松井玲奈といえば、SKE48(&乃木坂46)時代からアイドルとしての可愛らしさはもちろんのこと独自の聡明さや、鉄道や漫画など結構各方面でのオタクであるところも面白い存在だなと注目していました。
そんな彼女が遠藤憲一と映画W主演(&映画初出演)した『gift』(14)を見たとき、彼女は結構映画に愛される存在になるのではないかと、より好感を抱くようになり、その後も彼女の名前をクレジットで見かける度にその作品を見るように努めています。
最近では『ゾッキ』(21)の幽霊のような女が印象的で、全身白塗り姿を大いに愉しんで演じている風情が好ましく伝わってきたものでした。
さて、松井玲奈の単独初主演映画(意外に彼女、W主演名目の映画は結構ありますが、単独主演は今までなかったんですね)となる本作ですが、鳴かず飛ばずの小劇団を主宰し続ける立場と、腹違いの妹の死に対する忸怩たる想いの両面を自然体で無理なく演じているのが見て取れます。
劇の中盤、深夜の稽古場で独り動きの確認をしつつ、ふと何か視線を感じたかのように振り返る姿も、何がどうというわけではなく印象的(またこのシーンがその後の展開にも巧みに繋がっているようにも映えています)。
なかなかに屈託のない笑顔を見せることが少なく、終始何かに不安を抱いているような、過去を悔やみ続ける自分自身を好きになれずにいるような、そんな風情のヒロインではありますが、松井玲奈がそんな彼女を演じることでギスギス一辺倒のテイストではなく、どこかしら映画的な寂しくもほっとけない風を吹かせてくれているのも、この女優ならではの素敵な資質のようにも思えてなりません。
また本作は彼女以外のキャストたち、特に女性陣がそれぞれさりげなくも印象深く(松井玲奈と日高七海のやり取りの数々は秀逸)、これは女優出身で本作が長篇商業映画第1作となる前田聖来ならではのキャメラアイの賜物のようにも捉えられ、今後の期待度も大いに増幅させられました。
なお、松井玲奈主演の次回公開予定の映画は『よだかの片想い』で、島本理生の同名小説の映画化。安川有香監督に加えて城定秀夫脚本という才人揃いの作品だけに、またまた期待が募るのでした。
(文:増當竜也)
–{『幕が下りたら会いましょう』作品情報}–
『幕が下りたら会いましょう』作品情報
【あらすじ】
演出家の卵・斎藤麻奈美(松井玲奈)は、実家の美容室を手伝いながら劇団50%を主宰しているが、劇団は鳴かず飛ばず。そんな麻奈美のもとに、東京で働いていた妹・尚(筧美和子)が死んだとの知らせが入る。麻奈美が劇団員の結婚祝いで馬鹿騒ぎをしていたその夜に、尚は資材置場で亡くなったのだった。その日、麻奈美は尚からの着信があったものの、電話に出ずにいた。母・京子(しゅはまはるみ)と離婚し家から離れていた父・慎二も尚の葬儀に来るが、香典を置いてすぐに帰ってしまう。父親として無責任な慎二に憤った親戚たちは麻奈美と尚が腹違いの姉妹であることを口に出し、初めてそのことを知った麻奈美は母と喧嘩する。高校からの仲で劇団の主演女優である早苗(日高七海)とともに遺品整理のため尚が住んでいた東京のアパートに向かうと、部屋はゴミ屋敷状態だった。家族と疎遠になった尚が、東京で孤独に生きていたことを知る麻奈美。部屋を訪ねて来た尚の同僚・ほのか(江野沢愛美)から、尚の死の原因は上司のアルコール・ハラスメントであることを聞き、麻奈美はほのかとともに尚の勤務先へ。部長の権田(袴田吉彦)がほのかに日本酒を無理矢理飲ませようとし、尚が代わりに飲んだために死んだが、権田は責任を認めようとしない。麻奈美はほのかを支援していた反パワハラ・セクハラのNPO代表・新山(木口健太)と知り合い、新山も演劇経験者であることから二人は意気投合。新山は、麻奈美がかつて学生演劇コンクール最優秀作品を受賞した戯曲『葡萄畑のアンナ・カレーニナ』の上演を提案する。才能のある妹への嫉妬、妹の作品を盗作したことへの罪悪感、家族を捨てた父親への嫌悪感など、様々な感情を持て余し自分と向き合う事から逃げてきた麻奈美は、妹の死をきっかけに、過去と向き合う。
【予告編】
【基本情報】
出演:松井玲奈/筧美和子/しゅはまはるみ/日高七海/江野沢愛美/木口健太/大塚萌香/目次立樹/安倍乙/亀田侑樹/山中志歩/田中爽一郎/hibiki(lol-エルオーエル-)/篠原悠伸/大高洋子/里内伽奈/濱田のり子/藤田秀世/出口亜梨沙/丘みどり(友情出演)/ 袴田吉彦
監督:前田聖来
脚本:大野大輔/前田聖来
製作国:日本