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日本国内歴代3位の興行収入255円を記録した(上にいるのは『千と千尋の神隠し』と『タイタニック』だけ)『アナと雪の女王』から5年。もう5年も経つのかと思いますが、待望の続編『アナと雪の女王2』(=『アナ雪2』)が公開され、最初の週末が終わり興行収入が明らかになりました。
それは、それは、本当に驚異的な数字となりました。
『アナと雪の女王2』の特大ヒットを考察する
圧倒的なのスタート
前作『アナと雪の女王』(=『アナ雪』)は日本では2014年3月17日に全国598スクリーンで公開され、初日からの3日間で興行収入で約9億8千万円、観客動員60万人以上という数字を上げました。
ちゃんと伝えておきたいことですが、この1作目(『アナと雪の女王』)の数字もまた十二分に見事な数字だということです。
それから5年半後の2019年の11月22日(金)から公開された『アナと雪の女王2』。
週明けの11月25日(月)に最初の週末の数字が明らかになり、凄まじい数字を上げたことが明らかになりました。
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3日間の興行収入は19億円を突破
3日間の興行収入は19億円を突破、動員も145万人を記録。国民的なヒット映画となった前作の存在があったとはいえ、前作興収比211.7%という脅威的な伸び率。
直近の作品と比較してみるとシュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトンの来日で大盛り上がりした『ターミネーター:ニュー・フェイト』が公開4週で22億円超。この秋映画の最大のトピックとなった『ジョーカー』が公開9週で50億円を超えてきました。
『アナと雪の女王2』は3日間で『ターミネーター』と並び、『ジョーカー』の2/3近くを稼ぎ出したことになります。
–{『天気の子』VS『アナと雪の女王2』}–
国民的映画の続編VS国民的映画の続編
この夏、もう一本の国民的ヒット映画の後を受けた作品が公開されました。新海誠監督の『天気の子』です。
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新海監督の前作、2016年の『君の名は。』は興行収入250億円を稼ぎ出し、『アナと雪の女王』に続く日本歴代4位の興行収入を記録しています。ちなみに『君の名は。』の最初の週末は興行集約9億円、動員が70万人弱を上げております。『アナと雪の女王』にしても『君の名は。』にしても最初の週末の数字を2週目以降以降さらに上回り続けた結果、国民的な映画となっていきました。
そして、『天気の子』は最初の3日間で16億円を超え、動員は115万人を記録していました。『アナと雪の女王2』はこれを超えてきました。
『天気の子』は11月の頭の時点で興行収入では140億円以上、動員で1000万人以上を記録しています。『アナと雪の女王2』はこの数字を超えてくるのか。前作『アナと雪の女王』の数字と共に、VS『天気の子』の結果も楽しみなところです。
–{公開前に感じた不安とは?}–
公開前に感じた不安と劇場の観客の熱量
実は『アナと雪の女王2』の公開前にはちょっと不安を感じる部分がありました。
文句なしの超話題作にしては公開前の“祭り感”(=宣伝の熱量)が薄く感じていたのです。
確かに仕方がない部分があったのも事実です。
ディズニースタジオは現在ピクサー、マーベルスタジオ、ルーカスフィルム、そして20世紀FOXを傘下に収めていて、それぞれが抱える超大作が立て続けに公開されています。
ディズニー映画・怒涛の公開ラッシュ
マーベルの一つの完結点『アベンジャーズ/エンドゲーム』が5月末。
そしてディズニー実写化企画『アラジン』が6月の頭、『トイ・ストーリー』が7月中旬、『ライオン・キング』が8月の頭、アンジェリナ・ジョリーの『マレフィセント2』が10月中旬。そして『ターミネーター:ニュー・フェイト』11月8日とほぼ毎月のように“その年の勝負作”になってもおかしくない作品が続きました。
もちろん他社の大作も間に入ってきますので喰い合いというような表現が甘く聞こえるような激戦が続きました。
そんな事情もあってか、宣伝の量と熱量に“あの『アナと雪の女王2』の続編”にしては、どこか小ぢんまりしたものを感じてしまいました。内側からの全くうがった見方なのですが“こんなに物静かでいいのだろうか?”と心配になってしまいました。
確かに公開前週末に『アナと雪の女王』の地上波放送がありました。
ただ、吹替キャストの松たか子や神田沙也加がテレビに出ずっぱりになることもなく、オリジナルのスタッフを招いたイベントも公開前日ということで、余計なことですが本当に心配してしまいました。
結果として、この心配は“本当に余計なこと”に終わりました。
–{宣伝の肌感覚と劇場の熱の差}–
宣伝の肌感覚と劇場の熱の差
私が鑑賞のために劇場に行ったのは24日の日曜日でしたが、その前2日間の劇場の盛り上がりも伝手をたどって教えてもらっていました。
そこで分かったことが、圧倒的な観客の熱量です。老若男女問わず幅広く、多数の観客が劇場に文字通り押し寄せていました。
本格的なコスプレをする子供も少なくなく、応援上映でもないのに自然発生的に発せられるキャラクターへの声援、早くも文字通りの“イベントムービー”と化していました。
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映画を公開する時、公開する側(配給会社や宣伝会社、映画館など)はターゲットを決めます。
それを“絶対に抑えたい”コアターゲットとそれに加えた“上積み部分になる”ライトターゲットに分けます。コアターゲットは言葉は悪いですが“黙っていても劇場に来てくれる人々”で、ライトターゲットは“気にはなっているのでタイミングが合えば、仲間内で話が合えば見に行こうという人々”です。
人数比で言えば当然コアが少数派で、ライトが大多数派です。
ところが、『アナと雪の女王2』はこのコアとライトの境界線が事実上ない作品といって良いと思います。ディズニー作品は元々その傾向が強いですが、前作から5年の熟成期間を得て『アナと雪の女王』はアンデルセン童話やグリム童話と同じような完全にスタンダードな存在となりました。
ジブリ作品なども似ていますが、作品を見たことがないけれどタイトルは知っているという人まで含めれば『アナと雪の女王』に全く無縁な人など日本にはいないのではないでしょうか。
こんな大げさなことまで感じてしまうほどの劇場には“当たり前に埋まっている感”が溢れていました。
–{前作『アナと雪の女王』を振り返る}–
前作『アナと雪の女王』を振り返る
ここで、話を少し戻して前作『アナと雪の女王』のヒットについて考えていきます。
『君の名は。』もそうですが、もちろん、国民的映画になるほど社会現象については正確に分析することはできませんし、野暮なことでもあります。
本当に明確な“勝利の方程式”が分かっていれば誰しもがこれに乗っかっていけばいいことになりますが、それができていない現実を見れば、誰も本当のところを分かっていないのが正直なところです。
そもそも、2がないディズニー
そもそもディズニースタジオのアニメーションで続編が劇場公開されることはまれです。
『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』シリーズは続編が劇場公開されていますが、どれも“ピクサーブランド”の作品です。
実はディズニースタジオ作品にも続編はあります『ライオンキング』や『リトル・マーメイド』は3まであり、『シンデレラ』や『101匹わんちゃん』にも続編はあります。
ただこれらの作品はアメリカ本国でもほぼ劇場公開されていないOVA作品です。
クオリティの維持の問題、マーケティング的な判断などいろいろな条件があるとは思いますが、まず“ディズニースタジオのアニメの続編を日本の映画館で見られる”こと自体が大変レアなパターンでした。
『アナと雪の女王2』の製作がアナウンスされた時もOVAなのかと思っていたぐらいです。
『アナと雪の女王』は続編を大々的に劇場公開してもいいという確かな実績を日・米を含めた世界各国で残したことになります。
日本での成功の一端
改めてのことですが、まず『アナと雪の女王』という邦題が見事でした。
原題は『FROZEN』でしたので、これを『眠れる森の美女』や『美女と野獣』のように西洋のおとぎ話・童話と想像できる『アナと雪の女王』というタイトルを置いて一気に親しみを深めました。
過去にも『Tangled』(もつれた)を『塔の上のラプンツェル』としたのも見事でしたが、『アナと雪の女王』は小さな子どもでも分かる言葉だけで構成されているタイトルです。
オマケに、TBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(逃げ恥)以降のタイトル三文字簡略化にも対応できました。「レット・イット・ゴー」というメインテーマの圧倒的な訴求力の高さもありました。
当たり前のことをちゃんとした。
子供が見て、ちゃんと分かることを前提にしたディズニースタジオ作品ですから、当然日本語吹替版にも重点が置かれます。
『アナと雪の女王』ではメインのエルザとアナにミュージカル女優として確かな実績のある松たか子と神田沙也加を起用しました。
近年、洋画の吹替版キャストについては賛否を呼ぶことがしばしばあります。プロの声優を押しのけて吹替・声優業の経験の浅い俳優や芸人などを起用することがとても多く、場合によってはネット上での炎上案件になったりもします。
ディズニーのミュージカルアニメで『アナと雪の女王』の先輩と言えば今年実写化もされた『アラジン』がありますが、この吹替版は普段セリフと歌唱でキャストを変えました。
もちろん全部やってのけて、実写版でも吹替を担当したジーニー役の山寺宏一のような達人の例もありますが、演技もできても歌唱もできるという人をちゃんとキャスティングする。
この当たり前のことをちゃんとした結果、『アナと雪の女王』は大成功しました。
–{『アナと雪の女王2』ついてと、これからのこと}–
『アナと雪の女王2』ついてと、これからのこと
映画『アナと雪の女王2』の内容についても触れておきます。
メインキャストの過去・運命の源泉を辿る・描くということで言うと『ゴッドファーザーPART2』や『スター・ウォーズエピソード5/帝国の逆襲』、サム・ライミ監督版『スパイダーマン2』などと同じスタイルの話です。
キャラクターに降りかかる危機を乗り越える冒険譚だった1作目から、物語を進化&深化させてきました。
こうなると話が込み入ってきてしまいます。
ただ、『アナと雪の女王』は子どもが見て楽しめるアニメーション作品でなくてはありません。
物語に厚みと深みを与えながら、子どもでも何のことかちゃんと分かる、言うのは簡単ですが実際にやって見せることはそうそうできることではなく、前作から引き続き監督と脚本を担当したクリス・バックとジェニファー・リーは見事な離れ業をやってのけました。
「雪だるまつくろう」も「レット・イット・ゴー」はインストバージョンすら使わないという“お馴染みの部分”を敢えて出さないという冒険心も見事です。
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公開後のランキングアクションは?
日本で興行収入100億円突破というのは、大きなマイルストーンです。今年は4本も(『ボヘミアン・ラプソディ』『トイ・ストーリー4』『アラジン』『天気の子』)も誕生したのでちょっと錯覚が起きてますが…。
※『ボヘミアン・ラプソディ』は2018年公開ですが、2019年も興行が続きました。
この記録、日本で興行収入100億円突破を達成したのは過去に35本しかありません。
そんな中で、早くも『アナと雪の女王2』は興行収入100億円突破に“当確印”が出ました。
100億円を超えてくるような映画のランキングアクションに共通したパターンが、公開週以降も数字を落とさない、または上げてくるというパターンです。
今の日本の映画のシネコン中心の上映形態はある意味ドライで非情です。週末の数字次第で翌週末からの公開規模(スクリーン数、座席数、上映回数)を決めていきます。
映画側としては、なんとしても公開規模を確保しておきたいので、2週目以降の目減りを可能な限り避けて通りたいところです。
–{『アナと雪の女王2』ランキング推移と数字の流れは?}–
『アナと雪の女王2』ランキングアクションと数字の流れは?
前作越えのスタートを切った『アナと雪の女王2』は2週目の週末に映画の日があったこともあって動員では公開1週目を超えてきました。
興行収入は公開10日で40億円を突破、そして、公開3週目で興行収入は60億円を突破、公開4週目で興行収入は73億円を突破しました。これらは、それぞれディズニー作品で記録を持っていた『トイ・ストーリー4』の最速記録を更新しています。
なお、今年の暫定NO.1ヒットは140億円を突破している新海誠監督の『天気の子』ですが、こちらの3週間の週末興行収入は11億円→10億円→7億、動員は115万人→70万人→50万人という流れでした。
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12月13日から応援上映の開催が決定している『アナと雪の女王2』。
これらかの劇場公開作品のラインナップを見ると、とっての最大の強敵は皮肉も同じディズニー配給・12月20日に日米同時公開される『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』になると思われます。
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新三部作そしてスター・ウォーズサーガの完結編となる『スカイウォーカーの夜明け』。
新三部作の『フォースの覚醒』が興行収入116億円、『最後のジェダイ』が75億円と日本では意外に苦戦しているこのSF映画のレジェンドタイトルが、果たして『アナと雪の女王2』に対してどんな戦いを演じるのか、この正月も映画館は賑やかになりそうです。
※興行収入などの数字は興行通信社のデータに基づきます。
(文:村松健太郎)