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2021年4月9日より公開となる映画『椿の庭』は昭和、平成、令和と3世代の女性たちの生きざまを描いた人間ドラマで、このうち平成の女性を代表しているのが鈴木京香です。
彼女が演じるのは、母・絹子(富司純子)と亡き長女の娘・渚(シム・ウンジョン)のことを何かと気にかける次女・陶子。
一見、祖母と孫の関係性をメインに据えつつ、陶子の存在こそがお互いのさりげない架け橋にもなって、作品世界よりふくよかなものにしてくれているのも確かです。
今回は、そんな鈴木京香のこれまでのキャリアの中から独断と偏見で好きな作品を選ばせていただきました!
デビュー作『愛と平成の色男』から『39』までの森田芳光監督作品
鈴木京香の女優デビューは1989年、森田芳光監督の映画『愛と平成の色男』です。
この後、1991年のNHK朝のテレビ小説「君の名は」ヒロインに大抜擢されて一躍お茶の間の人気を得た彼女は、1992年に再び森田監督の『未来の想い出―ラストクリスマス―』に出演。
どちらも助演としての登板ではありますが、そこからさらに女優として飛躍していく鈴木京香を森田監督はさらに注目し、堂々主演に起用したのが1999年の『39 刑法第三十九条』でした。
心神喪失者の罪は問わないという、刑法第三十九条をモチーフにしたサスペンス映画。
司法精神鑑定人助手の小川香深(鈴木京香)が、ある殺人事件の容疑者(堤真一)が犯行時に心神喪失していたと鑑定された事に疑問を抱き、真相を追い求めていく姿をサスペンスフルに描いていきます。
「銀残し」というフィルムの現像技術を用いて色彩を抑えた映像や、見る側に不思議と不安を煽らせる画面構図、そして誰一人として正常な雰囲気の者がいないかのようなキャラクター設定など、森田監督ならではの才気あふれる作品として大いに屹立。
そして鈴木京香は本作でキネマ旬報賞やブルーリボン賞の主演女優賞を受賞し、女優として大きくステップアップしていくのでした。
お宝映画『ゴジラVSビオランテ』『戦国自衛隊1549』
日本が誇る特撮怪獣映画シリーズ第17作目『ゴジラVSビオランテ』が1989年の暮れに公開されたとき、特撮ファンの間でひそかに話題を集めていったのが、豊原功補と共に自衛隊の対ゴジラ秘密兵器スーパーXⅡを遠隔操作するオペレーター役として出演していた鈴木京香でした。
当時映画出演2作目で、正直まださほど巷に知られた存在ではなかった彼女でしたが、インターネットがなかった時代にも拘らず「あの美女は誰だ?」とばかりに、ファンの間で徐々に口コミが広がっていったのです(そんなにアップで映っているわけでもないのですが、さすがはゴジラ映画ファンのツワモノたち!?)。
その数年後、彼女がNHK朝のテレビ小説「君の名は」に主演したとき、相手役が「仮面ライダーBLACK」2部作(87~89)の倉田てつをだったこともあって、本作がオンエアされたときはゴジラ・ファンとライダー・ファンの双方がテレビにくぎ付けとなっていたものです。
そして21世紀のミレニアム・ゴジラ・シリーズを多く演出した手塚昌明監督は『戦国自衛隊1549』(05)でヒロインの陸上自衛隊研究本部所属の神崎怜2尉の役に鈴木京香を起用。
それは明らかに『ゴジラVSビオランテ』の印象あってのキャスティングであることは一目瞭然でした。
–{平成の原節子としての『119』と「娘の結婚」}–
平成の原節子としての『119』と「娘の結婚」
鈴木京香が「君の名は」で一躍有名になった1991年に『無能の人』で映画監督としてデビューし、高い評価を得たのが今もマルチな才能を発揮し続け、監督最新作(山田孝之&齋藤工と共同)『ゾッキ』も公開中の竹中直人です。
そして彼は監督第2作『119』で、鈴木京香を堂々ヒロインに抜擢しました。
一度も火事が起きたことのない街の消防署を舞台にしたこの作品、鈴木京香は突然町に現れた謎の美女を演じています。
竹中監督は小津安二郎監督作品の原節子のイメージをこのヒロインにだぶらせつつ、コミカルベースな集団劇の中に、小津映画へのオマージュを厳かに展開。
それは「鈴木京香こそは平成の原節子である」と言わんばかりの美しい佇まいで、この作品で彼女は第7回日刊スポーツ映画大賞新人賞を受賞しています。
(残念ながらこの作品、権利の関係でDVD以降のソフト化が未だに成されておらず配信もされていない幻の作品と化しています。ただし劇場での上映は問題なく、数年前に目黒シネマで上映が行われたときは鈴木京香も含むスタッフ&キャストが集まり、場内にて賑やかな同窓会を繰り拡げていました)
それから時を経ての2002年、小津安二郎監督の名作『晩春』が市川崑監督のメガホンで「娘の結婚」というタイトルでTV映画化されましたが、このときオリジナルで原節子が演じていたヒロインを務めたのが鈴木京香でした。
この「娘の結婚」、時代設定を現代に直している以外、何と『晩春』のシナリオをほとんどそのまま使用するという、ある意味実験的な作品でもあり、その意味でも鈴木京香の任は重かったと思われますが、彼女は真摯に“平成の原節子”を演じ切ることで期待に応えてくれました。
『ラジオの時間』『清須会議』三谷幸喜とのさまざまなコラボ
鈴木京香が初めて三谷幸喜作品に出演したのは、彼が脚本を記したTVドラマ「王様のレストラン」(95)です。
以後、彼女は三谷作品の常連キャストとして数々のドラマ&映画に出演しています。
三谷監督の映画監督デビュー作『ラヂオの時間』(97)では自分の書いた入選シナリオがどんどん現場で変更されていくことに戸惑う気弱な主婦を可愛らしく好演。
三谷脚本、市川準監督の映画『竜馬の妻とその夫と愛人』(02)では竜馬の妻おりょうに扮し、第15回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎主演女優賞を受賞しています。
三谷幸喜のTVドラマ初監督作品「short cut」(11)では、何と全編通して1シーン1カット撮影で、口喧嘩しながら山道を歩き続ける夫婦役で中井貴一と共演(このふたり、三谷作品ではありませんが2020年の「共演NG」なる仰天タイトルのラブコメTVドラマでも“共演NG”同士の俳優役として共演してましたね)。
三谷脚本の「新選組!」(04)のお梅、「真田丸」(16)の北政所も好演でしたが、時代劇映画『清須会議』(13)での羽柴秀吉への復讐に燃えるお市の方も、意表を突いたお歯黒メイク姿とともにインパクトがありました。
戦争と向き合う『男たちの大和』『お母さんの木』
終戦60周年記念として製作された佐藤純彌監督の戦争映画超大作『男たちの大和/YAMATO』(05)の中で、鈴木京香は現代パートに登場。
戦艦大和の乗組員だった義父の遺骨を海に埋葬すべく大和の沈んだ海域まで小船で赴く女性・内田真貴子の役で、当時の彼女は実在のモデルよりも年齢がかなり若かったのですが、時代を越えたミューズ的存在として真貴子を捉えたいという佐藤監督のニーズに見事に応えた好演でした。
そして10年後の磯村一路監督作品『おかあさんの木』(15)で、鈴木京香は戦時中7人の息子(養子に出した一人も含む)を戦地に送り出すもことごとく戦死もしくは行方不明となり、それでも戦後ずっと彼らを待ち続ける悲劇の母親を熱演。
子どもたちが出征するごとに桐の木を庭に植え、その木を我が子代わりに語りかけていく母の想いは、反戦の想いと直結しながら切々と現代の観客に訴えかけてくれるのでした。
なお彼女はこの前年の2014年度・第69回毎日映画コンクールで田中絹代賞を受賞しています。
以上、ほんの一部のキャリアではありますが、これらを機に鈴木京香の最新映画『椿の庭』や他の作品にも興味を持っていただけたら幸いです。
(文:増當竜也)