(C)「お耳に合いましたら。」製作委員会
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伊藤万理華。
2017年に乃木坂46を卒業し、現在は連続ドラマ「お耳に合いましたら。」や映画『サマーフィルムにのって』の主演として注目を集める実力派若手女優。
アイドル時代には”個人PVの女王”と呼ばれ、卒業直前の2017年末には初の個展を開催。
現在でもイラストや服のデザインを行うなどのマルチな活動を続け、一貫して”ものづくり”と”自己表現”に向き合っている人物だ。
今回は、そんな女優・伊藤万理華の活動を振り返りながら、数年間に及ぶ変化と映画ファンをも惹きつける彼女の魅力に迫っていきたい。
可愛らしさと豊かな表現力の両立
彼女の名前を世に知らしめたのが、2013年の『まりっか’17』(演出:福島真希)の存在だろう。
放課後と思われる学校。
人気のいない廊下でヘッドホンを聞きながら、リズミカルに踊り歩く女子高生。
クラシックバレエの経験を活かし、1カットのダンス映像に挑戦した本作は、乃木坂46YouTube公式アカウントにおいて個人PVの再生回数1位を記録した。(公開当時)
キュートな魅力と独創的なダンスで、以降「個人PVの女王」と呼ばれるきっかけとなる伝説的な映像となったのである。
(C)2015 「アイズ」製作委員会
続く、2015年には、ホラー映画『アイズ』(監督:福田陽平)の主役に抜擢され、弟思いの女子高生・山本由佳里を演じている。
タイトル通り、瞳がアップになる冒頭から鋭い目力で観客を惹きつけ、確かな存在感と落ち着いた演技力が作品を引っ張っていく。
精神的に追い詰められる彼女の慟哭シーンにも真に迫るものが感じられるだろう。
(C)2017 映画「あさひなぐ」製作委員会
また、薙刀部に所属する女子高生たちの奮闘を描いた映画『あさひなぐ』(17)(監督:英勉)では、主人公の一学年上で、しっかり者の先輩・野上えりを熱演。
良き友人たちのために試合に挑み、感情を高ぶらせる役柄で見事なバイプレーヤーぶりを発揮している。
これらの作品を見ると、彼女がアイドルゆえの可愛らしさと豊かな表現力を両立し、多くのファンを確立してきたことが分かるのではないだろうか。
ちなみに、ゲーム”GRAVITY DAZE 2″のWeb CMでは、逃げ回る飼い猫を追いかける姉妹の妹役を演じている。
国内外で高く評価された本作では、重力が乱れるマンションの一室を回転するセットで再現。
長回し撮影を行っており、メイキング映像では終了後の安堵感からか号泣する様子も記録されている。
実は、このCM、彼女の初個人PV「ナイフ」と同じく柳沢翔監督がメガホンを担当。
彼女は、のちのインタビューで「ナイフ」が女優を志した原点とも語っており、クリエイターとの繫がりを大切にしてきたことが、その人気の大きな要因と言えるのかもしれない。
–{自己表現への新たな挑戦}–
自己表現への新たな挑戦
初の個展「伊藤万理華の脳内博覧会」を起点に、乃木坂46から女優としての道を歩み始めた伊藤万理華。
その決意は同展覧会で公開された映像「はじまりか、」(演出:福島真希・福島節)でも垣間見ることができる。
過去の活動を総括するように歌い踊り、新たなスタートを切った彼女。
その女優としての活動は挑戦の日々だったといえるだろう。
(C)2019「潤一」製作委員会
是枝裕和を中心とする制作者集団・分福の企画・制作、主演・志尊淳の連作ドラマ「潤一」では、虚ろな表情が印象的な女性・美夏を熱演。
アイドル時代とは異なる影を感じさせる大人の女性を演じ、ラブシーンにも挑戦した彼女は、気丈にふるまいつつも内面は脆い女性という難役を見事に演じきっている。
(C)2019 河本ほむら・尚村透/SQUARE ENIX
一方、『あさひなぐ』に続いて、英勉監督とのタッグとなった『映画 賭ケグルイ』(19)では、男勝りな武装集団リーダー・犬八十夢を好演。
若手俳優陣の演技合戦とも称された大人気シリーズの劇場版で、物語に波乱を巻き起こす重要キャラクターとして確かな存在感を発揮している。
アクションシーンにも挑戦したこの演技が注目を集めたことでボーイッシュな役柄の起用も増えはじめることとなった。
また、役者としての幅を広げた作品には「私たちも伊藤万理華ですが。」(監督:アベラヒデノブ)も挙げられるだろう。
本人が演技の醍醐味を味わった作品として過去に挙げたこともある本作では、おバカ女子高生・AD・恋愛カウンセラー・警備員と、もしもの世界に生きる4人の自分を演じ、思わぬコメディエンヌぶりが開花。
劇中における役柄(可愛らしい女子高生からボーイッシュな警備員まで)の変化は、本人が演じてきた過去の役柄の変遷にも通ずるように感じられる。
(本編はこちらのサイトからスマートフォン限定で鑑賞できる。)
このように、女優として本格的に活動を始めた彼女は、様々な人間を演じていくうちに、新しい自己表現の形を身につけていったと言えるのではないだろうか。
–{自分らしさへの飛躍}–
自分らしさへの飛躍
女優・伊藤万理華をさらなる高みに押し上げた出来事。
それは松本壮史監督との出会いであろう。
(C)TOKYO MX
彼らが初めてタッグを組んだ「ガールはフレンド」は、2018年にTOKYO MXで放送された単発の短編ドラマである。
彼氏の元カノと1か月間同居することになった主人公・マリを伊藤万理華が演じ、マンションの一室を舞台にワンシチュエーション会話劇が繰り広げられる。
テンポの良い会話シーン、女性同士の友情関係、”好き”という気持ちにまっすぐな主人公。
これらは同コンビで制作された他作品にも共通している要素と言えるだろう。
(C)「お耳に合いましたら。」製作委員会
続いて、TVドラマとして2度目のタッグになったのが、現在放送中のドラマ「お耳に合いましたら。」である。
普通のOL・美園が同期や後輩の力を借り、チェーン店のご飯(通称・チェン飯)を紹介するポッドキャスト番組を始める本作では、本音を内に秘めがちな主人公が好きなものへの愛を語ることで周囲との関係性を深めていくことになる。
劇中での生き生きとした演技やEDの特徴的なダンスなど、伊藤万理華のハマリ役度合いは誰が見ても明らかだろう。
(C)サマーフィルムにのって製作委員会
そして、現在公開中の映画『サマーフィルムにのって』である。
時代劇好きの映研部員・ハダシが友人たちと映画作りに挑むひと夏の思い出を描いた本作は、間違いなく、女優・伊藤万理華の代表作となる傑作青春映画と言えるだろう。
映画へのとめどない愛と情熱、彼女の”好き”への思いが周囲に伝播していく物語には、多くの観客が魅了されるはず。
また、映画作りという”創作活動”を経て、人と人とが繋がっていく部分に面白さがある本作だが、撮影現場でも伊藤万理華自身が写真撮影という”創作活動”を経て、メンバーと仲良くなったという裏話は興味深い。(以下の動画を参照。)
過去のインタビューでも創作活動によって人とのコミュニケーションができるようになったことを公言している彼女。
そんな彼女自身とリンクするような主人公だからこそ、その”自然体”な魅力が存分に発揮されているのではないか。
活動当初から伊藤万理華が掲げてきた”飾らない自然体の女優”という目標は、松本壮史監督作品でついに実現したのだ。
終わりに
「乃木坂時代に出会った作品や人々のおかげで新しい自分を発見することができた」と語り、『サマーフィルムにのって』を経て「初めて自分という存在が見えるようになった」という伊藤万理華。
人と人との繋がりを大切にしながら、”ものづくり”に取り組んでいく彼女は、この先、どのような女優になっていくのだろうか。
9月には『少女邂逅』で知られる女性監督・枝優花さんの短編『息をするように』が公開され、同性への恋心を抱く男子高校生・アキを演じることが発表されている彼女。
才能あるクリエイターや出演者・製作陣との繋がり、そして、自分自身や彼らとの”ものづくり”を通して、これからも様々な表情を見せる彼女の活躍が楽しみでならない。
(文:大矢哲紀)