようなものであることまで示唆されているのかもしれません。

“行方不明”という生死の境が曖昧な要素もまた、そのアイコンとして機能しているようです。

そして劇中、エイミがふと漏らす台詞。

「みんな、よく水に落ちるね……」

人は何度も水に落ちては、溺れないように必死でもがいては這い上がって心の彷徨を続けているのか……。

鳴海唯と仲万美という対照的な個性のキャストのコンビネーションの良さがすこぶる光るとともに、出番こそ少ないまでも鮮烈な印象を残してくれる河合優実、また地元でエイミと絡む少女アカリ役の田畑志真もまた、どこかしら作品全体を象徴しているようでした。

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(文:増當竜也)

–{『偽りのないhappy end』作品情報}–

『偽りのないhappy end』作品情報

ストーリー
中学卒業後に故郷・滋賀を離れずっと東京で暮らしてきたエイミ(鳴海唯)は、母が他界してからも一人滋賀の田舎に残る妹のユウ(河合優実)に、東京で新しい人生を始めないかと誘う。そんなエイミの誘いを断ってきたユウが、何故か急に東京に出てくることに。しかし二人が一緒に暮らし始めた矢先、ユウは行方不明になってしまう。そんな中、同じく妹が失踪したヒヨリ(仲万美)と出会う。警察からエイミの元に、琵琶湖で若い女性の遺体が発見されたとの連絡が入るが、その遺体はユウではなくヒヨリの妹だった。エイミとヒヨリは一緒に犯人を捜し始めるが……。

予告編

基本情報
出演:鳴海唯/仲万美/河合優実/田畑志真/小林竜樹/奥野瑛太/川島潤哉/三島あよな/見上愛/メドウズ舞良/藤井千帆/野村啓介/橋本一郎/谷風作/永井ちひろ/鈴木まりこ/古賀勇希/安田博紀/原知也/宮倉佳也/笹川椛音/白石優愛/土屋直子/馬渕英里何/カトウシンスケ

監督:松尾大輔

公開日:2021年12月17日(金)

製作国:日本