<検証>東出昌大は、(あらゆる意味で)人を引きつける天才か否か

俳優・映画人コラム

(C)2021 C&Iエンタテインメント

函館シネマアイリス25周年記念作品『草の響き』で3年ぶりの主演を張る、俳優・東出昌大

2021.11.5公開『ボクたちはみんな大人になれなかった』、2022.1.14公開『コンフィデンスマンJP 英雄編』など、話題作にも続々出演予定。いよいよ本格復帰か…という今、別ベクトルでも話題に。もはや、事あるごとに人を引きつける天才なのかもしれない。

演技以外のところでの悪評が目立ってしまっているが、改めて”東出昌大”という男と向き合ってみるいいタイミングとも言える。

(C)2021 HAKODATE CINEMA IRIS

先日、早速『草の響き』を観に行ったが、人として、俳優として成長した姿が垣間見え、これまでとは一味違った東出昌大を魅せつけられた。

東出昌大の演技と言えば、あまり感情の起伏が見られず良くも悪くも一定で「心ここにあらず」感が否めない部分があった。この要素が功を奏するときもあり、ドラマ『あなたのことはそれほど』で不倫”される側”となり嫉妬に狂う旦那・良太を演じた際にはその怪演っぷりで話題となった。

『草の響き』では、自律神経失調症を患い苦悩する一人の男の姿を見事、映し出していた。そう、”演じていた”ではなく”映し出していた”のだ。今の東出昌大だからこそ滲み出る葛藤や哀愁、それらを振り切るように走り続けるその姿に胸を打たれた。

今こそ、俳優・東出昌大を追いかけるべきだ。

ここからは、東出昌大が演じるからこそ際立つ”サイコパスさ”と”クズさ”を存分に楽しめる過去作・2作品について語らせてほしい。

→画像ギャラリーへ

–{衝撃の話題作、観れば観るほど深みにハマる『寝ても覚めても』}–

衝撃の話題作、観れば観るほど深みにハマる『寝ても覚めても』

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

東出昌大・唐田えりか主演『寝ても覚めても』(18)。例の、発端となった、映画ですね。言わずもがな。私はとても趣味が悪い人間なので、例の報道が出たその日の夜に鑑賞しました。

この映画、あの事実があったとしてもなかったとしても、終始気味が悪い。いい意味で。

舞台は大阪。道端で朝子(唐田えりか)と麦(東出昌大)は出会う。そして、突然のキス。

序盤から理解不能なのだが、その後も不可解なシーンは続く。

二人乗りのバイクで車に衝突し、地面に寝転がった朝子と麦は爆笑し、手をつなぎ、見つめ合い、そのまま路上で熱いキス。しかも朝子の方から。さすがに目が点になってしまった。

少女漫画原作の恋愛映画?と見受けられる部分もあるかもしれないが、実際のところはそんなかわいらしい映画ではないので安心してほしい。もはや、サイコホラー映画と言っても過言ではない。

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

東出昌大が”麦”として出ている時間は30分にも満たない。本作品で一人二役に挑戦しており、後々朝子の恋人となる”亮平”としての姿がメインだ。

猫のようにマイペースで蠱惑的(こわくてき)な麦と、驚くほどまっすぐで情に厚い亮平。対象的な二人だが、東出昌大の”目の光のなさ”が二人に共通する影を生み出しているように思う。

ラスト、麦としての東出昌大が本当に悍ましいので少し語らせてほしい。

長年行方をくらませていた麦が突然朝子の目の前に現れ、連れ去ってしまうシーン。いや、連れ去ったわけではなく、紛れもなく朝子が自分の意志で亮平ではなく麦を選んだ。二人でタクシーに乗り込み、麦の車がある品川まで向かう。

鳴り続ける麦のスマホ。「言いたいことがあるから、何度もかけてくるんやん」と言う朝子に、「俺の代わりはちゃんといるから、大丈夫」と言って、真顔でスマホを地面に叩きつける麦。

(え…ほんまに大丈夫なん…)

麦のお父さんの実家である空き家があるという北海道に向かう二人。朝子の大阪・東京の親友それぞれと連絡をとった後、窓からスマホを捨ててしまう。

(えええええ朝子まで捨てんでも)

隣には、鼻歌を歌いながらのんきに運転をする麦。

(待って…どういう感情なん…)

明け方、助手席で眠っていた朝子が目を覚ますと、そこは仙台だった。「私もうこれ以上行かれへん。帰らな…亮平のとこに」と言う朝子に、「そっか。」「謝んなくていいよ、送るよ」「じゃ、この車、いる?」「じゃあ、ばいばい」と言ってそそくさと車でどこかへ行ってしまう麦。一人、取り残される朝子。

(…え!?えええ!?!?どんなサイコパスなん!?!?)

…朝子の関西弁につられて関西出身の私の感情もダダ漏れになってしまい恐縮だが、このラストシーンがホラーすぎて突っ込まざるを得なかった。東出昌大の”サイコパス芝居”と、唐田えりかの本格演技デビュー作だからこその”大根役者感”が融合することで、再現性のない奇跡的な作品が生まれたと言える。

(C)2018「寝ても覚めても」製作委員会/COMME DES CINEMAS

が、この映画には様々な考察がある。『寝ても覚めても』というタイトルを深読みした上で「あり得るかも」と思った2パターンを紹介する。

1.麦、すでに死んでる説
麦はすでに死んでしまっていて、来世から朝子のことを迎えに来た。明け方、仙台の海辺で堤防を越えようとした麦に「これ以上行かれへん」と言ったのは、「私はやっぱりそっち側にはまだ行きたくない、現世で亮平と生きていく」という決意の現れだったのかもしれない。

2.麦、亮平のドッペルゲンガー説
亮平の前にドッペルゲンガーとなって現れた麦。ドッペルゲンガーには「見たら死ぬ」という伝承があるので、朝子が亮平の元に戻った時点で亮平はすでに死んでいる。新居の窓から眺めた川は、三途の川だったのかもしれない。

他にも考察はあるだろうし、なにが正解なのかはわからない。が、映画の中でくらいはせめてハッピーエンドであってほしいし、そうでないとback numberも報われないので、2だけは避けてほしいと願う。

朝子が”寝ても覚めても”愛していたのは、どっちのことだったのだろうか。
麦との時間が現実で、亮平との時間は全部夢だったのか、はたまた、逆なのか。

直近の報道があった日にNetflixを開いたら、ファーストビューのレコメンドが『寝ても覚めても』で、「さすがNetflix様!」となぜか誇らしくなったのは内緒です。

–{恋は盲目、でも惚れたもん負け。『すべては君に逢えたから』}–

恋は盲目、でも惚れたもん負け。『すべては君に逢えたから』

(C)2013「すべては君に逢えたから」製作委員会

世間はクリスマスムード一色。東京駅周辺を舞台に、男女に纏わる6つのストーリーが交錯、そしてその先の奇跡を描いた『すべては君に逢えたから』(13)。

肌寒くなってくると、クリスマスに関連する映画が観たくなる。
東出昌大関係なく、『すべては君に逢えたから』もクリスマスが近付くに連れて観たくなる映画の一つだ。

少し前の映画だが、まず、キャストが最高なので見てほしい。

Story1〈イヴの恋人〉
黒山和樹:玉木宏
佐々木玲子:高梨臨

Story2〈遠距離恋愛〉
山口雪奈:木村文乃
津村拓実:東出昌大

Story3〈クリスマスの勇気〉
大友菜摘:本田翼

Story4〈クリスマスプレゼント〉
岸本千春:市川実和子
寺井茜:甲斐恵美利

Story5〈二分の一成人式〉
宮崎正行:時任三郎
宮崎沙織:大塚寧々
宮崎幸治:山崎竜太郎

Story6〈遅れてきたプレゼント〉
大島琴子:倍賞千恵子
49年前の琴子:岡本あずさ
松浦泰三:小林稔侍

クリスマス映画のド定番、『ラブ・アクチュアリー』(03)を連想させる、オムニバス映画だ。

東出昌大は〈遠距離恋愛〉というストーリーの中で、建設会社の仙台支店に勤める津村拓実という男を演じる。遠距離恋愛のお相手は、東京のアパレルメーカーでデザイナーの卵として奮闘する山口雪奈(木村文乃)。

そういえば『寝ても覚めても』でも”仙台”がキーになっていたし、木村文乃とは後々『BLUE/ブルー』(21)でも共演している。偶然は重なるものだ。

クリスマス気分を思う存分に味わえる本作品は大好きなのだが、木村文乃ファンがこの映画を観たら、東出昌大のことを嫌いになってしまうかもしれない。いや、木村文乃ファンでなくとも、嫌悪感は生まれてしまうかもしれない。そんな”クズ”な役どころだ。

念の為先に弁解しておくと、私の中で「芝居が上手い」と評価するポイントは「演じている姿を見て本気でムカついたら負け」ということ。貶しているように聞こえるかもしれないが、嫉妬でもあり、めちゃくちゃ褒めているということをご理解いただきたい。

まず、超絶かわいい雪奈(木村文乃)が拓実(東出昌大)にゾッコンで、雪奈は毎朝モーニングコールをしたりメールしたりするのに、拓実のどことなくつれない態度が鼻につく。

東京出張で1ヶ月ぶりに会えるというのに、会食を優先し、朝まで連絡もしない拓実。雪奈から電話するも「先輩に付き合わされて朝までになっちゃって…お前がよくても俺、朝イチで帰んなきゃいけないし」と謎の言い訳。というか、ただの自己中?

健気な雪奈は出勤前に東京駅まで駆けつけ、クリスマス・イブにあるファッションショーのチケットを渡すも、浮かない顔の拓実。恥ずかしいのか、なんなんだ本当に。

東京出張でも一緒だった女の先輩にジャブらしきものを打たれ、YESともNOとも言わないような態度で朝まで飲み明かし、雪奈からのメールも返さずモーニングコールにも出ない拓実。
心配した雪奈は仙台の拓実の家まで押しかける。いや、これよっぽどですよ。よっぽど。仕事どうしたんだろう、雪奈。

それなのに一貫してツンケンした態度を取る拓実。もともとこういう奴なのであれば、なぜ雪奈は好きなのか謎でしかない。

この一件もあり連絡さえ取らなくなってしまった二人。とはいえ、会えない時間に思いは募る。

(C)2013「すべては君に逢えたから」製作委員会

クリスマス・イブ当日、ファッションショーに拓実が来ていないと思い込み、落胆する雪奈。しかし、拓実からは「東京駅にいる。会える?最終で帰る」という連絡が。
急いで東京駅に向かい、無事クリスマスツリーの前で落ち合う二人。そこで雪奈は拓実がファッションショーに来ていたことを知る。

「あれからいろいろ考えたんだけど…」と切り出す拓実。一旦遮り、遠距離恋愛の良いところを話し出し「拓実じゃないとダメだから、遠距離恋愛は大変だけど、これからも続けたい」と、雪奈。

「俺もやっぱり、雪奈じゃないとダメだから。ずっと続けるつもりだから。だったら、結婚しちゃえばいいんじゃない?しよ?遠距離結婚」と、拓実。

…え!!!まさかのプロポーズ!?と見ている側としては若干の困惑もありつつ、まぁ、二人が幸せならいいのか…

最終で帰る拓実を見送る雪奈。少し寂しそうな拓実のこと、ちょっと新鮮でかわいいと思ってしまった。

乗車し、雪奈を見つめ、手を差し出す拓実。雪奈が手を握ったその瞬間、なんと車内に引き込んでしまう。
「ちょっと私、明日仕事…」という雪奈に、「朝イチで帰れば」と言ってキスをする拓実。

……えーーーーーー!!!!!!もしかしてこれ、感動的なシーンなんですか??!
なんかもう拓実が自己中心的すぎて、逆に笑えてきてしまう…女の子って、みんな、こういう男にキュンキュンするものなのでしょうか。

そして、いい塩梅でクズさ加減を出してくる東出昌大に頭が上がりません。完敗。

–{俳優としての東出昌大に今後も期待}–

俳優としての東出昌大に今後も期待

(C)2022「コンフィデンスマンJP」製作委員会

メンズノンノ専属モデルオーディションでグランプリを獲得し、華々しく芸能界入りした彼の俳優デビュー作は『桐島、部活やめるってよ』(12)。意外なことに俳優としての活動はまだ10年も経っていない。

年齢や経験も相まって芝居により一層深みが出てくる局面、”俳優としての”東出昌大をもっともっと応援していきたい。