10月27日(金)より、『ブレードランナー 2049』が公開されます。どのように楽しめば良いのか? また事前に知っておくべき情報とは? ネタバレなしで、解説いたします!
- 1:前作『ブレードランナー』とは? 愛された理由の1つは“奥深さ”だった。
- 2:前作が後世のSF作品に与えた影響とは?
- 3:前作の魅力はそのまま、いや、さらに“深化”をしていた!
- 4:人造人間“レプリカント”とは?
- 5:前作は観ておくべき? 本作だけでも物語は理解できる?
- 6:上映時間は2時間43分! 体調を万全にして、事前のトイレも忘れずに!
- 7:最高の音楽を堪能するために、できるだけ音響設備の整った劇場を選ぼう!
- 8:3つの短編作品も要チェック!
- 9:ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とリドリー・スコット監督の“作家性”にも注目!
- まとめ:観る前にこれらのチェックを!
- おまけ:おすすめの“ディストピア”映画はこれだ!
- 3:『クローン』
- 4:『わたしを離さないで』
1:前作『ブレードランナー』とは? 愛された理由の1つは“奥深さ”だった。
本作は、35年前(1982年)に公開された『ブレードランナー』の正当な続編です。今でこそSF映画の金字塔と呼ばれる作品ですが、実は当時の興行成績は決して成功と呼べるものではありませんでした。
その理由は一概には言えませんが、単純に“内容が難しい”ことも一因でしょう。哲学的な思考を促す場面が多く、物語や画のトーンも暗く、その少し前に大ヒットした『スター・ウォーズ』のような胸躍るアドベンチャーも、同時期に公開された『E.T.』の親しみやすさも、ほとんどなかったのですから。
しかし、『ブレードランナー』は現在に至るまで、カルト・ムービー(一部で熱狂的なファンを持つ映画)として、世界中で愛されています。それは、(詳しくは後述しますが)後世のありとあらゆるSF作品に影響を与えたほどの革命的な内容であったことと、“観るたびに新しい発見がある”という奥深さがあったためでしょう。
シーンの1つ1つに至るまで「あれはこういうことだ」などと議論が活発化し、製作上のミスや矛盾点を含めて様々な考察がなされています。日本のテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』がそうだったように、あえて“想像や考察の余地を残す”ことにより、さらなる面白さを生み出しているのが、この『ブレードランナー』という作品なのです。
2:前作が後世のSF作品に与えた影響とは?
『ブレードランナー』が革新的であったのは、ひとえにその世界観の構築にあります。雨の降りしきる夜のビル群、貧富の差が広がっている“ダークな近未来”は後のSF作品に多大な影響を与えました。
その一例を挙げるのであれば、日本のマンガ(それを原作としたアニメ映画)の『AKIRA』や『攻殻機動隊』、ゲームの『ファイナルファンタジーVII』などです。いずれも大都会がメインの舞台になっていますが、そこにはまったく華やかさはなく、無機質で暗い背景がほとんど。いずれの作品も希望に溢れた物語ではなく、むしろ“望まれない未来”が描かれているからでこそ、その世界観が大きな魅力となっていました。
35年という月日が経った今『ブレードランナー』を観ても、その世界観の独創性、完成度に圧倒されます。新宿歌舞伎町を参考にしたという日本語の看板や食文化、リアリティのある“有り得そうな未来”の描写の数々を観ているだけで、存分に楽しめるでしょう。
3:前作の魅力はそのまま、いや、さらに“深化”をしていた!
さて、前作『ブレードランナー』の魅力は、以上に挙げたように、
(1)何度観ても新しい発見がある奥深さ
(2)独創的な近未来の世界観
この2つが非常に大きくなっています。
では、今回の『ブレードランナー 2049』はどうか? と問われれば、「その魅力を完璧に踏襲している、いやさらに“深化”をしている!」と断言できます。
物語上のネタバレは一切できませんが、新たな主人公“K(ライアン・ゴズリング)”の抱えている問題と、前作から時が経ったことによる、新たに生まれた世界の脅威……それら全ての要素が有機的に絡み合い、先が読めない面白さを構築し、かつ様々な思考を観客に投げかけてくるので、グイグイと物語に引き込まれることでしょう。
ビジュアルの美しさ、荘厳さも、リアリズムも筆舌に尽くしがたいものがあります。衣装、セット、ライティングなど、どれもが一級品で、シーン1つ1つが絵画のような仕上がりになっていました。大ベテランの撮影監督ロジャー・ディーキンスの仕事ぶりも、ここに来てキャリア随一と言って良いほどに完璧!
繰り返しになりますが、『ブレードランナー』の大きな魅力であった“物語の奥深さ”と“近未来の世界観”を本作『ブレードランナー 2049』にも期待するのであれば、それが裏切られることはまずありません。本作が批評家から絶賛されているのは、この前作の多大なリスペクトがあったおかげでもあるのでしょう。
ちなみに、本作『ブレードランナー 2049』を手掛けたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によると、今回の気候は自身の出身地であるカナダで過ごした“最悪の日々”が元になっているらしく、前作にはない“雪”や“ぬかるみ”という要素も登場しています。前作の世界が、さらに“広がり”を見せたというのも、ファンには嬉しいところです。
4:人造人間“レプリカント”とは?
本作および前作『ブレードランナー』には“レプリカント”と呼ばれる人造人間が登場します。このレプリカントは、物語を読み解くための、最も重要なキーワードと言っても過言ではないでしょう。
フィリップ・K・ディックの原作小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では、実はレプリカントという言葉は使われておらず、人造人間はアンドロイドと呼ばれていました。なぜ映画化する際に新たな造語を作ったかと言えば、「アンドロイドでは、まるで“ロボット”のように無機質な存在であるかのような先入観を与えてしまうから」というのが理由だったようです。
前作を観てみると、レプリカントは限りなく人間に近い存在として描かれていることがわかるでしょう。人間との違いは、肉体的に強靭であることや、他者の共感能力に乏しいため“検査(質問の繰り返し)”により識別できる程度のことなのです。
また、前作においてレプリカントは、地球上では違法な存在として、彼らを取り締まる捜査官“ブレードランナー”に追われ続けなければならなくなっていました。
前作の物語を追っていくうちに「人間とレプリカントに違いはないのではないか?」「レプリカントたちを容赦なく処刑する主人公(ブレードランナー)のほうがよっぽど非人道的なのではないか?」といった疑問がふつふつと湧いてくるのではないでしょうか。
この“疑問”こそが、物語の最も重要なものと言ってもいいでしょう。そのような疑問に対して、観客それぞれが考えた“答え”こそが、例えようもないほどの感動をもたらしてくれる。それが『ブレードランナー』という作品なのですから。
疑問からさまざまな“答え”が導きだされる面白さは、本作『ブレードランナー 2049』でも健在です。今回の主人公であるブレードランナー“K”が何者であり、また彼の恋人の正体は……? 彼らは人間なのか? レプリカントなのか? それとも……? ネタバレになるので一切言えませんが、それらを“知っていく”過程には、上質なミステリーを観たかのような満足感が得られるでしょう。
5:前作は観ておくべき? 本作だけでも物語は理解できる?
これまで書いてきたように、本作は『ブレードランナー』の35年ぶりの続編であり、劇中でそれとほぼ同じ時間(30年)が経過している、物語としても完全に“続き”になっている作品です。ともすれば、「前作を観ていないと話がわからないのでは?」と危惧している方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、「なるべく前作を観ておいたほうが良い」でしょう。設定や世界観が理解しやすくなることもさることながら、前作からあったさまざまな哲学的な疑問、今回から登場する新たな設定の謎も、さらに“解き明かしやすく”なるのですから。
もっとも、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は先日の記者会見にて「今回の映画だけを観ても分かるように作られています(が、できれば若い世代にも前作を観て欲しいです)」と発言していますし、物語自体は“不可解な事件の謎を解く”という一種の刑事もののようなシンプルさがあるので、本作だけ観ても話そのものは十分に理解できます。本作を先に観て、後から前作を復習する、という見かたもアリなのかもしれません。
しかし、個人的にはやはり「前作を先に観て欲しい」と強く願います。映画評論家の町山智浩さんも「本作を観る前に、『ブレードランナー』の一作目は絶対に観ておいてください。それは理解のためというより、“心の問題”です。観ていると、泣けるんです」とラジオで発言されており、筆者もこれに完全に同意します。前作で起こった出来事を知っているからでこその、“心を揺さぶる”感動が、そこにはあったのですから。
ちなみに、『ブレードランナー』には5つのバージョンが存在しています。「ファイナル・カット」が最も高画質かつ、細かいミスも修正されている最新版なのですが、初めて観る場合は主人公のナレーションが追加されている「オリジナル劇場公開版」を選んだほうが、とっつきやすいかもしれません。
※次ページでは、最も重要なことをお伝えします!
–{次ページでは、最も重要なことをお伝えします!}–
6:上映時間は2時間43分! 体調を万全にして、事前のトイレも忘れずに!
いろいろと小難しいことも書きましたが、これより事前に知ってほしい、最も重要なことをお伝えします。それは、本作の上映時間が2時間43分と長く、かつテンポも“ゆったりめ”であるということです。
ただし、このテンポは“悪い”ということではありません。哲学的思考を促すセリフがたっぷりあるので、これ以上のスピードであると理解が追いつかなくなってしまうでしょうから。
本作を観る前に、集中力を切らさずに思考を巡らせるため、体調をできるだけ万全に整えたほうがいいでしょう。もちろん、長めの上映時間に耐えられるよう、事前のトイレも必須です!
7:最高の音楽を堪能するために、できるだけ音響設備の整った劇場を選ぼう!
前作および本作で、もう1つ忘れてはいけない、大きな魅力があります。それは“音楽”と“音響”の素晴らしさです。
前作のシンセサイザーを使った独特の音楽は、重圧な世界観の確立に大きな貢献をしており、それも伝説的な映画となる理由の1つになっていました。
本作では、ハリウッドの重鎮ハンス・ジマーと、新進気鋭の作曲家ベンジャミン・ウォルフィッシュが音楽を手がけています。優れた音響効果も相まって、その音楽は物語への没入感をさらに、さらに増大してくれました。ビジュアルや物語だけでなく、本作は音楽においても、前作へのこれ以上ないリスペクトがあったのです。
本作『ブレードランナー 2049』は、できる限り音響設備の整った劇場で観たほうが良いでしょう。IMAX版の上映もありますので、早めに劇場をチェックしておくことをおすすめします。
8:3つの短編作品も要チェック!
『ブレードランナー』と『ブレードランナー 2049』の間に起こった出来事を描く3つの短編作品が、動画サイトで公開されています。
その1つは、『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』で知られる渡辺信一郎監督によるアニメ作品であり、スタッフもアニメ界のレジェンドたちが集結したと言えるほどの豪華さ。無料で観られるのが申し訳なくなるほどのクオリティの高さを誇っています。
これらの3本の短編作品を観ておき、“事前に起こった出来事”を知っておくと、さらに『ブレードランナー 2049』を楽しむことができるでしょう。
9:ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とリドリー・スコット監督の“作家性”にも注目!
前作や3つの短編作品を観ておいたほうが良いのはもちろん、本作の監督であるドゥニ・ヴィルヌーヴと、前作の監督であるリドリー・スコットの作品群を観ておくと、本作をさらに楽しめるでしょう。筆者の個人的な視点でありますが、両者の作品には(脚本家がそれぞれ違うにも関わらず)以下の一貫した“作家性”があるからです。
・ドゥニ・ヴィルヌーヴ……今いる世界にあった“思いもしなかった真実”が急に露呈し、それに振り回されてしまうか、半ば狂気をはらみながらも立ち向かう。
・リドリー・スコット……今いる世界にあった“どうしようもなかった仕組みやルール”に、振り回されてしまうか、必死に抗おうとする。
微妙な違いこそあれ、両者の作家性はとても似ている、と言っていいでしょう。その2人の作家性が、本作『ブレードランナー 2049』においても全開となっているのです。(※リドリー・スコットは本作において製作総指揮を務めています)
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品の中でも特におすすめは、『灼熱の魂』か『メッセージ』です。前者はミステリーとして抜群にスリリングかつ、“真実”が明らかになった時の衝撃が半端なものではありません。後者は異星人の侵略を通じて“生きる意味”を見つめ直せる哲学的な作品であり、いずれも『ブレードランナー』および『ブレードランナー 2049』とテーマが似ているところもありました。
※筆者はこちらの記事も書いています↓
・新海誠監督が『メッセージ』を見て語ったこと
リドリー・スコット監督作品の中でも特におすすめは、『テルマ&ルイーズ』と『オデッセイ』です。前者は逃避行をするしかなかった女性2人の“行き詰まり”がこれでもかと描かれており、後者は“どんなこと状況でも希望を捨てない”という人間の力強さが存分に表れています。
余談ですが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品では、「セックスをした、または性的なことをほのめかした者が、実は……」という展開がよくあります。本作でも……?
※次のページでは要チェックポイントを振り返ります。
–{観る前のまとめ!これらにぜひチェックを!}–
まとめ:観る前にこれらのチェックを!
本作『ブレードランナー 2049』を観る前にお伝えしたいことを、簡潔にまとめると以下のようになります。
前作は観ておいたほうが良い
3本の短編作品も観たほうが良い
ゆったりめのテンポで、哲学的思考を促してくるという作風である
2時間43分と長尺なので、体調を万全に。事前のトイレも忘れずに
なるべく音響設備の整った劇場を選ぶべき
また、本作はPG12指定がされており、わずかながら性描写や残酷描写があります。それほど過激なものでもないので、妥当なレーティングではありますが、お子さんの鑑賞は気をつけたほうがいいかもしれません。
また、『スーサイド・スクワッド』でジョーカーという悪役を演じていたジャレット・レトが、そちらをはるかに超えて“不気味”な悪役を演じていたり、『ノック・ノック』や『スクランブル』に出演していたアナ・デ・アルマスの“可憐さ”も大きな魅力になっています。この2人は、一生忘れられないほどの強いインパクトを残してくれることでしょう。
そして、公式サイトの「映画史に残るラストシーンに、“その答え”がある」という触れ込みは伊達ではありません。「人間とレプリカントを分けるものとは何か?」「本当の“人間らしさ”とは何か?」……前作からあった、その壮大かつ、永遠とも言える謎が、解き明かされるかもしれませんよ。
余談ですが、本作は『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や『T2 トレインスポッティング』に続き、「リアルタイムでシリーズを観ていた人が心の底からうらやましい!」と思えた作品でした。劇中の登場人物と同じ年月を過ごしていた人だけが得られる特別な感動も、きっとあることでしょう。
おまけ:おすすめの“ディストピア”映画はこれだ!
『ブレードランナー』および『ブレードランナー 2049』は、ユートピア(理想郷)とは真逆の、“ディストピア”の世界を描いた作品です。最後に、合わせて観て欲しい、おすすめのディストピアのSF映画を5本紹介します。
1:『ガタカ』
遺伝子操作で生まれた“適格者”が優位に立てる世界において、自然に生まれた“不適格者”である主人公が宇宙飛行士を目指すという物語です。どれだけ周りに不可能と言われようとも、夢を諦めない主人公の姿は、多くの人の心の琴線に触れるでしょう。
ちなみにタイトルの「GATTACA」は、DNAの塩基配列物質“ACGT”のアナグラム(並び替え)になっています。このACGTは『ブレードランナー 2049』の劇中でも……?
2:『デイブレイカー』
人口の9割がヴァンパイアと化し、食糧危機に陥った近未来の物語です。スピーディな展開、一癖も二癖もある登場人物、悪趣味な残酷描写など、全力で“B級”感に溢れている作品に仕上がっていました。主人公たちが“真実”を追い求める姿は、『ブレードランナー 2049』にも似ているところもあります。
なお、本作の監督であるスピエリッグ兄弟は、ロバート・A・ハインライン原作のタイムトラベルSF映画『プリデスティネーション』でも高く評価され、11月10日公開の『ジグソウ ソウ・レガシー』でもメガホンを取っています。
3:『クローン』
フィリップ・K・ディック原作の映画といえば、『ブレードランナー』のほか『トータル・リコール』や『マイノリティ・リポート』が有名ですが、個人的におすすめしたいのがこの映画。クローンと宣告された男が、追手から逃げながら自分を人間と証明する手段を探す、というアクションサスペンスです。
物語構造がとてもシンプルで、あっと驚くラストも用意されているなど、極めて娯楽性が高い作品です。フィリップ・K・ディックの作家性を知る一助として、観てみるのもいいでしょう。
4:『わたしを離さないで』
先日ノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロ原作の映画です。日本では、綾瀬はるか主演でテレビドラマ化もされていました。良い意味ですっきりしない、映画全体を包んでいる居心地の悪さ、不気味さこそが大きな魅力になっています。
ある“真実”を突きつけられても、それでも正しい道を模索する登場人物たちに、心を動かされることでしょう。少しだけ性的な描写もあるので、ご注意を。
5:『セブン・シスターズ』
こちらは現在公開中の映画です。端的に言って、めちゃくちゃ面白い! 設定は「徹底された1人っ子政策の中、7つ子が1日ごとに入れ替わって生きる」というもので、これでもかというほどSFサスペンスの醍醐味が詰まっていました。“1人7役”を演じ分けたノオミ・ラパスの魅力も堪能できるでしょう。
ちなみに監督のトニー・ウィルコラは、『処刑山 デッド卍スノウ』や『ヘンゼル&グレーテル』などの「イエス!B級ホラーアクション!」な娯楽作を手がけるお方で、今回もそのサービス精神が大盤振る舞いでした。
『ブレードランナー』および『ブレードランナー 2049』のように高尚なテーマを掲げた、哲学的な思考にどっぷりと浸れる映画はもちろん、こうした娯楽性たっぷりのSF作品も、選んでみてほしいです。
(文:ヒナタカ)