『スプリー』レビュー:SNS時代の闇を撃つ、ブラックにも程がある狂気のコミカル・スリラー!

映画コラム

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

本作の内容を簡単に言ってしまうと、殺人をライヴ映像で配信していくというものですが、その理由が自身の映像配信のフォロワー数が全然増えないから、というところにSNS時代ならではの大きな闇の深さを痛感させられます。

ただしそんなことをすれば、すぐに警察に捕まってしまうだろうに……といったこちらの懸念は、主人公カート(ジョー・キーリー/怪演!)のノーテンキなまでの明るさがもたらす気持ち悪さによって、徐々に払拭されていきます。

そう、この青年、フォロワー数や「いいね」の数にさんざ振り回され悩んだ挙句、自分でも気づかないうちに完全闇落ちしちゃったのだなと、映画が始まって5分もすると大概の人は気づいてしまうことでしょう。

そして、もはや自分が捕まることなど考える由もなく、ひたすら「数字」に基づく人気取りの虜になって殺戮を繰り返していく彼の狂気も狂気なら、それらがまったくネット上で話題に上がらないのも、ある意味悲劇的すぎる!?
(そもそも配信を見た人たちも、誰も本物の殺人だと思っていない)

これまた彼のあまりの人気のなさを裏付けるものとして、笑ってはいけないと思いつつ、ついついクスッとなってしまうこちらもきっと、どこかでSNSの毒に侵されてはいるのでしょう。

このように本作はブラック・コメディ色を強調しながら、現代社会の闇を明るく楽しい狂気の発露をもってスリリングに描出していきます。

さすがにこのような極端なことまでは起こさないにしても、実際映像配信を含むSNSにはまっている人の大半は、フォロワー至上主義や「いいね」至上主義、ギフト至上主義などに振り回され、それゆえのトラブルを体験したこともあるかと思われます。
(余談ですが、以前ものすごく綺麗なおねえさんがライヴ映像配信中に「無料ギフトなんか邪魔だから、有料ギフトをどんどん私にちょうだーい!」などとシャウトしまくっているのをスマホの画面から目の当たりにして、すっかり心萎えるとともに、思わず『金色夜叉』の寛一お宮を思い出してしまったことがありました)

また後半は要所要所で意表を突いた展開にもなっていきますので、それらの創意工夫もお楽しみくださいませ。

『アイ・フィール・プリティ!』(18)などのサシーア・ザメイタや『スクリーム』シリーズ(96)などのデヴィッド・アークエットなどなかなか通好みのキャスティングが組まれている中、リチャード・アッテンボロー監督の遺作『あの日の指輪を待つきみへ』(07)ヒロインを務めたミーシャ・バートンが「えー、そんな役で!?」といった出演をしているのに心の衝撃を抑えつつ……(一時期かなりトラブルメーカーでもあったようですね。今は知らないけど)。

(文:増當竜也)

–{『スプリー』作品情報}–

『スプリー』作品情報

ストーリー
母親と二人暮らしのカート・カンクル(ジョー・キーリー)の夢は、ソーシャルメディアで注目を浴びてスターになること。だが、現実はうまくいかず、ぱっとしない生活を送っている。カートはスプリーというライドシェアアプリで運転手の仕事をしながら、ライブストリーミングで注目を集めようと、“ザ・レッスン”という生配信を思いつく。それは、乗客を殺害してその様子を配信するというおぞましいアイデアだった。カートは客を乗せると、仕込んであった毒入りの水で殺害することに成功するが、配信はまったくバズらない。もっと過激な映像で視聴者を見返してやろうと意気込んだ矢先、有名コメディアンでフォロワーを多数抱えるジェシー・アダムス(サシーア・ザメイタ)が客として乗車してくる。カートは拡散を依頼するが、常識外れな相談に同意するはずもなく、ジェシーは憤慨して途中下車してしまう。日が暮れて、イケイケのパーティーピープル3人を乗せると、カートは思惑通り派手に殺害する。しかし、配信は盛り上がらず、退屈だというネガティブな反応にカートは憤りを隠せない。すると、昼間乗せたジェシーが数百万人視聴するライブストリーミングに出演することを知り、配信ジャックを画策する。道中で、ライブストリーミングをシェアさせて拡散を依頼していたインフルエンサー、ボビーの元を訪れると、協力する気のないボビーを口論の末に銃で殺害する。しかし、ライブストリーミングを開始していたボビーの方がバズり、カートに対しては下らないフェイクだと誹謗中傷が殺到する。カートは乗客のみならず、拡散に協力しないインフルエンサーや視聴者にまで怒りの矛先を向ける。カートは追跡を逃れながら、ジェシーの元へと車を走らせる……。 
 
予告編

            

基本情報

監督:ユージーン・コトリャレンコ

声の出演:ジョー・キーリー/サシーア・ザメイタ/デヴィッド・アークエット/カイル・ムーニー/ミーシャ・バートン ほか
 
製作国:日本

公開日:2021年4月23日

上映時間:93分