MAは世界で通じない?生まれ変わった『松竹映像センター』レポvol.2

コラム

松竹120周年を機に、お台場へとその場所を移転し大きく生まれ変わった『松竹映像センター』

前回はその開放的かつ洗練されたスタジオの内観を紹介させて頂きましたが、今回は一番の売りどころである『Dubbing Stage(ダビングステージ)』について紹介いたします。

MAという言葉は世界標準ではない?

ポストプロダクションの現場ではテレビドラマなどの『音響』の仕上げをする場所を『MA(エムエー)』と呼びます。映像通の方であれば、その用語を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

ところが、この『MA』という言葉は、世界的にはあまり使われていない言葉なのです。

『MA』は”MultiAudio”の略などと言われていますが、実のところ由来はあまりよくわかっていないらしく、世界的には『Audio Suite(オーディオ・スイート)』と呼ぶのが正しいそうです。『MA』は、実は主に日本などの一部地域でしか使われていない言葉なのです。

今回スタジオの設計をした、ピーター・グルナイセン氏との打合せでも、松竹映像センターの方が「MAは…」と言うと、最初は全く意味が通じなかったほどで、数々のハリウッドのスタジオの設計をしてきたピーター・グルナイセン氏ですらも、その言葉自体を知らなかったそうです。

松竹映像センターは今回のリニューアルでは、グローバルスタンダードをひとつの柱にしていることもあり、より正確にしたいという思いから今回『Audio Suite』に統一することになったそうです。

松竹映像センター自慢の『Audio Suite』

松竹映像センター お台場 MA ポスプロ 都内

松竹映像センターのAudio Suiteの売りのひとつが、7.1chに対応し、豊富なプラグインを備えた充実な環境であること。

テレビドラマなどは、テレビを通して室内で観ることを前提に音響設計をします。ところが、映画の場合は再生されるのが映画館であるため、その音響を再現するために大きな室内でそのバランスを取る必要があります。その場所が後述する『Dubbing Stage』なのです。

そのため、Audio Suiteで、映画の音響の最終仕上げまでを可能にする必要はないのですが、松竹映像センターではAudio Suite(MA)で最終仕上げも可能なほどの充実した設備にしているのが自慢のひとつ。

松竹映像センター お台場 MA ポスプロ 都内

なぜ、この部屋で映画の音響もある程度仕上げられるようにしているかというと、最近では自主制作や低予算の映画などは、こうしたMAと呼ばれるAudio Suiteで仕上げられることが増えてきたとのこと。そうした需要に対して、少しでもクオリティを上げたいと考えたゆえに、設備自体をグレードアップしてAudio Suiteでも、ある程度の仕上げが可能なように対応したそうなのです。

低予算でも大きな映画館で配給をしたい場合は、このAudio Suiteでギリギリまで仕上げて、最終日1日だけDubbing Stageで最後の微調整をするといったニーズにも対応できるようになっています。

松竹映像センター お台場 MA ポスプロ 都内

また、映画公開後にBlu-rayなどで販売される作品は、映画館用の音声からこの場所で、家庭用に5.1chの音声に再度仕上げ直すそうです。映画館と自宅では音声のレンジも違うため、そうした細かい調整が必要なのです。かつては、そうした処理もDubbing Stageでしていたそうなのですが、今回のリニューアルで機材を一新したことで、Audio Suiteでもそれが可能になったのです。

松竹映像センター お台場 MA ポスプロ 都内 アフレコスタジオ

またAudio Suiteのアナウンスブースは、マイク3本が余裕で立つ広い設計にしていることで、様々な音声収録に対応することが可能になっています。この広さもリニューアルした松竹映像センターの売りです。

–{体育館のような場所だった…}–

松竹映像センター最大の売り『Dubbing Stage』

そして、生まれ変わった松竹映像センターの最大の売りが『Dubbing Stage』

松竹映像センター お台場 ポスプロ 都内 スタジオ 映画

前述した通り、Dubbing Stageは映画の音響の最終ミックスを行う場所。MAと呼ばれるAudio Suiteとはその部屋のサイズが一番の違い。映画館を意識した大きな部屋で、実際の映画館の音響を再現することで観客の人にどのように聴こえるかを意識した作り込みができるのです。

実際に筆者もこちらでサンプル映像を拝見させていただいたのですが、まるで映画館を貸しきったような空間で、レンジの広い素晴らしい音を聴くことができ、その音の拡がりなどがAudio Suiteと全然違ったことに正直驚きました。

松竹映像センター お台場 ポスプロ 都内 スタジオ 映画

かつてのDubbing Stageは体育館のようなさらに大きな場所だったそうです。その頃は、その場所にオーケストラの楽団などが来て、映像に合わせて指揮者の人がタクトを振って音楽を演奏して録音したりしたりもしていたとのこと。

しかし、最近はシネコンが主流になってきて、以前ほど大きな映画館が減ったこともあり、従来よりもややコンパクトな設計のDubbing Stageになったとのこと。現在はハリウッドでも、松竹映像センターのDubbing Sutageと同じくらいのサイズが主流。また、こちらのDubbing Stageの天井高と広さがあれば、大きな映画館にも対応できるそうで、そうした最新鋭の設計が今回のリニューアルで細部までこだわった作りになっているようです。

松竹映像センター お台場 ポスプロ 都内 スタジオ 映画

そして、松竹映像センターはその立地も売りのひとつで、大きな施設が必要となるDubbing Stageは、同業他社の多くは郊外に施設があります。23区内にもいくつかの映画のダビング施設はあるのですが、これほどの天井高とスペースを有して、さらに“お台場”という都心からのアクセスが良い場所にあるのは、松竹映像センターのひとつの売りです。

–{世界標準を極める…}–

山田洋次監督作など、フィルムでのダビングも可能

松竹映像センター お台場 ポスプロ 都内 フィルム 映写機

松竹映像センターのDubbing Stageでは、フィルムのダビングも出来るようになっています。松竹作品では山田洋次監督が今でもフィルムにこだわって制作されています。2016年に公開予定の『家族はつらいよ』は、こちらの松竹映像センターでダビングをしたとのことで、新しくなった松竹映像センターのフィルム作品としては第一号作品となりました。

フィルムとデジタルでのDubbingの現場の違いとしては、フィルムの場合はダビング中に編集直しが出来る点があげられます。デジタルの方が修正が効きそうなイメージがありますが、デジタルの場合は、映像が先に完パケ(完成すること)て、そのあとに音響を設計するために、音を映像にあわせることになるそうなのです。

ところが、フィルムの場合だと逆に音に合わせて映像を編集することも出来るので、例えば情景のある効果音などの音を足した後に、もう1秒映像を足そうなんてことがフィルムなら可能だそうです。その場で音と映像両方を最後の最後まで調整出来るのはフィルムのダビング現場ならではで、そうしたこだわりにも最大限に対応できるのが松竹映像センターの良さでもあります。(注:デジタルでもダビング時に編集作業が出来なくもありませんが、時間とお金が掛かり現実的ではありません)

世界標準を極める松竹映像センターの最新鋭の機材は圧巻

世界標準を極めるために、新たに生まれ変わった松竹映像センター。
数々の映画の新たなる名作がここから誕生するのかと思うと、非常に胸熱な現場でした。それでは次回は、松竹映像センターの残りの施設を紹介したいと思います。

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株式会社松竹映像センターウェブサイト

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