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2017年5月12日(金)より公開の『スプリット』は、『シックス・センス』で大ヒットを飛ばしたM・ナイト・シャマラン監督の最新作。彼の作品ではおなじみの“どんでん返し”が健在なためか、全米では3週連続で興行成績1位を記録、批評的にも大成功を収めているようです。
どんでん返しとは、これまで認識していたことや、勝手な思い込みが覆されるという“騙される”快感を楽しめるトリックです。
筆者はふと思いました。映画は映像としての情報量が多いので、どんでん返しを表現するのはむしろ難しいのではないかと。
小説であれば『十角館の殺人』、テレビゲームであれば『Ever17 -the out of infinity-』など、“その媒体でしか、なし得ないどんでん返し”が存在する作品があるが、“映画でしかできないどんでん返し”はなかなかないのではないか、と。
以下からは、筆者が考える“映画でしかできないどんでん返し”が存在する(と思われる)作品を紹介してみます。ネタバレはありません。
1.『アイデンティティー』
寂れたモーテルで殺人事件が起こり、犯人探しをするという「金田一少年の事件簿」のようなミステリーです。犠牲者が静かに、しかし確実に増えていく過程はかなりショッキングで、ホラーとしても逸品でした。
本作のトリックは“映像で見ている”ことが重要になっているので、読み手の想像力を喚起する小説では表現が難しいのではないでしょうか。
冒頭のシーンから巧みなトリックが仕込まれています。勘の良い人であれば“何が起こっているのか”は察しがつくのかもしれませんが、それでも最後のオチは予想できないかも……?
2.『半分の月がのぼる空』
心臓病を患っている少女と、彼女のわがままに振り回される少年、妻を亡くした医者という三者が織りなす青春ドラマです。
いわゆる“難病もの”なのですが、あまりセンチメンタルではなく、ギャグも適度に盛り込まれているので、親しみやすい作品に仕上がっていました。忽那汐里演じる美少女のパシリになり、「痴漢!覗き!犯罪者!」と罵倒されるなど、特殊な性癖を持つ人にとってはご褒美のようなシーンが満載だったりします。
トリックそのものは小説でも実現可能なものなのですが、“映像だからこそ”気づきにくくなっているとも言えます。勘がいい人なら、その秘密に早くから気付けるかもしれませんね。
調べてみたところ、これは原作のライトノベルにはないトリックなのだそうです。原作のファンも驚かれたのではないでしょうか。
3.『愛してる、愛してない…』
この作品は何を言ってもネタバレになりそうなので紹介しにくい! できれば“一途で素敵なラブストーリー”を期待して、何も予備知識を入れずに観てほしいです。
これは『アメリ』で一躍有名になったオドレイ・トトゥのイメージがあってこそのどんでん返しと言えるのではないでしょうか。『アメリ』のヒロインは確かにかわいいですが、かわいい以外の“ある印象”もありませんでしたか? その印象が本作では……?
「あなたがバラをくれたから、私は心にケガをした。」というキャッチコピーは秀逸です。どのような物語として受け取るかは、人によって異なるかもしれません。
4.『イニシエーション・ラブ』
80年代後半を舞台としたラブストーリーです。原作小説は「読み終わった後は必ずもう一度読み返したくなる」と銘打たれており、今まで読んでいた物語が根底から覆されるトリックは各所から絶賛を浴びました。
このトリックは、小説を読んだ方であれば「映画では実現不可能なのでは?」と思ってしまうものでもありました。しかし、この映画はこの原作のトリックを、半ば強引とも言える手段で見事に再現しているのです!
原作小説を読んだ方であれば(読んでいなくても)、この映画はどんでん返しそのものではなく、“トリックを再現する手段”が提示された瞬間に驚けるのではないでしょうか。予告編ではそれが上手く隠されており、「観客を驚かせたい!」と願う製作者の熱意が存分に感じられました。
個人的には、その“手段”が提示された瞬間に大笑いをしてしまいました。この笑いは他の映画ではあり得ない、唯一無二のものと言っても過言ではありません。
5.『サイン』
M・ナイト・シャマラン監督作からは、これを選ばずにはいられません。端的に言えば“宇宙人の侵略を一家族の視点だけで描く”という内容で、大作映画とは思えないほどの、“こじんまり”とした作風がむしろ魅力になっています。
どんでん返しそのものは映画でなくてもできそうなのですが、クライマックスの予想だにしない(しかし伏線が存分に張られている)シーンは下手なコメディ映画よりも笑える、いや大爆笑をしてしまいました。展開そのものはシリアスなはずなのに、どうしても笑いがこみ上げてしまうという“シリアスな笑い”の代表と言ってもいいでしょう。
そんな笑いはあるものの、物語のテーマはとても尊く、美しい物語に仕上がっています。日本ではかなり評判の悪い作品ではありますが、シャマラン監督の美学と価値観が存分に表れているので、ぜひ『スプリット』の前に鑑賞してみてほしいです。
–{真の“映画でしかできないどんでん返し”はこれだ!}–
6.『サスペリア PART2』
ピアニストの男性が殺人事件に巻き込まれてしまい、その謎を解く過程でさらに犠牲者が増えていってしまうというシンプルなミステリーです。
驚くのはトリックそのもの。一度目に観た時はまず気づかないのですが、二度目にそのシーンを見た時は叫んでしまいそうな怖さがあり、同時にちょっと笑ってしまうかもしれません。これは“場面がすぐに切り替わってしまい、ずっと同じ場所を見つづけることができない”という映画の特徴を活かした仕掛けでもあるのです。
ちなみに、この邦題は同監督のオカルトホラー映画『サスペリア』の意外なヒットにより、配給会社が勝手につけたもので、実際は続編ではありません。また、“完全版”と銘打たれたバージョンは2時間を超える上映時間で少々冗長さが否めないため、可能でしたら劇場公開版を観ることをおすすめします。
まとめ.どんでん返しは笑える?
この他、『ファイト・クラブ』や『ユージュアル・サスペクツ』や『シャッター・アイランド』など、“映像だからでこそ2度観たくなる”映画もあります。
いずれも、ちょっとしたセリフや役者の演技がどんでん返しの伏線になっているので、“画面のすみずみまで見逃せない”という、映画にしかない魅力に溢れていると言えるでしょう。
『ソウ』や『エスター』のどんでん返しは小説でも実現可能でしょうが、やはり映像で観てこその衝撃が絶大なものになっています。いくら文で表現されても、その“見た目”のインパクトにはなかなか敵いません
上記に挙げた、『イニシエーション・ラブ』と『サイン』と『サスペリア PART2』は、いずれも(個人的には)“衝撃が大きすぎて笑ってしまう”映画でした。あまりに予想外の出来事には、人は不思議と笑ってしまうものですものね。
どんでん返しというわけではありませんが、『ドリームキャッチャー』や『キャビン』などでこみ上げてくる笑いも、それらに似ているかもしれません。
結論としては、『サスペリア PART2』が真に“映画でしかできないどんでん返し”が存在する作品であり、他にも映像だからでこそどんでん返しのインパクトが強くなった作品や、観客を上手く騙せている作品が多くある、ということです。
数々のどんでん返しのある作品が生まれ、そのアイデアが飽和状態になってきたと言われる昨今ですが、これからも“映画でしかできないどんでん返し”が世にでてきてくれるとうれしいですね。
おまけ.最もおすすめしたい、どんでん返しの映画はこれだ!
最後に、“映画でしかできない”を抜きにして、ぜひおすすめしたい、どんでん返しのある作品を紹介します。それは『情婦』と『灼熱の魂』です。
『情婦』は製作年が1957年と古い作品ですが、クセのある登場人物の魅力、まさかの逆転劇、皮肉たっぷりなラストのキレの良さなど、今観てもまったく色あせない法廷サスペンスの傑作です。
トリックそのものは小説でも可能なもの(そもそもアガサ・クリスティーの小説が原作)ですが、映像であるとさらに“勝手な思い込み”が助長されるため、どんでん返しに驚くことができるのではないでしょうか。
ちなみに、邦題のようなエロスな雰囲気は本編にほとんどありません。タイトルが恥ずかしい、モノクロ映画だからと敬遠せずに、ぜひ一度は(もちろん二度目も)観て欲しいです。
『灼熱の魂』は、母が2通の手紙と遺書を残したまま他界してしまい、残された子ども2人が母の人生を辿っていくというミステリーです。
真実が明らかになったとき、登場人物と同じく「ヒィ…!」と“引きつった叫び声”をあげてしまいそうになりました。“打ちのめされる結末”を観たいのなら、この映画を観ればいい。そう断言できるくらいに、この映画の“真実”はすさまじいもの。残酷な物語ではありますが、ぜひ多くの方に観てほしいです。
なお、『灼熱の魂』の監督であるドゥニ・ヴィルヌーヴの最新作『メッセージ』が2017年5月19日(金)、『ブレードランナー 2049』が2017年10月27日(金)より公開予定です。今もっとも注目されている監督の1人であるので、ぜひ、その作品群を追ってみてください。
(文:ヒナタカ)