『初恋』レビュー:三池監督ならではの血と暴力と笑いが、純愛を軸に駆け巡る快作!(怪作?)

映画コラム

(C)2020「初恋」製作委員会 

三池崇史監督といえば、“黒社会”三部作や“デッド・オア・アライブ”三部作など1990年代半ばより数々のぶっとびヴァイオレンス映画で日本はおろか世界中の映画ファンを熱狂させ続けるツワモノ映画監督です。

ただし、どんなジャンルでも巧みにこなす職人的手腕を買われて、ここ数年の三池監督は漫画原作作品などを中心にした活動が多く見られていたのもまた事実。

もちろんそれらの作品群も、彼ならではの熟達した演出テクニックでそれ相応以上のクオリティを保持してはいたものの、そろそろ初期のぶっとんだものを作ってくれないものかとやきもきしている方も実は多いのではないでしょうか?

しかし、ご安心ください。三池監督が久々にやってくれました!

その名も『初恋』!

……え、三池監督作品なのに『初恋』? 

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街443》

大丈夫、これは三池崇史監督ならではの血と暴力と笑いに満ち溢れた究極のラブストーリーなのでした!(と言い切っていいのか?)

余命わずかなボクサーと薄幸の少女がヤクザと悪徳刑事たちから逃走!

映画『初恋』の舞台は国際色豊かな欲望の街・新宿歌舞伎町(日本のヴァイオレンス映画の定番ですね)。

天涯孤独のプロ・ボクサー葛城レオ(窪田正孝)は、まさかのKO負け試合の後で受けた診療で、何と余命いくばくもない身体であることを告げられ、愕然となったまま歌舞伎町を彷徨していました。

そんなとき、何者かに追われていると思しき少女モニカ(小西桜子)が、彼の目の前を「助けて!」と言いながら駆け抜けていきました。

ついつい条件反射で、即座に彼女を追いかけていた男をKOしてしまうレオ。

しかし倒した相手は何と刑事・大伴(大森南朋)!?

実は大伴はヤクザの加瀬(染谷将太)と裏で手を組み、父の借金を背負って働かされているモニカを利用して、ヤクザの資金源となる“ブツ”を横取りしようとしていたのでした。

一度はモニカを見捨てようとしたレオでしたが、その境遇などにほだされ、またどうせ先の短い我が命ならばと、彼女と行動を共にすることを決意します。

かくして刑事とヤクザの双方に追われることになったレオとモニカ。

一方、なくなったブツを管理していた下っ端組員のヤス(三浦貴大)を殺された恋人のジュリ(ベッキー)や、一連の事件をチャイニーズ・マフィアのしわざと勘違いしたムショ帰りの権藤(内野聖陽)、売られた喧嘩は買いましょうとばかりに兵力を集めるチャイニーズ・マフィアの面々などなど、事態はいつしか複雑怪奇にさまざまなワルどもを巻き込み、絡み合いながら、やがてここまでやられると、もはや笑わずにはいられないほど(?)壮絶な抗争劇の幕が開けてしまうのでした!

(……しかし、このストーリーでどこをどうすれば『初恋』になるの!?)

–{染谷将太が、そしてベッキーがキャスト全員が狂ってる!}–

染谷将太が、そしてベッキーがキャスト全員が狂ってる!

本作はひょんなことから知り合った男と女が、ヤクザや悪徳刑事らさまざまなワルの追跡を交わしていきながら愛を育んでいく物語(……なのか?)。

とにもかくにも三池作品の面白さといえば、多彩な演技陣の魅力を120パーセント以上高めてくれるところにあり、その意味でも今回は特にやってくれたな! と快哉を叫びたくなるほどです。

特に狂ってるのは、今回の諸悪の根源ともいえるヤクザを演じる染谷将太で、最近は若き日の空海まで演じておきながら、こんなことやってていいのか?(いいんですけど)と爆笑必至の大熱演!

(C)2020「初恋」製作委員会 

また同じくらいすごいのが、恋人の仇を取るべく暗躍し続ける女ジュリ役のベッキーで、怪演という言葉はきっと彼女のような存在に向けて捧げられるべきものなのだろうと唸らされるほどで、もう何もかもかなぐり捨てたかのようなオーラには圧倒されるのみ!

(C)2020「初恋」製作委員会 

ストーリー展開もオイオイオイ! と突っ込みたくなるほどに目まぐるしくも大胆不敵で、「そうそう、三池映画って本来こうだよね」といったエッセンスが徹頭徹尾濃厚に貫かれているのでした。

そんな中で、タイトルロールの“初恋”を請け負う(?)窪田正孝と小西桜子のみずみずしさがより映えわたります。

特に窪田正孝は2008年のTVドラマ『ケータイ捜査官7』で三池監督に見出されて主演しており、その際三池監督は「10年後になれば、彼を起用した理由がわかる」、即ち10年後には俳優としてブレイクしていることを予言。

事実そうなった窪田正孝を、ほぼ10年ぶりに主演に起用するという、何ともイキな計らい!

論より証拠で、まずはご覧になってください、三池崇監督ならではの血と暴力と笑い、そして純愛(!?)の映画『初恋』を!

(文:増當竜也)