東京都町田市鶴川発の体験型映画祭「グロ-イングアップ映画祭~鶴川ショートムービーコンテスト」では、毎月「月イチ上映会」と称して鶴川にゆかりのある映画人の特集上映を開催していますが、8月24日には和光大学ポプリホール鶴川にて、同校を卒業した鶴田法男監督特集が開催されます(昼の部:12時開場/夜の部:17時開場)。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.9》
マスター・オブ・Jホラーの原点を探りたいと思います。
OV『ほんとにあった怖い話』の醍醐味
鶴田法男監督は、1960年12月30日生まれ。昭和の東京の映画シーンを代表する伝説的名画座「三鷹オスカー」支配人の息子として、文字通りに生まれたときから映画三昧の日々を過ごし、いつしか興味は映画製作のほうへ向くようになって、学生時代から自主映画制作活動を始め、91年のオリジナル・ビデオ『ほんとにあった怖い話』で商業監督デビューを果たしました。
そして今回、特集上映・昼の部に上映されるのは、その『ほんとにあった怖い話』3部作なのです。
『ほんとにあった怖い話』は、当時朝日ソノラマから出版されていた同名コミックを原作にした心霊体験のエピソードをオムニバス形式で映像化したものですが、ここで鶴田監督はハリウッド・ホラー的なこけおどし風の演出を排し、ただそこに霊が佇んでいるだけの恐怖を幻惑的に描出しています。
(c)1991,1992 朝日ソノラマ、ジャパンホームビデオ
つまり、霊とは生前の恨みとも憾みともつかない人間の想いの表象化であり、いわゆるモンスターなどとは一線を画すものである。たまに襲いかかることがあっても、それは自分たちのテリトリーに侵入してくる人間に非があるわけで、霊には罪などないと言わんばかりの、しかしそれでも異世界の住人に対して現世の人間は、やはり恐怖せずにはいられない。
そんな哀しくもおぞましい人と霊のサガを、鶴田監督はこの3部作で真摯に訴え得たのです。
こうした彼の恐怖演出とその姿勢には、多くの映画作家が魅了され、影響を受けました。その中には『リング』(98)の中田秀夫監督、『回路』(01)の黒沢清監督、『呪怨』(00)の清水崇監督など、後に世を席巻することになるJホラーの旗手たちが、まるで競うかのように鶴田作品に倣った恐怖演出を施し、オマージュを捧げています。
要するに、Jホラーの隆盛は鶴田監督の『ほんとにあった怖い話』3部作がなければ成し得なかった。これぞ彼が真に“マスター・オブ・Jホラー”と呼ばれる所以です。
–{孤高を貫く。映画作家としての姿勢}–
孤高を貫く映画作家としての姿勢
ただし彼自身は、やはり鶴田作品から多大な影響を受けた『リング』シリーズの脚本家・高橋洋の後押しなどもあって『リング0~バースディ』(00)を監督し、ホラー・クイーンの代名詞となって久しい貞子の誕生秘話を哀しくも凍りつく恐怖をもって描出するとともに真打の貫録を示しましたが、Jホラー・ブームそのものに対しては安易に便乗するのではなく、孤高の存在として、あくまでも己の作りたいホラーにこだわりながら現在まで旺盛に活動を続けています。
(c)1991,1992 朝日ソノラマ、ジャパンホームビデオ
その中には、つのだじろうの『恐怖新聞』を原作に家族の絆を感動的に描いた『予言』(04)や、楳図かずおの怪奇コミックを見事に映画化した『おろち』(08)、志田未来と川口春奈を本人として登場させんがら繰り広げる心霊モキュメンタリー(架空のドキュメンタリー)映画の快作『POV~呪われたフィルム~』(12)も含まれています。
(余談ですが、このモキュメンタリー手法の元祖ともいうべきアメリカのTV映画『第3の選択』のDVD化にも鶴田監督は尽力しました)
昨年は初のゾンビ映画『Z~果てなき希望』(14)も手がけましたが、あたかも悪霊が人間に罰を与えるべくこの世にゾンビを送り込んだかのような空気感は、この異才ならではの妙味でした。
また、今回の特集上映の夜の部では、死者と話ができるアプリをめぐる恐怖と愛憎の意欲作『トーク・トゥ・ザ・デッド』(13)が上映されますが、その後には薄幸のヒロイン(小松彩夏/可憐!)の同僚マユを熱演し、最近は園子温監督の『リアル鬼ごっこ』(15)でも印象深かった桜井ユキと、ラジオ・パーソナリティとしても活躍中の岡村洋一をゲストに迎えてのトークショーも開催されます。
TV版『ほん怖』新作もオンエア決定!
OV『ほんとにあった怖い話』3部作そのものは現在DVDが廃盤となって久しく、なかなか見る機会がないだけに、今回の上映は実にありがたいレアな試みではありますが、
(c)1991,1992 朝日ソノラマ、ジャパンホームビデオ
一方で彼は、そのOVに倣ってフジテレビが99年より定期的に製作しているテレビ版『ほんとにあった怖い話』の中でドラマ・パートの多くの演出を請け負いつつ、お茶の間に恐怖を与えるとともに、通称『ほん怖』の名を日本中に浸透させ続けています。
そして今年も最新作『ほんとにあった怖い話・夏の特別篇2015』がフジテレビ系でオンエアされます(8月29日21時~23時10分)。
今回は玉森裕太(kis-My-Ft2)、谷村美月、伊藤蘭など出演の『どこまでも憑いてくる』や、先ごろ芥川賞を受賞したお笑い芸人ピースの又吉直樹・出演が話題の『つきあたりの家族』。その他、斎藤工『嵐の中の通報』、高梨臨『黒い日常』、中条あやみ『閑却の社』、そして観月ありさ『奇々怪々女子寮』といった豪華キャスト主演の全6話といった布陣です。
鶴田監督は『黒い日常』以外の5作品の脚本・演出を担当しています。
この夏は、マスター・オブ・Jホラーの原点と最新作、両方を一気に見られるまたとない機会。ぜひとも鶴田監督の幻惑の世界に浸り、涼んでください。
そうそう、会場では当日、鶴田監督が先ごろ監修した小説『恐怖コレクター 巻ノ一 顔のない子供』などの書籍即売&サイン会も予定されています。お宝ゲットできる、またとない機会ですので、ファンはお見逃しなきよう。
※特集上映などのお問い合わせは、町田市民ホール/042-728-4300まで
(文:増當竜也)