その 新作『ARIA』を見る前に伝えたいこと・・・

アニメ

■「キネマニア共和国」

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9月26日から公開されるアニメーション映画『ARIA The AVVEIRE』の前売券が、現在好評発売中ですが、これはアニメ・ファンのみならず広く一般の映画ファン、特に女性に見てほしい作品です。
この映画を世に打ち出すきっかけとなったTVシリーズ『ARIA』に触れたことのある人ならば、おそらくはほとんど賛同してくれるものと確信しています。

その TVシリーズ『ARIA』とは…

そもそもTVアニメーション『ARIA』とは、天野こずえのコミックを原作としたもので、2005年に第1期『ARIA The ANIMATION』(全13話)2006年に『ARIA The NATURAL』(全26話)、2007年にOVA『ARIA The OVA~ARIETTA~』(全1話)、2008年に第3期『ARIA The ORIGINATION』(全13話)が製作されています。

時は未来、舞台となるのは、テラフォーミングされて水の惑星と化した火星=アクア。ここにはイタリアのヴェネツィイアを模した観光都市ネオ・ヴェネツィアが築かれ、その水路を進む観光用のゴンドラを漕ぐ水先案内人“ウンディーネ”をめざす少女たちの物語。そう、一見日常のドラマを描いているようでいて、その実『ARIA』は未来SF作品なのです。

この作品の特徴は、いわゆるドラマティックな出来事がほとんど描かれないことで、淡々とした日常の営みが心地よく奏でられていきます。夏の暑い日、自分ルールで影踏みしながら歩き続けるという、たったそれだけの話もあれば、旅行中に海で失くしたものが最後、海岸に打ち上げられていて涙するといった、本当に些細な、しかし繊細な優しさにあふれるエピソードばかりなのです。

敵も悪人も出てきません。それどころがほとんどの登場人物が、慈愛豊かにウンディーネをめざすヒロイン少女たちを見つめ続け、その眼差しに助けられながら、彼女たちは少しずつ成長していきます。そんな現実にはありえない、しかしある意味では理想的世界がネオ・ヴェネツィアであり、だからこそ視聴者は、とかくストレスのたまりがちな日常から、しばし夢の世界へと入り込み、癒されていくのでした。
これがアニメ・ファンのみならず、OLなど若い女性たちからも支持された所以です。

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–{厳しい日常から夢の世界へ誘うヒーリング効果…}–

その 厳しい日常から夢の世界へ誘うヒーリング効果…

放送時間帯が日曜深夜であったこともプラスだったのかもしれません。明日からまた会社や学校といったことを考えて眠れなくなりそうな憂鬱な時間、こうしたヒーリング感覚のアニメーションに癒され、みな心地よく眠りにつく。そういった効果もあったように思われます(一方では、深夜アニメとは思えないほどにピュアな内容ゆえ、子どもたちにも見てもらいたいと夕方オンエアする地方もありました)。全体を優しく包み込む音楽効果も素晴らしいものがあります。

ユニークなのは、ウンディーネたちはそれぞれ会社に属しているのですが、人の言葉を解する火星ネコを社長に据えていることで、もちろんネコが経営一切をやるわけではなく、あくまでも会社の象徴として担っているわけですが、これを怠る会社は長続きしないといったジンクスもあるようで、それを裏付けるかのように、人間界とは隔絶されたネコだけの不可思議な世界がネオ・ヴェネツィアにあることを示唆してくれる回もあったりします。

その 知る人ぞ知る才人監督・佐藤順一…

監督は佐藤順一。『きんぎょ注意報!』(91)『美少女戦士セーラームーン』(92~93)『夢のクレヨン王国』(97~99)『おジャ魔女どれみ』(99~00)『カレイドスター』(03)『ケロロ軍曹』(04~11)『ふしぎ星の☆ふたご姫』(05)『ファイブレイン 神のパズル』(11)などなど、たとえその名は知らなくても、少なくとも現在30代以下で彼の作品を見たことがないという人(特に女性)はほとんどいないのではないかと思われます。
劇場用映画では、TM NETWORKの木根尚人の小説を原作にした『ユンカース・カム・ヒア』(95)がスタジオジブリの『耳をすませば』(95)を押さえて毎日映画コンクールアニメーション映画賞を受賞し、ファンの熱意によって舞台となった東京・下高井戸で上映会を定例化させたほどの名作として知られています。また『ケロロ軍曹』の劇場版シリ-ズ全5作(06~10)では総監督を担い、最近では『たまゆら~卒業写真~』4部作(15~)のイベント上映も始まっています。
画コンテマンとしての才能も豊かで、『機動戦士Zダム』(85)『新世紀エヴァンゲリオン』(95~96)『少女革命ウテナ』『宇宙戦艦ヤマト2199』(13)など錚々たる作品群で画コンテを頼まれるなど、庵野秀明、細田守、幾原邦彦など多くの才能からリスペクトされています。さらには音響監督としての面もお持ちで(『ARIA』シリーズも音響監督を兼ねています)、声優陣からの信頼も高い才人です。

こういったキャリアの中で『ARIA』シリーズは佐藤監督がすべて監督を務めてきた点でも思い入れの深いシリーズであることは間違いなく、TV放映中も映画化を待望する声は多くありましたが、残念ながら当時はまだTVアニメの劇場用映画化に対して映画業界が積極的ではなく、よほど大ブームを巻き起こしたものでない限りは難しいといった状況でした。しかし映画のデジタル化も手伝い、今では多くの作品の劇場版が可能となって久しく、そうした風潮の中で『ARIA』という10年ほど前の作品の企画が蘇るというのは、やはり作品そのものの力が根底にあったと考えていいとも思います。

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–{新作公開の前にぜひ予習復習を…}–

その 新作公開の前にぜひ予習復習を…

今回の『ARIA The AVVENIRE』は、TVシリーズの後日譚に原作未映像化のエピソードを加えた複合的な内容になるとのこと。おそらくはイチゲンさんでもいざ見始めたら十分引き込まれるものに仕上がっていることでしょうが、可能ならぜひTVシリーズを予習復習しておくことをお勧めします。今年の猛暑の中、『ARIA』シリーズはきっと鑑賞する人たちの心を涼しく癒しながら、新作への期待を高めてくれることでしょう。

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(文:増當竜也)

ARIA The AVVENIRE

■公開日
2015年9月26日

■≪STAFF≫
原作:天野こずえ「ARIA」(ブレイドコミックス/マッグガーデン刊)
監督/シリーズ構成:佐藤順一
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:音地正行
音楽 : Choro Club feat. Senoo
制作:TYOアニメーションズ
配給:松竹メディア事業部
製作:松竹

≪CAST≫
水無灯里:葉月絵理乃
藍華:斎藤千和
アリス:広橋 涼
アリシア:大原さやか
アリア社長:西村ちなみ
晃:皆川純子
アイ:水橋かおり

アテナ:川上とも子

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