“ジグソウ”が見えないところでやっていた11のこと『ジグソウ:ソウ・レガシー』

映画コラム

© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved Photo credit: Brooke Palmer

ホラー映画戦線異状あり!?

今年のアメリカ・ハリウッドでのヒット作の並びを見ると異変が起こっているようです。というのもしばらく、静かだったホラー映画でヒット作が続いているのです。シリーズもの、特にアメコミ映画百花繚乱の今、その間隙を縫ってランキング上位に顔を出し続けています。それ以外で上位に入っている作品というと『ダンケルク』ぐらいですね。

そんな今年を振り返って見るとまず1月にM・ナイト・シャマラン監督の復活作『スプリット』が3週連続全米TOPのスタート(シャマラン監督としては何と『シックス・センス』以来の快挙)。すぐに2月に『ゲットアウト』がスマッシュヒット。そして秋になると『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』があの名作『エクソシスト』を超えるホラー映画ナンバーワンヒットを記録。

そして、アメリカではホラー映画が最も求められるハロウィンシーズンでは『Happy Death Day』が初登場一位を記録。そしてハロウィンど真ん中の10月最終週にはあの『SAW』シリーズがまさかの復活、かつての定位置で公開されると当然のように全米1位に輝きました。

真打登場

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かつてハリウッドのハロウィンシーズンを7年間盛り上げたソリッド・シチュエーション・スリラー『SAW』シリーズ。21世紀末の90年代ハリウッドではホラー映画は停滞傾向にありました。再構築系の『スクリーム』シリーズや襲い掛かる存在がもはや禁じ手な『ファイナル・デスティネーション』シリーズなどのティーンエイジ・スラッシャーが辛うじて存在感を出したていたくらいです。

21世紀に入ると『リング』『呪怨』などのJホラーのリメイク版でまず盛り上がり、70年代、80年代のスプラッターホラーのリメイク版が席巻しました。その後POV系・ファウンドフッテージ系(『パラノーマル・アクティビティ』シリーズ)という低予算作品にぴったりな造られ方の映画が時々登場。最近になってオカルト路線がまた復活したりして少しずつホラー映画が復権傾向にあります。この秋は『ゲットアウト』『アナベル死霊人形の誕生』『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』などのビッグヒットが連発されて上昇気流が吹き始ました。

ちなみに元々はホラー映画の1ジャンルだったゾンビ映画はもはや完全に独り立ちしてしまい、もはやホラー映画という括りからは外れてしまいました。

21世紀最初のホラーアイコンの登場

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ところがその上昇気流に大きなものが欠けていました。それはわかりやすい“顔”。かつてのジェイソンやフレディのような、映画を見ていなくても何となくわかる“顔”がいませんでした。そんな中で登場したのが最前列の殺人ゲームマスター“ジグソウ”です。

その素顔は余命幾ばくもない初老の男性。しかし自分の死を意識したことで、人の命とその命を人がどう思っているのかを強く考えるようになり、異様で異常な使命感を抱きます。そして、命を懸ければ命が助かるというトラップだらけの殺人ゲームを主催するようになりました。

ちなみに自身は重病に侵されていることもあって、ゲームを仕込み切ったころには身動きをとるのも一苦労な状態。そのため腹話術人形のビリーをシンボル(自分の身代わり・代弁者)としてゲームの最前列に置いています。ちなみのこの人形、元々はジグソウと妻のジルの間に生まれる予定だった息子のためのもの、という切ない裏事情もあります。

そんな、殺人鬼ジグソウが見えないところでしていた11のこと

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余命幾ばくもない体に鞭打ってジグソウは本当に色々見えないところであれこれと仕込みをしていました。

シリーズ自体の裏話を言ってしまえば監督と脚本、出演をしたジェームズ・ワンとリー・ワネルの若手クリエイターコンビはそもそも『SAW1』は名刺代わりの一作でこれっきりにする予定でした。ところが思わぬ大ヒット。そこで他の映画用に用意していたアイデアを『SAW』シリーズ化に向けてアレンジして追加。

『SAW4』以降、二人は製作総指揮に名を残すだけで実質シリーズからは離れていったものの、設定の後付け追加路線はすっかり定着。結果としてジグソウは恐ろしく先見の明がある殺人鬼だったことになりました。

そんなキャラクターに説得力を持たせたのは、何といてもジグソウを演じたトビン・ベルの存在が大きいでしょう。決して大きな役に恵まれてきたわけではありませんが、80年代からコツコツとキャリアを積んできた、御年75歳の知性と独特の風貌を兼ね備えた彼なくしては、ジグソウの素顔や過去を描いていくという技は通用しなかったことでしょう。

※次のページでは殺人鬼ジグソウが、見えないところでしていた11のことを解説しています。

–{殺人鬼ジグソウが見えないところでしていた11のこととは?}–

身辺整理

完治困難の脳腫瘍で余命わずかということ知ると、改めて命の重みを知ったジグソウことジョン・クレイマーは、命を軽んじる者をターゲットにした殺人ゲームマスターになると決心。そんな彼はまず一般社会と距離を置くために身辺整理をします。また財産等々も整理し、手元の資金は(自身の病がもう手遅れということもわかっていたので治療費などには回さず)ゲームに費やすます。

1.離婚

自分の死期を悟り、命を軽んじるものへ命の重さを再認識させるゲームを始めるため、年下美人で医師でもある才色兼備の妻ジルと離婚します。

表向きの理由は二人の間の子供が流産してしまったことのようにしていますが、実際のところは愛妻をジグソウの妻よりジグソウの“元”妻にした方が、事件発覚後のジルの立場がよくなると慮ってのことでした。

しかし、ジルは離婚後ジグソウとは連絡を取り合っていないと証言していたものの、実は離婚後も何度も会っていました。さらにジルには弁護士を通してメッセージとある遺品まで残しています。

2.自宅のリフォーム・アジトの確保 

脳腫瘍が進行して心身ともに辛い中、建築学や機械工学(地元ではそれなりに名の知れた名士でした)の知識と経験を使って自宅を大掛かりにリフォーム。地下室を迷宮のような作りに。『SAW1』の舞台となった古びた浴室もこの中にあります。

また、ピタゴラスイッチ的な殺人トラップを多数製造、トラップ満載の『SAW2』から『SAW6』に登場したアジトも別に用意しました。ここは元食肉工場で、ジグソウの最初の設計物件でもありました。

後継者候補(後述のアマンダ・ホフマン刑事・ジル・ゴードン医師・今回の犯人)に多くの作業を手伝わせて、その様子を観察。後継者の資質を細かくチェック、それぞれの暴走に対する予防策も別々に託していました。

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後継者選抜

後継者は基本的にゲームを生き残った者から選抜され、まずは助手からスタートします。ホフマン刑事の場合はジグソウを装って妹の復讐をしたのがあっさりばれましたが、その動機を鑑みて特別枠で助手に採用されました。警察側の情報源としても機能しましたし、力仕事も彼の担当でした。

3.アマンダ・ヤングをスカウト

『SAW1』から登場して、最初期のゲームの参加者で生き残ったことから後継者候補に。実は身篭っていたジルを襲って流産させてしまった元患者の強盗の恋人で、その現場にもいました(ジグソウは知っていた様子です)。

ゲームから生き残った後にジルとも再会(ただし、流産の件には触れず)。8人のゲーム(『SAW2』)にも参加してみせるなど献身的な態度を取り続けます。ただし、嫉妬深いところもあって、ジグソウが自身の延命治療のためとはいえ女性脳外科医リンに全幅の信頼を置いて接する様子を見ると露骨に不快感を示し、最終的に彼女を銃撃。その直後にトラップを抜け出てきたリンの元夫に射殺されます(『SAW3』)。

実はこのゲームはジグソウからアマンダへの最後のテストでした。なお彼女が仕込んだゲームではまずどうやっても助からないものが多く、その点でもジグソウの不興を買ってしまいました。

4.マーク・ホフマン刑事をスカウト

『SAW4』からの登場ですが、ジグソウ事件に当初から参加していた(という後付け、追加設定がなされていた)刑事。自分の妹が殺害され、その復讐をジグソウの仕業に見せかけたものの、あっさりとジグソウに露見して捕らえられます。尋問の結果、その動機を鑑みてすぐには殺されず、情報源かつ力仕事担当として助手に採用されます。最初はアマンダからも見下されていましたが、狡猾さと野心の強さがあり、逆にアマンダの罪を調べて脅迫、脳外科医リンを銃撃させ、ジグソウの最後のテストに失格させるほどに。

ジグソウとアマンダの死後は、ジグソウの後継者としてゲームを進めるものの、生来の残忍さが顔を出し始め、どんどん生存率の低いゲームを進めるようになります。やがて警察にも追われる身となり、さらにジルを手にかけたことでジグソウが暴走予防役として用意していたゴードン医師に襲撃されてしまうことに。

5.元妻ジル・タックに遺品を託す

ジグソウの元妻、才色兼備の女性です。当初の取り調べでは離婚後は、元夫とはコンタクトを取っていないと証言しましたが、実は離婚後も何度も会っていました。更に、ジグソウの仕掛けるゲームもことも薄々感づいていた様子も描かれます。

弁護士を介して最後のメッセージと遺品としてのヘッドギアを受け取りました。後継者になるわけではなくホフマンの暴走を止めるための役だった可能性もあります。

6.ローレンス・ゴードンにメッセージを残す

ジグソウの担当医でしたが、良くも悪くもシステマティックに患者に接するタイプで、そのことからゲームに参加させられます(『SAW1』)。自らの足首を糸鋸で切り落として脱出を図ると、その覚悟を見たジグソウにより応急処置を受けて生き延びます。

自身は後継者になるつもりはなく、あくまでも裏方に徹するつもりだったようですが、ジグソウの得意分野ではない医療技術の部分で様々なフォローをしていました。ジグソウの延命のために脳外科医のリンを紹介したのも彼でしたし、参加者の体内に鍵を埋め込んだりするのも彼でした。

ジグソウからの信頼も強く、ジグソウの死後はゲームを遠くから観察し続けていました。ジグソウからホフマンの残虐性が暴走していく可能性を示されていて、ホフマンに警告文を出したりもしました。最終的にホフマンを浴室に閉じ込め、旧シリーズで最後にキメ台詞の「GAMEOVER!」を告げた人物でもあります。

7.今回の犯人にノウハウを伝授

実はこの人物もかなり最初期のゲームの参加者でした。ゲームから生き残り、その後ジグソウに様々なゲームとトラップの技術を伝授されました。

それから、10年間ジグソウの後継者・協力者としての顔を隠してきましたが、あることからゲームを開始します。10年前の職業は研修医で、ジグソウの脳のレントゲン写真を取り違えた過去があります(ゲーム参加者に選ばれたのもそれが理由です)。再開されたゲームは、ジグソウの存在を感じさせつつも、最新技術も多く取り入れている進化形です。

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ゲーム参加者の選抜

8.ゲーム参加者を確定

ゲームの参加者は、アマンダやホフマンがゲームの主催者となると、個人的な邪魔者を選ぶなど、元々の命を軽んじる者という条件と合わないものに変わっていきましたが、初期の参加者はジグソウが死期を悟った直後に関わった面々が選抜されました。自分の病に関わったり身近にいたりした面々などです。

ジルを襲った強盗の男(アマンダの恋人)が最初のターゲットでした。また自身の先端治療への保険適応を断った保険会社の副社長とその部下たちや(『SAW6』)、ジグソウのゲームからの生還者を装って自伝を発表し時の人となったボビーも含まれています(わざわざ顔を見にサイン会にも行っています)。

自身の治療に関りながらも積極的ではなかったゴードンや、レントゲン写真を取り違えた研修医などもターゲットに。ちなみにゲーム執行を妨げる警察官などにはゲームとは別に妨害トラップを多数用意しています。

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死後の遺産(レガシー)を用意

9.自分にトラップのスイッチを仕込む

自身の延命のために脳外科医のリンを誘拐し、治療を強要するためにヘッドギアをつけましたが、その作動スイッチは自身が死ぬと共に作動するようになっていました。普通にジグソウが延命すれば、リンのトラップをも外される予定でしたが、アマンダの嫉妬心から(ホフマン刑事の差し金という追加設定もあります)リンはアマンダに撃たれてしまい、ジグソウの延命は不可能に。

ジグソウの命も風前の灯火でしたが、リンの夫ジェフがジグソウを射殺したことで、すでにリンは重傷を負っていましたがトラップが作動して、とどめを刺されました。

10.ホフマンにメッセージ 

ジグソウは自身の命がいよいよ最後の時を迎えるということと、後継者候補だったアマンダに未熟さを感じていたことで、ゲームを継ぐ人間はホフマン刑事だと考えました。そこで彼に向けたメッセージを録音したテープを蝋にくるんで飲み込みます。死後の検視で胃からテープが発見されホフマン刑事にメッセージが伝わる仕掛けです。

胃酸の影響を受けないために蝋にくるんだのですが、ホテルのアメニティグッズの石鹸ぐらいの大きさに。飲み込むのもさぞや大変だったと思われますが、ジグソウの覚悟のほどが良く分かりますね。

11.メッセージと遺品を残す

元妻のジルに弁護士を介してメッセージと遺品を残します。メッセージは6つの封筒で、中には正当な対応をしなかった保険会社の面々の写真がありました。ジルは5つまでをホフマンに渡します。6つ目のメッセージにはホフマンの写真があり、遺品のトラップはホフマンの暴走を止めるためのものでした。ゴードン医師へのビデオメッセージも託されていたようです。ジグソウは自身の死後も自分のゲームが意図しない方向に向かうことをとにかく嫌っていたようです。

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そして10年後

10年後。ジグソウの存在はもはや都市伝説(レガシー)の中の人物となっていて、多くの隠れ信者が生まれています。そして、どこから漏れたのか数々のトラップの設計図がネット上にさらされ、中にはそれを再現しようとする者まで現れるように。

そして、また新たなゲームが始まるのです…

(文:村松健太郎)