(C)2017「ピーチガール」製作委員会 (C)上田美和/講談社
1997年から2004年まで、少女漫画雑誌「別冊フレンド」に掲載され、累計発行部数1300万部を超える大ヒット漫画「ピーチガール」。その実写映画が、2017年5月20日(土)より公開。
アラサー世代にどストライクな原作、若い世代に人気のフレッシュな俳優陣。そして音楽プロデューサーには、「YUKI」や「ゆず」など幅広い世代に支持されるアーティストの楽曲を多数手がける蔦谷好位置さんが抜擢!
蔦谷さんの楽曲が、いかに今作の胸キュンラブストーリーを盛り上げているかは、ぜひ劇場で確かめていただくとして、今回は蔦谷さんに伺った制作秘話や作品にまつわるお話をお届け。もし「Hey! Say! JUMP」に楽曲提供するなら? なんて質問にも答えてくださいました!
映画『ピーチガール』のあらすじはこちらから。
「ドラマチック」から広がった『ピーチガール』の音楽
(C)2017「ピーチガール」製作委員会 (C)上田美和/講談社
── まず、『ピーチガール』の音楽を担当されることになった経緯をお伺いしたいです。
劇中で、YUKIさんの「ドラマチック」を使うことが先に決まってたそうなんです。それで、「この曲を作った人に頼みたい」ということで、僕にお話をいただきました。
── すごく盛り上がるシーンで「ドラマチック」が流れて、本当にグッときました。「ドラマチック」もそうですけど、普段は歌モノ(歌詞が入る楽曲)を作られてることが多いと思いますが、今回、映画音楽ということで意識された部分ってあるんですか?
子供の頃からサントラCDをよく買ってたくらい、映画音楽自体はすごく好きなんです。例えば「ゴットファーザー」の音楽を手がけたニーノ・ロータとか「ニュー・シネマ・パラダイス」のエンニオ・モリコーネとか。そういうところから、オーケストレーション(オーケストラ演奏用の編曲)みたいなものに偏った憧れがあって。「俺もこんなことやってみたい」っていう思いはありました。
だから、神徳幸治監督から「蔦谷さんのやりたいように、蔦谷さんらしさを出してほしい」と言われた時に、ザ・映画音楽みたいな方向性を考えていたんですね。なので、最初は弦楽四重奏とピアノだけの心象風景みたいな曲を作っていました。ただ、何回かセッションを繰り返していくうちに、「蔦谷さんらしく、って 、つまり普段のJ-POPをやっている僕の感情を出してほしいんだ」ということに気づいたんです。
── では、今回はむしろJ-POP側を意識したんですね。
「ドラマチック」を作ったのが2005年なんですが、ここしばらく、ああいうテイストの曲を作ってなかったんですよ。自分がそういうモードではなくて。ただ、この曲を選んでくれたということは、そういう蔦谷好位置が求められているんだな、と。
「どういう気持ちで作っていたかな」とか「あの頃は確かこういうコード進行が好きだったし、こういうサウンドが好きだったなぁ」と、当時を思い出しながら、自分の中にある引き出しを開けて作っていった感じですね。
── 最初の方で使われている、疾走感のあるバンドサウンドの曲がコード進行もアレンジも「ドラマチック」に近い印象で、それを意識して生まれたものかなと思ったんですが。
そうですね。一番最初にできたのが、オープニングからその次のシーン。ももちゃん(安達もも/演・山本美月)が学校に走って行く場面で、キャラクターが次々出てくるところ。
すごく疾走感のあるシーンで、監督が「楽しくて、華やかな映画なんだよ」って示したかった部分なんですね。それで、「『ドラマチック』を作っている僕が、そういう曲を作るなら?」と考えて。それはやっぱり、バンドサウンドだろう、と最初に思い浮かびました。
この曲は、ほかのシーンでも、緊張感を出したり、弦楽四重奏にして印象を変えたり、テンポを早くしたり、いろんなアレンジで流れています。
この曲も「ドラマチック」を作っていた頃の自分が今の技術を持ったら、とイメージして作りましたね。
── 一方で、物語の要のひとつになっているケーキが出てくるシーンは、オーケストラの楽曲でしたね。
そのシーンは、監督が熱意をもって、本当に重要なところだと伝えてくれたんです。監督が特に見せたかったシーンのひとつということで、そのためにどうしようか、と。それで、最初に作った曲はちょっと地味めな感じでした。そこから何度かやり取りして、あの曲になったんですが、完成までなかなか迷いましたね。
父と子の物語から着想を得た“カイリのテーマ”
(C)2017「ピーチガール」製作委員会 (C)上田美和/講談社
── 逆に、すんなり生まれた曲というのもあるんですか?
沙絵ちゃん(柏木沙絵/演・永野芽郁)が出てくる時に流れる、ピアノの曲ですね。“沙絵のテーマ”って勝手につけてるんですけど(笑)。
── ビジョンが見えやすかったということですか? 沙絵ちゃんって、キャラクターが濃いじゃないですか。
多分一番キャラが強いですよね。意地悪だし。でも、それは自分に自信がないとか、いろんな葛藤があってああいう性格になっちゃっていたりとか、自分の中でごまかしたりしている部分もたくさんあって。その小悪魔的な感じをメロディーに出したくて、魔女が出てくるときに使いそうな曲にしてみました。
心情をアレンジで表現しながら、沙絵ちゃんのかわいくて悪い部分、ちょっとコミカルに悪い部分っていうのを、出せたらなと思って。
–{“カイリのテーマ”誕生秘話?}–
── ほかのキャラクターに当て込んだ楽曲の話も伺いたいです。
例えば、“カイリのテーマ”は、カイリ(岡安浬/演・伊野尾慧)が部屋にいるシーンとか、お父さんとの確執が描かれているシーンで流れる曲。これは、監督が父と息子の関係を『エデンの東』的なものなんだと言っていて、なるほど、と思ったんです。
(C)2017「ピーチガール」製作委員会 (C)上田美和/講談社
僕、『エデンの東』が大好きで。そのテーマ曲の「East of Eden」が3拍子なんですが、そこからアイディアをもらって、“カイリのテーマ”も3拍子にしました。
あと、男の子のキャラクターだと、最初は全部ピアノで作ってたんですけど、それをギターにして、楽器と曲調を変えたらキャラクターの違いが出るんじゃないか、というスタッフさんのアイディアで変えていった部分もあります。
それで、カイリはアコースティックギターで、とーじ(東寺ヶ森一矢/演・真剣佑)はエレキギターにしてみようかなと。とーじの登場シーンは、結構ハードロックめなギターサウンドに、ももちゃんは主役らしく、ピアノのほかにホーンとか色々入れて、華やかな印象にしました。
「沙絵ちゃんになら、騙されてもいい!」
(C)2017「ピーチガール」製作委員会 (C)上田美和/講談社
── ちなみに、楽曲制作の時って、何度も映像を見られたと思うんですけど、どれくらい見たんですか?
同じシーンだけ何度も見ることも、もちろんありますが、全体通して見た回数でも、多分何十回も見てると思いますね。
── そんなに見られてるんですね! 特に好きなシーンってありますか?
沙絵ちゃんが「どいつもこいつもバカばっか」っていうところが一番好きですね。本当、沙絵ちゃん推しがすごいんですけど、「いやぁ、かわいいなぁ」って。彼女になら、騙されてもいいなって(笑)。
(C)2017「ピーチガール」製作委員会 (C)上田美和/講談社
沙絵ちゃんが好きっていうのはもちろんなんですけど、そのシーンで流れているのが、“沙絵のテーマ”を録音したときにおまけで録っていたピアノ曲なんです。たまたまそれを聴いた監督が、ここに入れましょう、と。
「バカばっか」っていうセリフとピアノのリズムがぴったりハマって、これは運命なんじゃないかと思って(笑)!
さっきオーケストラの話をした、ケーキが出てくるシーンもいいですよね。ネタバレになっちゃうといけないから、あまり詳しくは話せないけど。
あとは、ももとカイリの最初のシーンがすごく好き! 監督の演出力というか、キラキラしてて素晴らしいオープニングじゃないですか。音楽も、すごくいいものをつけられたと思うんですよ。もちろん、監督とスタッフの皆さんから導いてもらったものですけど、音楽プロデューサーとしていい仕事ができたんじゃないかと。
── では最後に、カイリ役の伊野尾さんは「Hey! Say! JUMP」のメンバーとしても活躍されていますけど、もし楽曲提供するとしたら、どんなイメージでしょう。
この前、たまたま音楽番組を見ていたら「Hey! Say! JUMP」が出ていて。昭和はダサいみたいな感じの曲があるじゃないですか。でも、「そろそろ平成も変わるかもしれないぞ」っていう、そこに対しての危機感のある曲を作りたいですね(笑)。「新しい年号に変わるときに、俺たちはどうなっていくんだ」みたいな。
── じゃあ、結構緊張感のある曲ですか?
年号が変わっても「Hey! Say! JUMP」は、ジャンプし続けるぞ! みたいな勢いのある曲がいいかな。今「Hey! Say! JUMP」が危惧してるのは年号、っていう感じの曲があったら、ちょっと面白いんじゃないですか(笑)。
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普段は何気なく聞いてしまいがちな映画音楽も、バックボーンを知ると、耳を傾けながら映画を見たくなりますよね。音楽に込められた想いを感じながら、映画を楽しむのもオススメです!
蔦谷好位置(つたや・こういち)
1976年生まれ。2000年、CANNABISとしてワーナーミュージックジャパンよりデビュー。2004年よりagehaspringsに加入。YUKI、Superfly、ゆず、エレファントカシマシ、 木村カエラ、Chara、JUJU、絢香、back numberなど多くのアーティストへ楽曲提供やプロデュース、アレンジを行う。近年では映画の音楽監督やCM音楽も多数手掛けるなど幅広く活躍している。
(インタビュー:大谷大、文:大谷和美)