『護られなかった者たちへ』レビュー:佐藤健が追われ、阿部寛が追う!東日本大震災がもたらした殺人事件と社会の闇

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」 SHORT

東日本大震災が引き金となっての悲劇の連続殺人事件の実態を暴いた作品です。

ただし犯人は誰か?といったミステリ色もさながら、それ以上に本作の大きなモチーフとなっていくのは、社会の闇。

それが何であるかは直接ご覧になっていただきたいとして、ここに瀬々敬久監督ならではの常に社会を見据えた上でのエンタテインメントを目指す姿勢が如実にうかがえます。

時に意欲が過ぎて観念的になることもある瀬々作品ではありますが、今回はミステリと社会批判、そして東日本大震災を奇縁とする人々の絆みたいなものもヒューマニスティックにバランスよく構築されているのが妙味で、このあたりは先ごろ公開されたばかりのアニメーション映画『岬のマヨイガ』と共通するものも感じられてなりません。

2021年は『明日の食卓』も好評だった瀬々敬久監督の、また新たな衝撃と感動の社会派ミステリ映画の秀作……と、これ以上内容に言及すると情緒も含めたネタバレになりかねない恐れがありますのでここらで止めておきましょう。

キャストに言及しますと、事件の容疑者となる佐藤健、刑事の阿部寛、追われる側と追う側のふたりを中心に映画は回っていきます。

主演ふたりの存在感はいうまでもなく、また今回の彼らの劇中におけるバランスも実に巧みです。

容疑者側のドラマに関わってくる若手・清原果耶&ベテラン・倍賞美津子の上手さは、もうそれだけで本作を見る価値は大いにありといっても過言ではないでしょう。

一方で阿部寛とコンビを組まされる林遣都の現代っ子ぶりも嫌味になることなく両者のチグハグさを引き立てる上で良いフックにもなっています。

いずれにしましても、まさに現代社会をもがき苦しみながら必死に生きている弱者のために作られたような映画です。

特に現在のコロナ禍で生活や生き方が困難になっている人たちならば、必ずや何某かのカタルシスを見出すことが出来るでしょう。

(文:増當竜也)

–{『護られなかった者たちへ』作品情報}–

『護られなかった者たちへ』作品情報

【あらすじ】
東日本大震災から10年後、仙台市の保健福祉事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ、怨恨が理由とは考えにくいが、物盗りによる犯行の可能性も低く、宮城県警の刑事・笘篠らの捜査は暗礁に乗り上げる。一方、三雲の死体発見の数日前、一人の模範囚が出所していた。男は過去に起きたある出来事の関係者を追っていた。男の目的はいったい何なのか。 

【予告編】

【基本情報】
出演:佐藤健/阿部寛/清原果耶/倍賞美津子/吉岡秀隆/林遣都/永山瑛太/緒形直人 ほか

原作:中山七里

監督:瀬々敬久

脚本:林民夫/瀬々敬久

製作国:日本