【インタビュー】「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」プロデューサー・斎藤寛之

映画コラム
釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助 DVD-BOX

「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」より (C)やまさき十三・北見けんいち・小学館/テレビ東京/松竹

昨年テレビ東京系列で放送され人気を博した「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」のDVD-BOXが先日発売開始となった。

原作、そして映画『釣りバカ日誌』のファン、さらに“釣りバカ”を知らない世代までも取り込み人気となった本作のプロデューサーをつとめた、斎藤寛之プロデューサーに制作された経緯や、キャストに関する話、さらにドラマプロデューサーという仕事について話を伺ってきた。

長期間をかけて作り上げた、あらたな“釣りバカ”

釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜 斎藤寛之プロデューサー

――まずドラマ「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」を制作することになった経緯をお聞かせください。

映画『釣りバカ日誌』のシリーズが完結して以降、原作の発行元である小学館さんには、様々なオファーが来ていたそうです。ところが、西田敏行さんと三國連太郎さんのコンビの映画『釣りバカ日誌』の存在があまりに大きくて、もう少し時間を置いてからとなっていたですね。それでももう一度どうにか出来ないかなと思っていたところ、原作元から「そのまんまというのは難しいけど、こういうスピンオフ作品がありますよ」と、コミックの「新入社員 浜崎伝助」を薦めてもらいました。西田敏行さんの浜ちゃんは、すでに中堅社員になっていて、そのふてぶてしさとキャラクターを持ったスーパーサラリーマンという形でしたが、それが新入社員となった場合、また別の面白さがあるだろうなと思い、制作することになりました。

――それはいつごろのことですか?

2014年の夏頃ですね。

――ドラマでは濱田岳さん演じる浜ちゃんが、大の“釣りバカ”として登場しまが、原作では、最初から釣りが趣味という設定ではないですよね?

原作は、昭和47年当時のサラリーマンの世界を、携帯電話がない中でどうやっていたとか、当時の人付き合いはこうだったとか、そういった現代との比較をやりたくて描かれたものです。釣りバカ日誌の“エピソード0”みたいな話ですね。ただ、そこをドラマにする際に「“釣りバカ”と名前が付いているのに、釣りが出来ないのはどうだろう?」と思い、設定を現代にするなど、いくつか相談して、最終的にOKをもらった感じです。

――原作からの設定変更では、他には具体的にどんな話が出ていたんですか?

構想段階では、浜ちゃんを海の近くに住ませて毎日釣りばっかりしてもらおうとか、地方支社の社員にしようとか、いろいろアイデアは出ていました。その中で「東京オリンピック」というキャッチーなものが今見えていて、建設会社の新入社員として入社してきた浜ちゃんが、本社で奮闘していくというのがアリなんじゃないかなと、今のカタチになりました。

釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜 斎藤寛之プロデューサー

――原作のやまさき十三さんと、北見けんいちさんとの調整作業は大変だったのではないでしょうか?

早い段階から朝原雄三監督にやってもらおうと決めていました。朝原監督は、映画中心の方なので、ドラマというのはほとんどやっていなかった。正直、ドラマに対しての不安も持っていらしたのですが、お受けしていただいたことで話が進みました。

――朝原雄三監督が決まったことで調整もうまくいった?

映画『釣りバカ日誌』も後半の7本は朝原監督が作ってきた世界で、原作者からの信頼感がある。それと原作者にも脚本の佐藤久美子さんにも助けられたました。毎回の台本を、原作者に必ずお見せしていて、1本の映画を作るよりも正直大変なところはありましたが、それでも大きな改変などはなく、なんとか最終話の決定稿までいくことができました。

――毎回台本を見せるとなると、かなり時間をかけて作られているのですね。

テレビの連続ドラマって、2,3ヶ月前から制作をはじめます。ところが、このドラマはそれよりも更に早い半年以上前に着手して、クランクインの段階で第6話の決定稿があったんです。俳優さんからは「これだと役作りもすぐできるし、ありがたい」とは言われましたね。そういう意味では、とってつけた脚本というよりは、重ねて重ねて長い時間をかけて作れたことが有りがたかったですね。

――そういえば、原作とは話自体は違うのに、ところどころに原作で描かれたエピソードが散りばめられていますよね?

原作にあったエピソードを入れて作ったりしていく中で、あまりに原作にこだわりすぎるといけないと思って、大胆に切り捨ててやったりなんかはしてきたんですが、やっぱりどこかうまく使いたいなという意識はあって、ところどころに入れました。

キャスティングの成功があって、完成したドラマ

釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助 DVD-BOX

「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」より (C)やまさき十三・北見けんいち・小学館/テレビ東京/松竹

――キャスティングに関してですが、主演を濱田岳さんに決められた理由は?

前に2本ぐらい一緒にやっていて、若い俳優さんの中では演技力とか見ても出色だなと。そして“佇まい”ですよね。イケメンじゃない親しみやすさが、原作の浜ちゃんに近いなと。浜ちゃんという人物は、わりと毒づくところもあって、それが嫌味にならない人じゃないと成立しない。そういう意味で、彼は非常にナイスガイだし、柔らかさもあって、すぐに泣いちゃうぐらい感受性も豊かで、すごくぴったりだなと思い、最初から彼だと決めていました。

――決まったのは、かなり最初の方だったんですね。

彼が引き受けてくれることが決まってから、他のキャストの選定も始まったという感じですね。

――釣りのシーンは実際に濱田岳さんが釣りをされているんですか?

そうなんですよ。濱田岳さんは、釣り指導の方と、撮影の合間にも釣りをするなど、本当に釣りバカになっていただけていて、そこはリアリティにつながっていると思います。

釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助 DVD-BOX

「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」より (C)やまさき十三・北見けんいち・小学館/テレビ東京/松竹

――重要なキャスティングでいえば、映画では浜ちゃんだった西田敏行さんが、今回スーさんを演じていますね。あれは驚きました!

三國連太郎さんが亡くなってまだ数年しか経っていないところで、スーさんの役を受けてくれる人はなかなか居ないだろうな…と思ってたんです。

――そこで西田敏行さん?

濱田くんが決まった後に、それを受けて西田敏行さんの事務所に「浜ちゃんを濱田岳くんがやります」という報告をかねて挨拶に行ったんです。その時に「まだスーさんが決まっていないんですよね」という話をする中で、ダメ元で「冗談みたいな話ですけど、(西田さんが)スーさんというのはあるんじゃないですか?」と話をしたんです。怒られるかなと思っていたのですが、それを聞いた事務所の小林社長が「ちょっと話してみるか」と言ってくださったんです。

――ダメ元で言ってみたら、意外にも良い反応だったんですね。

西田さんも「釣りバカをまたやらないの?」とすごく言われていた時期でもあったようで、役としてというわけではなく、釣りバカという存在に何か携われないかというのはあったようです。少しでも話をするタイミングがずれたら、駄目だったんじゃないかなと今では思っています。

釣りバカ日誌 新入社員 浜崎伝助 DVD-BOX

「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」より (C)やまさき十三・北見けんいち・小学館/テレビ東京/松竹

――もうひとり重要な人物、浜ちゃんの奥さん・みち子さん。広瀬アリスさんに決めた理由は?

田舎から出てきた女の子という設定で、秋田弁をしゃべるというのは決まっていました。そのミスマッチが面白い人って誰だろうなってなった中で、都会的な雰囲気を持つ彼女が秋田弁を喋ったら面白いんじゃないかと。

――ドラマの第1話でみち子さんが登場する時の秋田弁のミスマッチ具合は最高でしたね!

みち子さんは、浜ちゃんと結婚するという道筋があて、それを一番遠くから始められるというか、2人がどうなっていくのかが楽しみに思える人がいいなと。後々のみち子さんのイメージである“サバサバして誰にでも優しい”というのは、やがて出来上がっていくものだから、そこからはちょっと離れた方がいいとは思ったんです。視聴者と一緒にその過程を楽しめる人となったとき、彼女はぴったりだと思いました。僕らスタッフは、彼女でよかったと改めて思っています。

――そういえば、斎藤プロデューサーもドラマに登場しているって本当ですか?

そうなんですよ(笑)第2話の終わりのあたりに、浜ちゃんの行きつけのお店にお客として入るところですね。原作者の2人と一緒に入ってきてます。

――え?!3人入ってくるところですよね!あの残りの2人はやまさき十三さんと、北見けんいちさんなんですか?

あえて言ってないシークレットキャストです。

–{この仕事は「50人制ラグビーの舵取り」}–

ネットで盛り上がった「合体」の瞬間

――あまり映画『釣りバカ日誌』と比較するのも良くないかもしれないのですが、釣りバカといえば、やはり「合体」だと思うのですが。第3話では浜ちゃんの口から「合体」っていうのが出てきましたよね。

その第3話のオンエアの時、ちょうど6話あたりを編集していたんです。そこで、ピザを頼んでみんな一緒に観ようと、監督を含めてみんなでオンエアを観ていました。それで、実況スレを見ていたら、ちょうどその「合体」のフレーズが出た時に、反応がすごかったんですよね。「合体出た!」とかって感じで。

――僕も同じようにテレビみながら叫んでました(笑)

ありがとうございます(笑)それで、やっぱり「合体」でこんなに盛り上がるんだなって思いましたね。

――ところで、そのジャンパー。噂によると濱田岳さんからのプレゼントだそうですが?

釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜 斎藤寛之プロデューサー

そうなんです。この「S.K.F.C」っていうのは「鈴木建設フィッシングクラブ」の略なんです。濱田くんが、スタッフジャンパーとして、スタッフに作ってくれて、すごい嬉しかったですね。彼もこういうことをするのは初めてだと言ってました。

釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜 斎藤寛之プロデューサー

プロデューサーとは「50人制ラグビーの舵取り」

――そもそもドラマのプロデューサーという仕事はどういう仕事なのでしょうか?

監督、キャスト、それからスタッフなどの人選、それと音楽などの要素を最終決定する人ですかね。最初のゼロの状態から関わっている人間でもあります。

――少しお調べさせて頂いたのですが、元々は製作会社でADをされていたそうですね。

松竹に入る前に、学生時代にバイトでやっていました。

――そこから、映画会社の松竹を選ばれたのは、映画がお好きだったからですか?

その当時、なにかしらの映像に関わる仕事がしたくて、そのままバイトしていた製作会社でも良かったにですが、ドラマのADをやっていて、あまりにつらくて…(笑)それで、就職活動をはじめて、今回の浜ちゃんじゃないけど、ご縁があったのが松竹だった感じです。

――そして、今またドラマに戻ってきた。

松竹に入ったすぐの頃は映画もやっていたのですが、もう一度こうしてテレビドラマをやるとなって、その連鎖がすごくありがたいし、映像に15年以上携われているというのが何よりもありがたいです。楽しいことをやらせて頂けているというのが常にありますね。

釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜 斎藤寛之プロデューサー

――今後の目標は?

今回、ドラマ「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」をやって、“楽しいものを作っていきたい”と改めて思いました。初回放送のオンエアの時も、実況スレを見ていたんですが、こんなにもリアルタイムでお客さんに喜んでもらえるというのが初めてで、ちょっとうるっときたぐらい嬉しかったんですよね。映画とかだと作り終わってからの反応じゃないですか?でも、今回はまだ制作中にその反応を知ることができた。それを経験して、やっぱり楽しくて面白いっていうのは、これからひとつベースにしていきたいなと思っています。

――斎藤プロデューサーにとって「プロデュース」とは?

企画の最初からいて、先頭に立っているみたいなイメージはあるんですが、ひとりで出来ることじゃないんですよね。ものすごい数の多い団体作業で、“50人制ラグビー”みたいな感じでしょうか。その舵取りをするイメージですね。やりたいと言えば誰でも出来るというわけじゃないので、すごいやりがいがあるということ、そして何よりもキャスト、スタッフを含めてみんなに支えられていると思っています。

釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜 斎藤寛之プロデューサー

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(取材・文/黒宮丈治)

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