傑作『さよなら、ティラノ』はポケモン、コナンファンにもおすすめの理由がある!3つの魅力を解説!

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(C)2018 “My TYRANO” Film Partners

2021年12月10日よりアニメ映画『さよなら、ティラノ』が公開される。

結論から申し上げよう。本作は予備知識ゼロで存分に楽しめて、この冬に家族で観る映画に迷っている方にも、ただただ1本の面白いアニメ映画を観たい方にも、大プッシュでおすすめできる素晴らしい作品だった。

後述する通り、スタッフとキャストは驚くほどに超豪華。実際の本編(予告編でも)を観れば、表情をコロコロと変えるかわいいキャラクターたち、ダイナミックでスピーディーなアクション描写、「甘やかさない」作劇など、アニメとしてのクオリティの高さが存分にわかるはず。宣伝は少なく公開規模も大きくはないが、1人でも多くの方に観てほしいと願うばかりだ。

また、本作は新型コロナウイルスの影響により、当初の2020年初夏の公開予定から、約1年半という延期を経てやっとの公開を迎える。「待ちに待った」公開であるし、その期待に期待以上に応えていたと言えるだろう。

そのほかで知っておくべきなのは、エンドロールの最後にも重要なおまけがあるということ。ハナレグミ&コトリンゴの主題歌『楽園をふたりで』には聴き入る魅力があるし、作品の余韻も深いものになっているので、きっと最後まで見届ける気持ちになっているとは思うのだが、気が早い小さなお子さんをお持ちの方も、最後まで席に座っておいてほしい。さらなる作品の特徴を記していこう。

1:シビアな世界で「天国」を目指すロードムービー

あらすじはこうだ。氷河期が近づき食べ物がなくなりつつある時代。プテラノドンの少女プノンは、周りから恐れられるティラノサウルスのティラノと出会い、貴重な食糧である赤い実がたくさんなっている地上唯一の楽園「天国」を探す旅へと誘う。ゴルゴサウルスやその手下の襲撃を受けながらも旅を続ける2人は、やがて母親とはぐれておなかをすかしたトリケラトプスの子どものトプスと出会うのだが……。

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端的に内容を記せば、無骨なおじさんと天真爛漫な女の子によるロードムービーだ。生意気かわいい女の子のほうが大人の男性をうまく扱っていくような関係性は『ペーパー・ムーン』(74)や『レオン』(94)のようでもあるし、「天国」にまつわる話を希望に旅に向かうのは『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』(97)も彷彿とさせた。正反対な性格の2人が初めこそ反発するも、旅を続けるうちにお互いに信頼関係を築き、時にはチームワークで危機を突破する、そんな大人から子どもまで楽しめるエンターテインメント要素が根底にあるのだ。

さらには、「なぜ翼竜のプノンは空を飛べないのか?」や「なぜ肉食獣のはずのティラノは動物を食べないのか?」といった謎が提示されている。キャラクターのかわいらしさや明るさは、食料がなくなりつつある世界のシビアさを相対的に際立たせているようでもある。「本当の楽園は存在するのか?」という問いかけは、劇中に限らない人間社会の本質をついているかのようでもあった。スピーディーに展開していく楽しい冒険活劇でありながら、こうした種々の要素が物語に奥深さを与えているのだ。

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本作の脚本は、『サイダーのように言葉が湧き上がる』佐藤大、『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』のうえのきみこ、『怪盗ジョーカー』の福島直浩という3者が共同で手がけている。物語はシーンごとにそれぞれの脚本家が担当し、追ってイメージボードが作成され、さらに内容、構成や世界感を詰めていくスタイルで構築されていったのだそうだ。

そのおかげもあって物語は統制されており、終盤の二転三転する展開に手に汗握り、「信じる」ことへの寓話としても完成されており、伏線が次々と回収されていくカタルシスもある。宮西達也による人気絵本「ティラノサウルスシリーズ」の『ずっとずっといっしょだよ』と『わたしはあなたをあいしています』と『わたししんじてるの』という3冊を原作としながらも、それらの要素を違和感なく一本の映画にまとめ上げているのは見事という他ない。まずは、物語の面白さそのものを期待してほしい。

–{超豪華声優陣が超ハマり役!ポケモンコンビの共演も}–

2:超豪華声優陣が超ハマり役!ポケモンコンビの共演も

超豪華な声優陣も本作の大きな魅力だ。三木眞一郎の強面だが優しいティラノサウルスはカッコよく、石原夏織の天真爛漫で一生懸命なプテラノドンは超絶かわいらしく、悠木碧の甘えん坊で健気なトリケラトプスの子どもも身悶えしそうなほどにキュートで庇護欲が全開になるなど、大人気声優それぞれが過去作を振り返っても得意だとわかるキャラに完璧なまでにハマっていて、その熱演もあってかわいいキャラそれぞれが大好きになれるのだ。

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さらには小西克幸、井上喜久子、森川智之、檜山修之というベテラン声優が個性的な役柄を演じており、さらには島本須美、竹達彩奈、津田健次郎、上田燿司、柴田秀勝、斉藤貴美子といった面々も脇を固めている。もちろん演技そのものも最高レベルで、ずっと「耳が幸せ」状態だった。また、オープニングのナレーションを原作者の宮西達也が担当している。

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そして、本作は 2018年8月に亡くなった石塚運昇の遺作であり、おそらくはその出演作でもっとも遅く世に出る作品だろう。劇中の演じているのは主人公たちに重要な助言をするおじいさんであり、「年の功」を感じさせる役柄としてもハマっていた。アニメ『ポケットモンスター』シリーズでコジロウを演じていた三木眞一郎と、オーキド博士役の石塚運昇の共演が聴けるというのも貴重な機会だ。かわいいキャラの掛け合いもポケモンに通じるところもあるし、それぞれの声優のファンも、ぜひ劇場で観ていただきたい。

3:劇場版『名探偵コナン』の監督によるアクション&坂本龍一が33年ぶりにアニメ映画を担当した音楽にも注目!

静野孔文監督は劇場版『名探偵コナン』シリーズで有名であり、今回もテンポの良い物語運びと、スケール感のあるアクション描写という手腕が遺憾無く発揮されていた。特に終盤の「ギミック」のあるハラハラドキドキの展開や、クライマックスの本気の恐怖を覚えるほどの演出に期待してほしい。『銀河鉄道の夜』(85)でキャラクターデザインと作画監督を担当した江口摩吏介がアニメーションディレクターも務めており、クオリティのさらなる向上につながったのは間違いない。

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そして、坂本龍一がアニメーション音楽を手掛けるのは、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(87)以来、実に33年ぶりとなる。その荘厳で流麗さのある音楽は、過酷な世界観や、終盤の衝撃的でもある作劇に存分にマッチしていた。それでいてハラハラドキドキするアクションシーンや、マヌケなギャングたちによるコミカルなシーンにも合う楽曲もあり、「鳴りっぱなし」にもしないメリハリのある音楽演出ができていることも素晴らしい。坂本龍一が今回の依頼を受けたのは、本作が日本と韓国と中国の合作のプロジェクトであり、家族向け映画としてのクオリティの高さやメッセージ性の秀逸さも理由にあったようだ。

手塚プロダクションの鈴木良美プロデューサーはリサーチを続ける中で、原作の絵本が未就学の小さな子をターゲットにしていながらも、実は大人の胸にも刺さるメッセージ性もあり、母親層からの支持も高いことを実感していたそう。そのメッセージ性を土台に物語を構成し洗練された演出を加え、子どもだけでなく、若者や大人まで楽しめるエンターテイメント作品に発展させてほしいというエグゼクティブプロデューサーからの明確な要望のおかげもあって、前述した超豪華なスタッフやキャストを集結できたところもあるようだ。

そして、メインスタッフが共通して大事にしたいと考えていたのは、宮西達也による原作絵本の「世界」だった。 「肉食恐竜と草食恐竜は本来そもそも交えないもの、そのような象徴が交流し何か共通するシンパシーを感じることで愛が生まれ、そして最後に別れがある」ということ、それを軸にしながら物語の開発を行う会議を重ねていったという。

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本作のアニメとしてのクオリティの高さ、子どもの教育上も素晴らしく大人も感涙できるメッセージ性の尊さは、超豪華なスタッフとキャストによる集合知の賜物。どれが欠けても、ここまでのものは作れなかっただろう。物語だけでなく、アニメそのものの表現にも感動がある、そんな映画体験も期待してほしい。きっと、クライマックスからラストにかけては、一生忘れられないほどの感動があることだろう。

まとめ:これだけで楽しめるアニメ映画がもっと観られてほしい

2021年はテレビシリーズが展開していない、劇場でいきなり観て楽しめるアニメ映画が豊作だった。『映画大好きポンポさん』や『トゥルーノース』『漁港の肉子ちゃん』『アイの歌声を聴かせて』『フラ・フラダンス』などなど……いずれも評価は高いが、まだまだ広く知られた作品とは言い難い。『さよなら、ティラノ』もまた、絶対に埋もれさせてはいけない傑作だったのだ。

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「誰もが知る」コンテンツを楽しむのも良いが、広い範囲に目を向けてみれば、作り手が多大な情熱を捧げたアニメ映画があるということ、それをまずは知ってほしいと願うばかり。また、U-NEXTで配信中の、同絵本シリーズのアニメ映画化第一弾『おまえうまそうだな』も「子育て」描写が楽しく、またシビアな恐竜の世界がしっかり描かれている秀作なので、併せて観てみるといいだろう。

(文:ヒナタカ)

–{『さよなら、ティラノ』作品情報}–

『さよなら、ティラノ』作品情報

【あらすじ】
恐竜の時代。氷河期が近づき全てが荒廃していた。飛べない特異なプテラノドンの少女プノン(声:石原夏織)は乱暴なゴルゴサウルスの群に追われ捕まりそうになったところ、地上最強との呼び声高いティラノサウルスのティラノ(声:三木眞一郎)が目の前に現れる。ティラノの迫力に押されゴルゴサウルスたちは退散。今度はティラノがプノンを食べる番かと思われたが、ティラノはプノンに目もくれず、木の上になっている赤い実を食べはじめた。ティラノに興味を抱き休む間もなく話しかけるプノンを後に、ティラノが自分の道を進もうとすると、プノンは自分が天国というところを探して向かっており一緒に行かないかと持ちかけられ、ティラノはプノンと一緒に行くことを決意。しかしゴルゴサウルスが地上最強の地位を奪おうとティラノに執心し追いかけてきた。途中出会った親とはぐれたトリケラトプスの子供トプス(声:悠木碧)を仲間に加え、プノン、ティラノ、トプスは天国を目指して旅をしていく。 

【予告編】

【基本情報】
声の出演:三木眞一郎/石原夏織/悠木碧/小西克幸/井上喜久子/森川智之/檜山修之/宮西達也/石塚運昇 ほか

監督:静野孔文

上映時間:97分

映倫:G