バンダイに行ったら、20周年を迎えた“「たまごっち」の今”が面白かった話

INTERVIEW

「シネマズby松竹」の編集なのに、東映特撮推しが度を超えている大谷です。先日、ついに玩具メーカーのバンダイさんに「仮面ライダー」グッズについての取材が実現しました!

その打ち合わせのなかで、2016年11月に「たまごっち」が20周年を迎え、メモリアルイヤーとして盛り上がっているというお話に、どんぴしゃアラサー世代の筆者は聞き入ってしまいました。

そこで、「たまごっち」をはじめ、女児向け玩具を担当する「ガールズトイ事業部」の木次さんにインタビュー。「たまごっち」の進化に驚くばかりの、興味深いお話を聞くことができました。

──木次さんは、「ガールズトイ事業部」のなかで、どこからどこまでの業務を担当していらっしゃるんですか?

木次:私は企画開発をやっていまして、玩具の企画から、完成して工場から出荷するまでのすべてにかかわっています。アイディアを商品の企画にまとめる部分もそうですし、商品やパッケージのデザインも仕事ですね。事業部としては、他に宣伝担当のプロモーションと、問屋や販売店とのやりとりを担当する営業のチームに分かれています。

──そんなに幅広く担当していらっしゃるんですね。企画チームって、てっきり、企画が固まったら次の担当に引き継いで、そこから現物が作られていくものなのかと…。

木次:やることが多いので大変は大変なんですけど、こうしたら面白いだろうな、と思ったことが、実際に形になるというのはすごくやりがいがありますね。ありきたりですけど、自分が開発したものが売り場に並んだり、それで子供たちが遊んでいるのを見るとうれしいです。イベントでも、知らない子同士のコミュニケーションが生まれていて、世界が広がっていく様子を目にすると感慨深いものがあります。

──私はまさに初代の世代なんですけど、当時は高校生とか大学生とかも持っていて、社会的なブームが起こっていました。今はターゲットの年齢層も結構下がってるんですね。

木次:主としては小学校低〜中学年の子供たちですね。でも幅が広くて、高学年になっても持っていたり、中学生くらいでも兄弟と一緒にやっていたり、という子もいます。あと、今っぽいなと思うのは、SNSで育児日記のように成長を公開している方々もいて、その影響で高校生が友達と一緒に買っちゃった!という話も聞きますね。

20周年施策やプロモーションも行っているのですが、それをきっかけに懐かしがって、もう一度興味を持ってくださる大人の方も多いです。それでインターネットで調べたら、「今ってカラーなんだ!」とか、進化を知ってくださって、そこから再度ハマってくださる方も例年に比べて多いですね。

──スマホゲームをやっている大人とは、親和性もありますよね。しかも懐かしさもありますし。

木次:初代のときに女子高生、女子大生だったという世代が、ちょうど今のターゲットになっている子供たちのお母さん世代なんですね。なので、20周年をきっかけに子供と一緒に遊んでいるという話や、ちょうど社会人になるくらいの第2世代の人たちも、SNSやネットニュースを見て購入したという話も聞きます。

──日本で暮らしている人を中心に、「たまごっち」を知らない人の方が少ないと言っても過言ではないですよね。

木次:「たまごっち」の名前の認知度だったり、形状の認知度だったりはもちろん、「全然買えなかったよね」とか「何色を持ってた」とか、みんな何かしらちょっとした思い出を持っているので、当時一緒に遊んでいなくても、記憶を共有できるアイテムになっていると思います。

──そこで20周年を記念して、初代の復刻版が発売されるそうですね。

木次:2005年に発売した「ちびたまごっち」の復刻版である「かえってきた!ちびたまごっち」を2017年4月に発売しまして、さらに初代の「たまごっち」を復刻したものが11月23日(木)に発売になります。

──今はどのくらいのペースで新作を出されてるんですか?

木次:「たまごっち」は発売からの1996年〜99年、赤外線通信がついた2004〜07年、カラー液晶になった2008年〜現在と世代を大きく3つの世代に分けていまして、2004年からは1〜2年ごとに新作を出しています。第1世代は、数か月おきに新作を出していたときもありますね。

──たしかに、発売するたびに品切れ続出だったので、「友達と同じものが欲しいけど、新作でもいいか」という時代でしたね(笑)。ちなみに、いちばん売れたシリーズを教えてもらうことってできますか?

木次:やはり発売当初ですね。ひとり1個まで、といった制限もかけられるほど人気が出たので。

おそらくですが、友達が持っているのを見て、自分も欲しい、とか仲間に入りたい、という意識が生まれるのかなと思います。前後の世代はそれぞれ互換性があるので、新しい物を持っている子がいると、それが欲しくなりますよね。さらにそれよりも新しいものが出たら、それを買っても一緒に遊ぶことができるので、そういった連鎖はあると思います。

–{「たまごっち」ってどのくらい売れたの?}–

──いちばん売れたという初期のものは、どれくらいの売り上げたんでしょうか?

木次:単体での個数は出していないのですが、第一世代の1996年〜99年3月までの公表値では、海外での販売数も合わせて4000万台ですね。

──2004年からでも11種と、これだけ出ていると新作を考えるのも大変そうですね。

木次:たまご形に3つボタン、という形状と、たまごから生まれて、お世話の仕方で成長するキャラクターが違う、というところは「たまごっち」のアイデンティティとして、ずっと変えていないんです。それを残しつつ、どういう新しさや驚きを加えていくかというのは、いつも苦労しますね。

「たまごっち」というものが確立されているというのは、いい部分でもあり、悩ましい部分でもあります。

──赤外線通信はギリギリ知っていたような気がしますが、カラー液晶になったというのは、今回初めて知りました。

木次:赤外線通信をつけたのは、自分が育てた“たまごっち”を友達に見せるだけでなく、通信によってコミュニケーションツールにするという意図があったんです。これは小学生の女の子たちにとても人気でした。

カラー液晶になった「たまごっちプラスカラー」からは、画面の表現力など、できることの幅が広がって遊びが深くなっているんです。白黒のときは、画面の中をキャラクターがウロウロしているだけだったんですが、カラーで背景を表示できることで、お部屋やお出かけ、天気といった概念ができました。

──カラーになったことでボタン電池から単4電池に変わり、サイズも大きくなったということでしたが、苦労も大きかったのでは?

木次:おもちゃ業界としてもカラー液晶が少ない時代だったので、新しい試みとしてのノウハウだったり、開発的なところで手探りだったというのはあります。遊びという面でも、カラーならでは、というものを考えるのが初めてだったので、そういう苦労はあったと思います。

──約10年前となると、スマートフォンも普及してないくらいの時代ですもんね。

木次:そうですね。ガラケーのときは、赤外線通信を使って携帯電話と通信させる遊びもありましたが、スマートフォンが広まって赤外線通信が使えなくなったときに、遊びかたも変えなきゃいけないね、という話になりました。

──今は“たまごっち”を預けるような機能もついていると聞きましたが、それも時代背景を反映していますよね。

木次:2012年の「Tamagotchi P’s(たまごっち ぴーす)」のときに、たまごっちを学校に行かせるという遊びが追加されました。

自分が忙しくても、ご飯をあげたり、掃除をしたり、ペットとして世話をしなくてはいけないというのが、ほかのゲームにはあまりない、いいところだと思っています。

ただ、子供たちも塾や習い事などで忙しいし、お母さんも面倒を見続けるのは大変なので、世話をしなくてもいい時間を「たまごっち」らしく作るということで、学校を作りました。

“たまごっち”を生き物として育ててほしいという思いから、誕生から今まで、電源のオンオフやポーズボタンをつけないことにも、ずっとこだわっています。

──本当にペットのような感覚で向き合うことで、命を大切にすることも教えているんですね。

木次:はい。昔は少し世話をしないと、すぐ病気になったり、死んじゃったりしていたので、今はだいぶ育てやすくなったと思います(笑)。それでも、ちゃんとお世話をしなきゃいけない、とか、自分の都合のいいときだけかまえばいいものではないよ、という目線は今だに持っていますね。

–{「たまごっち」の大きな変化}–

──では、今までに「たまごっち」の大きな転機ってあったんですか?

木次:長いシリーズなので転機は結構あるんですが、カラー画面で全く新しい遊び方を提案した段階というのも、大きな変化を取り入れる必要があったときなのだと思います。あとは携帯電話など、親の通信環境の変化も影響しています。

2009年から2015年まではテレビアニメを放送していたので、「たまごっち」と聞いて、玩具を思い浮かべる子とキャラクターを思い浮かべる子と半々になるくらい、キャラクターの認知がありました。なので、このキャラクターはこういう性格だから、こういう食べ物が好きとか、こういう遊びが好きとか、キャラクター性に寄った遊びを結構入れていたんです。

最新の「Tamagotchi m!x(たまごっち みくす)」の発売前にアニメの放送が一旦お休みになりました。これって一見マイナスに見える環境なんですが、だからこそ面白いことができるんじゃないかと。

それで「Tamagotchi m!x」では、キャラクター同士を結婚させると、両親の特徴が子供に遺伝するという遊びを入れているんですね。それはキャラクター性を追求する面白さから脱却しなきゃいけない、という転機でしたね。

──結婚して子供が生まれる、というのは、これまでもありませんでしたっけ?

木次:結婚して子供が生まれる、という概念は「たまごっち オスっちメスっち」(1997年発売)のころに一度あり、2004年の「かえってきた!たまごっちプラス」以降はずっとあります。

でも、たまごが生まれて、それがひと世代の間にどう成長していくのかを毎回楽しむ形で、次の世代になったときにはリセットされて、次のたまごはまた別の成長をするというものでした。

なので、特徴が遺伝して、世代をつなぐほどにオリジナルの「たまごっち」が育っていく、というのは今回がはじめてになります。

──全部でどのくらいのキャラクターがいるんですか?

木次:育つ可能性、つまり組み合わせのバリエーションとしては、色違いまで含めると、1台のなかで数千万パターンがあります。バージョンが違う「たまごっち」同士の通信や、玩具店にある「たまごっちm!xステーション」との通信でしか結婚できないキャラクターもいて、それも合わせると数億パターンになると思います。

–{開発の裏話を教えて!}–

──すごいですね! その「Tamagotchi m!x」開発の裏話ってありますか?

木次:キャラクターの遺伝子を継承するというのは「Tamagotchi m!x」が初めてだったので、キャラクター同士を掛け合わせて、どういうイメージになるのかというのを調整していく作業が大変でした。

例えば、顔が小さいキャラクターに大きな目が遺伝するとバランスがおかしくなっちゃう、みたいなことがあって、そういう調整を全部チェックしたんです。

形状の組み合わせだけでも数百万パターンになるので、ひとキャラクター分の組み合わせだけでも、プリントアウトした紙が10cm以上の厚さになっちゃって(笑)。半年くらいかけて全部の調整をしました。

──では、「たまごっち」を作るうえで、いちばん大事にしていることはどんなことでしょうか?

木次:今の子供たちはスマートフォンだったり、複雑なゲームだったりを使いこなしていて、玩具に驚くことも少ないんだろうなと思うんです。

例えばカラー液晶の商品が出たときはそれ自体が珍しかったし、新しい体験だった。でも、今はそれが普通になってしまっているので、日常的にデジタルに触れているような子供たちに、わかりやすく驚きのある経験をさせてあげられるものってなんだろう、と考えています。

あとは、子供たちが「たまごっち」でどういう風に遊ぶのか、というのも大切にしたいと思ってます。

限定のキャラクターと結婚させたいから玩具店に足を運ぶ、というのもそうですね。それに、今までは、決まっているキャラクターのなかで「今回はこれに育った」という遊び方でしたが、自分だけの「たまごっち」が育つようになりました。

そのため、自分が今まで育てたキャラクターに二度と会えないかもしれないし、兄弟や友達と同じキャラクターに育つこともほぼないんです。なので、「たまごっち」の見せ合いをするなど、会話のきっかけにもなると思います。やはり、コミュニケーションツールとしての遊びかたというのも考慮しています。

──私たちの時代は、育てたいキャラクターにするためにはどうするか、を考えていましたね。

木次:そうなんです。今はインターネットが普及して、その答えを見つける方が早くなってしまっている。なので、答えではない、話したくなる要素を盛り込むということが大事だと思っています。

──最後に、今後の展望を聞かせてください。

木次:次をどうしよう、というのは毎回悩むところですが「Tamagotchi m!x」のように自分だけのキャラクターが育つところや、「たまごっち」の原点でもある、育て方がキャラクターの成長に影響しつつも、何が育つかわからないワクワク感というのは重要な要素だと思っています。

なので、そこは今後も大切にしていきたいですし、時代のニーズや子供の興味、親子の関係性に合わせて新しい遊びを取り入れていきたいなと、まさに考えているところです。

あとは、20周年が大人たちに「たまごっち」を思い出してもらえる機会になったので、そういう人たちがまた遊びたいと思うきっかけを今後も作っていけたらと思います。

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20年前、筆者が遊んでいた頃から、大きく進化を遂げていた「たまごっち」。サンリオキャラクターに似た子供を育てることができる「Tamagotchi m!x」のサンリオコラボも好評とのこと。姪っ子のクリスマスプレゼントにこれを検討しつつ、筆者も「たまごっち」を久々に手にとってみたくなりました。

さて、冒頭で書いた「仮面ライダー」グッズの開発者インタビューは、12月1日(土)と12月11日(月)に公開予定です。こちらもお楽しみに!

(取材・文:大谷和美)