本作は平成最後の年の架空の街・関谷市を舞台に、太平洋戦争の平和祈念館を作ろうとする市長(吹越満)と、それに反対するBC級戦犯遺族の南野和子(大方斐紗子)おばあちゃんとの対立から始まります。
なぜ和子おばあちゃんは祈念館設立に反対するのか?
最初はこのような疑問が湧き上がっていきますが、そのうち映画は信じられないくらいにとんでもない方向へ、まるでジェットコースターに乗ってるかのようにアレヨアレヨと転がっていきます!
外来種の亀にお墓の石材、胴体から取れた少女像の首、選挙、整形、貴族ごっこ、イジメ、国際ボランティア、そしてもはや説明のつかないミラクル!
……などなどなど、一体何が起きているのか、まさに先行きが全く予測できないセンス・オブ・ワンダーな展開!
しかし、本作の基軸となる戦争がもたらす加害者と被害者の関係性、そして反骨の風刺&批判精神は何ら揺らぐことなく、さらには現代社会に対する怒りをこめての喜劇(まさに怒劇!)が繰り広げられていく!
戦争を題材にする作品は数あれど、こういった斬新かつ画期的な視点でアンチテーゼを成し得たものは、少なくともこれまでの日本映画には皆無だと断言できます。
新鋭・河合健監督が企画発案から出資集め、プロデューサー、脚本も兼任した若き熱意に満ち溢れた作品であるとともに、平成生まれならではの、昭和世代にはないユニークな発想による映像とドラマツルギーの融合に、まさに新世代の到来を体感!
キャストも最初から最後までずっと振り回されっぱなしの市長=吹越満の飄々としたユーモアが映画全体の根幹を成しつつ、対する南野家のおばあちゃんをエネルギッシュに演じる名優・大方斐紗子の貫禄たるや!
そして彼女を筆頭とする家族の女性たち(高橋睦子、西山真来、北香耶)それぞれバラバラな個性の描出もお見事で、中でも孫娘マリー役の西めぐみちゃんの可愛らしくもヤンチャでクールな存在感は特筆すべきものがありました。
ついにこういった“戦争”映画が登場したか! といった感慨もさながら、戦後75年を越えて混迷の度を深め続ける令和の今の世にこそ見る側の胸に笑いと共に深く訴えかけてくる、本年度公開される日本映画屈指の傑作です。
これはまさに必見!
(文:増當竜也)
–{『なんのちゃんの第二次世界大戦』作品情報}–
『なんのちゃんの第二次世界大戦』作品情報
ストーリー
平成最後の年。少子高齢問題、外来種の亀の大量繁殖問題に悩まされる架空の街、関谷市。令和元年に太平洋戦争の平和記念館設立を目指す市長の清水昭雄(吹越満)の下に、一通の怪文書が届く。
“平和記念館設立を中止せよ。私は清水正一を許さない”。清水正一(藤森三千雄)とは、昭雄の祖父であり、戦時中から国民学校の教師として子どもたちに反戦を訴えていた町の偉人だった。
差出人の正体は、街で石材店を営むBC級戦犯遺族の南野和子(大方斐紗子)。正一の教え子だった和子は、戦時中の正一が本当に反戦を訴えていたのか、その事実を知っているというのだ。街の平和推進委員会一同が和子に抗議するが、あっけなく返り討ちに遭い、昭雄が和子に直接対決を挑むことに。
これをきっかけに幕を開ける市長VS南野家の攻防。街でスナックを経営する思想とは無縁の和子の長女・えり子(髙橋睦子)、日本を飛び出して国際ボランティア活動を行うえり子の長女・紗江(西山真来)。えり子の次女で、和子と共に石材店を営む光(北香那)。そして、紗江の長女の幼子マリ(西めぐみ)。
思想もバラバラの南野家が、それぞれの思惑を抱いて昭雄にぶつかっていく。そして、正一の老人ホームで、南野家が平成最後のテロを起こす……。被害者と加害者の境を見失った人々が繰り広げる物語に待ち受ける奇想天外な結末とは……?
予告編
基本情報
出演:吹越満/大方斐紗子/北香那/西めぐみ/西山真来 ほか
監督:河合健
公開日:2021年5月8日
製作国:日本