(C)ヨーロッパ企画/トリウッド2020
新型コロナウイルスによる世界的パニックの影響は当然映画界にも色濃く及んでいますが、そのことで今や日本全国に浸透するミニシアターの経営危機を救おうとするさまざまな運動などを通して、また改めて強くミニシアターというものの存在意義が映画ファンの脳裏に刻み込まれたことかと思われます。
これから紹介する『ドロステのはてで僕ら』も、東京・下北沢トリウッドや京都シネマで現在上映中、今後も全国各地で順次公開予定の作品なのですが、おそらくタイトルだけでは何の映画かよくわからないのでは?
実はこれってタイムトリップを題材にしたSF映画なのでした!
しかも全編長回し1カット撮影!
そして、そして、作り上げたのが……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街475》
あの上田誠率いる演劇集団ヨーロッパ企画なのでした!
(だから当然ながらに抱腹絶倒の面白さ!)
タイムテレビの発見が巻き起こす捧腹絶倒の集団劇!
映画『ドロステのはてで僕ら』は、とある雑居ビルの中で繰り広げられていきます。
2階の部屋にいたカトウは、突然聞こえてきた声に反応してテレビを見ると、何とその画面の中には自分の顔が!?
しかも、こちらに向かって話しかけているのです!?
「オレは未来のオレ。つまり2分後のオレなんだ」
??? となる2階のカトウではありましたが、要するに彼が今いる2階の部屋と1階のカフェが、どうも2分の時差でつながっているらしいのです。
そんな“タイムテレビ”の存在を知ったカトウは1階に降りて、カフェの常連客らを巻き込んで、テレビとテレビを向かい合わせてさらなる未来を知ろうとするのですが、そこにカトウが憧れる隣人の理髪師メグミやら、5階の闇金業者、さらには謎の客も登場したりして、事態は加速度的にワヤクチャになっていき、そこにまた未来の整合性といったあらがえない運命みたいなものまで襲いかかってきて……!!!!!
–{ヨーロッパ企画の面目躍如たる映画}–
ヨーロッパ企画の面目躍如たる映画
劇団ヨーロッパ企画といえば、毎年の本公演で15000人を動員する人気劇団で、一方では映画やドラマ、バラエティ番組の制作など、メディアの枠にとらわれない活動をエネルギッシュに展開し続けている集団です。
映画方面では『サマータイムマシーン・ブルース』や『夜は短し歩けよ乙女』そして今年は『前田建設ファンタジー営業部』が話題を集めたばかり。
そして今回は劇団全体で1本の長編映画を制作することを決め、彼らのホームグラウンド京都・二条で撮影を敢行。
その資金はクラウドファンディングでしたが、開始から1日も経たないうちに目標金額達成という快挙!
(これだけで同劇団に寄せる信頼と期待の度合いがわかるというものです)
もともと時間をモチーフにしたSF的な設定を好んで採り上げてきたヨーロッパ企画ですが、今回の2分差タイムトラブル劇もまた彼らならではの真骨頂。
また「たった2分の時間差」という要素が、全編長回し撮影という挑戦によって、ドタバタの中にも緊張感がずっと保持されていく効果をもたらしています。
演劇的な構図と構成が映画的な情緒をもたらしてくれる稀有な好例としても強く訴えておきたいところ。
また主演の土佐一成をはじめとするヨーロッパ企画の面々のすっとぼけながらも濃ゆい存在感によって、マドンナとして起用された朝倉あきの可憐さもより引き立っています!?
原案・脚本は上田誠、監督はヨーロッパ企画の映像ディレクターとして活躍する山口淳太。
まあ、この手の時間SF物の常として、どこがどうつじつまが合っているのか合っていないのか、マニアはそのあたりが気になるところかもしれませんが、見ているうちにあれよあれよと巻き込まれていくうちに何が何だかわからなくなり、すべてが終わると実に不可思議で心地よい虚脱感に包まれてしまう作品です。
SFとしての整合性をきちんと確認したければ、2度3度とご覧になることを今からお勧めしておきます!?
(文:増當竜也)