公開前夜
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がまず動き出したのが2015年、ゴジラ映画の新作(=のちの『シン・ゴジラ』と共に制作している旨が語られました。翌年2016年には『シン・ゴジラ』の完成報告会見の場で庵野秀明総監督によって併せて『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の制作中であることと、進捗が当初の予定より大きく遅れていることへの謝罪の言葉が語られました。
本格始動は2018年7月20日。映画『未来のミライ』の公開に合わせて事前告知なしで予告編が投下されました。これ以降も『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は“まず告知の第一歩は映画館で”という映画館第一主義を貫いていくことになります。
翌2019年7月6日には「0706作戦」[25]と称されたイベントにて、「シン・エヴァンゲリオン劇場版 AVANT1(冒頭10分40秒00コマ)0706版」(EVANGELION:3.0+1.0 -LE FILM AVANT 1 (Du début Jusqu’à 10:40) Version 0706)と題されたアバンタイトル10分40秒分が、パリのJapan Expo、ロサンゼルスのANIME EXPO、上海、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡にそれぞれ会場を確保したうえで世界同時上映され、LINE LIVEでも生配信されました。直後の7月19日には『天気の子』の公開に合わせて新たな予告編が投下され、公開日が2020年6月(のちに6月27日)となることが発表されました。
しかし、2020年になると新型コロナウィルスの感染が拡大し、最初の緊急事態宣言が発令されたりと混乱が拡がります。そんな中で『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はこの影響のために6月27日の公開を延期することを決定します。その後、2020年10月16日『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の公開に合わせて予告編第3弾が公開され2021年1月23日の公開が発表されました。2020年末には宇多田ヒカルの新曲「One Last Kiss」がメインテーマソングに決定したほかIMAX、MX4D、4DXでの公開も決まりました。
しかし、しかし年が明けた20201年1月初頭に新型コロナウィルス感染の再拡大による2回目の緊急事態宣言が発令され、またもや1月23日の公開はさらに延期されることに。
この時は事前に『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 DEATH (TRUE)2 / Air / まごころを、君に』、や『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を庵野総監督全面監修のもと、2Kフルサイズで全カット再撮影したIMAX版『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333 YOU CAN (NOT) REDO.』がリバイバル上映されたり、金曜ロードSHOW!で『序』、『破』、『Q』が放映された入りと1月23日に“全集中”モードでした。
しかしながら公開延期。入念に配された事前の準備がすべて吹っ飛んでしまいました。この影響は映画業界的にも決して小さなものではありませんでした。
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–{Withコロナ体制の公開初日決定!}–
1月23日公開延期ショックと驚きのWithコロナ体制の公開初日決定!
映画の公開というものは他社の作品、同系統・同ジャンルの作品との競合を常に頭に入れながら編成していくものですが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開されれば大ヒットすることは間違いなく、多くの作品が1月23日以降の競合を避けていました。
日本映画史上最もヒットした映画となった『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』と比べて考えてみても、過去のシリーズのヒットという実績があるという意味では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の方が『鬼滅の刃』以上に確実にある程度の大ヒットを計算できるタイトルとしてとらえられていました。
ところが、そんなビッグタイトルの公開延期。結果として同時期公開の映画の並び大きな穴がぽっかりと空き、明らかに“弱い”モノとなってしまい、映画興行自体が下火になってしまいました。『花束みたいな恋をした』の興行収入27億円、動員200万人突破というサプライズヒットはありましたが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の穴を埋めるほどではなく、エヴァンゲリオンの穴はエヴァンゲリオンでしか埋められないことを露呈しました。
こうなると、次の公開日がいつかと言うことが注目を集めます。映画の公開日の設定は前後の作品との競合を避けるといいましたが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開日の再設定には多くの競合作品の存在がどうしても目についてしまうようになりました。先の公開作を見渡すと4月16日からは一年のお休みを経て公開される『名探偵コナン緋色の弾丸』、翌週4月23日には大ヒットシリーズ第4弾『るろうに剣心最終章The Final』、29日はマーベル大作『ブラック・ウィドウ』、GWを挟んで5月7日にはアニメ大作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』、5月14日には『ゴジラVSキングコング』がそれぞれ公開待機中となっています。
さらに、初夏扱いで『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の総監督・庵野秀明が脚本を担当した『シン・ウルトラマン』、さらにさらに細田守監督の新作アニメーション『竜とそばかすの姫』が控えています。さすがに『シン・ウルトラマン』より後に『シン・エヴァンゲリオン劇場版』がされるわけにはいきません。
結果、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が選んだ日付が2021年3月8日月曜日でした。これは緊急事態宣の(当初の)終結予定日の翌日でした。改めて宣言の延期が決まり、当初の想定とは変わりましたが、1月23日の公開延期を決めたときに“共に乗り越えましょう”というメッセージを出しただけあり“Withコロナ体制”でいくことを『シン・エヴァンゲリオン劇場版』公開日という形で示したことになります。
ただ、やはり月曜日を初日すると言うことは異例中異例であることは確かなことで、本当に驚かされました。
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–{コロナ禍を活かした「鬼滅」、泣かされた「シン・エヴァ」}–
コロナ禍を活かした『鬼滅の刃』、泣かされた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の記録的な大ヒットは、その前の時期に、コロナ禍による映画の公開延期・公開縮小が続き作品が少なく映画館の上映枠が大きく空いていたことをフルに活かしたことが大きな要因と言えるでしょう。
『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の公開初日、都内のシネコンでは一日40回以上の上映回数を確保し劇場をフル回転させました。対して『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の上映回数は約半分。すでに映画館が動き出している中で、しかも1都3県には20時制限もある中で、最大限の上映枠を確保したと言えるでしょう。
コロナの大きな波の直後というタイミングを得た『鬼滅の刃』はその空白を最大限に生かして大ヒットとなりましたが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はコロナの波のど真ん中に身を置き続けることになってしまい、つくづく巡り合わせの悪さを感じます。
庵野秀明総監督で言えば2016年に手掛けた『シン・ゴジラ』が大ヒット間違いなしと思ったら、直後に公開された『君の名は。』の“まさかの社会現象化”で大ブレーキを喰らった経験もありました。映画興行の抗えない難しさを感じる部分でもあります。
覚悟と落とし前
結果として日程的な興行の不利を抱え続けてしまった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ではありますが、その一方で、緊急事態宣下終結予定日の翌日になるはずだった3月8日に初日を据えたこと、興行的には不利になる平日・月曜日公開を断行したことに庵野秀明総監督と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の覚悟を感じます。
劇中でも何度も“覚悟”と“落とし前”という言葉が飛び交いますが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はまさに25年間の“エヴァンゲリオン”を終わらせるという覚悟を感じさせる映画でした。
例えば『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の上映時間。シリーズ最長の2時間35分。これまで2時間を超えた“エヴァ”の映画は一本もありませんでした(『シト新生』1時間39分、『Air/まごころを君に』1時間27分、『序』1時間38分、『破』1時間48分、『Q』1時間35分)。『Q』から比べるとなんと『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が上映時間を1時間も増加させてきました。これは明らかに“語り切る”ことの“覚悟”の現れと言えるでしょう。
そして9年ぶりの完結編『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は様々な苦難を乗り越えたうえで“覚悟”をもって“落とし前”をつけるべく2021年の3月8日月曜日に全国公開されました。
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–{待ちに待った初日3月8日}–
そして、公開へ。待ちに待った初日3月8日
そして待ちに待った公開日3月8日を迎えました。インターネットでの販売が3月5日午前0時に解禁されるやいなやIMAXシアターの上映回などでは早々に完売も出るなどチケット争奪戦が勃発。「公開初日は、おおよそ普通の平日である月曜日の映画館の状態ではありえないことが起きているだろう」ということを予想しながら映画館へ向かいました。
私が向かったのは映画館はTOHOシネマズ新宿。『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』公開の時には40回以上の上映回数を確保して、大ヒットの震源地の一つとなったシネコンです。私は『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』もこのTOHOシネマズ新宿で初日に見ており、「鬼滅と比べて『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はどんなことになっているのだろうか?」という想い持ちながら映画館に足を踏み入れました。ちなみに、今回TOHOシネマズ新宿は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に全国でも最多クラスの20回ほどの上映回数を確保しています。場外の電光掲示板でのタイムスケジュールをみると半分ほどの回が完売、残りの回も残りわずかという表記が出ていました。
劇場での肌感覚
いざ、劇場に入ると、そこは“3密回避”も何もあったものではないというほどの混み具合。立錐の余地もないというのはこういう時に使う言葉なのでしょう。グッズショップの列はロビースペースに延々と連なり、これに入場を待っている人たち、チケット購入・発券の人たちの列が重なり、一見すると「ロビーにできているこの列は何の行列なのか?」と思ってしまうほどでした
開場となりましても通常の導線だけでは賄えず、非情階段を開放するなどして対応。入場者プレゼントを渡しながら観客を入場させるために、劇場に入る前にここでも行列ができるという事態が発生。劇場入り口を前にして中に入れないという状態が予告編が流れ始めても続きました。この差は土日と平日のスタジオスタッフの配置量の差などもあるのかもしれませんが、こんな大混乱は過去にさかのぼってもちょっと見たことがありませんでした。
今回私は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を2回続け見ました。何せあの“エヴァ”の新作で完結編なので一回見ただけではわからないことが多いのではと思ったからです。このことは作品の理解と同時に初日の凄まじい混み具合を終日、目撃し続けるということにもなりました。
結論から言えばあくまでも個人的な肌感覚ではあります上映回数に違いはあれど、観客の量と熱に関しては『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は決して『劇場版 鬼滅の刃無限列車編』に負けていないと感じました。むしろ、上映回数のことを考えると約半分の上映回数で『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』に匹敵する観客の盛り上がりと熱量を持った初日を『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が迎えたことは特筆するに値するといっていいでしょう。
日本の祝祭日ではない月曜日で考えると史上最も映画館が混んだ月曜日になったと言っても言い過ぎではないと思います。
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–{『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー}–
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』レビュー
先にも書いた通り、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は“覚悟”と“落とし前”をしっかりと感じることができる映画となっていました。
映画は大きく分けて三幕構成(序破急)と言えるでしょう。
公開前日に解禁されたタイトルまでの12分間から、意外な人物の意外な登場から始まる第一幕は、牧歌的なシーンもふんだんに描かれ細かい笑いとファンへのサービスとサプライズに溢れていました。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(と『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の終盤)ではある種の混乱と絶望感だけをファンに与えた形になりましたが、この『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の第一幕ではそんな見てきた人間の心を思わぬ形で穏やかにするエピソードが続きます。ここで碇シンジの再生が描かれます。
基本的にテレビシリーズからずっと傷つき続けてきた碇シンジ。その都度、様々な究極的な事態に直面することで自分の意思を強く持ち直し続けてきましたが、今回の心の再生はどこかそういった“力技”ではない形の再生という感じがします。この第一幕のファンサービス&サプライズは25年間“エヴァ”を追いかけてきた人たちへのささやか返礼であり、次の第二幕へつなぐためのアイドリングとなりました。
続く第二幕は“エヴァ”がロボットアニメ、SFアニメであることを再確認させてくれる、アクションパート。『宇宙戦艦ヤマト』から『機動戦士ガンダム』を経て確立されてきた“ロボットアニメの盛り上がり”を『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ではこの第二幕に据え、映画全体に躍動感を与えました。
この第二幕で描かれる人類の未来をかけたヴィレVSネルフの総力戦は、ド迫力の一言。劇場第一主義を貫き通して、大画面で見てもらうために創られたシーンといっていいでしょう。実際、ここでのテンポアップと勢いの加速があることで、結果2時間35分の映画を全く弛緩することなく見続けることができる構造になっています。
そして、やはり“エヴァ”と感じ第三幕。一幕目でも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に登場しなかった人たちが多数登場しますが、こちらの第三幕でも新事実・新アイテムがどんどん出てきます。しかし、見ている人間を“煙に巻く”という語り方ではなく、物語の核心(核“新”&核“シン”)に迫った結果というふう私は感じました。
そして、最終盤でテレビシリーズの第1話から常に語られ続けられてきた碇シンジと碇ゲンドウ父子の総括に物語はシフトしていきます。さらに庵野秀明総監督とこれまで“エヴァ”を見続けてきた人たちへの心の収束と解放へ向かっていくというに構造には見事なまでに“しっくり”と来るものがありました。
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–{活かされた『シン・ゴジラ』の経験}–
活かされた『シン・ゴジラ』の経験
冒頭の公開前夜の項で『シン・ゴジラ』について触れました。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で脚本・原作・総監督他を務めた庵野秀明監督が、総監督と脚本を務めた2016年の特撮大作映画です。この『シン・ゴジラ』は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』後の期間の間に作られた映画です。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を見終わって感じたことは『シン・ゴジラ』で庵野監督は自身の世界観・思想・信条とエンターテイメント性との両立について多くのことを学び自身の血肉としたのだなということです。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と『シン・ゴジラ』ではアニメと特撮の差異はありますが、どちらも壮大な“架空”の映像化であることは変わりません。
この“架空”をリアルに着地させた見せ方についてこれまでの“エヴァ”、テレビシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」と比較したときはもちろん、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、『破』、『Q』映画版3作と比較しても、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は格段に、伝わりやすさと分かりやすさが増しています。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は上映時間に比例して情報量が多く、しかもテンポの速いということもあって、正直2回見ただけではすべてを把握できているわけではないものの、映画を見終わった後には高い充足感と満足感が残りました。
『シン・ゴジラ』を経て作られた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は“エヴァ”を“語り切る”と同時にちゃんと“見せ切る”という強い意志を感じることができる映画に仕上がっています。ちなみに『シン・ゴジラ』で採用したプリヴィズ(Pre Visualization:完成映像を制作する前にあらかじめ簡易なCGや模型などを使用して完成形を想定するシミュレーション映像)を経てから絵コンテを作るという方法を『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でも採用しています。そういう意味でも『シン・ゴジラ』は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の血肉となっていると言えるでしょう。
特撮のノウハウをアニメーションに持ち込み実写を撮るような体制でアニメーションを撮るということも『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の異例な点の一つと言えるでしょう。
『シン・ゴジラ』から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』への庵野秀明総監督の進化をみるとこの夏に公開予定の『シン・ウルトラマン』も俄然楽しみになります。
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–{ 異例の尽くしの配給体制}–
異例の尽くしの配給体制
異例と言えばこんなところも異例です。映画には配給会社という作品(制作)と劇場(興行)を繋ぐモノがありますが、“エヴァ”の映画は毎回配給会社(配給体制)が違っています。こんなこともなかなかありません。
最初の映画1997年3月公開の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』と7月公開の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に』は東映が配給しました。
10年後の2007年9月公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』と2009年6月公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は庵野秀明総監督が新たに設立した制作スタジオカラーとクロックワークスの共同配給。そして、2012年の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』はカラーと東映系列のティ・ジョイの共同配給。そして、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は東宝と東映とカラーの三社の合同配給です。
一つの作品を共同配給するということ自体が珍しいことなのですが、東宝、東映、松竹という邦画メジャーが共同で一つの作品を配給するということはかなりレアで、このこと自体も業界内ではちょっとしたサプライズでした。
配給体制が強固なものになれば映画は多くの恩恵を受けることができます。例えば公開規模と公開体制の確保や拡大についてです。3月8日月曜日という前代未聞の初日を設定できたのも今回の東宝・東映・カラーという大型共同配給網によるところが大きいと思えます。
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–{ 異例の初日の数字~碇シンジは“何億の男”になるのか?}–
異例の初日の数字~碇シンジは“何億の男”になるのか?
そんな中で初日、2021年3月8日月曜日の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の興行収入と観客動員の数字が発表されました。
興行収入は2012年に最終興行収入52.6億円、観客動員382万人を記録した前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の初日の数字を大きく上回る興行収入8.2億円(対『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』比123.8%)、観客動員53万人(対『Q』比121.7%)を記録しました。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は9年ぶりの新作であり、25年に及ぶシリーズの完結編でもあるために当然のごとく大ヒットを記録することは想像できたので、この数字は驚くと同時に納得の数字でもあります。
しかし、ここは強く言っておきたいことですが、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の数字は2012年11月17日“土曜日”の数字であり、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の数字は2021年3月8日“月曜日”の数字であることです。
映画の公開日の平日初日ということでは2018年の春ごろから金曜日に公開初日を設定するようになってきていますね。これは生活様式の変遷から、いわゆる“週末”を金曜日からカウントるようになったことと、その考えを促進することの一環でもあります。
これまで公開初日の金曜日で最も稼いだ映画は(やはりと言うべきか)『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(興行収入12.6億円、動員91万人)です。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の月曜日の数字はこの『鬼滅の刃』に続く記録となりました。しかし何度も言いますが『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の初日は平日であると同時に月曜日です。祝祭日でもない限り最も映画館が混まない曜日で、歴代2位の数字を叩き出した『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の興行力・ポテンシャル、そして何よりファンの熱意はすさまじいものがありますね。
初日の数字から見える展望
この初日の数字を(平日・土日であること無視して)これまでのヒット作と比較してみます。そこから『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のこの先に見える数字を予想できるかと思います。今回ピックアップした作品と数字は以下の通りです。現在興行収入380億円を超えて、日本記録を更新し続けている『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の初日の数字、興行収入12.6億円、観客動員91万人(やはり破格です)。最終興行収入141億円を記録した2019年の大ヒット作『天気の子』の初日の数字、興行収入4.6億円、動員32万人(実は初動だけ見ると『君の名は。』を上回る数字でした)。そして同じく2019年に公開され最終興行収入93.7億円を記録した大ヒットシリーズ23弾でシリーズ最高記録を更新した『名探偵コナン紺青の拳』の初日の数字、興行収入4.2億円、観客動員31万人です。
これを『シン・エヴァンゲリオン劇場版』初日の興行収入8.2億円と観客動員53万人という数字と比較していきます。対『鬼滅の刃』で興行収入で65%、観客動員で58%となります、さすがに『鬼滅の刃』と比べると分が悪いですね。
しかし『天気の子』と比べると興行収入で178%、観客動員で165%、『名探偵コナン 紺青の拳』と比べると興行収入で195%、観客動員で170%の数字となっています。この数字だけ見てもまず少なくとも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の数字を超えて“エヴァ”映画史上最大のヒット作になることは確実と言えるでしょう。
また90億円以上を稼いだ『コナン』、140億円を超えてきた『天気の子』と比べても『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は数段ギアの違うレベルのロケットスタートを切っているので大台(=興行輸入100億円)突破へ視界は良好といったところでしょう。
→『シン・エヴァンゲリオン劇場版』より深く楽しむための記事一覧
–{碇シンジ“100億の男”への勝負の1ヶ月}–
碇シンジ“100億の男”への勝負の1ヶ月
映画興行は基本、土日勝負(最近は金曜日含む)です。ここでどれだけ稼げるか、一般層の観客を取り込めるかで結果(=興行収入)が左右されます。
月曜日という異例の初日を迎えた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は3月11日現在のところまだ週末を経験していません。まるで、土日を経験してきたような数字を上げていますが、初めての週末は3月(12日~)13日・14日になります。『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』のヒットを伝えるニュースの中で興行収入100億円というのが大ヒット作品と言えるものの目安になっていることを見聞きした方もいらっしゃるかもしれません。『鬼滅の刃』の実質主役ともいえる煉獄杏寿郎を“〇〇億の男”にしよう!!というファンの行動・発言も記憶されている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
現在、日本映画史上で興行収入100億円の大台を突破した映画は邦画・洋画を含めて37本あり、この37本のタイトルはどれも記憶に残っているなと感じる作品ばかりです。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』はこの“文字通りの大ヒット”の目安となる100憶円映画を狙える存在です。しかし、その勝負はこれから1ヶ月次第となります。
“勝負の1ヶ月”という言葉はどこかで聞いたことがあると思いますが、まさに『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が100億円の大台をクリアできるかどうかはこれからの1カ月にかかっています。というのもこれから5回ある週末ではジャンルやアニメーションという点で競合する作品が少ないのです。
しかし6回目の週末(4月16日~)には『名探偵コナン 緋色の弾丸』が公開されます。前作2019年の『紺青の拳』で93.7億円という過去最高の興行収入を記録した“コナン”。新型コロナウィルスの感染拡大の影響を受け2020年は丸々お休みなりました。そして2年ぶりの新作として『緋色の弾丸』が公開、7作連続でシリーズ最高興行収入を記録し続けている“コナン”の新作。これもまた100億円を見据えてくることになるかと思います。
映画館の側も当然ヒットを見込める作品として上映枠も多く確保してくるであろうし、緊急事態宣言による夜間の時間制限もなくなることを考えると大ヒット間違いなしと思われます。さらに翌週末(4月23日~)に公開される『るろうに剣心最終章The Final』はIMAX、4DX、MX4D劇場での上映も発表され、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と競合することになります。ここでどうしても上映枠が一気に減ってくることが予想できます。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が“100億円映画”として有終の美を飾れるかどうかは4月の前半までの上映枠をどれだけフル活用できるかと言うことになるでしょう。
25年を経て
25年の時間を経て、“エヴァ”は完結を迎えました。基本的に同じ登場人物だけ(それはまた解釈がありそうですが)のストーリーで25年間駆け抜けたというのはなかなか無いシリーズです。『機動戦士ガンダム』は代替わりや違う世界感のものがありますし、強いて言えば『宇宙戦艦ヤマト』などが近いものかもしれませんが、様々な解釈を生み続けるという点では“エヴァ”は唯一無二の存在といっていいでしょう。
シリーズと物語はこれで終わりとなりますが、解釈と想像はこれからも無限に拡がっていくと思われます。最後の最後まで、ここまで“エヴァンゲリオン”(”ヱヴァンゲリヲン”)を貫き通した庵野秀明総監督とスタッフ・キャストには素直に敬意を表したいと思います。
“さらば”ではありますが、映画は公開されたばかり、まだまだ祭りは続きます。
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(文:村松健太郎)
–{『シン・エヴァンゲリオン劇場版』作品情報}–
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』作品情報
基本情報
総監督:庵野秀明
監督:鶴巻和哉/中山勝一/前田真宏
製作国:日本
公開日:2021年3月8日
上映時間:155分
配給:東宝=東映=カラー
予告編
スタッフリスト
企画・原作・脚本:庵野秀明
総作画監督:錦織敦史
作画監督:井関修一/金世俊/浅野直之/田中将賀/新井浩一
副監督:谷田部透湖/小松田大全
デザインワークス:山下いくと/渭原敏明/コヤマシゲト/安野モヨコ/高倉武史/渡部隆
CGIアートディレクター:小林浩康
2DCGIディレクター:座間香代子
CGI監督:鬼塚大輔
CGIアニメーションディレクター:松井祐亮
CGIモデリングディレクター:小林学
CGIテクニカルディレクター:鈴木貴志
CGIルックデヴディレクター:岩里昌則
動画検査:村田康人
色彩設計:菊地和子(Wish)
美術監督:串田達也(でほぎゃらりー)
撮影監督:福士享(T2 studio)
特技監督:山田豊徳
編集:辻田恵美
テーマソング:「One Last Kiss」宇多田ヒカル(ソニー・ミュージックレーベルズ)
音楽:鷺巣詩郎
音響効果:野口透
録音:住谷真
台詞演出:山田陽(サウンドチーム・ドンファン)
総監督助手:轟木一騎
制作統括プロデューサー:岡島隆敏
アニメーションプロデューサー:杉谷勇樹
設定制作:田中隼人
プリヴィズ制作:川島正規
制作:スタジオカラー
配給:東宝、東映、カラー
宣伝:カラー、東映
製作:カラー
エグゼクティブ・プロデューサー:庵野秀明/緒方智幸
コンセプトアートディレクター:前田真宏
監督:鶴巻和哉/中山勝一/前田真宏
総監督:庵野秀明