大橋裕之の短編漫画集を原作に、竹中直人&山田孝之&齋藤工といった“異能の人”たちが共同監督した映画『ゾッキ』は、この春第1回戦として全国のシネコンでお披露目された後、5月14日より『ゾッキ』と篠原利恵監督による『裏ゾッキ』を交互に上映していく第2回戦たる興行展開を開始し、上映館は連日盛況を呈しています。
この『裏ゾッキ』、言ってみれば『ゾッキ』のおよそ500日に及ぶ制作秘話を描いたドキュメンタリー映画なのですが、単なるメイキングの域を優に超えた注目すべき作品に仕上がっています。
映画は大きく2部に分かれていて、前半は原作者の故郷・愛知県蒲郡市で地元の人々の全面バックアップを支えに、映画の撮影を敢行していく模様が描かれていきます。
撮影隊がやってきたということで、それまで平穏で静かな町だった蒲郡はてんやわんやの大騒ぎ!
スタッフ&キャストに毎日食べてもらう弁当をどうするか?
芸能人が来ているということで、撮影中断しかねないほど現場に押しかけてくる見物人をどう扱うか?
「今日ここで撮影するなんて聞いてねーぞ!」と撮影隊に絡んでくる人への対処に追われたり、心無いマスコミ・パパラッチの魔手をかわすべく警備を強化していったりなど、いつのまにか蒲郡の人たちがどんどん“映画の仲間”と化していく姿が描かれると同時に、映画制作の大変さみたいなものまでも庶民感覚で理解できる作りになっているのです。
しかし本作が真にすごいのは、さらにこの後です。
2020年2月24日に撮影がクランクアップした直後、あのコロナ禍による緊急事態宣言が発動され、それまで活気づいていた町の空気は一変。
その後も二度目三度目の宣言発令などに伴いながら一喜一憂していく市民の姿が、現在もコロナ禍に苦しみ続ける私たちと同じ等身大の忸怩たる想いとして、真摯に綴られていくのです。
恐らく企画当初はメイキング映像を通して町と映画の和気藹々とした風情を目指していたとも思しき本作ですが、結果として、奇しくも2020年から2021年にかけて苦悩しつつも前を見据えようと腐心する庶民の“今”をも活写した秀逸なドキュメンタリー映画として屹立することになりました。
まさに、町と映画が過ごした激動の500日!
本作をご覧になる観客の大半は、当初は『ゾッキ』を既にご覧になった方々だったと思われますが、ずっとマスクをしたまま鑑賞する今の映画ファンもまた、画面の中でコロナに翻弄されている人々に自分たちと同じものを見出し、もう一度『ゾッキ』を見てみようという相乗効果はもとより、『裏ゾッキ』という単独の“映画”としても注目されるようになってきている……と、そんな雰囲気が場内のあちこちから感じられるようになっています。
現に14日から20日まで1週間、この2作を交互上映したアップリンク渋谷(ちなみに20日で同館は閉館。『ゾッキ』+『裏ゾッキ』が最後の上映作品になりました)ではトークショーのない回もほぼ満席になる盛況ぶりで、現在上映しているアップリンク吉祥寺も同じような状況を呈しています。
さらにこれから『ゾッキ』表裏2作は全国各地を渡り歩いていく予定ですが、上映を重ねるごとに、まさに今の私たちの心情を代弁しつつ、映画に関わる人々の心意気を活写し得ていることに、多くの観客は気づきつつ魅了されているのでした!
(文:増當竜也)
–{『裏ゾッキ』作品情報}–
『裏ゾッキ』作品情報
ストーリー
2020年1月。映画「ゾッキ」の制作決定を一際喜んでいたのは、ロケ地である愛知県・蒲郡の人々だった。蒲郡では、印刷屋さん、パン屋さん、居酒屋さんなど町の有志が立ち上がり、8年前から映画の誘致活動を続けていた。そして今回、蒲郡市も巻き込み、ついに念願の映画「ゾッキ」を、市民総出で全面的にバックアップすることになったのだ。平穏だった蒲郡で巻き起こるハプニングの数々。超豪華キャスト、スタッフによる一筋縄ではいかない映画制作。そして、素人集団が何とか映画を盛り上げようと奮闘する姿。その模様を追った「裏ゾッキ」は、映画作りのために集まった”裏と表”の人々を描く新感覚のドキュメンタリー作品。なぜ町に映画が必要なのか? なぜ人は映画を撮るのか?ひとつの映画に集まった人々の想いを、映画「ゾッキ」公開直前まで追いかける。
予告編
基本情報
出演:蒲郡市の皆さん/竹中直人/山田孝之/齊藤工
監督:篠原利恵
公開日:2021年5月14日(金)
製作国:日本