『ファーストラヴ』レビュー:堤監督作品の「闇」を巧みに引き出す芳根京子の存在感!

映画コラム

■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

島本理生の同名小説を堤幸彦監督のメガホンで映画化したサスペンス・ミステリ作品。

父親を殺した女子大生(芳根京子)の事件を取材する公認心理士(北川景子)が、夫(窪塚洋介)の弟でもある元恋人(中村倫也)が被告人の弁護士(中村智也)であることに驚愕しつつ、ともに真実を追求していくとともに、自分自身の過去と向き合っていくことになります。

登場人物個々の過去の記憶=心の闇にスポットを当てながらドラマが進んでいくので、最初は出来過ぎているように思えた人物関係の配置もさほど気にならなくなり、事件の真相への興味を増大させてくれる効果をもたらしてくれています。

「ケイゾク」(99)「TRICK」(00~03)などコミカルなサスペンスTVドラマで台頭してきた堤幸彦監督ですが、その本領は闇の描出にこそあり、本作も含めて最近はそうした資質をオープンにした作品が増えてきています。

もっとも、どんなドロドロした題材でも最大公約数的な観客のニーズに訴えるべく、どこかでその資質にストッパーをかけ、程よく見られる佳作の粋に留まってしまう感を受けてしまうのも個人的印象として偽らざるところ。

その意味では己の内に潜む闇と狂気をフルに全開させた堤作品を見てみたいという、そんな欲求に駆られてしまうのも確かなのでした。

ただ今回は、北川景子と中村倫也それぞれ柄にあった好演もさながら、そこにいるだけで闇とも負ともつかないオーラを発露し続けていくかのような芳根京子の存在感に目を見張らされます。

思うに彼女、シリアスなものからコメディまで常にチャレンジングな役柄に挑戦し続けている頼もしい若手女優であり、その資質と意欲が堤作品に内包する闇をいつもの数倍引き出してくれている感もありました。

監督と俳優のコラボがもたらす化学反応というものは、やはり確実にあるようです。

(文:増當竜也)

–{『ファーストラヴ』作品情報}–

『ファーストラヴ』作品情報

ストーリー
川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜(芳根京子)が逮捕された。殺害されたのは彼女の父親。「動機はそちらで見つけてください」と話す容疑者・環菜の挑発的な言葉が世間を騒がせるなか、事件を取材する公認心理師・真壁由紀(北川景子)は、夫・真壁我聞(窪塚洋介)の弟で弁護士の庵野迦葉(中村倫也)とともに彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねる。しかし、環菜の供述は二転三転し、由紀たちは翻弄され、真実が歪められてゆく。そんななか、由紀は環菜にどこか過去の自分と似た何かを感じ始めていた。やがて、自分の過去を知る迦葉の存在と、環菜の過去に触れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの“ある記憶”と向き合うことになる……。 

予告編

基本情報
出演:北川景子/中村倫也/芳根京子/板尾創路/石田法嗣/清原翔/高岡早紀/木村佳乃/窪塚洋介
 
監督:堤幸彦

製作国:日本

製作年:2021

公開日:2021年2月11日

上映時間:100分

製作会社:『ファーストラヴ』製作委員会(制作:角川大映スタジオ=オフィスクレッシェンド)

配給:KADOKAWA