8月8日(土)、丸の内ピカデリーで映画『日本のいちばん長い日』の公開初日舞台挨拶が行われ、陸軍大臣の阿南惟幾を演じた主演・役所広司さんをはじめとする豪華キャストが登壇しました。
(左から、原田眞人監督、松坂桃李、役所広司、本木雅弘、神野三鈴)
『日本のいちばん長い日』は同名のノンフィクション小説を原作に、太平洋戦争終結の裏で終戦の為に身を挺して戦った、実在の人物を描いた作品です。
登壇した役所さんは「たくさんの映画がある中、この作品を選んでくれてありがとうございます」と客席へ挨拶。昭和天皇を演じた本木さんは、「普段、役者という仕事に興味を示さない17歳の息子が「観たい」と言って今日来ています」と息子に役者としての姿を見せる機会を与えてくれた監督への感謝を述べていました。
一方、監督は「8月8日はこれから僕にとって『日本のいちばん長い日』の開戦記念日になります。敵はミッション・イン・ポッシブル5とジュラシックワールドです。やっつけたいです!応援してくだい!」と会場を盛り上げます。
演じた役について
軍人の顔と家庭での顔を持つ役を演じるにあたって意識したことを尋ねられ、役所さんは「家庭人として、父として、夫としての顔も持つ監督が描いてくれたので、阿南惟幾さんという人物を演じるうえで力になったと思う」と、家族を思いながらも国のために身を尽くした阿南を監督と重ねてコメントしました。
本木さんは昭和天皇を演じることにかなりプレッシャーがあったそうですが「プレッシャーを感じていた撮影中から、撮影が終わっても、皇室のある国で暮らしている一員として、目に見えない力に守られている安心感のようなものが自分の背中を押してくれている気がします」と天皇の存在の大きさを感じていたようです。
クーデターを計画する若き将校・畑中健二を演じた松坂さんは「自分の客観性が現場で出ると役がぶれてしまうので、監督のOKという言葉を頼りに、役者さんや他の陸軍将校と対峙して出てくる気持ちをストレートに出していこう、と向き合いました」と役へのアプローチを語り、「緊張しない場面はなかったけど、監督とお会いする時が一番緊張するので、今一番緊張しています」と笑顔まじりに言うと、隣に立つ原田監督も笑いをこぼしていました。
神野さんは阿南の妻という大切な役のオファーに驚いたそう。また、役所さんについて「温かくて家族思いで優しかったという阿南さんのイメージどおりの方」と話していました。演じた綾子については「軍人の妻として、苦しみを誰にも理解されなかったであろう阿南さんの唯一の理解者で同士でありたいと願って、そこだけはぶれないように二本の足でガシっと立っていようと思いました」と語りつつ、綾子のおかれた状況への納得がいかない思いから、役作りについて監督へ相談することもあったと明かしました。
また、これまでの作品で“家族”の姿を描いてきた原田監督。今作でも“家族”は大きなテーマになっていることを語ります。
「最初に重要だったのは、戦前の社会で昭和天皇を頂点とする大きな家族があった、という考え方を自分で体験すること。一番根っこになったのは、鈴木貫太郎さんを父親として、長男が阿南さん、次男が昭和天皇という疑似家族の構図ですね。その3人が出てくる最初の方の回想シーンは実話で、映像化したいと。それから貫太郎さんが聖断をあおぐシーン。この2つのシーンは僕自身、撮っている時にも心が震えるシーンでしたし、僕にとってはこの作品の核だと思っています」
上映後の舞台挨拶でしたが、監督の話を聞いて、あらためて深層で描かれる3人の関係性に注目して作品を観たいと思った人も多いのではないでしょうか。
–{実在の人物を演じるということ}–
実在の人物を演じるということ
トークセッションでは、役所さんが演じた阿南惟幾さんの実子・阿南惟正さんからの手紙が紹介されました。
「公私両面にわたり、役所広司さんがきっちりと演じてくださった」と役所さんへのお礼を伝える内容と、惟幾さんとの思い出などが綴られた手紙に、役所さんは「日本の未来を信じて戦争で戦った方々と戦争に終止符を打つことに奔走した方々が、今の日本を見て満足してくれているかわかりませんが、そういった人たちに自分たちが生かされているということは、この映画に出て実感しましたし、阿南さんのご子息が映画について語ってくださることについて、僕個人としてはとても感謝しています。実在の人物を演じるということは本当に怖いことで、不安でいっぱいなんですけれども、今回は合格点をもらったみたいでほっとしました」と話し、最後に笑顔を見せていました。
さらに、山崎努さんが演じた鈴木貫太郎さんの孫・鈴木道子さんがゲストとして登壇しました。
終戦時13歳だったという鈴木さんは「山崎さんは祖父の役を名演技でやっていただき、感謝しています。今までも名優が演じていますが、どちらかというと枯れたおじいさん役を演じるのがうまい方たちでしたので、身内としては寂しさもありました。山崎さんは枯れたおじいさんではなく終戦をまとめる力のある首相を演じていたので本当にうれしく思っています」と山崎さんの演技を絶賛。
貫太郎さんの人柄について聞かれると「体格が大きいですが、人柄も泰然として大きくて温かい人でした。よく遊びにいってかわいがって頂きました」と懐かしそうに振り返っていました。
また、首相を引き受けたときは戦争を続行するつもりだったのか、という質問をされることがよくあるそうで「拝命して帰って来たときに、はっきりとバドリオになるぞと家族に言っていました。バドリオは連合軍に降伏したイタリアの首相で、その役を自ら買って出ると。なので、最初から戦争を収めるつもりでお受けしたと思います」と身内だからこそ知る真実も明らかに。
それを受けて本木さんは「日清・日露戦争で勝ちましたけども、勝利とともに感じた矛盾が胸の内にあったと思うんですね。その後、このようなお役目になって。貫太郎さんの辞世の言葉であります”永遠の平和”という言葉は非常にシンプルですけれども、きっとその言葉の中に深く、自分がこれまで生きてきた中での思いを込められたんだと思います」と貫太郎さんの胸中を慮っていました。
“We’ll meet again”を歌い続けられるように
最後に役所さんと原田監督による挨拶で舞台挨拶が締めくくられました。
役所さん
「戦後70年、この国は平和に暮らしてきました。鈴木貫太郎さんの言葉のように、”永遠の平和”がこれからも100年、200年と続くように祈りたいと思います。映画というのは一度観てもなかなか理解できないものだと思いますが、もう一度見るといろんな情報がもっともっと入ってくる映画になっていると思います。ぜひまた観に来てください」
原田監督
「阿南さんの心を表すシーンで流れた“軍艦マーチ”と“We’ll meet again”は阿南さんの心の中にあるふたつの歌です。我々は舞台挨拶の後に打ち上げをやって、みんなで“We’ll meet again”を歌います。僕が初めてこの曲を聞いたのはスタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』のラストシーンでした。水爆がどんどん落ちていくのに合わせて流れる曲で、とても悲しかった印象があります。我々は毎年この“We’ll meet again”を歌えるように、これからも“永遠の平和”を願って行動していきましょう」
監督の挨拶が終わると、会場から拍手が巻き起こり、舞台挨拶は幕を閉じました。
「日本の一番長い日」は現在全国ロードショー中です。
(文・写真:大谷和美)
(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会
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