人の人生に寄り添うものでありたい―是枝裕和監督シネマズ独占インタビュー

映画コラム
海よりもまだ深く 是枝裕和監督 インタビュー

是枝裕和監督の最新作、阿部寛主演『海よりもまだ深く』のBlu-ray&DVDが発売となった。シネマズでは、是枝裕和監督に単独インタビューを実施。映画公開前後では聞けなかった本作の裏話や、次回作について話を伺った。

『海よりもまだ深く』是枝裕和監督シネマズ独占インタビュー

海よりもまだ深く

『海よりもまだ深く」より(C)2016フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

『海よりもまだ深く』は、いくつになっても大人になりきれない男と、そんな息子を深い愛で包み込む母の姿を中心とし、夢見た未来と少し違う今を生きる家族を描く、“なりたかった大人”になれなかった大人たちを描いた作品。

主人公・良多を阿部寛、良多に愛想を尽かした元妻を真木よう子、良多の母を樹木希林が演じるほか、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮、橋爪功ら豪華キャストが集結した。

なりたかったのは「ちゃんとした大人」

海よりもまだ深く 是枝裕和監督

――本作では、“なりたかった大人”になれなかった大人たちをテーマに描かれていますが、監督は“なりたかった大人”になったと思いますか?

全然なれてないね。

――以前答えていましたが、「プロ野球選手」になりたかったそうですね?

あの当時は子どもはみんなそうでしたよね(笑)本当にプロ野球選手を目指していたかというと、そうではなかったと思います。

――では、監督にとっての“なりたかった大人”とは何でしょうか?

ちゃんとした大人ですね。父親としても夫としても。特に自分の場合は、自分の父のような大人には、なりたくなかった。

――なりたくない大人というわけですね。

でも、むしろだんだん父に似てきていると思います。

海よりもまだ深く

『海よりもまだ深く」より(C)2016フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

――監督のお父様は、本作の主人公・良多のように、ギャンブルが好きなお方だったそうですね。

はい。自分はギャンブルをやっているわけじゃないけど、その代わり映画をやっている。そう考えると、父と大して変わらないなと。

最初は「ちあきなおみ」だった

――劇中でテレサ・テンの「別れの予感」が流れるところは、「この曲がタイトルになったのか」と印象深い場面でした。なぜ、あの曲の一節からタイトルをつけたのですか?

この作品は『歩いても 歩いても』の姉妹編として作り始めたんです。『歩いても 歩いても』は、いしだあゆみの「ブルーライト・ヨコハマ」の一節からつけたもので、今回も同じように曲からタイトルをつけようと思いました。台風の夜、ラジオから流れてくる台風情報の後に1曲かけようと、最初に決めたんです。

――最初からテレサ・テンの「別れの予感」に?

いや最初は、ちあきなおみの「喝采」にようと思いました。でも、あの歌は詩が重すぎて、曲を流しながら喋らせることができなかった。それじゃどうしようかとなって、樹木さん演じる良多の母親が、経験したことのない恋愛を歌った曲にしようと。それで選んだのがあの曲だった。曲が決まって、それからシーン1を書き始めたんです。

海よりもまだ深く

『海よりもまだ深く」より(C)2016フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ

――作品のスタートが、音楽を決めたところなんですか!

『歩いても 歩いても』でも同じやり方をしたんです。最初にタイトルをつけてから、話を書いていった。本作では台風の夜に、この曲がかかるというところに向けて、話を練っていきました。

–{次回作は「法廷モノ」}–

読後感のある映画を目指して

――今回、Blu-rayとDVDが発売されますが、映画って劇場で観て終わりだけど、ソフト化されることで手元に置いておけますよね。以前、音楽プロデューサーの浅田祐介さんという方が「音楽は携えるものだと思う」という発言をされていたのですが、しかし映画は携えることは出来ない…。

いや、映画もそうでありたいと思っていますよ。人の人生に寄り添うものでありたいと。

――しかし、ソフトとなって発売されるまでは、持ち歩けませんよね?

観終わったあと、劇場を出ても引きずる映画ってありますよね。劇場を出た後に、風景が変わる経験。持ち歩かなくても、同じ経験はできると思いますし、そういうものを目指しています。

――では監督にとって、風景を変えられた印象深い作品とは?

ヒッチコックの『鳥』ですね。初めて観た直後は、電線に止まっているカラスが、いつ襲ってくるかと気になって仕方がなかったのを覚えています。

――強烈な作品ですよね。今でも鳥を見ると怖くなる時があります。

あの作品は、何で鳥が襲ってくるのか最後までわからないんです。突然襲ってきて、突然やめる。理由が無いんですよ。パニック映画って、ほとんどの作品に理由があって、解決策がある。だけど『鳥』は、なんで襲ってきたか分からずに、車で静かに去っていくだけじゃないですか。だから、余計怖いんですよ。

――監督に影響を与えたのがパニック映画だというのは意外でした。

ジャンルは全然違うけど、普段見過ごしているものが違って見える、ということが時々起きるといいなと思っています。今回の作品では、台風が去った後に、団地の芝生が違って見える、そんな読後感の映画にしたいと思いました。観終えた後、そんな風になればいいなと。

次回作は法廷モノ「チャレンジですね」

海よりもまだ深く

――再びタイトルの話に戻るのですが、タイトルの一節は「愛」へとつながるフレーズですよね。本作でも、多くの「愛」が描かれていますよね?

テーマのひとつは、愛ですね。まずひとつは、父親の愛情が遅れてやってくるというもの。亡くなった後になって思い返すことで、感じる愛情。そして、もうひとつが、べったりと現在進行系で寄り添う母親の愛情。だからこそ、鬱陶しいというのもある。この2つの愛情が、映画の中にあると思ったので、そこに繋がっていくといいなという思いもありました。

――しばらく家族モノは撮らないそうですが?

分からないですね。やりたくなったら、やりますよ(笑)

――次に撮るのは法定モノだそうですね。

自分自身は、あまり家族モノの作家だと思っていないのに、そういう風に思われているようで。だから、イメージチェンジしようかなと。色々な題材を撮りたいと思っているので、次はチャレンジですね。

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(取材・文/黒宮丈治)