戦争で奪われた美術品奪還に命を懸けた 男たちの『ミケランジェロ・プロジェクト』

映画コラム

■「キネマニア共和国」

今年は戦後70周年ということで、日本ではさまざまな戦争を題材にした映画が製作されましたが、一方で2013年に製作されながら日本での公開が大幅に遅れた海外の戦争映画があります……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.52》

ジョージ・クルーニー監督・主演作『ミケランジェロ・プロジェクト』です。最初に言っておきますが、これは必見!

ミケランジェロプロジェクトB1ポスタ

第2次世界大戦の名画奪還作戦秘話

本作は通常のドンパチを描いた戦争映画ではなく、ナチス・ドイツによってヨーロッパ中で略奪された数々の美術品を取り戻すべく連合軍で組織された特殊部隊“モニュメンツ・メン”の活躍と運命を描いた実話の映画化です。

こうした第2次世界大戦の名画奪還作戦を描いたものとしては、ジョン・フランケンハイマー監督の傑作『大列車作戦』(64)が有名ですが、邦画でもこのとき紛失した名画がひそかに日本に渡っていたことから繰り広げられる五木寛之原作のロマンティシズムあふれる陰謀劇『戒厳令の夜』(80)といった異色作も存在します。

今回はモニュメント・メンにまつわる実話そのものを映画化していますが、ユニークなのはこの部隊、美術学芸員や彫刻家、学者、美術商などなど芸術の専門家で組織されたもので、いわゆる戦場の猛者といったヒーローはひとりもいません。
どちらかといえば銃も持ったことがないような、しかも足腰の衰えも痛々しい中年ばかり。

2:『ミケランジェロ・プロジェクト』サブ1

そう、およそ戦場での活躍などまったく期待できないオッサンたちが、芸術保護のため、命を投げ打ちながらミッションを遂行していくのが本作の妙味なのです。

従って、ここには派手な戦闘シーンなどは登場しません。しかし、美術品を守るべく老骨に鞭打つオッサンたちの姿は、どんなヒーローよりかっこよくも悲壮感に満ち溢れています。

キャストも白髪交じりの頭で登場する隊長役のジョージ・クルーニーをはじめ、ビル・マーレイ、ボブ・バラバン、ジョン・グッドマンなどなど、よくぞここまで渋いメンツを揃えたものだと映画ファンとしてはニマニマしてしまうものがあり、もう40歳をとうに超えたマット・デイモンが若々しく見えるほど。また、彼らに協力するパリの国立美術館学芸員役でケイト・ブランシェットも出演。

意外に、と言っては失礼ですが、かなりの豪華キャストであり、どことなく『オーシャンズ11』の戦争版みたいな趣きも感じられます。

ミケランジェロプロジェクト

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

–{インテリジェンスにあふれた今の時代ならではの戦争映画}–

インテリジェンスにあふれた今の時代ならではの戦争映画

これほどのキャストを布陣していながら、日本での劇場公開が遅れたのは、やはり第2次世界大戦を舞台にしておきながら、どこか地味な印象を抱かせてしまうからでしょう。
確かに壮大な戦車バトルを描いた『フューリー』みたいなものとは昂揚感の点では見劣りするものはあるでしょう。

しかし、戦争という殺戮の場の中であくまでも芸術文化のために戦った、いや行動した男たちこそ、今はスポットを当てるにふさわしい時代ではないでしょうか。

戦争映画には、どんなに反戦を訴えても、戦闘シーンの昂揚感がそれを阻害してしまうという弱点がつきまとうものですが、本作はそういった要素を最小限に抑えることにより、戦争の惨禍を盗まれ破壊されていく美術品をもって訴えることに成功しています。

この題材を選んだジョージ・クルーニーのインテリジェンスに感服すると同時に、派手さこそないものの着実に戦争の悲劇を醸し出す秀逸な演出センスにも脱帽します。

繰り返しますが、モニュメンツ・メンの彼らは戦うのではなく、あくまでも美術品奪還と保護のために行動し続けました。
悲しいかな、全ての美術品は戻ってきませんでしたが(ヒトラーは何と、ドイツ敗北の際はすべてを破壊するネロ指令を発令していたのです)、彼らによって無事取り戻されたものも多数ある。

そして、あまりネタバレはしたくありませんが、モニュメンツ・メンのメンバー全員が、無事帰還できたわけではありません。
こういった点も隠さず描くことで、本作はヒロイックでありながらも戦争が地獄であることも訴え得ていると思います。
戦争さえなければ、彼らはそれぞれオタッキーな美術研究者としての人生を飄々と過ごしていたことでしょう。

DF- 01578.NEF

今、こういった視線から戦争を見据えることは、非常に意義があると思っています。
愛する者のために敵と戦う勇ましさも結構ですが、それ以前に戦争さえなければ、そんな苦労もしなくて済むし、相手を憎むこともないし、映画でもアニメでもスポーツでも、とかくオタッキーなものをことごとく戦争は奪っていくことでしょう。

そうならないためにはどうしたらいいのか?

かつて『男たちの大和/YAMATO』(05)の佐藤純彌監督は、記者会見の際に司会者から「戦争が起きたらあなたは戦場へいきますか?」といった質問が出席者全員になされたとき、「そんなことよりも、戦争が起きないようにするにはどうしたらいいのかを、みんなで考えるべきでしょう」と即答しました。

『ミケランジェロ・プロジェクト』を見ながら、そのことを思い出してしまいました。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)

公式サイト http://miche-project.com/


(C) 2014 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.