短文レビュー『アオラレ』:トラウマ級の恐怖で伝える運転マナー啓蒙映画

映画コラム

全ドライバーの83.1%が経験しているといわれる“あおり運転”を題材に、地上版『JAWS』と名付けたい恐怖の怪作が誕生してしまいました…。
これ、トラウマ映画の称号を認与えます。

「たった一度のクラクションが、すべてを変える――」
子供を送り届けるため車を走らせるシングルマザーが、見知らぬ男と信号を前に言い合いになり、青信号でも停車したままの男の車に対し、クラクションを鳴らして追い抜いたところから、物語は一気に加速します。

「運転マナーがなっていない」
と告げた男は、その後狂ったようにあおり運転で追い回していきます。
果たして彼女は逃げ切れるのでしょうか。

車に乗っても、車から降りても息つく間もなく上映時間ずっとシンプルにただただ怖いです。
体感温度的にはマイナス8度くらい下がります。

映画を見ていると「もし自分がこの状況にいたら」と考えることが時たまありますよね?

今回の映画では恐怖具合がマックスで自分に置き換えて考えることが耐え難く、筆者の思考を停止させてしまったほど。

古くは『駅馬車』、スピルバーグの『激突!』そして『マッドマックス 怒りのデスロード』などと同様の”逃げる”というシンプルな映画の基本的なプロットこそ、面白くなければ集中力が続きません。

そこに本作はサイコパス殺人鬼要素、親子愛要素などなどをブレンドさせていますが特筆すべきはラッセル・クロウの怪演がギラギラとザラザラとした質感で迫ってくるという点。

どこから出てくるか、次の行動が何か、そのあたりの一切の予想がつかず、どことなくサメ映画の傑作『JAWS』がちらつきましたが、なんと本作の監督自身もジョーズをイメージしながらラッセル・クロウの演じる名もなき男のキャラを構築したそうです。

しばらくクラクション、車の音に恐怖心すら芽生えました。

が、ただ怖がらせるだけでは終わりません。
そこが本作の立派なところと言えます。

運転する人間にとってマナー部分の啓蒙を促す映画としても仕上がっているんです。
それは見てのお楽しみ。

エンタメホラーと社会的メッセージを絶妙な塩梅で組み込んだ本作に、拍手を送りたい。

(文:東紗友美)

–{『アオラレ』作品情報}–

『アオラレ』作品情報

ストーリー
美容師として働くシングルマザーのレイチェル(カレン・ピストリアス)は、今日も朝寝坊してしまい、慌てて息子のカイル(ガブリエル・ベイトマン)を学校へ送り届けながら職場へ向かう。ところが、高速道路は大渋滞。度重なる遅刻がたたり、クビを言い渡されてしまう。最悪の気分のまま、赤信号で停止するが、青信号に変わっても前の車が発進しない。クラクションにも反応しないことにイラついたレイチェルは、思わず追い越してしまう。すると、その車を運転していた男(ラッセル・クロウ)が、“運転マナーがなっていない”とクレームをつけ、謝罪を求めてくる。それを拒否して車を出すレイチェル。話はそれで終わったかに思われたが、息子を学校に送り届けた後、立ち寄ったガソリンスタンドの売店で、その男に尾行されていることに気づく。さらに、店員から“あおり運転の常習犯”と警告を受けたレイチェルが車に戻ると、ある異変が……。だが、時すでに遅し。信じられない執念に駆り立てられた男のノンストップの“あおり運転”が、レイチェルに襲い掛かる……。

予告編

基本情報
出演:ラッセル・クロウ/カレン・ピストリアス/ガブリエル・エイトマン/ジミ・シンプソン/オースティン・マッケンジー

監督:デリック・ボルテ

公開日:2021年5月28日(金)

製作国:アメリカ