オムニバス映画『DIVOC-12』の推しベスト5!横浜流星の美しさにうっとりして、ゾンビと映画への愛に感動した!

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2021年10月1日より映画『DIVOC-12(ディボック-トゥエルブ)』が公開されている。

本作は新型コロナウイルス感染症の影響を受けているクリエイター、制作スタッフ、俳優が継続的に創作活動に取り組めることを目的として製作された、12篇のオムニバス映画である。

『新聞記者』(19)の藤井道人監督、『カメラを止めるな!』(18)の上田慎一郎監督、『幼な子われらに生まれ』(17) の三島有紀子監督と、日本映画界を代表する3人の監督たちそれぞれの元に、一般公募より選ばれた新人監督含め9名が集結。その3チームごとに以下のテーマを掲げ、製作が行われていた。

・藤井監督チーム:テーマ「成長への気づき」

・上田監督チーム:テーマ「感触」

・三島監督チーム:テーマ「共有」

タイトルの「DIVOC」は、新型コロナウイルス感染症「COVID‑19」の COVIDを反対に並べた言葉で、「12人のクリエイターとともに、COVID-19をひっくり返したい」という想いが込められている。 また、DIVOCのそれぞれの文字にはDiversity=多様性、Innovation=革新、Value=新しい価値、Originality=個性、 Creativity=創造、という意味も持たせているそうだ。

それらの前情報を踏まえても、踏まえていなくても、この『DIVOC-12』はとても面白い。それぞれが約10分間という短い上映時間の中で、説明に頼らない映画表現の豊かさ、はたまた独創的なアイデアと単純明快なエンタメ性、もしくは閉塞的な世の中でこそ響くテーマを掲げた、バラエティ豊かな映画の楽しさをたっぷりと堪能することができたのだから。

横浜流星、松本穂香、小関裕太、蒔田彩珠、石橋静河、清野菜名、窪塚洋介、富司純子、藤原季節、前田敦子など、出演者もとても豪華なので彼ら彼女らのファンも大いに楽しめるはず。本編の冒頭に表示される「DIVOC-12 プロジェクトステイトメント」からも、その志の高さと熱意は伝わるだろう。

ちなみに、公開直前に上田慎一郎とその妻のふくだみゆき、そして2人の新鋭監督である中元雄とエバンズ未夜子が、ネタバレを配慮しつつ約2時間に渡って12篇それぞれをじっくりと解説した生配信が行われていた。本編と合わせて観ると、より楽しめるだろう。ラジオのように「聴く」のもおすすめだ。

こちらで上田監督は「#推しDIVOC12」というハッシュタグをつけて、好きな作品をSNSで発信してほしいとも語っているので、TwitterやInstagramを利用している方は、ぜひその提案に乗ってみてほしい。

次ページでは『DIVOC-12』の中から、筆者が独断と偏見で選んだベスト5を、大きなネタバレに触れないように紹介しよう。12篇それぞれに強力な個性があるため、誰もがお気に入りがの作品できるはずだ。

–{『DIVOC-12』の個人的ベスト5とそれぞれの特徴を紹介}–

5位:『YEN』

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監督・脚本:山嵜晋平
出演:蒔田彩珠、中村守里

ポラロイドでスナップを撮って遊んでいる、女子高生2人の物語だ。だが、彼女たちがやっているのは「格付け」でもある。おじさんや嫌いな同級生の写真などには低額をつけて川に流してストレスを発散してるが、気に入った写真は部屋に飾っていたりもする。客観的にみれば、趣味の良い遊びだとは言えないだろう。

そんな親友同士の2人はとある理由により、初めてケンカとも言えないケンカをしてしまい、そして思わぬ出来事に遭遇する。その過程では複雑な心の揺れ動きが繊細に描かれており、蒔田彩珠と中村守里という若手女優の魅力が、意識した美しい映像と共に見事に切り取られていた

余談だが、蒔田彩珠は2021年10月8日公開予定の『神在月のこども』では声の出演をしているので、合わせてチェックしてみてほしい。

4位:『魔女のニーナ』

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監督・脚本:ふくだみゆき
出演:安藤ニコ、おーちゃん(HIMAWARIちゃんねる)

アニメ作家であるふくだみゆきが手がけた実写作品であり、日本映画では珍しい本格的なミュージカルである。魔女は初めはイギリスに住んでいるため流量な英語でしゃべり、日本に来てからは魔法で日本語が話せるようになる、という設定から凝っていたし、華やかな歌を歌っているのに後ろでは畑を耕している光景が映るというギャップも面白い。

主演の安藤ニコが魔女のイメージにぴったりであるし、歌を担当したしらたまなの歌唱力も素晴らしいし、「HIMAWARIちゃんねる」が登録者270万人を超えている大人気YouTuberのおーちゃんも独特の存在感があって可愛らしい。ふくだみゆき監督は『マイ・フェア・レディ』(64)や『ロシュフォールの恋人たち』(67)などのミュージカル映画が大好きだそうで、その愛を作品からもたっぷりと感じることができた。

ちなみに、ふくだみゆき監督がTwitterに投稿している本作のイメージイラストもとっても素敵だ。



他にも自チームの作品である、『ユメミの半生』『死霊軍団 怒りのDIY』『あこがれマガジン』それぞれのイメージイラストも投稿されている。

3位 『名もなき一篇・アンナ』

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監督・脚本・編集:藤井道人
出演:横浜流星

喪失感を抱えたまま生きている男の前に、突如として1人の女性が現れ、時空を超えた旅に出るという物語だ。とにかくロケ地と撮影、そして厭世的な態度でいて、憂いを帯びた表情を浮かべる横浜流星が美しい。惚れる。カッコよすぎるだろ。うっとりしてしまっただろ。無精髭を生やしていて怠惰な印象もあるのになんだよ(嫉妬)。「写真」を駆使した演出と編集もあいまって、どこか現実離れした、まるでこの世ではない場所に連れて行かれたような心地よさ(と少しの怖さ)がある。

主人公が出会う女性を演じたロン・モンロウは中国の女性モデルであり歌手。日本語と中国語をそれぞれ話す彼らは、違う言語を使っているはずなのに心では結びついているようでもあった。主人公が「どうせ退屈な1日」と後ろむきなことをつぶやいた後の、女性のとある返答にはハッとなる方も多いのではないか。コロナ禍で閉塞感のある今こそ、沁みる一編だ。

なお、横浜流星の以下のインタビュー動画における「役者として大切していること」への答えも、とても真摯なものだった。大画面でその美しいご尊顔を拝みながら観る絶好の機会なので、横浜流星のファンは、是が非でも映画館へ駆けつけて欲しい。

–{『DIVOC-12』の個人的ベスト5、2位と1位は…}–

2位:『ユメミの半生』

監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:松本穂香、小関裕太

映画の上映開始を待つ中学生が、新人の女性スタッフから、波乱万丈だという半生を聞くことになる物語だ。その半生の回想は、なぜかチャールズ・チャップリン作品のような白黒のサイレント映像から始まるのだった……。その先は予想の斜め上の展開の連続なので、ネタバレを踏まないまま観た方がいいだろう。

ジャンルとしてはかなりコメディ寄りで、現実離れしまくっている半生の回想に対して、中学生が冷静にツッコミを入れる様に笑ってしまう。同時に、上田慎一郎監督が愛してやまない様々な映画への愛に溢れているので、大きな感動もあるのだ。全編に渡ってボケ倒す松本穂香が可愛らしいし、回想の中でその時代らしい二枚目俳優に扮した小関裕太も見事にハマっていたし、『カメラを止めるな!』でおなじみの浜津隆之が実に美味しい役になっていたのも嬉しかった。観ればきっと、昔の映画も上映している映画館に足を運びたくなるだろう。

1位:『死霊軍団 怒りのDIY』

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監督・脚本・編集:中元雄
出演:清野菜名、高橋文哉

彼氏に振られたホームセンターで働く女性がゾンビと戦う、設定からしてキャッチーな内容だ。ホームセンターを舞台にバトル!そこでは有効な武器がたくさん!というのは、まるで『イコライザー』(14)のような趣があるし、難しいことを何も考えなくても「ヤバい!楽しい!」と大興奮できるだろう。娯楽性はもちろん、演出の上手さ、アイデアのくだらなさ(褒め言葉)、何よりハイクオリティな見せ場とアクションに、完全に惚れ込んでしまった。

中元雄監督はインディーズ映画界ではかなりの注目株であり、限定的に公開された『一文字拳 序章 最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い』(19)、『はらわたマン』&『いけにえマン』(19)などが一部で熱狂的な支持を得ていた。様々な「ジャンル映画」を愛する監督が、今回はブルース・リー、そして「女性によるアクション」および「ゾンビ映画」(具体的には『デモンズ』(85))に最大の敬意を捧げて全力で作り上げたことが素晴らしい。以下の本編一部映像からでも、主演の清野菜名の身体能力の凄さがわかるだろう。

この他の7編も、それぞれ独自の「色」があり、かつ工夫が凝らされた面白い作品だ。

・老婦人と若者の出会いから始まる、三島有紀子監督作『よろこびのうた Ode to Joy』

・ホテルで自分の部屋が見つからないことに戸惑うことになる、志自岐希生監督作『流民』

・中華街のシェフと釣り船の男の邂逅を描く、林田浩川監督作『タイクーン』

・料理人研修留学を控える青年が人生の重要な決断に迫られる、廣賢一郎監督作『ココ』

・少年が生まれてから一度も会ったことのない母親に会う、齋藤栄美監督作『海にそらごと』

・小さな喫茶店で会話をしている女性2人の秘密を繊細に描く、エバンズ未夜子監督(2001年生まれで弱冠19歳!)作『あこがれマガジン』

・眠ることが出来なくなった人々のための施設で暮らす女性の物語を綴る、加藤拓人監督作『睡眠倶楽部のすすめ』

さらに、yamaの主題歌「希望論」も、企画そのものにマッチした歌詞と、軽快なメロディで、さらに心地よい余韻にさらに浸らせてくれる。

また『ユメミの半生』の上田慎一郎監督は、このプロジェクトを手がけるにあたって以下のようなコメントを残している。

僕はずっと映画に助けられてきました。体を悪くした時は病院で薬を貰って治します。心を悪くした時は、多くの場面で、それを映画が治してくれました。「映画は人を救う薬になる」…なんて言うと大袈裟でしょうか。大袈裟じゃないと思います。困難な時こそ映画の出番です。 今、心に効く映画を創ります。

その通り、筆者もまた「映画は人を救う薬になる」は決して大袈裟ではないと信じている。クリエイター、制作スタッフ、俳優の活動を後押しする目的もあった『DIVOC-12』は、(明確にコロナをテーマにしていなくても)コロナ禍で生きる観客たちにも大いにエールを送っている作品でもある。その作り手の志は、以下のドキュメンタリー「12のまなざし -ぼくらが映画をつくる理由-」も参考にして欲しい。

観ればきっと元気になれるし、生きる力にもなる、そんな映画体験を期待して、ぜひ劇場へ足を運んで欲しい。

(文:ヒナタカ)