2021年4月16日に公開された『名探偵コナン 緋色の弾丸』が現在、大ヒット上映中です。
この作品は”真空超電導リニア”という列車が舞台となっており、もちろん、ただ乗っているだけでは終わりません。列車を使ったダイナミックな演出で観ている者の心を揺さぶり、私も画面を食い入るように観ていました。
『名探偵コナン 緋色の弾丸』を観て、改めて列車にはロマンが詰まっていると再確認できました。
そこで、ふと列車が舞台となる映画を考えてみました。
記録的なブームを巻き起こした『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を始め、大人気の韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』や、旬な俳優”佐藤健”が主演の『仮面ライダー電王』の映画も列車が関わっている作品です。昭和世代は『大陸横断超特急』を真っ先に連想する、という声も聞いたことがあります。
このように好みや世代によって思い浮かべる作品が違い、それも映画の面白いところです。
前置きが長くなりましたが、私にも列車と聞いて真っ先に思い浮かべる大好きな作品があります。
『スノーピアサー』
スノーピアサー
『スノーピアサー』は、2020年のアカデミー賞を受賞して世界的に話題になった『パラサイト 半地下の家族』を作ったポンジュノ監督の作品です。
『パラサイト 半地下の家族』より以前に作ってはいますが、当然ながら、面白くないわけがありません。
ポンジュノ監督らしい社会問題に真っ向から切り込んだ作品となっており、『スノーピアサー』は私が大好きな作品のひとつです。
そこで今回の記事では列車関連ということで『スノーピアサー』の魅力を伝えていきます。
–{スノーピアサーのあらすじ}–
あらすじ
地球温暖化がますます深刻になっていき、2014年7月1日、気温を最適なレベルに保つために79カ国により人工冷却物質CW-7が散布された。しかしこれが仇となり、雪と氷が地球を覆い氷河期へ突入した。永久不滅のエンジンを搭載し1年かけ地球一周する列車スノーピアサーに全てが凍る前に乗り込んでいた者以外は死に絶えてしまった。それから17年後の2031年、人類唯一の生存場所であるスノーピアサーは、無賃車両の最後尾車両は貧困層の人々が押し込められ、皆食料を満足に得ることができず飢えていた。その一方で富裕層の人々がいる豪華な前方車両では、氷河期になる前と変わらない暮らしが続いていた。そしてスノーピアサーを開発したウィルフォード産業のウィルフォード(エド・ハリス)が絶対的権力を握っていた。最後尾車両にいるカーティス(クリス・エヴァンス)はエドガー(ジェイミー・ベル)ら仲間とともに、悲惨な現状を変えるために革命を目論み、ウィルフォードのいる先頭車両を目指す……。
ヒエラルキー
地球温暖化を防ぐために地球を冷やそうとした結果、氷河期を迎えた地球。凍りついた地上では生きることが不可能となってしまいました。
そんな地球で生きる手段はたったひとつ、”スノーピアサー”という列車の中で生活するしかありません。しかし、列車の中に詰め込まれた人類にはもはや自由などなかったのです。
最後尾にいる人間が最下層で、先頭車両に行けば行くほど上流階級となる絶対的なヒエラルキー。格差社会を敷き詰めたような列車の中は、最後尾の人間にとっては地獄同然です。
最後尾にいる人間は奴隷のような扱いを受けていて、たまに配られる”プロテインバー”だけを食べてなんとか生きています。(このプロテインバーの原料が、実はとても恐ろしいものなのです。)
もちろん上流階級の言うことは絶対なので逆らうことは許されません。
しかし、人間のような扱いをされていないと鬱憤が爆発することもあります。が、そこは絶対的なヒエラルキー。逆らったりすれば、たちまち酷い拷問にさらされます。
ある男性が怒って上流階級の人間に靴を投げつける場面があります。もちろん怒りを買ってしまい、その男性は逆らった罰として見せしめに拷問を受けるハメになってしまいます。
「これは靴ではありません、無秩序です」
上流階級の人間はそう言い放ち、逆らった男性の腕を凍らし、その腕を粉々にしてしまいます。氷河期ならではの罰で、身も凍るほど恐ろしい光景です。
どれだけ納得いかないことがあっても受け入れるしかない。楽しみなどない。そんな生活から抜け出すために、最下層の住人は先頭車両に攻め込む革命を企てます。
しかし、これが恐ろしい真実を知る引き金となってしまいます。
“スノーピアサー”
“スノーピアサー”は列車の中に閉じ込められた地獄の様な空間。
だと思っていた。
奴隷のように酷い扱いをされていた最下層の人間は、先頭車両へ近づけば近づくほど、想像もしていなかった世界を目にすることになります。
農作物を育てている緑の楽園、水族館のように綺麗な水槽、お洒落なカフェやバー、富裕層が集う賑やかなクラブまであり、先頭車両に近づくにつれ裕福になっていきます。
これが本当に列車の中なのか?目の前に広がる光景に、最後尾の人間は唖然とします。
自分たちは苦しみながらなんとか生き抜いて、逆らうことも許されず、支給されるプロテインバーしか食べることができないのに、この格差はなんなんだ。
これを見た時、私は他人事とは思えませんでした。この光景と現実の世界はなにが違うというのか。この地球上も貧富の差が当たり前になっているではないか。”スノーピアサー”は列車の中に地球を凝縮している。私はポンジュノ監督の描く世界観に、すっかり心を奪われてしまいました。
–{個体数のバランス}–
個体数のバランス
「それでは、きっちり74%死んでいただきます」
“スノーピアサー”の中は、閉じ込められている狭くて巨大な”世界”です。その中では絶対的なヒエラルキーが存在しています。
“生物にはそれぞれ持ち場がある”
実はヒエラルキーは作られるべくして作られていたのです。在り方をコントロールされているのです。
“生態系の維持には個体数のバランスが大事。数が増えすぎると食料が枯渇してしまう”
そう考えている上流階級の人間は、最下層の人間に殺し合いを促したり、殺したりして、定期的に数を調整しています。
生き物はそれぞれの持ち場を用意され、疑うことなくその立場を全うして死んでいく。弱者には弱者なりの持ち場があり、その役割を果たせばいいんだ。
恐ろしい考え方ですが、これも他人事として捉えることができませんでした。現実の世界もこんな考え方に支配されているのか。思わずそう疑ってしまうほど生々しい考え方です。
“生きていくには、欲求と不安、秩序、恐怖をバランスよく作り出すのだ。”
まとめ
「ヒエラルキー」「”スノーピアサー”」「個体数のバランス」
『スノーピアサー』は列車を通して世界の現状を訴えかけているように感じました。知らず知らずのうちに構築されているヒエラルキーや、生物の個体数のバランス。
今回紹介した意外にも”ハラハラするアクションシーン”や’プロテインバーの原料”など、見どころとなる描写は数多く存在します。
私たちが普段意識していないことに気づかせてくれる魅力的な作品『スノーピアサー』、ぜひご覧ください。
(文:ゆくん)