『スーパーヒーロー戦記』がヒーロー映画史に名を残す3つの理由を解説

映画コラム

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102億円を超える大ヒットを記録し、2021年日本における映画興行収入で、ぶっちぎりの第1位となった『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年8月現在)

長きに渡る物語の集大成とメタフィクション的展開を織り交ぜ、多くの観客を熱狂させた本作ですが、現在公開中の”とある作品”でもそれに匹敵する内容が描かれていることは、あまり知られていません。

その映画のタイトルは『セイバー+ゼンカイジャー スーパーヒーロー戦記』。

子供向けの特撮映画と侮るなかれ、この記事では映画好きにこそおすすめしたい本作の魅力を3つの理由を踏まえて解説していきます。

1:オールスターキャストで贈るお祭り映画

仮面ライダー50周年とスーパー戦隊45作品を記念した本作では、歴代シリーズから錚々たるメンバーが集結しています。

『仮面ライダーセイバー』や『機界戦隊ゼンカイジャー』といった現役メンバーに加え、電王、ゼロワン、ジオウといった仮面ライダーたちに、キュウレンジャー、シンケンジャー、キラメイジャー、デカレンジャーといった戦隊ヒーローたちなどなど。

過去のシリーズを彩った人気キャラクターたちがオリジナルキャストで登場し、”アニバーサリー”映画にふさわしい意外な人物や、日本のヒーローを代表するレジェンドキャストもサプライズゲストとして作品を盛り上げています。

「スーパーヒーロー戦記」製作委員会?石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映©2021 テレビ朝日・東映AG・東映

それぞれの出演時間は決して長いとは言えないものの、各キャラクターへのリスペクトに溢れた演出の数々には、ハリウッドのオールスター超大作『レディ・プレイヤー1』のようなワクワク感もありました。

さらに、本作のオリジナルキャラクター・謎の少年役として鈴木福君も登場。これまで仮面ライダーを中心に東映特撮愛を公言してきた彼ですが、本作では物語のキーとなる重役を見事に演じきり、作品の面白さをより高みに押し上げています。

また、例年はスーパー戦隊と仮面ライダーの単独映画2本立てが恒例だった夏映画が、今作では両シリーズコラボのお祭り映画になっているのも注目ポイントです。

「スーパーヒーロー戦記」製作委員会?石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映©2021 テレビ朝日・東映AG・東映

本作の立役者・白倉伸一郎プロデューサーのインタビュー記事によると、「昨年やるはずだった夏映画ができなかったことからの玉突き事故」、「仮面ライダー50周年記念作品のトップバッター」という経緯もあって、製作されたという本作。

過去に製作された”スーパーヒーロー大戦シリーズ”でスーパー戦隊と仮面ライダーの共闘は描かれてきましたが、混沌としたストーリーテリングにはファンから賛否両論が巻き起こっていたのも事実。

本作では、そんな”スーパーヒーロー大戦シリーズ”のお祭り感を継承しつつ、両シリーズに共通する”とある人物”の存在を軸とすることで、大人も楽しめる深いメッセージ性が与えられ、仮面ライダーとスーパー戦隊の歴史を総括するにふさわしい傑作になっていました。

2:メタ構造の物語

本作を語る上で、メタフィクションを中心に捉えた脚本の素晴らしさを避けることはできません。

メタフィクションとは、物語の中であえて物語世界を虚構として描写するもの。前述した今年の大ヒット作『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』 でも、庵野秀明監督の人生を感じさせる脚本、「メタフィクション」を強調したクライマックスが映画ファンの心を惹きつけていました。

本作では、仮面ライダーシリーズとしては初の小説家となった『仮面ライダーセイバー』の設定を活かしながら、「物語」と「作り手」のドラマが描かれています。

「物語の登場人物に辛い思いをさせる意味とは?」
「虚構の物語を作る意味とは?」

主人公・飛羽真の抱く疑問が、スーパー戦隊と仮面ライダーシリーズの真髄を紐解いていくのです。

実は、過去の仮面ライダー映画でもメタフィクション的題材は扱われています。

仮面ライダー生誕40周年という歴史を反映させた『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』や、仮面ライダーを虚構の存在として定義した『平成仮面ライダー20作記念 仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』、平成ライダーの歴史を総括した『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』など、その中でも様々な名作は生み出されてきました。


「スーパーヒーロー戦記」製作委員会?石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映©2021 テレビ朝日・東映AG・東映

しかし、本作で題材となったのは、「東映特撮とは何か」、「ヒーローとは何か」という過去作以上に大きな問い。

まるで、バラエティー番組「アメトーーク!」の”スーパー戦隊大好き芸人”や”仮面ライダー芸人”といった回を彷彿とさせる衝撃的なセリフの応酬に驚かされつつ、クライマックスにかけて加速していくメタフィクション的展開には、シリーズのファンならずとも心に刺さる感動があるのではないでしょうか。

※ここからは映画本編の若干のネタバレを含みます。
 映画鑑賞前の方は、鑑賞後に読むことをおすすめします。

–{原作者・石ノ森章太郎へのリスペクト}–

3:原作者・石ノ森章太郎へのリスペクト

過去の劇場版シリーズ史上、原作者・石ノ森章太郎先生へのリスペクトをもっとも感じる物語も本作の魅力でしょう。

昭和13年(1938年)に生まれ、病弱な姉のために漫画を描き始めたという作家・石ノ森章太郎。仮面ライダーとスーパー戦隊の原作のみならず、『サイボーグ009』、『人造人間キカイダー』といった名作を手掛けたことでも有名な彼ですが、その作品のほとんどには単なる勧善懲悪にとどまらない深いテーマが描かれています。

人造人間にされた男の苦悩や、サイボーグへ変えられた人々の孤独、悪と正義に悩むロボットの葛藤など、影のあるヒーロー像によって主人公の人間らしさを強調し、読者の人生に影響を与えるような重厚なドラマを生み出してきたのです。

「スーパーヒーロー戦記」製作委員会?石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映©2021 テレビ朝日・東映AG・東映

劇中では、石ノ森章太郎の精神を受け継ぎ、スーパー戦隊とは何か、仮面ライダーとは何か、そして、ヒーローとは何かという問いに、一つの解答が与えられます。

ヒーロー映画が台頭する現代だからこそ、より浮き彫りになる日本の特撮ヒーロー独自の「ヒーロー哲学」には、映画ファンにこそ見てほしいシリーズの集大成があるのです。

仮面ライダー50周年の始まりの末、たどり着いた一つの到達点

マーベル・シネマティック・ユニバ―スの大成功を皮切りに、DCコミックスの映画シリーズも高く評価されるなど、現代では世界的なヒーローブームが巻き起こっていると言えるでしょう。そんな時代に改めて見つめ直してほしい国産ヒーローの魅力が本作には凝縮されています。

幼少期に熱い思い入れを持ったかつての少年少女も、子育てをするうちに自然とハマってしまった親世代の方々も興奮すること間違いなしの本作。

2021年春には、『孤狼の血』で知られる白石和彌監督が指揮を執った『仮面ライダーBLACK SUN』の始動がアナウンスされているほか、2023年には、50周年企画のトリを飾る庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』の公開が企画されるなど、今後、東映特撮のヒーローたちは、より盛り上がっていくことでしょう。

その予習も兼ねて、少しでも多くの映画ファンに見てほしいのが本作なのです。

仮面ライダー50周年の始まりとして、そして、スーパー戦隊45作品記念の一作として、シリーズがたどり着いた一つの到達点を、ぜひ、あなたの目にも焼きつけていただきたいです。

(文:大矢哲紀)

–{『スーパーヒーロー戦記』作品情報}–

『スーパーヒーロー戦記』作品情報

【ストーリー】

宇宙空間に位置する禁断の地・アガスティアベースが何者かの手により、襲撃された。45のスーパー戦隊の書と35の仮面ライダーの書などが解き放たれたことで衝突を始める物語世界。そんな折、仮面ライダーセイバーこと小説家の神山飛羽真(内藤秀一郎)は仲間たちと共に『機界戦隊ゼンカイジャー』の世界へ、ゼンカイジャーの五色田介人(駒木根葵汰)たちは『仮面ライダーセイバー』の世界に迷い込んでしまう。過去の仮面ライダー・戦隊ヒーローたちが入り乱れる世界で事件の鍵を握る少年に遭遇した彼らは……。

【予告編】


 
【基本情報】

出演:内藤秀一郎/駒木根葵汰/山口貴也/川津明日香/青木瞭/生島勇輝/富樫慧士/岡宏明/市川知宏/アンジェラ芽衣/庄野崎謙/増子敦貴/横田真悠/知念里奈/榊原郁恵/鈴木福/谷田歩/奥野壮/高橋文哉/鈴木勝吾/水石亜飛夢

声の出演:浅沼晋太郎/梶裕貴/宮本侑芽/佐藤拓也/福圓美里/関俊彦/遊佐浩二/てらそままさき/鈴村健一/小山力也/稲田徹/M・A・O/神谷浩史

監督:田崎 竜太

製作国:日本