Ⓒ2020映画「思い、思われ、ふり、ふられ」製作委員会 ©咲坂伊緒/集英社
少女漫画などを原作とする十代の恋愛模様を面白おかしく、そして可愛くも切なく描いた青春キラキラ系映画は、今やひとつのジャンルとして日本映画界に定着した感があります。
さすがに一時期は製作本数が多すぎて何が何だかわからなくなるほどでしたが(こんなことを言うと、若い世代の女の子たちから「これだからオジサンは…」などとよく突っ込まれたりもしますけど……)、最近は落ち着いてきたのか、1本1本をじっくり吟味できるようになってきていて、また昨今のコロナ禍にうんざり&ウツウツしている中、こういった愛らしい作品群はひとときの清涼剤的な効果をもたらしてくれているようにも思えてなりません……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街493》
本作『思い、思われ、ふり、ふられ』(何とも響きの良いタイトルですね)もそういった昨今の憂さを払拭させてくれる、美少女&美少年たちがみずみずしく織り成す可愛らしくも珠玉のキラキラ映画なのでした!
4人の高校生が織り成すさわやかで切ない恋の行方
「思い、思われ、ふり、ふられ』は「ストロボ・エッジ」「アオハライド」に続く〈向坂伊緒 青春三部作〉最終章とも謳われる向坂伊緒の同名コミックを映画化したものです。
監督は映画版『アオハライド』(14)も手掛けた青春映画の俊英・三木孝浩。
『君の膵臓をたべたい』(17)で日本中を感動の嵐に包み込み、大ブレイクを果たした浜辺美波と北村拓海の再共演も話題のひとつです。
登場するキャラクターは4人の高校生。
明るく社交的な朱里(浜辺美波)とクールな理央の姉弟が、内向的な由奈(福本莉子)とさわやか天然な幼馴染・和臣の住むマンションに引っ越してきました。
朱里に声をかけられ、瞬く間に親しくなっていった由奈は、理央をまさに長年追い求めていた理想の王子様として片想いの恋に突入!
(ちなみに由奈と和臣は幼馴染過ぎて、どちらも恋愛感情は皆無な様子)
引っ込み思案な由奈を朱里は応援しますが、でも朱里と理央は同じ学年なのに双子にも見えません。
はてさて、そんなこんなで、ついに由奈は理央に告白する時が来るのですが、実はここからが4人の男女の入り組んで入り組んで入り組みすぎるほどの恋のドラマが展開していくのでありました!
–{実写版とアニメ映画版、双方を見比べるのも一興}–
実写版とアニメ映画版、双方を見比べるのも一興
ありきたりな表現になってしまいますが、何とも可愛らしく、そして切ない映画です。
正直、登場人物たちの親の世代であるこちらが見ても、単なる青春ノスタルジーの域を越えて、彼女たちの恋の行方をいつのまにかスリリングに見守ってしまっている感に気づかされてしまいます。
ある意味王道の青春メロドラマとして、くっついたり離れたり、見栄を張ったり本音を吐いて涙したり、三木監督の演出はいつもながらに繊細かつ達者で4人のキャラクターを余すところなく魅力的に描出してくれています。
その中でも大きなポイントとなるのは浜辺美波扮する朱里の存在で、一見強気で明るいキャラを装いながら、実は一番我慢を強いられ、心の奥底のもろさを見破られないようにしているあたり、おそらくは多くの同世代のシンパシーを得られることでしょう。
実は今回の原作、実写映画とアニメーション映画の両方が作られていて、実写版は8月14日、アニメ版は9月半ばの公開予定となっていますが、双方を見比べると当然ながら実写とアニメの表現方法の違いによって、前者はリアルに、後者はファンタジックに映えています。
キャラクターの性格描写も微妙に異なり、それこそ朱里のキャラクターは実写版ではずっとやせ我慢をしている風情なのが、アニメ版だと割と早い段階で心の弱さをさらけ出してしまっているなどの相違が実に興味深いところです。
少女漫画のアニメ化や実写映画化は数多く存在しますが、その多くはTVアニメ・シリーズと劇場用実写映画といった構図のものが大半で、実は劇場用映画という同じフォーマットの上にのっかっての批評がしづらい側面もあったりします。
しかし今回のように、実写とアニメといった表現方法こそ違えつつも、どちらも同じ“映画”として見比べる愉しさを満喫できるという意味においても、このプロジェクトはかなり成功しているといってもいいでしょう。
ぜひとも、双方ともに鑑賞しつつ、真夏の暑さを吹き飛ばす繊細でみずみずしい恋の心の痛みに反応してみてください。
(文:増當竜也)