映画『岬のマヨイガ』レビュー:不思議で温かくも繊細、そしてダイナミック!これぞアニメ版“妖怪大戦争”!

ニューシネマ・アナリティクス

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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

野間児童文学賞といえば、これまでにも「魔女の宅急便」など優れた児童文学を輩出してきた賞ですが、その2016年度(第54回)の同賞を受賞した柏葉幸子の「岬のマヨイガ」がこのたび長編アニメーション映画化され、2021年8月27日より全国公開されます。

原作未読の方も、アニメ映画版でのほのぼのとした温かみのある絵柄の数々から、ヒューマニスティックなものであることは容易に想像できることでしょう。

しかし、これが現在公開中の特撮大作『妖怪大戦争』もかくやの一大妖怪大戦争映画としても見事に成立していることを知っているのは、もちろん原作ファンの方々に相違ありません。

そう、この作品、日本古来の妖怪伝承に根付きながら、東日本大震災の惨禍がもたらした心の傷までも壮大なスペクタクル描写も交えながら真摯に乗り越えていこうというファンタジー大作なのです!

ふたりの少女の心の傷を癒す老女と妖怪たち!?

『岬のマヨイガ』の「マヨイガ」とは東北弁で「古民家」「伝説の家」とでもいった意味があります。

柏葉幸子は岩手県出身で現在も盛岡市に在住の作家。

宮崎駿監督が彼女の「霧のむこうのふしぎな町」を映画化しようとしたものの上手く果たせず、後にその影響を反映する形で映画化されたのが『千と千尋の神隠し』であったこともマニアには有名な話です。

そして、今回の川面真也監督作品『岬のマヨイガ』も東北地方の妖怪たちが大挙登場する作品ですが、ヒロインらのキャラクター設定は映画化に際してアレンジされています。

舞台となるのは東北の某地方。

ある事情で家を飛び出した17歳の少女ユイ(声:芦田愛菜)と、両親を交通事故で亡くしたショックで声を失ってしまった8歳の少女ひより(声:栗野咲莉)。

居場所を失い、震災の避難所に辿り着いたふたりは、そこで出会った不思議な老女キワさん(声:大竹しのぶ)に連れられて、海を見下ろす岬に建てられた古民家(マヨイガ)で一緒に住むことになりました。

ふたりの少女はキワさんの優しさに触れながら少しずつ頑なな心を溶かしていきますが、同時に奇妙キテレツな怪奇現象が次々と巻き起こっていきます。

何とキワさんは“ふしぎっと”と呼ばれる妖怪たちと交流する力を持つ、ミラクルおばあちゃんなのでした!

そして“ふしぎっと”たちの情報で、人々の哀しい想いを糧にしてどんどん大きくなっていく妖怪“アガメ”の封印が、あの震災によってあやうく解かれようとしていることを知ってしまうのですが……。

–{「遠野物語」に根差したユニークな作品世界観}–

東北伝承に根差したユニークな世界観

本作を見ていて何よりもうれしくなってしまうのは、劇中に「遠野物語」をはじめとする東北地方の伝承に倣った妖怪たちがいろいろ登場してくることです。

「遠野物語」といえば、岩手県遠野地方に伝わる逸話や伝承などを柳田国男が1910年にまとめ記した説話集で、水木しげるの妖怪ワールドなど現在伝え聞くモノノケたちの原型みたいな存在も登場。

1982年には鬼才・村野鐵太郎監督のメガホンで映画『遠野物語』も作られています(ただし特撮ファンタジーではなく、アーティスティックな悲恋物語です)。

さて、本作はこうした妖怪たちとの不思議で民話チックな交流によって、ふたりの少女の心が癒されていきます。

その過程で哀しみを喰らう妖怪と対峙していくことにもなっていきますが、そこに至るまでのマヨイガをベースにした淡々としながらもほんわか温かいものが感じられる諸描写が秀逸。

また、その奥に内在するのが東日本大震災であり、それとどこかでリンクしたそれぞれの大きな心の傷跡であることから、単にユーモラスなだけではない切々とした哀しみまでもがほのかに、そして確実に滲み出ているのが妙味でもあるのでした。

そしてクライマックスに関しては、はい、もうはっきり申して“妖怪大戦争!”です!

アニメーションならではのダイナミズムを駆使した戦いであったり奇跡であったりの数々は、それまでのほのぼのトーンのイメージを一切崩すことなく両立させているのも、実に優れたところであるといえるでしょう。

芦田愛菜、大竹しのぶら声のキャストの好演!

今回は声のキャストもそれぞれ実に良い味を醸し出してくれています。

ヒロインのユイに扮する芦田愛菜に関しては、もう幼いころからアニメの声や吹替を務めてきたある意味大ベテラン声優(!)で、最近だけでも『海獣の子供』(19)『えんとつ町のプペル』(20)『ゴジラvsコング』(21・吹替)と大活躍。

そして今回はなかなか心を開ききれないまま素直になれない同世代の女の子の寂しい真情を巧みに表現してくれています。

キワおばあちゃん役の大竹しのぶも声の仕事は大ベテランで、今年も『漁港の肉子ちゃん』(21)が印象深いところですが、今回はさらに雰囲気ぴったりといった不思議で優しいばあちゃんの慈愛みたいなものが声で描出されています。

ひより役の栗野咲莉は現在11歳の子役ですが、今回はしゃべられない設定のキャラクターということで、ではいつ言葉を発してくれるのか? というのも興味のひとつとなるでしょう。

“ふしぎっと”たちの河童グループもサンドウィッチマンの伊達みきお&富澤たけしであったり、宇野祥平であったり、なかなかユニーク。

「遠野物語」ときたら忘れてならない座敷童は、アメリカ出身で声優アイドルグループ22/7のメンバー、天城サリーが担当しています。

こうした劇場用長編アニメーション映画の声優キャスティングも、以前は宣伝狙いの顔出しタレント・オンリーが多く、それらの名前が発表されるだけでアニメ・ファンはがっくり来てしまうことが往々にしてあったものでしたが、最近はそれこそ芦田愛菜のように実写もアニメも等しく活動する存在が出てきたり、良い意味でバラエティ豊かになってきている気がします。

(サンドウィッチマンの富澤たけしも、2011年の長編アニメ映画『とある飛空士への追憶』がすごく良かった)

今後もこういったユニークな形態でのキャスティングを組んでもらえるよう、切に願いたいものですね。

(文:増當竜也)

–{『岬のマヨイガ』作品情報}–

『岬のマヨイガ』作品情報

【あらすじ】
ある事情で家を出てきた17歳のユイと、両親を事故で亡くしたショックから声を失った8歳のひよりは、キワさんという不思議なおばあさんと出会い、海を見下ろす岬ににある古民家マヨイガで暮らすことになる。居場所を失くしていた二人は成り行きでキワさんについてきてしまったが、訪れた人をもてなす伝説の家マヨイガや、キワさんの温もりに触れ、やがて傷ついた心が解きほぐされていった。そんなある日、河童や狛犬などの“ふしぎっと”と呼ばれる優しい妖怪たちがキワさんを訪ねにやってきて……。 

【予告編】

【基本情報】
声の出演:芦田愛菜/粟野咲莉/大竹しのぶ

原作:柏葉幸子

監督:川面真也

脚本:吉田玲子

製作国:日本