A4一枚でわかるJホラー誕生まで
Jホラーのスタートをどこに据えるか?ここはあえてしっかりと映画「女優霊」が公開された96年に据えたい。
まず、第一に「リング」の監督の中田秀夫と脚本の高橋洋初タッグ作品だということ。そして以前のプロデューサー特集でも触れた仙頭武則プロデューサーよる当時の新進監督による競作企画J-MOVIEWARSにおいて制作された“J”-MOVIEの中の“ホラー”であるということ。さらに、Jホラーの恐怖の象徴・共通アイコンともいうべき白いドレスを着た黒髪ロングヘアーの女性というキャラクターが本格的に登場したこともある。
もちろん、それ以前にも恐怖映画は日本にもあったが、日本映画での“ホラー映画”は実は歴史が浅い。
それ以前にあったのはいわゆる怪談映画だった。怪談ははるか昔から日本の文化に根付いた夏になれば風物詩的として登場する。これに対して、現代を舞台に現代の人々を主役に据えた恐怖を描いた映画は不遇の時代が続いた。
海外では60~70年代のオカルトブームや80年代のスプラッターホラー、90年代のサイコスリラー、00年代のトーチャポルノなどなど姿形を変えながら作られ続けた。
日本でもその都度制作の流れがあったが定着することは時代と社会がそれを許さなかった。かつては娯楽の王様だった映画も、徐々に斜陽を迎えはじめ必然的に映画の制作本数が減ってきた。
そうなるとまずは固い本流・万人受けの作品から順番に作られていくようになり、サブジャンルである恐怖映画はどうしても二の足を踏むようになる。そうしているうちに制作の機会はどんどんなくなってしまった。さらに社会情勢が追い打ちをかける。国内を騒然とさせるような陰惨な事件が起き、ホラー映画とリンクして語られるたびに下火になっていった。気が付くと日本映画を囲む内外の事柄が古典の怪談映画から現代のホラー映画への転換に時間がかかってしまった。
やっと体制が整ったが90年代半ばのころ、俗にいうビデオバブルのなかでオリジナルビデオ作品としてホラー映画が作られるようになっていった。これにより人材も経験値も増していき、それが映画「女優霊」として結実。
その2年後にあの「リング」がそしてオリジナルビデオの掌編として「呪怨」の元になる短編が清水崇監督により制作され、やがて世界を席巻するJホラーとなっていった。
–{粗製乱造から再び大型企画が。}–
粗製乱造から再び大型企画が。
「リング」「呪怨」でスタートを切り、「着信アリ」シリーズ、「富江」シリーズなどが出てくると日本映画内でもホラー映画が大きなウェイトを占め、海外でも評価を集めリメイク権が売れるようになると一気にJホラーブームになり、制作本数が一気に増えた。
幸か不幸かこれにリンクしたのが戦国時代とも一万人時代ともいわれる空前のアイドルブーム。ホラーにスクリーミングクィーン(絶叫ヒロイン)が必要不可欠ということでアイドル側・映画制作側の双方需要が一致してアイドル主演のホラー映画が大量に公開された。そうなると必然的に発生するのが粗製乱造・玉石混交という流れで、作品数は増えたもののクオリティ面で追いつかなくなっていった。そのアイドルのファンだけが劇場に来なくなり、結果としてJホラーの日本映画内の占める割合が急速に狭くなっていった。
短い期間に公開規模を限定して、出演アイドルのファンだけに特化して宣伝を展開、入場者プレゼントなどを週替わりで用意、その後のソフト販売もそれなりに計算できるとなればば良くも悪くもビジネスとしては成立してしまう。それはそれでいいのだが、純粋なホラー映画ファンにはホラー映画が縁遠くなるように感じ始めていたのも事実で、このまま先細りしていくかと思われた。
復調のきっかけはやはりJホラーブームを生み出した二大ブランド「リング」と「呪怨」だった。
ともに現実世界でのブランクの生かし方が巧みだった。「リング」シリーズはその過ぎた時間を利用して貞子の存在が都市伝説化しているという設定にして「貞子3D」シリーズをスタート。「呪怨」は完全に設定をリブートして「呪怨 わりの始まり」「ザ・ファイナル」と最終章を改めて描いた。
この二つのシリーズの新作が全国規模で公開さるようになり、Jホラーが久しぶり日本映画のメインストリームに還ってきた。その後の大型企画作品は、簡単に作品名だけ上げると「女優霊」の中田監督自身によるアンサームービー「劇場霊」。
久しぶりにホラーのフィールドに帰ってきた中村義洋監督の「残穢‐住んではいけない部屋‐」。
園子温監督オリジナルの設定で進む「リアル鬼ごっこ」。
三池崇史監督のバイオレンス描写が冴える「神様の言うとおり」。
日本初の大作ゾンビ映画「アイアムアヒーロー」
(C)映画「アイアムアヒーロー」製作委員会 (C)花沢健吾 / 小学館
森田剛がサイコパスモリタを演じる「ヒメアノ~ル」などなど。
(C)2016「ヒメアノ〜ル」製作委員会
“R15指定上等!!”といった気概で作られた、後を引く恐怖映画が絶え間なく劇場に並ぶようなってきた。ちなみに、アイドル主演ホラーも座組が大幅に強化されて、「ホ―ンテッド・キャンパス」が全国規模の公開作品として待機中だ。
(C)2016「ホーンテッド・キャンパス」製作委員会
–{怪奇な廻り合わせ!? 同日公開「貞子VS伽椰子」「クリーピー」}–
怪奇な廻り合わせ!?同日公開「貞子VS伽椰子」「クリーピー 偽りの隣人」
そしてこの夏にJホラーのアイコン「リング」シリーズの貞子と「呪怨」シリーズの伽椰子との対決を描いた「貞子VS伽椰子」と、“ゴッドファーザー・オブ・Jホラー”と称されている黒沢清監督の最新作「クリーピー 偽りの隣人」が同日公開となった。それぞれ方向は違うもののいい意味で突き抜けた見逃し厳禁の快作に仕上がっていた。
「貞子VS伽椰子」はまず思念体型の貞子と地縛霊型の伽椰子を対決させるまでの展開が巧かった。
(C)2016「貞子vs伽椰子」製作委員会
貞子を伽椰子の“呪怨の家”に引っ張ってこなくてはならないのだが、片方の呪いのターゲットになった者をもう一方のターゲットにして、呪いのターゲット争いを展開させ双方共倒れを狙う。この力技ともいえるアイデアを作り出した白石晃士監督にもろ手を挙げて喝采を贈りたい。
白石監督はJホラーの作品規模が小さくなり始めたタイミングで監督デビューを飾っているが、粗製乱造・玉石混交にはならずに着々と経験を積み、独自の世界観を築いてきたものが一つの大きな形になったといっていいだろう。「桐島、部活やめるってよ」組の山本美月とティーンから絶大な支持を集める玉城ティナのモデル出身組のヒロイン起用もよかった。
二人とも大きな瞳が印象的で、恐怖におののく表情がより強烈になっている。わざわざ呪いの発端のアイテムをVHSテープに戻し、クライマックスに井戸を用意するなど、心憎いアイテム選びも楽しい。恐怖描写に関してはやりすぎの部分もあって、怖いのを通り越して笑ってしまうような部分もあったが、要所を締め99分の上映時間を一気に駆け抜ける。次回作ではぜひKADOKAWAのもう一つのブランド「着信アリ」も絡んでほしいところだ。
一方「クリーピー 偽りの隣人」は黒沢清監督が一気に海外での評価を知らしめた97年の「CURE」の系譜につながる本格サスペンススリラー。
(C)2016「クリーピー」製作委員会
06年の「叫」以来約10年ぶりの恐怖映画への帰還だ。黒沢監督は00年の監督作品「回路」がカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞、ハリウッドでも「パルス」としてリメイクされた。この時「呪怨」の清水崇監督が学んでいた映画美学校の講師であったことや、「リング」の中田監督より先んじてオリジナルビデオの世界でホラーを作り始めていたキャリアが注目され“ゴッドファーザー・オブ・Jホラー”として喧伝され、一躍国際的な地位確立した。今や海外の映画祭でクロサワといったとき“明”か“清”かを注意しなくてはいけない。
映画はひたひたとした気味の悪さが心身に絡みつくクリーピー(=CREEPY:身の毛がよだつように気味が悪い)というタイトルがそのまま映画になったような作品で直線的な「貞子VS伽椰子」が直接的な描写だったのに対して、こちらは得体の知れない違和感・居心地の悪さが満載の映画になっている。
西島秀俊・香川照之・竹内結子・東出昌大・川口春奈の演技合戦も見もの。「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です。」というキャッチコピーにも使われているセリフを放つのは「ソロモンの偽証前後編」でデビューした藤野涼子だったりもする。原作を大きくアレンジし他脚本は作品のテンポをあげ2時間超の上映時間を気にさせることなく、ぐいぐいと観客を引き込み続ける。黒沢監督作品世界の象徴・影の強い画作りも健在。車移動のスクリーンプロセスなどのお馴染みの物から、ドローンを使った大胆な空撮なども見せ方も多種多彩だ。
今年の夏も猛暑になるといわれている。そんな時にヒヤッとする映画はいかがだろうか?
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(文:村松健太郎)