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いよいよ8月、真夏の到来ではありますが、夏といえばホラー! もっともホラーにもさまざまなジャンルがあるわけでして、今回ご紹介する『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』はSFホラーともダーク・ファンタジーとも区分けできるものではあるでしょう。
原作は“クトゥールー神話”の創造者で、その後のSF&ホラーのクリエイターたちに多大な影響を与えたH.P.ラブクラフトの「宇宙からの色」。
これを『マンディ 地獄のロード・ウォーリアー』などのカルト映画で知られるSpectre Visionの制作、『ハードウェア』(91)『ダストデビル』(92)のリチャード・スタンリー監督が20年越しの準備を経て堂々の映画化!
そして、その内容は……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街489》
あなたの家の庭に隕石が落ちてきたら?
そして、その隕石が人の心と体に影響を及ぼす脅威の“地球外変異体”だったとしたら?
隕石の落下がもたらす恐怖の家族崩壊!
『カラー・アウト・オブ・スペース―遭遇―』では、都会から田舎の森の奥地に移り住んだガードナー一家の災厄が描かれます。
夫ネイサン(ニコラス・ケイジ)と妻テレサ(ジョエリー・リチャードソン)はテレワークで仕事していて(コロナ禍の今の目からすると、ちょっとうらやましい!?)、なかなか快適かつ理想的な田舎ライフを堪能しているようです。
もっとも3人の子どもたちの長女ラヴィニア(マデリン・アーサー)は思春期ゆえか、今の生活は退屈そうで、おかげでオカルトにはまっているような、いないような。
長男ベニー(ブレンダン・マイヤー)は遠くの隣人で風変わりなエズラ(トミー・チョン)の影響でマリファナを覚えてしまったみたい。
その点、まだ幼い次男ジャック(ジュリアン・ヒルアード)は飼っている動物に夢中といった可愛げを保っています。
そんなガードナー一家の庭に突如、空から隕石が落ちてきた!
直径2メートルあるかないかくらいの大きさではありますが、まあ家を直撃しなかっただけ不幸中の幸い……と思いきや、このときからどうも家の周囲で不穏な事態が頻発していきます。
Wifiの繋がりが悪くなったり、動物たちが暴れ出したり、不気味な生物が出現したり、またどうもこの地域の水質は悪いようで……。
こういった事象の数々とともに、家族の精神も徐々に不安定になっていきます。
特にネイサンの「家族を守らねば!」といった家長のプライドは、逆に家族の神経を逆撫でしていくばかり……。
こうした中、ついにカタストロフの時が!
(それはこの世で最もおぞましく、また美しいものでもあり……)。
–{おぞましさと美しさが同居したラブクラフト原作映画の代表作}–
おぞましさと美しさが同居したラブクラフト原作映画の代表作
本作は隕石=地球外変異体の落下によってすべてを狂わされていく家族の恐怖を描いたもので、海外の批評では『遊星からの物体X』とも比較される、いわゆる侵略SFホラーとして評価されているようです。
が、いざ見てみるとおぞましさと美しさが絶妙のバランスで同居した不可思議かつ究極のダーク・ファンタジーとしても屹立しています。
これは原作の「宇宙からの色」の“色”=“color”に作り手がとことんこだわった結果でもあり、思わずそ見とれてしまうほどの色彩美がおぞましい恐怖をもたらすという仕掛けの数々に驚嘆しつつ唸らされること必至でしょう。
全体の構成も、冒頭はファミリー映画を見ているようなほのぼのとした風情だったのが、隕石の落下によって徐々に不穏な空気に支配されるようになっていきます。
秀逸なのはこの前半から中盤にかけての不穏描写の数々で、果たしてこれは隕石のせいなのか、事件に過剰反応しての心理的不安がもたらす妄想なのか、それとも水質汚染が何某かの影響を与えてしまっているのか……。
それらの疑問に映画は答えることなく、やがて怒涛の、そして最も美しいクライマックスが訪れます。
つまりはいろいろな解釈が可能な作品であり、それでいて見終えた後、意外なまでにすべてが腑に落ちたかのような奇妙なカタルシスに包まれる作品でもあります。
あたかも『シャイニング』のジャック・ニコルソンを彷彿させるニコラス・ケイジのいかれた“アメリカの親父”的演技もさながら、そんな彼の父親ハラスメントに巻き込まれてしまう3人の子どもたちも印象的。
肩ひじ張って鑑賞する類いのものではなく、むしろフラリと何気なく映画館に立ち寄って見てみたら……何と‼
そんな映画の醍醐味を堪能できるカルト的な秀作です。
海外では既に多くのマニアから「ラブクラフト原作映画の代表作!」の評価を得ているのも、大いにうなづけるものがあるのでした。
(文:増當竜也)