震災、原発事故、そしてコロナ……今こそ見直す映画『天空の蜂』

映画コラム
天空の蜂 ブルーレイ DVD 豪華版

(C)2015「天空の蜂」製作委員会 

コロナ・ウイルス・パニックの影響で、全国の小中高の多くが閉鎖され、文化&スポーツ・イベント関連は自粛、そして全国のスーパーからトイレット・ペーパーやインスタント食品がなくなるなど、今の日本はさながら9年前の東日本大震災の後を彷彿させる事態に陥っています。

東日本大震災といえば、それに伴う福島第1原子力発電所事故から9年の月日が経ち、当時の事故当時の模様を再現した『Fukushima50(フクシマフィフティ)』も3月6日より公開となりました。

今回は、それ以前に原子力発電所の危機を描いた映画『天空の蜂』をご紹介したいと思います。

国内すべての原発破壊を要求するテロリスト“天空の蜂”

映画『天空の蜂』は東野圭吾が1995年に執筆したポリティカル・サスペンス小説を2015年に堤幸彦監督のメガホンで映画化したものです。

時代背景は原作と同じ1995年8月8日、錦重工業小牧工場試験飛行場の第三格納庫に置かれていた自衛隊の最新軍用大型ヘリコプター“CH-5XJ(ビッグB)”が何者かによって遠隔操作されて空へ飛び出していき、福井県の高速増殖炉“新陽”の真上に静止しました。

犯人は“天空の蜂”と名乗るテロリストで、現在稼働中もしくは建設中の国内すべての原発の発電タービンを破壊するよう要求。

これに従わない場合は、爆発物が搭載されたビッグBを新陽に落下させると宣言します。

ビッグBがホバリングしていられる時間は8時間。

しかもビッグBには、その開発者・湯原(江口洋介)の子どもが乗っていることまで発覚します。

日本政府がテロリストの要求を呑むか否かで逡巡している中、湯原や原発設計士の三島(本木雅弘)らは、事件解決のために尽力しようとしますが……。

東野圭吾は小説が文庫化された際「今まで描いた小説の中で一番思い入れが強いのはどれかと訊かれれば、これだと答えるだろう」と記しており、また発表から20年後の映画化に際しては「映像化は絶対に不可能だろうと思っていた」とコメントしています。

その意味でも、よくぞ映画化したり!と、その勇気を讃えたくなる作品でもあるのでした。

–{原発賛成派にも反対派にも組せずに魅せるエンタメ}–

原発賛成派にも反対派にも組せずに魅せるエンタメ

今でこそ原発問題は賛否を含む激しい論争を巻き起こし続けていますが、20年前に記された小説の映画化ということもあってか、本作は原発賛成派にも反対派にも組しない内容と姿勢を矜持した上で、ポリティカル・サスペンス・エンタテインメントとして成立させていることは特筆しておいてよいかと思います。

(C)2015「天空の蜂」製作委員会 

導入から前半部の天空の蜂の要求を巡る政府や開発者たちの混乱が群像劇として過不足なく描かれ、後半に入ってのさまざまな真相が明かされていくあたりはネタばれを避けるにしても、『砂の器』や『誘拐』のようなドラマ構成を彷彿させるものがあります。

仲間由紀恵や綾野剛、柄本明、國村隼、竹中直人などオールスター・キャストも魅力の一つではありますが、中でも光っているのは本木雅弘で、この年の彼は『日本のいちばん長い日』の昭和天皇役と合わせて数多くの助演男優賞を受賞しています。

いずれにしましても、原発を題材にすると社会的メッセージの強い問題作になりがちな(もっともそのことを目的に作られていることも多いわけで、それはそれでありだとも思います)日本映画界ではありますが、本作はそれらとは少し視点をずらしてエンタメとして観客に見せこみながら、その上で考えさせてくれる作品には成り得ていると思います。

特に震災後、そして現在のウイルス・パニックで大揺れの国内において、何某かの啓蒙を見る側に与えてくれるのではないでしょうか。



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(文:増當竜也)