(C)2019 Twentieth Century Fox
ヒトラーやナチズムを厳しく追及&批判する映画は昔も今も数多く作られ続けていますが、そうした未来永劫語り継がれていくべきメッセージ性もさながら、不思議なまでにこのモチーフは映画的感性に秀でたユニークな作品を世に放つことがままあります。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』で世界的ヒットメーカーの座に躍り出たニュージーランド出身のタイカ・ワイティティ監督の最新作『ジョジョ・ラビット』もそうした系統の1本として大いに讃えられるべき存在の作品です。
何よりも秀逸なアイデアと喜怒哀楽に満ち溢れたヒューマニズム、戦争そのものに対するブラックユーモアな風刺と批判……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街431》
そしてヒトラーを心の友とする心優しい少年とユダヤ人少女の交流を描いた、瑞々しいキッズ・ムービーでもあるのでした!(先頃発表されたアカデミー賞にも作品賞など6部門でノミネート!)
ナチズムに洗脳された少年がやがて見出す真実
『ジョジョ・ラビット』の舞台は第2次世界大戦下のドイツです。
10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)は、アドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)を空想上の友達とする軍国少年。
もっとも彼はヒトラーユーゲントの合宿訓練の際にウサギを殺すことができず、教官から臆病者とののしられて“ジョジョ・ラビット”と不名誉なあだ名をつけられてしまうような、繊細で優しい子でもあります。
聡明な母(スカーレット・ヨハンソン)ロージーとふたり暮らしのジョジョは、ある日亡くなった姉インゲの部屋で隠し扉を発見し、その中にユダヤ人少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)が匿われていることを知ってしまいました。
ヒトラー信奉者のジョジョにとって、ユダヤ人は最大の敵であり、鬼であり悪魔でもあります。
しかしエルサは「通報したら、あんたも母親も協力者だと言うから、全員死刑よ」とジョジョを脅迫。
一方でジョジョは、エルサをリサーチしてユダヤ人絶滅に役立つ本を書こうと思いつき、「ユダヤ人の秘密を全部話す」という条件で彼女を匿い続けることに。
かくして日々ユダヤ人に関する講義を受けることになったジョジョですが、聡明なエルサの口から語られる話の数々は、それまで自分が大人たちから聞かされていた「ユダヤ人は下等な悪魔」とは真逆であることに気づかされ、大いに混乱し、心の友アドルフも大慌てになっていくのですが……。
–{差別と偏見に辛口ユーモアで対峙勇気と知性あふれる傑作}–
差別と偏見に辛口ユーモアで対峙勇気と知性あふれる傑作
本作の秀逸な点は少年の純粋な目線を通してナチズムを見据え、さらにはファンタジックかつユーモラスにその本質を解き明かしながら、ひとりの少年が成長していく過程を瑞々しく捉えていくところにあります。
何よりもヒトラーを空想上の友人とする設定がユニークながらも、子供の頃は誰しもそういった事象は大なり小なり経験していることを思い起こすことができれば、それは実にリアルであることにも気づかされるでしょう。
戦争を肯定しながら自国を讃え、他国やそれらの民族を排斥しようとする歪んだプロパガンダは、当然ながら戦時中の子どもたちをも洗脳してヘイトの思想へと導いていき、それは戦時下の日本も同様であったわけですが、ここでは差別される存在=ユダヤ人少女を少年の家にひそかに同居させるという、ふと『アンネの日記』を彷彿させられるような設定から、人種差別の糾弾はもとより、徐々にナチズムの残酷な本質に気づかされていく少年の衝撃と戸惑い、そして年上の少女に対するほのかな想いを通して、まもなく思春期の入口へ到達しようとする少年の繊細な情感が好もしく醸し出されていきます。
主演の少年少女の初々しい好演は当然ながらの特筆事項ではありますが、同時に母親役のスカーレット・ヨハンソン(彼女も本作でオスカー候補に!)や、ナチズムにうんざりしているシニカルな大尉役のサム・ロックウェルの存在感など、大人たちの描出がきちんとなされていることも訴えておくべきでしょう。
本作の監督タイカ・ワイティティはマオリ系ユダヤ人で、幼いころから偏見や差別にさらされながら育ったというキャリアを辛口のユーモアに転じさせながら本作の中に盛り込み、さらにはヒトラーを自身で演じながら、最初は飄々としながらも徐々に邪悪な本質を露呈させてくれています。
また本作は英語台詞のアメリカ映画ではありますが、その言い回しはあえて現代口調を採用しているとのことで、英語の読解力が皆無な身としては残念ながらその要素を堪能できないのが残念ではありますが、ヒアリングが達者な方はそうした部分にも注目していただけれると、より本作を楽しめるでしょう。
日本はもとより世界中どことなく差別や偏見の思想が際立ち始めている昨今、こういった勇気と知性あふれたエンタテインメント作品の存在は非常に貴重かと思われます。
第44回トロント国際映画祭観客賞受賞、アメリカのレビューサイト“シネマスコア”では「A+」の最高評価。昨年の東京国際映画祭上映後の観客アンケートでは★★★★★の満足度となった『ジョジョ・ラビット』は1月17日より全国公開。文字通り見逃し厳禁の傑作です!
(文:増當竜也)