『海辺の彼女たち』レビュー:日本における外国人労働者の過酷な現実と、それでも希望は……

ニューシネマ・アナリティクス

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

※本作品は、監督の下記のツイートの通り、緊急事態宣言に関わらず2021年5月1日より公開致します。

2021年2月19日に閣議決定され、国会に提出された「出入国管理及び難民認定法及び日本国との経家条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(何なんだ、この長ったらしい名称は!?)は、人道上多くの問題点が指摘され、現在多くの弁護士や支援団体などから廃案を訴えられています。

どうして日本はこうも外国人に冷たいのでしょうか?

名古屋出入国在留管理局の収容施設で亡くなったスリランカ人女性ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさんの事件における入管側の非道の数々にしても、一体何をどうすれば同じ人間に対してこんなむごい仕打ちを…といった忸怩たる想いに囚われてしまいます。

そういった日本の現状を踏まえながら、『僕の帰る場所』(18)で移民ミャンマー人家族の問題を描いた藤元明緒監督がまた新たに日本=ヴェトナムの合作映画として取り組んだのが『海辺の彼女たち』(20)です。

ヴェトナムから技能実習生として来日するも、実はただただ搾取されるのみという劣悪な環境でしかなかった職場から逃げ出し、ブローカーの計らいで北の雪深い港町で不法就労に従事ることになった3人のヴェトナム人女性、フォン(ホアン・フォン)、アン(フィン・トゥエ・アン)、ニュー(クィン・ニュー)の運命が描かれていきます。

明るい夢を抱いて日本にやってきたのに裏切られ、それでも国の家族のために働かざるを得ない3人ではありますが、若さもあってか決して希望は捨てまいと奮闘。

しかしフォンが体調不良に陥ったことから、瞬く間にシビアな現実と再び対峙せざるを得なくなっていきます……。

こうした状況を変にドラマティックに盛り上げるのではなく、逆に静謐なリアリズム・タッチで貫き通しているのが本作の美徳で、これによって悲壮的エモーションは否応にも高まっていくのでした。

本作は藤元監督が実際に女性ミャンマー人技能実習生からのSOSメールを受け取ったことから着想された、いわば実話を基にした作品でもあります。

日本人が日頃なかなか気づくことのない自国の闇の中で、もがき苦しみながらも希望を捨てまいとする異国の人々の想いに、私たちは今後どれだけ真摯に向き合っていくべきなのか、その答えを示唆し、導いてくれる“海辺の彼女たち”の姿が、実は世界的な差別と偏見が色濃くはびこり始めた昨今、決して他人事ではないことも認識しておくべきでしょう。

なお、現在の日本は世界4位の移民大国となっています。

(文:増當竜也)

–{『海辺の彼女たち』作品情報}–

『海辺の彼女たち』作品情報

ストーリー
ベトナムからやって来た3人の女性たち、アン(フィン・トゥエ・アン)、ニュー(クィン・ニュー)、フォン(ホアン・フォン)。彼女たちは技能実習生として3ヶ月間働いていたが、ある夜、搾取されていた過酷な職場から脱走を図る。3人は、新たな仕事を斡旋するブローカーを頼りに、雪深い港町に辿り着く。不法就労という状況に不安を募らせながら、故郷にいる家族のために懸命に働き始める。しかし、安定した稼ぎ口を手に入れた矢先、体調を崩したフォンが倒れてしまう。アンとニューは満足に仕事ができないフォンを心配して、身分証もないまま彼女を病院に連れていく。そこで、フォンはある秘密を打ち明ける……。 

予告編

  
 
基本情報
出演:ホアン・フォン/フィン・トゥエ・アン/クィン・ニュー ほか
 
監督:藤元明緒

製作国:日本