『ビューティフルドリーマー』レビュー:オタク心満載の快作青春群像映画!

映画コラム

 (C)2020「ビューティフルドリーマー」製作委員会

とりあえず最初に言っておきますと、この映画『ビューティフルドリーマー』は映画ファン及びアニメ・ファン、そして押井守監督作品のファンは必見の作品です。

でも、このタイトルで押井守って、それはもしかして……“あの作品”の実写リメイク?

いや、そういうわけではないのです。

というか、何と言って上手く説明すればよいのでしょう……。

ただ、ひとつだけはっきり言えるのは、この作品、TV&映画『踊る大捜査線』シリーズ(97~12)で名を馳せた本広克行監督による青春群像映画としての新たな傑作であるということです!

まあ、要するに、そう、この映画……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街517》

大学映研の面々が、とある呪われた脚本を発見し、それで自主映画を作ってしまおうというお話なのですが、その脚本の中身というのが……!?

映研部室の片隅で発見された脚本『夢みる人』を映画化しよう!

 (C)2020「ビューティフルドリーマー」製作委員会

映画『ビューティフルドリーマー』の舞台となるのは、文化祭の準備に追われる先勝美術大学の映画研究会。

例年通り、作品の発表も展示も何もしようとしないグータラ部員たちでしたが、そのひとりサラ(小川紗良)は昨日見た夢に応じて部室の倉庫を散策し、古い段ボール箱を発見しました。

箱の中に入っていたのは、古い脚本と演出ノート、そして16ミリ・フィルム。
(ちなみに、今の映研部員はフィルムを扱ったことがないという描写も出てきます。時代の流れを痛感させられますね……)

脚本のタイトルは『夢みる人』。

そこにふらっと現れたOBのタクミ先輩(斎藤工)曰く、「この脚本で映画を撮ろうとすると、必ず何か恐ろしいことが起きるのだ」……。

要するに、今までOBたちが幾度も制作に挑戦しては完成させられなかった呪われた脚本『夢みる人』を、サラは何とか完成させてみようと、部員たちに訴えかけます。

かくして監督はサラ、プロデューサーはリコ(藤谷理子)、撮影はカミオ(神尾楓珠)、録音はウチダ(内田倭史)、衣装&メイクはシエリ(ヒロシエリ)、助監督その他雑用はモリタ(森田甘路)といった面々が担当し、オーディションでキャスト(秋元才加、池田純矢、伊織もえ、飯島寛騎、升毅など)を集めて、いよいよクランク・イン! したのです……が!?

–{オタク心をくすぐりながら青春の鼓動を見事に活写!}–

オタク心をくすぐりながら青春の鼓動を見事に活写!

 (C)2020「ビューティフルドリーマー」製作委員会

まず申しておきたいのは(こればっかり!?)、本作で描かれる世界観の中には“ビューティフルドリーマー”なるタイトルから連想される押井守監督の“あの作品”は存在しない、つまりはパラレル・ワールドとして設定されています……多分。

※既に大方の映画ファン&アニメ・ファンには、“あの作品”が何であるかはおわかりのことでしょうが、マスコミ用のプレスシートにはそのタイトル名が一切記されていないので、ならばこちらも面白そうなので伏せたままレビューしようと思います。

(ちなみに押井守は今回「原案」としてクレジットされています)

もう笑いと涙なくして見られないとは、この映画のことを指すといっても過言ではないでしょう。

もちろん、一応“あの作品”を知っている、もしくは見ているといった前提はあるにせよ、仮に見ていなくてもそれはそれで、1本の映画を作る上での撮影裏話的な興味を多分に抱かせるだけの面白エピソードが山のように盛り込まれています。

オタッキーな映画ウンチクや小ネタも満載ですが、全然嫌味っぽくならないのも本作の美徳のひとつでしょう。

『踊る大捜査線』シリーズで知られる本広克行監督は、一方では押井作品も含む大のアニメ・オタクであり、それが昂じてTV&映画で展開され続けるSFヴァイオレンス『PSYCHO-PASS』シリーズの総監督も務めています。

そんな彼だけに、ここでは“あの作品”が大学映研による撮影シーンを通して、ほぼほぼ実写としてチープながらもユニークに再現されていきます。

出色なのは、学校に出てこなくなった主人公らのクラス担任を保健室の先生(名前は“あやめ”さん)が訪ねる一連のくだりの撮影シーンで、「自主映画あるある」といった予算のなさを露にしながら、それでも構図から色彩から美術セットからカット割りまで、かなりのところまでの再現っぷりが実に楽しいのでした(また秋元才加が、あの先生を完璧に演じ切っている!)。

もう一事が万事この調子で、あの怪力美少女が目撃するイリュージョンの再現なんて、よくぞやったり!

漫画やアニメを原作とする実写映画が作られるたびにSNSで炎上しまくる昨今ではありますが、こういった作りなら多くのファンも納得でしょう。

その意味では実に上手いことを考えたものだなと、感服してしまいます。

しかしこの映画、そういった単なるオタクの再現お遊びの域を優に超越し、実は秀逸なところにまで達しているのが妙味でもあります。

そう、ここでは映画を撮影し続ける映研部員ひとりひとりの言動が巧みに活写されていることで、青春群像劇としても見事に屹立しているのです。

舞台の映画化『サマータイムマシーン・ブルース』(05)や、逆に自作映画『幕が上がる』(15)の舞台版演出も務めるなど舞台的な演出姿勢にも定評のある本広監督は、ここでは完全な脚本を作らず、荒筋だけで、後は現場での口頭の打ち合わせで芝居をまとめる“口立て”演出を成すことで、若い俳優陣のリアルな青春の息吹を引き出すことに成功しています。
(ちなみにこの作品、キャストの名前を役名に採り入れているのもミソ)

特に監督を務めるサラ役の小川紗良は、実際にインディペンデント映画の世界で監督として活動し、女優としても現在飛躍中で、今後が大いに期待できる逸材です(本作の中でも実に初々しい個性を発揮)。

映画&アニメ・ファンのオタク心を大いにくすぐらせ、文化祭の準備という「このお祭り騒ぎが永遠に続けばいいのに」という“あの作品”のモチーフでもあったはかなさまで本編に取り込みつつ、いつしか青春そのものの美しくも瑞々しい鼓動を呼び起こさせてくれる逸品、それが映画『ビューティフルドリーマー』です。

ここまでくると、もう映画&アニメ&押井守ファンならずとも(むしろ、かつての『踊る大捜査線』くらいしか映画を見たことがないような方々にも)ぜひ見てほしい快作であり、怪作であり、珍作であり、そして青春群像映画の傑作なのでした!

(文:増當竜也)