メジャーからマイナーまで、描かれる題材も心霊ものからゾンビ、殺人鬼などなどいつの時代も変わらぬ人気を誇るホラー映画のジャンルですが、2020年の日本もさっそく1月10日より『シライサン』、2月には『犬鳴村』などの新作がお目見えとなります。
そこで今回は、貞子や加耶子といった誰もが知るキャラクターが登場するメジャー路線とは一味異なるものの、見逃すには惜しい異色かつマニアックなJホラー映画の最近作をいくつか集めてみました!
批判を絶賛に変えた萌えと恐怖の秀逸な融合『がっこうぐらし!』
映画『がっこうぐらし!』は『まんがタイムきららフォワード』にて連載中の海法紀光・原作、千葉サドル・作画による同名コミックの実写映画化です。
先にTVアニメ化もされているこの作品、その絵柄だけ見ると完全に萌え系美少女ものなのですが……実はすさまじいホラー映画。
もっとも原作やTVアニメ版では冒頭なかなか恐怖の基本設定を提示せず、いわゆるネタバレ厳禁的な作りを貫き、それが大いに功を奏したことから、一般映画としてある程度の内容を事前に告知せざるを得なかった本作は公開前から原作&アニメファンから激しいバッシングを受けましたが、いざ完成したものがお披露目されたら一転して絶賛に転じるという逆転現象も起こりました。
というわけで、こちらもここから基本設定をネタバレさせていただくので、これ以上の予備知識を入れたくないという方は次の項目へスキップしてくださいませ……(作品の質は大いに保証! と断言はしておきます)。
実はこの作品、ある日突然ゾンビが高校に襲来し、友人らが次々と餌食になっていく中、かろうじてゾンビ化を免れた女子生徒たちが校舎内にバリケードを作って立てこもり、サバイバル生活を強いられていくというもの。
校舎の外はゾンビの群れで郊外に出るのも容易ではなく(おそらくは町中、いや日本中がゾンビの惨禍に遭っているかと思われ)、少女たちは助けを待ちつつ緊迫した想いを払拭すべく(しかも、ひとりは惨劇のショックで幼児退行を起こしている)、“学園生活部”なる部活動をきどりながら、一見ほのぼのとした日々を過ごすべく腐心していきます。
あたかもホラー版『けいおん!』とでもいった萌えと恐怖の融合は、好きだった男の子がゾンビ化してしまう悲劇性や、さらには彼女らと行動を共にする保健の先生(原作は国語教師でしたが映画化に際しての上手い改変)めぐねえとの交流などとも相まって、不可思議な青春ダーク・ファンタジー映画としての様相も呈しつつ、やがて意外なクライマックスへと進展!
主演の少女4人には阿部菜々実、長月翠、間島和奏、清原梨央と“ラストアイドル”のメンバーが扮し、それぞれ好演。また特筆すべきはめぐねえ役のおのののかで、正直びっくりするほどの存在感を披露し、大いに好印象をもたらしてくれます。
監督はプロデューサーや脚本家としても活躍し、『リアル鬼ごっこ』(08)などディストピア系ホラーにこだわりを示し続ける柴田一成ですが、本作における公開前からの批判を絶賛に一転させた手腕は高く評価すべきでしょう。
–{浅川梨奈主演でシュールな恐怖を醸し出す『黒い乙女』Q&Aの2部作}–
浅川梨奈主演でシュールな恐怖を醸し出す『黒い乙女』Q&Aの2部作
『がっこうぐらし!』もそうですが、ティーンを主人公とするホラー映画は、美少女アイドルならだれもが一度は通る道といっても差支えないものがあります。
SUPER☆GIRL出身の浅川梨奈もそのひとりですが、彼女の場合『人狼ゲームマッドランド』(17)『トウキョウ・リビングデッド・アイドル』(18)『血まみれスケバンチェーンソーRED』2部作(19)『映画としまえん』(19)とホラー映画に連続主演し、まさに現代のホラー・プリンセスとしても君臨している感もあります(その一方で『劇場版リケ恋』のようなキラキラ系にもちゃんと主演しています。2019年の『日経エンタテインメント』11月号では「映画&連ドラ出演・主演ランキング」と「20代以下女優主演数ランキング」で第1位を獲得)。
そんな彼女のホラー路線の中で、もっとも異彩を放っているのが、この『黒い乙女Q』『黒い乙女A』の2部作(19)でしょう。
非常に不穏で不可思議な作品です。
養護施設で育った孤児の芽衣(浅川梨奈)が、裕福な宇田家夫妻(和田聰宏&三津谷葉子)の養女として迎え入れられますが、そこには一足先に同い年の少女ラナ(北香那)も引き取られていました。
ふたりは趣味も誕生日も同じということがわかってすぐに意気投合しますが、まもなくして宇田家の家業が失敗してしまったことで、ふたりのうちどちらかが施設に戻されることになるのですが……。
と、ここまではほんの序章で、以後はもうあっと驚くどんでん返しの連続で、さらには「地球に隕石が降ってくる」だの「お多福様」だの謎めいたキーワードが多々散りばめられ、同時にキャラクターの性格付けなどもめまぐるしく変化していくことで、単なるサスペンス・ホラーの域を優に超えたシュールかつ甘味な世紀末感に翻弄されていきます。
この感覚についていける人といけない人とで評価は二分するかもしれませんが、理路整然とした教科書的なドラマよりも、演出と演技と映像で見る者を錯乱させてくれる本作のようなタイプのものは、個人的には大いに好みです。
特に第1部『Q』後半部の怒涛のような展開はお見事で、対して第2部『A』は一見解決篇のふりをしながら、ますます見る側を煙に巻いていきます。
監督の佐藤佐吉は『東京ゾンビ』(05)や『平凡ポンチ』(08)『奴隷区 僕と23人の奴隷』(14)などの異色作を手掛ける非凡な才人で、『金髪の草原』(00)『麻雀放浪記2020』(19)などの脚本家としても、また『キル・ビル』(03)をはじめとする俳優としても活躍中ですが、今回はホラーを含めた古今東西の映画的記憶を巧みに換骨奪胎させながら、人間の悪意を少女たちの美に託しつつ、セカイ系とも迷宮ともつかない混沌=カオスに導いてくれるのです。
決して潤沢とはいえない予算や撮影期間であったことは想像できつつも、それを上回るオリジナル・ストーリーとそれに即した映像構築、何よりも浅川梨奈と北香耶の純と邪の双方を引き出した手腕も高く評価したいところです。
–{呪いの粘土が人を襲う『血を吸う粘土』}–
呪いの粘土が人を襲う『血を吸う粘土』
(C)2017「血を吸う粘土」製作委員会 キングレコード/ソイチウム
呪いの恐怖を描いた心霊モンスター系ホラーは多々ありますが、この『血を吸う粘土』はアイデアが秀逸です。
舞台はとある地方の人里離れたところにある美術専門予備校。
東京から転入してきた香織(武田杏香)は、建物の倉庫の中でビニール袋に入った乾燥粘土を見つけ、それに水をかけて粘土に戻し、課題制作に使用してしまいます。
しかしこの粘土、かつて無残な死を遂げた彫刻家の激しい怨念がこもった悪魔の粘土=カカメであり、やがて学校の生徒たちを次々と襲ってはモンスター化していくのでした……。
『暗殺教室』2部作(15・16)や『アイアムアヒーロー』(16)『亜人』(17)などの特殊メイクアーティストとして活躍する梅沢壮一の初監督作品だけあって、もちろん見どころはクレイアニメーションなどを駆使したカカメの造形とその動き、またそれに即した数々の特殊メイク。
J・ホラーの場合、往年の怪談ものの伝統を継承した怨念の設定を活かしたものに秀作が多いといった気候がありますが、そこに粘土という変幻自在のアイテムを用いたグロテスクながらもどこかしらアーティスティックな風情も醸し出す特殊メイクを効果的に用いたのが、本作の長所であり大きな魅力あるともいえるでしょう。
本作は第42回トロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門のクロージング作品に選出されるなど海外でも好評を博し、そうした波に乗せて梅沢監督は、2019年に続編『血を吸う粘土 派生』を、そして同年、妻の黒澤あすかを主演に起用したダークファンタジーの中編映画『積むさおり』を発表しています。
–{美しくも哀しいオリエンタルな杉野希妃監督・主演の『雪女』}–
美しくも哀しいオリエンタルな杉野希妃監督・主演の『雪女』
さて日本古来の怪談話といえばJホラーの原点であるとともに、恐怖性もさながら人間の業などがもたらす悲劇性までもその奥に潜ませ、時のそれは悲しいまでの美を醸し出すこともままあります。
女優として、監督として、プロデューサーとして現在世界を股にかけて活躍中の国際的映画人・杉野希妃が監督・主演を務めた『雪女』(17)もまた小泉八雲が日本各地の怪伝説を収めた『怪談』の中の『雪女』を新たな解釈で描き、愛の悲劇を究極の美学の域にまで高めた作品です。
お話はある吹雪の夜、猟師の巳之吉(青木崇高)は山小屋で雪女(杉野希妃)が仲間の茂作(佐野史郎)の命を奪う惨状を目のあたりにして恐怖に震えますが、このことを誰かに口外したら殺すと告げられつつ、彼の命は救われます。
その翌年、巳之吉は美しい女性ユキ(杉野希妃)と出会い、結婚。まもなくして娘のウメを授かります……。
と、ここまではみなさんご存じのお話ですが、映画はそこから14年後へ一気にスキップします。
美しく聡明な少女に成長したウメ(山口まゆ)。
そんなある日、茂作の親戚が山小屋で凍死するという不可解な事件が起きてしまい、巳之吉はかつての惨事を思い出し、やがてユキが雪女なのではないかと疑うようになっていくのです……。
冒頭の吹雪の夜の惨劇シーンはモノクロで、そこまでは時代劇かと思わせつつ、画に色がついてからは和服と洋服が混在し、電気も通っている戦後昭和あたりを想定しているかのようなパラレルワールド的設定であることが徐々に明らかになっていくとともに、日本的な風景を幽玄ながらもどこかエキゾチックにも映える映像センスをもって貫きながら異彩を放っていくことで、日本映画と呼ぶよりもアジア映画と呼ぶほうが似つかわしいものになっています。
『ピクニックatハンギングロック』(75)などを彷彿させられる少女たちの美しくも慎ましやかな儀式があったかと思うと、成長したウメたちが提灯ブルマ姿で体操するシーンなども不可思議なファンタジック性とノスタルジー性を大いに高めてくれています。
そして何よりも杉野希妃が演じるヒロインのオリエンタルな美しさ!
これまで雪女といえば小林正樹監督『怪談』(65)の岸惠子や田中徳三監督『怪談雪女郎』(68)の藤村志保あたりを即思い出すことができますが、杉野“雪女”も先達とはまた大いに異なる妖しい魅力を放ちながら、新しくもどこか懐かしい雪女像を具現化させています。
また義母役の宮崎美子や祖母役の水野久美といったベテラン女優のリスペクト的な活かし方も、杉野監督ならではのキャメラアイの賜物でしょう。
正直なところ、ホラーの枠に括ることに抵抗を覚える向きもあるかもしれませんが、恐怖の原点とは哀しみの美学であるとみなせば、本作もまた見事なまでに美しくも哀しい静謐なホラー映画であるともいえるでしょう。
恐怖そのものを追求した作品ではないので、怖くはない。しかし、幽玄な世界観の中からなにがしかの人間の営みの哀しさが確実に醸し出されていく秀作であることも間違いありません。
–{キング・オブ・Jホラー監督の究極のモキュメント『P.O.V.』}–
キング・オブ・Jホラー監督の究極のモキュメント『P.O.V.』
最後に、1980年代末から90年代初頭にかけてのオリジナル・ビデオ『ほんとにあった怖い話』シリーズなどで、後々世界的に大流行することになったJホラーの基盤を作り上げた先駆者で、“キング・オブ・Jホラー”として多くの著名映画人からリスペクトされ続けている鶴田法男監督作品から、2012年度に発表された秀作『POV~呪われたフィルム』をご紹介。
本作に登場するのは、人気若手女優の志田未来(本人)と川口春奈(本人)。
二人は全国から寄せられた投稿動画を紹介するケータイ向け番組『志田未来のそれだけは見ラいで!』の心霊映像特集の収録中、予定のない映像がモニターに流れたのを見て驚くとともに、それが春奈がかつて通っていた中学の“学校の怪談”をネタに撮影したものだったことから、霊能者の言葉に従ってディレクターやマネージャーともども除霊のために学校に赴きます。
しかし、やがて一行は学校に閉じ込められるとともに、数々の怪現象に遭遇しながらこれ以上はない恐怖に見舞われていくのです……。
“POV”とは“Point Of View”、つまり「視点」を意味する略語ですが、本作はフェイク・ドキュメンタリー=モキュメンタリーの手法を採りながら(つまりは志田未来は志田未来を、川口春奈は川口春奈を演じているわけです)、シーンのほとんどが出演者が撮影した映像を用いているという設定で、実際に出演者が撮ったものも使われています。
冒頭のアイドル番組のきゃぴきゃぴした雰囲気から、学校に閉じ込められてからの緊迫した恐怖の構築は、手持ち映像のブレなども臨場感として功を奏するとともに、鶴田ホラー独自の“死霊から見据えた目線”まで体感させられて、ゾクっとなること必至。
今も人気の若手女優二人(特に川口春奈は大河ドラマで時の人となってますね)が織り成す迫真かつ素直な恐怖演技も好感の持てるところ。
さらにはこの作品、エンディングでトドメの恐怖の構築がなされているのですが、これも伝説の名画座“三鷹オスカー”を実家に育った鶴田監督ならではの、恐怖をもって映画館にオマージュを捧げたと思しき秀逸な幕引きでした。
なお、鶴田監督はこの後も死者と会話できるアプリの恐怖を描いた『トーク・トゥ・ザ・デッド』(13)や鶴田流ゾンビ映画『Z~ゼット~果てなき希望』(14)などを撮ったのち、中国に招かれて撮った呪われたネット小説をめぐるホラー映画『网络凶铃/ワンリューシュンリン』(“ネットワークのリング”といった意味)が昨年12月6日より中国全土1万館越で公開されたばかり。
今は一刻も早い日本上陸を、大いに待望したいところです!
(文:増當竜也)